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若様の正体

「王位継承者が誰なのか、今こそ知らしめるときが参りましたな」



「あ、あぁ」




……。


なにそれ。


ど、どういう…こと?



王位継承者が誰…て。



えっ…まさか。



ま、まさか…ね…。


いやいやいや、


そんなこと…あるわけないよ。




「若様?」



「……」



「どうかなされましたか?」



「えっ?…な、なにがだ…」



「いえ…なんだか上の空のような…」



「いや、大丈夫だ…」



「……?」



「なんでもない。ちゃんと話は聞いている」



「それと、白森の倉庫もすべて撤去いたしました」



「わかった。ご苦労だったな。お前も今日はゆっくり休め」



「ありがとうございます。では…失礼いたします」




カチャっと静かに閉められた扉と、

シーンと静まり返った部屋。



ここから、どんな顔してでればいいんだろうか。



ほ、ほんとに?


ほんとに若様が…



王位継承者なの?



「いつまでそこにいるつもりだ」



布団の上からポンポンと頭を叩かれて、

“あたしは何も聞いてません、寝てました”ってことにして、このままタヌキ寝入りでもしたい気分だったけど、


仕方なくゆっくりと布団から顔を出した。


ベッドに座った若様から、はぁって小さなため息が漏れる。



「……」


「……」



そんな若様を、あたしは顔だけ出したベッドの中から見上げた。



「なんだその顔は」



睨むように見降ろす若様と視線が絡み合うと


さっきのキトの会話を思い出して、いろんな想像が頭の中を駆け巡る。



屋敷の人たちのこの人に対する扱い。


アギ様の態度。


今まで不思議に思っていたことが全部納得できる気がして。



「なにか言いたいことでも?」



「えっ?あぁ…だから…今のキトの話…なにかな?と思って…」



「聞いていたのだろ?」



無言のままコクコクうなずいたあたし。



「ならば聞こえたままのことだ」



し、信じられない。


でも、さっきの話しを聞く限りでは、

やっぱり若様が、



15年前、姿を消した…




「…青龍の…皇太子なの?」



そう言葉にすると、


そこまであたしがわかるとは思わなかったのか、


若様は今まで見たこともないくらい驚いた表情で、目を丸くしながらあたしを見降ろした。



「この国のことを何も知らないくせにやけに詳しいな」



「ちゃ、ちゃんと答えてよ…若様が皇太子殿下なの?」



じっと何秒かあたしを見つめていた若様は、


仕方なしにというかのように渋々、首を縦に振った。



“カンナ様はご存知ないのですか?”



前にそう言っていたモアのお父さん。


あのときは、深く聞くこともしなかったけど…。



「ここにいる人たちは知ってたのね?流白村の人も…みんな…」



「あぁ…ここで働いている者はみな知っている」



青龍の…皇太子。


ヒナタとモアがよく話しをしていたあの戦争の…。


本当にこの人が……。



「全然…気づかなかった」



「今は皇太子でもなんでもない。企業の頭というだけの男だ」



でも、何にも知らないとは言え、今までの若様に対するあたしたち3人の態度を、


きっと屋敷のみんなは冷や冷やした目で見ていたんだろうな。



「なんか、ごめんなさい」



「……?」



「殿下とは知らずに結構横柄な態度をとってしまって」



「……」



もう、何がなんだか…どう言葉にすればいいのかさえわからない。



「あっ!!もうすぐヒナタたちが帰ってくると思うから…」



とりあえず、あたしの気持ちを落ち着かせたい。



殿下だとわかったからなのか、とてつもなく若様と一緒の空気が気まずい。


今日のところは部屋へ戻ってもらおうと、ベッドから降りて若様を扉の方へ促すと、



ベッドに座ったままの若様は、


なんだか寂しげな瞳で


あたしを見上げていた。



そして、一度ゆっくりと瞳を閉じたあと、すっと立ち上がると、あたしの目の前まで飛んでくる。



「カンナ…」



「はい…」



「変わらないでほしい」



「……?」



若様はあたしの腕を掴むと、

ぐっと自分の胸にあたしを引き寄せ抱きしめた。



「若様?」



「知られたくなかった。ずっと知らないままでいてほしかった」



「……」



「お前だけなんだ。私と真の会話をしてくれるのも、ダメなものはダメだと言ってくれるのも。…今も、これから先も、きっとお前しかいない」



抱きしめられた胸から伝わってくる低い声。



「だから、何も変わらないでくれ。今までと同じように」




若様…。



胸の中でコクリと小さくうなずくと、


ギュってさらに強く抱きしめられた。



ゆっくりと体が離れて、


若様の大きな両手があたしの頬を包み込む。


視線が絡み合うと、紺色に輝く瞳に映る自分をじっと見つめた。



見降ろされるその視線に


胸の奥が凄いドキドキする。



もう、わかってしまうんだ。


この感じは、キスされるって。



そして、


それを拒ばなくなってきている自分に少し戸惑う。



待っていたかのように優しく重なってきた唇を感じて、



あたしはゆっくりと瞳を閉じた。





「カンナぁ~!!ただい…」





えっ?ヒナ…。





――…バタンっ!!




一瞬、強い風が吹いて、勢いよく閉められてたドア。



目を細めて微笑んだ若様は、


もう一度軽くあたしに唇を重ねた。




「ちょっとカンナ?ドア開かないわよ?あれ?おかしいわね。今、開いたのに…カンナ?」



「あいつらにもお前から話しておけ」



「わ、わかった」



若様はベッドに上がり窓を開けると、

そこからスーッと飛んで自分の館へと戻って行った。



あぁ~そうだ。


若様ならそこから出られたんじゃない。


そんなことを思いながら彼の姿を見送ったあと、あたしは急いでドアを開けた。



「ヒナタおかえり」



「ただいま…ん?どしたの?なんだか顔が赤いわよ」



「えっ?そう?あっ…ヒナタに大事な話が…」



「なに?」



「うん…。モアが帰ってきたら話す」




それからしばらくして、モアが帰ってくるのを待つと


あたしは2人に若様の話しをした。



単刀直入にただ一言。




“若様が青龍の皇太子だった”



そう言葉にすると、


2人は鳩が豆鉄砲でも食らったようにポカーンとしたまぬけな顔で、あたしを見つめていた。




「…もう、悪い冗談はやめてよ」

「若様がカイリ殿下?まさかぁ~」




皇太子殿下は、カイリって名前なんだ。

なら、やっぱり…。



“私の名は、カイリだ”



あの時、外で名を呼ぶなと言っていた若様。



それは、庶民が殿下の名前を知ってるから…。



「名前も一緒だし、キトと若様が話しをしてるのを聞いちゃったの。本人に確かめたら、“そうだ”って答えて…」




「……」

「……」



「知らなかったのはあたしたち3人だけよ」



そう言ったあたしに、2人は青ざめた表情で顔を見合わせていた。




「どうしよう…あたい、殿下にすごい暴言吐いてたかも」


「あ、あたいもだよ…よく今まで殺されなかったね。あたいたち…」



「もしかして、とんでもないところに関わってしまったかも。さっきのキトと若様の話しだと、王妃を排除するとか…。だからたぶん、若様は王権を奪い返そうと計画してる」



「えぇぇっ!? …なら、また戦争をする気なのかしら。もう嫌よ!!あんな思いをするなんて…。今度こそ日本が崩壊してしまうわ!!」



そう言ってヒナタは、髪をぐしゃぐしゃにしながら頭を抱えこんだ。




戦争…。



えっ?




“あれは、魔力の訓練をしているのよ”




ここへ来たばかりの頃、早朝屋敷の中庭で、たくさんの社員が魔力の訓練をしていた。



も、もしかして…



流白村の人たちの仕事って…。



「どうしよう…流白村の人たちも王位を取り返すのに若様に利用されているのかもしれない」



よくよく考えれば、


“命は捨てたつもりで働く”なんていう条件に、なんの深い疑問を抱かずに村の人たちをここへ連れてきてしまった責任を感じてそう呟いたあたしに、



「いいのよ。そういうことなら尚更それでいいの」



「えっ?」



そう言ったモアの顔は、


いつになく真剣だった。




「だって15年前、流白村は若様の見方をしたから滅ぼされた村よ? それに若様のお母様、つまり王妃様は白虎出身ってこないだシュンが言ってたわよね?

流白村はほんとんどが白虎族だもの。尚更、今度こそは!!って…みんな喜んで若様の力になるはずだわ」



「そう…なの?」



「そうよ」



なら…いいんだけど…。


モアのその言葉を聞いて少し安心した。



「でもやっぱり、殿下生存の噂は本当だったのね」



「残酷だわ…本当、可哀想な若様…」



憐れんだ瞳で会話をしている2人に、



「ざ、残酷? 何が…残酷なの?」



あたしがそう尋ねると、

“そうね…王室のことカンナにも話してあげるわ”そう前置きをして口を開いたヒナタ。



「若様はね…側室の子なのよ」



あたしたちは、寝ることも忘れて、

夜中まで若様の話しをしていた。



ヒナタの話しによると、


若様は、側室だったベリカ王妃の息子で、


今のリシル陛下は、正室だったマリ王妃の息子だという。



でも、ご正妃であるマリ王妃にはずっと子ができなくて、


王位継承権第1位は、若様と決まっていたらしい。



だけど、若様が4歳のとき、


マリ王妃に子が生まれた。



それが、今の国王…


リシル陛下。



自分に男の子が生まれたのにも関わらず、

継承権の順位を変えなかった国王に納得のいかなかったマリ王妃は、



べリカ王妃と若様を追放した。




「でもね…悲劇の皇子って話もあるわよ」



「悲劇の…皇子? どういうこと?」



「だってさ、若様は所詮、側室の子なのよ?

お母様の身分も低かったって話だわ。


黙って初めっから王位継承権をリシル陛下に渡していれば、あんなことにはならなかったかもしれないじゃない。


自分が自分で産んだ悲劇なのよ」



そう言ったヒナタに、モアは“違うわ”というかのように、首を横に振った。



「だって若様は、戦争が始まったときまだ8歳でしょ?それは無理な話よ」



「そうね…ただ親たちの欲望に操られた可哀想な皇子たちね」



結局、夜な夜な長い時間3人で若様の話しをしたけれど、


その中で、一度だって笑えたり、

楽しい!!って思える会話にはならなかった。



“笑える時間など私にはない”



そう言っていた若様。



なんだか、あの人の人生そのものが楽しいものではないような気がして切なくなる。



きっと彼は、あたしが想像しているよりもはるかに辛い…そんな日々を過ごしてきたに違いない。



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