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悪鬼

次の日の夕刻。


蛍を訪ねると、シムズさんは一枚の紙切れを手渡してきた。



「ここに書いてある通りにいけば、例の集まりが行なわれる場所に着くぜ。あいつらに俺の名前を言えば、わかるようになってるからよ」



「ありがとう…シムズさん」




そしてあたしたちは、祝賀会が開かれるアジトへと向かった。



地図を片手に目的地を目指すと、たどり着いたのは、町の外れにあった集会場のような建物。



建物と言っても、小さな地震でもあれば、簡単に崩れてしまいそうなほどのボロい平屋。



あたしたちは、恐る恐るドアに近づき引き戸を開けた。



ガヤガヤと中から漏れてくる男たちの声。




「あのぉ〜すみませーん。シムズさんの紹介できたんですが…」



聞こえるか聞こえないかくらいの小声であたしが言うと、


ガラッと内扉が開いて出てきた一人の男。


その男は、目の玉だけであたしたち4人を見回した。



「あぁ〜待っていたぞ」



あとに続いて出てきた2、3人の男も顔を見合わせながらニヤリと笑う。



なにこいつら、超気持ち悪い。


ボロボロの服。


ガサガサで伸び切った髪の毛。



こんな人たちと今から一緒に食事をすると思うと食べたものも出てしまいそうだ。




「シムズの旦那からは聞いてるよ。これから宴なんだ。お前たちは食事の支度をしてくれ」



「はい。わかりました」



部屋の中に入ると、もうすでに長テーブルが左右に置かれていて、酒が並んでる。


そして、そのテーブルの間で台の上に高々と掲げてあった物。




「……‼」



あ、あれは…‼



鳳凰の鏡‼



鏡を目のあたりにして、嬉しさのあまり、思わず飛び跳ねてしまいそうだった。



あたしたち3人は、視線を合わせると、瞳だけで会話をした。


ほんとにここにあった!!


信じられない。



若様…見つけたよ。


鏡…見つけた。



もう今すぐにでも取り返して帰りたい。



そのためには、さっさとこいつらに酒を飲ませなきゃ。




「食事の前に、とりあえず乾杯だけしよーぜ」



“座れ座れ”と促され、あたしたちが席につくと、渡されたグラスに酒が注がれた。



あたし達も、男たちに酒をつぎ、


「では、我らのあるじそして、遠くない玄武の戦勝を祝い乾杯‼」




玄武の戦勝?



鏡を前にそんな祝いをするなんて、

一体この会はなんなの?



生まれて数回しか飲んだことのない酒に、ゆっくりと口を近づけたそのとき。



――ガシャーンっ!!



「きゃぁ!!」



手がすべってしまったのか、お酒の入ったグラスを床にひっくり返してしまったヒナタ。




「ごめんなさい!!すぐに拭きますから。とりあえず、あたいたちはご膳だけ整わせてください」



そう言ってヒナタは、炊事場に向かうと、チラッとあたしたちを見て手招きする。


炊事場に向かうと、ヒナタは一人険しい表情を浮かべていた。




「ねぇ〜このお酒…匂いが変だわ」



えっ?



ヒナタの言葉に、ルリはグラスの酒を人差し指につけると唇に当てた。



「本当…よく気付いたわね。これ睡眠薬よ」



睡眠…薬?



なんだかとてつもなく嫌な悪鬼を感じて、その場から動けなくなっていたあたしたち。



どうしてあたしたちのお酒に睡眠薬なんかが入っているの?



その瞬間ふと脳裏によみがえってきた言葉…。




“その会に行けば、あんたたちの探してる鏡が見つかるかもしれないよ?”



うそ…ど、どうしよう…。



なんで…今ごろ気づくの?



あたし…本当にバカだよ。



鏡のことしか頭になかった。




「ヒナタ…モア…」



「なに?」



「鏡…取り戻せないかも…」



「えっ?どういう…こと?」



「だって、おかしいよ。話してないじゃん…シムズさんに…」



「話してないって…何が?」



「あたしたちが鏡を探してるってこと、いつシムズさんに言ったっけ…」



なのに、どうしてシムズさんは、あたしたちが鏡を探してるって知ってるの?



ヒナタはハッとした表情で口元に片手をあてた。




「おい!!お前たち!!いつまでそこにいるんだ?」



聞こえた声に振り返ると奥の扉からこっちに向かってくる男。




「見事にひっかかったな」



「えっ?」



「さすがかしらだよ!!だてに15年陰間をやってるだけあるな」



「そりゃそうさ、口だけで生きてきた男だからよぉ~」



ケラケラ腹を抱えて笑う男たち。



シムズ…さん?



やっぱりあんたも、こいつらの仲間だったのね。



館から鏡を盗んで、

それにあの黒髪の女とも繋がっていた。


今さら気づくなんて。




「お前たちは、なんで鳳凰の鏡が欲しんだ? 悪いがあの鏡は渡せねーよ? 

店に来た時からおかしいと思ったんだよ。まぁ~そんなことどうでもいいさ!!

ほらっ、さっさとやっちまおうぜ。こいつら、ろくに金も払わねーで店で遊んでんだからよ」




数人の男に腕を掴まれ部屋の中へ戻されたあたしたち。



「いやっ!!やめて!!離して!!」



ぶんぶん振り払って抵抗したあたしに、



「おい!!暴れんなっ」



いきなり目の前に大きな手がかざされて、その瞬間ぶわっと勢いよく、顔にかけられた水。



玄武…。



ねぇ…ヒナタ…。



火と水は、どちらが強いの?



あたしたちに、勝ち目はある?




「おいおい!!プロの陰間は最後だろ?

素人の俺たちから先にやらせてくれよ」



そう言って、ニヤニヤ笑いながら2人の男があたしたちに近づいてくる。




「ふんっ。しょーがねー。ったく、新米のくせに生意気だな。だけど、いかせるなよ?最後を決めるのは俺の仕事だ」



「わかってるよ!!ほらっ!!お前らこっち来い!!」



あたしは一人の男にグッと腕を掴まれ、思いっきり地面へ叩きつけられた。



「痛いっ!!やめて!!」



足をバタつかせながら抵抗したあたしの上に、無理やり追いかぶさってくる男。


ボサボサに伸びたヒゲに、

伸びきった髪の毛…。


いやっ…気持ち悪い。



「…っ…やめて…」



もの凄い強い力で抑え込まれて、

もう何も抵抗することができない。




「いやぁぁあ!!触るな!!離せよ!!」



あたしの横で大声を出して抵抗しているヒナタ。



耳を塞ぎたくなるその声に、ギュッと強く瞳を閉じた。



後悔というよりも、悔しさで涙があふれ出す。



シムズとかいう、あんな男を信じてしまったこと。



鏡のせいで、またみんなを巻き込んでしまったこと。



“ごめんなさい”なんて言葉では、もう済まされないこの状況に、死んでしまいたくなる。




あたしの上にいる男の顔が勢いよく近付いてきて、


顔をそむけても近づいてくる唇。



お願い…



誰か…助けて…。



だけど、男の唇が触れそうだった、


…その時、



えっ?



ギリギリで当たらない唇にあたしは目を見開いた。




“カンナ…よく聞け…”




静かに口元で呟いた声。



その声にあたしは、瞳だけ動かして彼を凝視した。



きっと奴らからは、キスしていると思われているような角度。



うそ…。


シュ、シュン…?




安堵のため息と嬉しさのあまり、


今度は違う意味で涙がとまらない。




“うぅっ…あ、ありがとシュン…ごめんなさい…”



“そんなこと今はいい。今から隣の部屋に移る…そしたら裏扉からお前たちは出るんだ…とにかくまっすぐ走れ…いいな?”




あたしはシュンにだけ伝わるように、

かすかに小さくうなずいた。



じゃぁ、もう一人の新米の男っていうのは…キト?



「おい!!お前らまとめて面倒みてやる。こっちに来い!!」



シュンは、あたしとモアを強引に引きずるように隣の部屋に押し込んだ。



「ほらっ!!お前もだよ!!」



キトはヒナタを武空で締め上げると隣の部屋に放り込んでくる。



きっと、ヒナタとモアも2人に気づいたに違いない。



だけど…




「いやぁあぁぁ!!離して!!」




キトたちの存在を知らないルリは最後まで抵抗していて、


でもそのおかげで、少しだけ怪しまれずに時間が稼げた。



だけど、何かをこそこそと話しているシムズたち。




「おい!!お前ら何者だ」



やっぱり急におとなしくなったあたしたちを不自然に思ったのか、シムズにはすぐに見破られた。



「罠にかかったのはお前たちの方だ」



突然ぶわっと舞いあがった風。



キトの魔力で傍にあった椅子が、シムズの顔面めがけて飛んでいく。



「早く行け!!」



シュンの声を聞いてあたしたちは裏口から逃げだした。



走って…走って…後ろを振り返らず、

ただひたすらまっすぐ走る。



途中で、ヒナタとルリは、あたしとモアを抱えて猛スピードで武空した。



だけど突然、



「きゃぁぁ!!」



何もない場所なのに、気圧の様な空気の壁にぶつかって跳ね返されたあたしたち。




「カンナ!!」



えっ?



目の前に現れた大きな影よりも先に、

心地よくあたしの耳に届いてきた聞き覚えのある声。




「若様…!!」



「カンナ…よかった…」



「若様ぁ〜」



その姿に安心して、今更ガクガクと震えてきたあたしの体をギュッと抱きしめてきた若様。



「無事でよかった」



久しぶりに抱かれた胸に顔をうずめたら、若様の香りがして本当に助かったんだと実感する。



「若様。勝手に屋敷を出て申し訳ございませんでした」



「お前たちも無事でなによりだ」



そう言った若様に、ヒナタとモアは深く頭を下げた。



「若様…怒ってる?ほんとに、ごめんなさい」



「……」



「どうしても鏡を取り戻したくて…」



「済んだことだ…何もとがめたりしない」



「でも、ちゃんと鏡のありかを突き止めたでしょ?」



そう言ったあたしに、

若様はあきれたようにそっぽを向くと、


ハァ~ってため息をもらした。



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