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一つの恋

若様の部屋を後にしたあたしは、


廊下をトボトボと歩きながら、チラッと後ろを振り、重たく閉じた若様の部屋の扉を見つめた。


はぁ…。


なんで…若様とルリに嫉妬なんか。


まさか…あたし…。


いや、そんなわけない。



それは絶対にダメ。



こんな気持ちは、

今のうちに消してしまわなくては…。


あたしは、この世界の人間じゃないんだから。



若様だって言ってた。


“この世界にいる間だけでいい。私のそばにいろ”



この世界にいる間だけ…。



そう。あたしが若様のそばにいるのは、ここにいる間だけの、期限付きなんだから。


だから、勘違いしたらダメ。



それに、元の世界には、おばあちゃんもユリだっている。


絶対に帰らなきゃいけない。



なのに、ルリと若様に嫉妬?



はっ…。どうかしてた。



パシパシッと両手で頬を叩いて、


改めて、自分の部屋を目指してまた振り返えったら、


ん…?あれ?



廊下の少し先にある倉庫の扉が、


ほんの少しの隙間を作って開いてるのが見える。


やだ!


あの倉庫には、鏡や大事な物がたくさんしまってあるのに。


誰?


鍵開けっ放しにしたのは!


また鏡が盗まれたらどうするのよ!



小走りで近づき、開いてるその隙間に手を当ててドアを開けると、


中からガサガサっと物音がした。


えっ?


なんの音?


誰か、中にいるの?



明かり一つない、真っ暗な部屋。


こっちが明るいせいか、中は何も見えない。


ちょっと、どうしよう。


怖い…。




「だ、だれ? 誰か…いるの?出てこないなら、大声…だ、だすわよ!」



平然を装って叫ぶと、


中から勢いよく影が飛んできて、あたしの口元を大きな手が覆った。



っ?!!!!




光が当たったその人物の顔を見て、


大声だすどころか体が固まったあたし。



キト…?


それに、


モア!



こんなところで…


何してるの?


ゆっくりとキトのあとに続いて近づいてきたモアは、


乱れた帯を結び直しながらこちらに歩いてくる。



明るいところで見たモアの顔は、


頬を赤らめてあたしと視線を合わせない。



「別に隠していたわけではない。場所がなかっただけだ」



それだけ言ってキトは倉庫から出ると、東の館に飛んで行った。



ば、ば、場所がなかっただけ?


あいつ…何言ってるの?



「まさか…あんたたち…」



「うん…その“まさか”かも…」



「えぇぇぇ!!」



ちょっと、いつのまに!!




部屋に戻ると、


ヒナタとあたしの前に改まって座るモア。



「実はね…鏡が盗まれてあたいが疑われてたあの日、あたいは村で母さんの誕生会をしてたんだけど、そこにキトがきて、倉庫から食料を盗んだあたいに“言わないでやる”って言ってくれて。


それから…なんかその…キトが気になって…」



顔を赤らめて俯くモア。



信じらんない、あいつ。



あたしには、若様とどーのこーのって言っておいて。



あぁ…でも、モアが屋敷に帰ってきたとき、


キトはモアが犯人じゃないのを知ってたから、捕まえようとしなかったんだ。



「あたいね…最近凄く幸せなんだ」



「幸せ?」



「うん…。どれも初めて味わう感覚なの。ずっと苦しい生活をしてきたから、ほんとのお姉ちゃんって思えるカンナとヒナタが現れて、それから、初めて男の人を好きになった…」



「モア…」



「あたい…キトが好き…」



まっすぐあたし達を見てそう言ったモアは、


なんだか女の子の顔をしていて、



なぜかあたしまで、嬉しかったんだ。


次の日の朝食の時間。


食卓を囲みながら、思わず視線をキトに向けてしまうあたし。



何度か視線が絡みあったあと、


キトは、ゴホン‼︎っと咳払いをして、


話題作りでもするかのように、わざとらしく口を開いた。



「そういえば若様。皇帝の持つ、偽の白虎玉の件は…いかがいたしますか?」



「そうだ。そんな話しがあったな」



偽の白虎玉…?



あぁ〜。こないだあたしの部屋で、若様の正体がバレるきっかけになったときの話しだ。



「ねぇ?もし、玉が偽物だったら、どうなるの?」



あたしが、興味本位で質問すると、


いつも優しく答えてくれるのは、やっぱりシュン。



「民は、今の日本に不満を持っているだろ?不満と思いながらも皇帝を欺き(あざむき)むほんを起こすものは誰もいない。だけど皇帝の持つ白虎玉が偽物とわかったら、我々に賛同させることができるんだ」



コクコクと頷きなが話しを聞いていたあたしだけど、実際、頭の中はハテナだらけ。



もちろんそれを察してるシュン。



「カンナに意味がわかるかなぁ?」



「ん~。あんまり…」



「だよな。つまり、民はきっかけがほしいだけなんだよ。なんでもいいから皇帝を潰すきっかけがほしい。それが“偽の白虎玉を持ってる”って名目になるだけ」



「こいつにそんな説明をしても仕方がない。時間の無駄だ。まずはそれが本物か偽物かを調べる必要がある」



キトの奴…。


偉そうに。


ギロって睨みつけてやると、


奴は、あたしを見て、突然何かいいアイディアでも浮かんだかのように、

ポンとこぶしを手のひらに置いた。



「そういえば、3ヶ月に一度、陛下の妃候補を集める式がある。そこにカンナを忍ばせてみてはどうだ」



皇帝の…妃…候補?


何それ。


別にあたしが行くのは構わないけど、


そんなんで玉が偽物かわかるの?


「キト!それはいい考えだな!宮殿に入り込めれば、玉を見ることができるかもしれない‼︎ なぁ?お前たち!行ってくれないか?」



自分から出したアイディアのクセに



「お前…たち?3人とも行かすのか?」



シュンの言葉に、めちゃくちゃ動揺してるキト。



「あたいはいいわよ。モアは?」



「もちろん。あたいも行くわ。若様?あたいたちにその役目、やらせてください」



ふっ。キトの奴、


まさか、あたしだけを妃候補として宮殿に行かせようとしたわけ?



そうはいかないわよ。



若様のためにモアも道連れよ!




終始無言だった若様は、チラっとあたしを見ると、



「やれるか?」



そう一言だけ口にした。



「うん!大丈夫。白虎玉が本物か偽物かを確認してくればいいんでしょ?」



「だが、四神玉はそう簡単に見れるものではない。信頼を得て、リシルに近づかなければ無理だ」



「じゃぁ、とりあえずはお妃候補に選ばれなきゃ、話しは進まないわね」



そう言ったあたしの言葉に、


若様とキトは、はぁ〜って、同時にため息を吐いていた。




「よし!アギ様に頼んで3人の身分証を作ろう。ここの組織の娘と言うことなら身分は問題無いだろう」



シュンは、朝食をババっと口の中にかけこむと、急いで食堂をあとにした。


仕事の早いシュンが、あたしたちの身分証を作り、


いざ、皇帝のお妃候補として、

宮殿へ乗り込む前日。


あたしは、若様の部屋を訪ねた。



「若様…ドリア食べたいって言ってたでしょ?作ったんだけど食べる?」



「あぁ〜。もちろん食べる。ドリアとはいいものだ」



「そんなに美味しい?」



あたしが作る料理で、

一番美味しいと言ってくれるドリア。



「いや、ドリアが食べたいと言えば、お前はすぐ私のそばに来てくれる」



若様は、あたしのそばにある椅子に腰を下ろすと、穏やかに微笑んだ。



「明日なんだか緊張する。陛下って…どんな人なんだろうなぁ」



なんだか、ちょっと怖い。


あたしの中の勝手な王のイメージって、


わがままで、やりたい放題で、


そんな世界に触れたこともないくせに、


物語とかで読んだ数少ない王様のイメージが頭に浮かぶ。



「最後に会ったのは、私が8歳、弟は4歳だった。だからリシルの記憶はほんどない。もし、共に生きていたら、一緒に酒を飲み交わしたりしたかったものだ」




若様…。



そうだよね。若様は、自分がこんな立場になったのを、リシル陛下のせいだなんて思ってないんだ。


追放され、お母様を殺したのも、


すべてマリ王妃の差し金。



親の欲望に利用された可哀想な兄弟。




「カンナ…」



「ん?」



「本音を言うと、お前を宮殿に送りたくはない」



「でも、あたしが宮殿に行って白虎玉を見てくれば、若様の役に立てる?」



そう返したあたしの言葉に、

若様は小さく頷いた。



「だったら行くよ。少しでも若様の役に立つなら、喜んで行く!」



ドリアを食べる手を止めた若様は、


あたしの腕を掴んで引き寄せると、ギュッと抱きしめた。




「ならば、私の変わりに…見てきてほしい」



「……?」



「弟の目を。王の目をしているのか…見てきてくれ」



「うん」



「明日…気をつけて行けよ」



「大丈夫!いい報告を待ってて!」



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