青龍の内密者
洗濯して、掃除して、食事作って、
それが今のあたしの日常。
思えば、かれこれもう5カ月も、テレビ…見てないな。
結構なテレビッ子だったのに、
無ければ無しで生きていけるもんだ。
夕食の片づけを済ませ時計を見ると、7時を回ってた。
あたしたち女3人は、男性社員が全員お風呂を済ませてから、最後に入る。
はっきり言って汚いし、湯船はアカだらけ。
だからあたしは、シャワーで済ませてしまうことの方が多い。
この屋敷の、あたしたちに対する扱いはこんなものだ。
「お父さんの所に寄って行きたいから」
「了解~」
風呂を済ませ、部屋に戻る途中、
モアはお父さんの暮らす西の館へ向かった。
「あたい今からシュンと飲むんだけど、カンナも一緒にどお?」
ヒナタは、シュンと週1ペースで夜な夜なお酒を飲んでる。
「あたしは部屋戻って寝るわ」
「そお?」
「あんま飲みすぎないよーに!!」
「わかってるって!!じゃぁ、おやすみっ」
引き際早くシュンの部屋にかけて行ったヒナタ。
“恋愛対象外よ~”とか言ってたくせに、ほんとかなぁ…。
あたしは独り部屋に残ると、
ベッドの上に寝ころんだ。
あぁ…1人って暇。
やっぱヒナタたちと飲めばよかったかなぁ。
残り7ヶ月、その間何か好きなことを見つけないと、寝るのが趣味になりそう。
そう思いながらも、一度大きく出たあくびが眠気を誘発して、もう睡眠モード。
掛け布団をグッと胸元へ引き寄せ、
布団の中へもぐりこんだら、
――コンコン!!
扉をノックする音が聞こえた。
「はい…」
ベッドの上に寝転んだまま返事を返すと、
「私だ」
えっ?
若様?
こんな時間にどうしたんだろうと思いながら、駆け寄って扉を開けると、
そこには小さな箱を手に持った若様が立っていた。
「1人か?」
「うん。そうだけど…」
「お前に渡しておきたい物がある」
「何?」
スタスタと部屋の中に入ってきて、椅子に腰を下ろし、
改まったように丁寧に小さな小箱を机の上に置く。
っていうか、
ねぇ?
知ってる?若様…。
あたしたちって2人っきりでいたら、
あたしキトに殺されるんだよ?
そんなこと知りもしないだろう彼は、ゆっくりと箱を開けると中身を取り出した。
「これだ」
「きゃっ!!きゃぁぁぁぁ!!」
思わず出てしまった大声。
キトよりも、何よりも前に…。
あたし、若様に殺される!!
「なんだ…その叫び声は…」
「お願い!! そ、それを…こっちに向けないで!?」
手の平の上で、もて遊ぶように安易に扱うその仕草に、
とりあえず、彼を説得してなだめようと、必死で言葉をかけた。
驚嘆しまくりのあたしの横で、首をひねりながら、ブツを眺めている若様。
「若様は…それがなんなのか知ってるの?」
「いや…知らない。昔ある学者が作ったと言っていたが、
その者は、“命を守るがそれに値するほど恐ろしいものを作ってしまった”…そう言い残して自害したという」
恐ろしいもの…。
当然よ。
魔力を持ってる上にそんなもの発明した日には、この国が終わる。
これは…
間違いなく…拳銃。
「命を守るのであれば、お前にやろうと思っていたのだが…」
引き金に指をかけ、平然と銃口を覗き込んでるその姿に肝が冷える。
「わ、わかった!!わかったから、とりあえずあたしに貸して!!」
あたしは若様の手からゆっくりと拳銃を手にとった。
初めて触る銃。
手が震えて…
でも引き金を引かなければ大丈夫なはず。
「それは、一度しか使えないらしい」
一度しか使えない?
どうして?
おそるおそる、弾丸が入ってるマガジンを動かしてみた。
あぁ…そういうことか。
「…本当。玉が一発しか入ってない」
「玉が…入ってない?お前これを見たことがあるのか?」
それくらいのこと、あたしの国の人なら誰だって知ってる。
ガチャっとマガジンを収めると、とてつもなく深いため息がもれた。
「本物は初めて見た…」
こんなものが世間に出回ったら…
そんなこと想像もしたくない。
「これが、この間アギ様が言ってた“武器”だよ」
「なんだと?」
「これは…あたしがもらっていいのね?」
「あぁ…どうやら使い方もわかっているらしいな。お前が持つにふさわしいだろう」
小さな箱へ丁寧に銃を戻して、真珠の指輪を保管してある引き出しにしまいカギを掛けた。
「はぁ…なんだか疲れたよ」
うなだれるようにベッドに座りこむと、
なぜかあたしを追うように近づいてきた大きな影。
ふわっと弾んだベッドで、隣に若様が座ったのがわかった。
「私は眠たくなってきた」
そんな戯言をほざいて、当たり前のように平然とあたしの膝へ頭を乗せるとベッドへ横たわる。
えぇぇ?
膝…枕…?
この状況に思考が追いつかなかったあたしは、
一瞬、間を置いたあと、我に返って彼の頭をグイッと起き上がらせた。
それでも頭をグリグリ動かしながら抵抗して、挙句の果てに、あたしのおなかへ顔をうずめてくる。
「ちょっと!!若様!!」
近すぎる距離と、弾力のある腹を悟られたくなくて、思わず息を止めた。
「硬いな」
「へ?」
「力抜け」
ふ、ふざけないでよ!!
若様は、あたしのおなかに顔をうずめたまま、静かに瞳を閉じている。
うわっ…まつげ長っ!!
寝ている顔も綺麗だなんて羨ましすぎる。
至近距離で眠る彼に不覚にも見とれてしまった。
「気持ちいい」
「えっ?」
「腹に肉がついてて気持ちがいい」
「…っ!!」
パシっと頭を叩いて、レディーに対して無神経すぎるこの男を、今度こそぐぃっと起き上がらせた。
こいつ…やっぱ最低だ。
それにこんなことしてるときに、もしヒナタたちが帰ってきでもしたら、また変に勘ぐられるじゃない。
――そう思っていた矢先。
ドンドンっ!!
「カンナ!!ヒナタ!!誰かいるか?」
えっ?
低い声と共にドアを叩く音。
その声…もしかして…
キト?
や、やばっ!!
なんで?
こんな時間に何の用よ。
「おい!返事しろ!寝てんのか?」
ど、どうしよう
どうしよう。
殺される。
こんな現場見られたら、
今度こそあたし、秒殺だ。
「おい!!入るぞ!!」
うっそぉ~!!
バカじゃない?
女の部屋に勝手に入ってこないでよ!!
最悪窓から飛び降りようか…。
ベッドによじ登って窓の外をのぞくと、3mくらいはあるんじゃないかと思われる高さに背筋が凍った。
――こりゃ無理だ。
うろたえてるあたしに、若様はベッドの掛け布団をサッとめくると“入れ”って目で合図してくる。
その仕草を見てすぐさまベッドの中にもぐりこんだ。
「ったく」
嘆息交じりに荒くガチャッと開いたと思われる扉。
ベッドの中にいる私はギュッと目をつぶって息を殺した。
「なっ!!わ、若様!? 若様が…なぜこちらに…」
「いや…ヒナタに用があったのだが、誰もいなかった」
「……。さ、さようでございますか…。わたくしも3人を探してるのですが…一体どこで羽を伸ばしているのやら。
あいつらは最低限のことだけを済ませると、いつもどっかで遊びほうけております。本当に厄介な者たちで…」
なによそれ…。
冗談じゃない。
こっちは朝から晩までヘトヘトになるまで働きっぱなしだっつーの。
キトの奴。
言いたい放題言ってから。
「疲れたであろう。お前も今日はゆっくり休め」
「ありがとうございます」
「……」
「……」
「で…。若様は、お戻りにならないのですか?」
「えっ?あぁ~。私もヒナタに置手紙を残したら部屋へ戻る」
「承知いたしました。あっ!!そういえば、若様にお伝えしたいと思っていたことが…」
「なんだ」
「引き続き四神玉を調べさせておりましたが、宮殿内に送り込んでいる刺客の話しでは、
やはり皇帝の持っている白虎玉は偽物ではないかと」
「そうか…」
ん?何?
白虎玉が…偽物?
なんの話ししてるんだろう。
それにしても…ベッドの中、めちゃ暑い。
息苦しいし…。
キトの奴…さっさと話し終わらせて帰ってよ。
「白虎玉のありかはまだわかっておりませんが、もしも我々が本物を手に入れれば、間違いなく王妃を排除することができます」
キトと若様っていつもこんな難しい話してんのかな。
それに王妃を…排除する?
盗み聞きしてやろうと、あたしはベッドの中でキトの話しに耳を傾けた。
そう思っていたのに…。
「キト…その話は…あとで聞く…」
なぜか急に話を終わらせようとしてる若様。
「えっ?な、なぜですか?」
“あとで聞く”といった若様に疑惑を感じたのか、少し驚いたような甲高い声でそう尋ねてるキト。
「い、いや…別に理由はないが…」
「お疲れのところ申し訳ございませんでした。とりあえず明日からは白虎玉を見つけることを最優先したいと思います。もし玉が見つかれば、無血で王権を奪い返せるかもしれません」
「……」
えっ?今の話し何?
早口でよくわからなかった。
白虎玉を見つければ…、何て言ったの?




