若様の心境
「カンナ…お前がこの世界にきたのはいつだ」
「えっと…9月の16日よ」
忘れもしない。
あたしの誕生日だった。
「若様…今年の9月16日は“いざよい”でございました」
「そうか」
えっ?
なら…もしかして、
「いざよいに、あたしは帰れるの?」
「じい様の神話。キトラの秘宝伝。それに、ここへ来たのがいざよいの日だったことを考えると、おそらく帰れる」
や、やった!!
あたし…帰れる!!
元の世界に…。
元の生活に…戻れる!!
「アギ様!!来年のいざよいはいつ?」
「来年のいざよいは、9月13日だ」
あと…8ヶ月。
いざよいの月が満ちるときに、扉が開く。
向こうの世界に帰ることができる!!
思わず口元を両手で押さえて叫びたいのをこらえた。
とめどなく溢れてくる涙は、もう我慢しない。
おばあちゃん…ユリ…蓮!!
あたし…帰れるよ。
若様はギュッと強くあたしの体を抱きしめると
“よかったな!!”そう小さく耳元で呟いた。
アギ様が部屋を出ていったあと、
あたしと若様は、
キトラ古墳について調べていた。
「あったぞ。これだ」
「見せて!!」
【キトラ古墳…7世紀末から8世紀初め】
確か、この時代は…
飛鳥時代か奈良時代あたり。
そうか。
ヒナタのおじいちゃんが日本武尊を知っていた理由もやっとわかった。
日本が二つに分かれたのは、
ちょうどこの時代。
だから、飛鳥時代までの歴史が、あたしの知ってる歴史と同じだった。
それに、向こうの世界にあるキトラ古墳に、青龍や白虎の四神が描かれていたことも納得できる。
武器の国と、魔力の国…か…。
改めてこの真実を思い為したら、深いため息が漏れた。
「この国のキトラ古墳があるところは、ここだ」
歴史の本を片手に、
日本地図を指さした若様。
その地図を覗き込むと、
若様の人差し指が示している場所は…
奈良県。
「やっぱりあたしの国と同じ場所だよ」
「この地は青星」
「青星?」
「そう。青龍が治めている地、つまり皇帝が住んでるところだ」
ん~…皇帝がいるってことは、首都?
とにかく日本の中心ってことかな。
ふーぅ…っと嘆息をついて本を閉じた若様。
なんだか、頭にいろんなことを詰め込み過ぎて疲れた。
若様は、どこか床一点を見つめボーっとしている。
あたしは、そんな若様を横目に、椅子の背にもたれかかりながら天井を見上げた。
きっと、お互い考えていることは同じだろう。
あたしたちは今日まで、
それぞれが、自分たちだけの日本だと思って生きてきた。
それがまさか、国が二つに分かれていて、個々に国を作っていたなんて…。
もし、あたしが向こうの世界に帰って、
この話しを誰かにしたとしても、
きっと信じてくれないだろう。
あぁ…それにしても、
「あと8ヶ月も、ここにいなきゃいけないなんて…」
結構長いなぁ~って思いながら、
独り言のように呟いたつもりだったのに、
目の前で座っていたはずの若様は、いつの間にか立ち上がっていて、
険しい顔であたしを見降ろしてくる。
「ここにいろと頼んだ覚えはない。嫌なら出ていけ。解放してやる」
「えっ?」
ちょ、ちょっと…。
なんで急にそんな怖い顔して怒りだすの?
なんの機嫌をそこねてしまったのか、
冷たい瞳をした若様は、
そのままスタスタと部屋を出ていってしまった。
風の魔力で、バタンっ!!て大きな音と共に扉が閉まって、
シーンと静まり返った部屋。
えぇぇえ?
なに?あの態度。
あたしそんな怒らせるようなこと言ったかな。
それに、こないだまで、“一度この屋敷に入ったら外にはでられない!!”とか言ってたじゃない。
なら、解放してくれるわけ?
でも。
そうだ…。
帰るためには鳳凰の鏡が必要なんだった。
今、ここを出ていくわけにはいかない。
なのに…
“8ヶ月もここにいなきゃいけないなんて”
鏡がある限り、“ここにいさせて”とお願いする立場はあたしの方だった。
はぁ…。
あんな言い方しなきゃよかったよ。
若様がいなくなった部屋に、いつまでも居座るのは、なんだか居心地が悪くて、
とりあえず自分の部屋へと戻った。
「ほ、ほんとぉぉぉ!?よかったじゃない!!やったわね!!」
部屋に戻ってさっそくアギ様から聞いた話を、ヒナタとモアに話すと、
2人とも喜んでくれて、三人で肩を組んで飛び跳ねた。
「それにしても、国が二つに分かれてたなんて、信じられないわね」
「武器の…国か…」
当然、その話しにはヒナタもモアも目を丸くして、あたしの話しを聞いていた。
「8ヶ月後のいざよいの日に、たぶんあたし、帰れると思う」
「…うん。 ねぇ?カンナ?離れて暮らしても、あたいたちはずっと友達…家族だからね!!」
「ヒナタ…」
“ほんとに帰りたい?”って最近口にしていたヒナタも、この朗報をとても喜んでくれて、
「よし!!今夜の夕食は、あたいが腕をふるっちゃうから!!」
「ほんと?嬉しい~♪」
「じゃぁ、モア!!手伝って?」
「もちろん!!」
“今日はゆっくりくつろいでてね”ってそう言いながら部屋を出て行った2人。
やったぁ。
何作ってくれるんだろう。
楽しみだなぁ。
「不思議な娘だ…カンナ…か。
カンナ…カンナ…。
おぉ!!そうだそうだ!!
思い出した。
確かあの娘も、“カンナ”という名だったが…。
これまた不思議な縁だ」
「アギ様?…何かおっしゃいました?」
「いやいや、独り言だ」
「最近、年のせいか独り言が増えましたな」
「キト!!年寄りを馬鹿にするものではないぞ!!」




