真実の言明
次の日、朝食を終え、片づけを済ませると、
あたしは、その足で若様の部屋を訪ねた。
昨日の今日でなんだか空気が重苦しい。
「その辺に座っていろ」
「…う、うん」
でも、勝手に気まずく思ってるのはあたしだけのようで…。
若様はいつもと何も変わらない。
いや、いつも以上に無愛想かも。
――コンコン…
あたしが部屋を訪ねた直後、それを追うかのように、
ドアをノックする音が部屋に響いた。
「アギにございます」
若様が扉を開けると、アギ様は部屋の前で丁寧に頭を下げヨタヨタと中へ入ってくる。
「カンナ…飲みものを」
「あっ…はい…」
若様にそう言われ、お茶を入れようと、小さな棚から湯呑みを3つ取り出した。
ん~っと、お茶の葉はどこだろう…。
っていうか…お湯もないし。
「“キトラの秘宝伝”には、目を通されましたかな?」
「あぁ…すべて読んだぞ」
キョロキョロ、お茶のありかやお湯を探していたあたしをよそに、話を始め出す2人。
なによ…アギ様ったら。
あたしに話があるって言ってたのに…。
「わたくしも確認しましたところ、少々気になることがございまして」
「気になること?」
「はい…秘宝伝の冒頭に“いざよいの月が満ちるとき、キトラに眠るもの、光の扉を閉める”…と、一文がございます」
「あぁ…そんなことが書いてあったな」
あたしも、そこは読んだ。
いざよいは、十六夜のこと。
キトラに眠るものは、
キトラ古墳に葬られてる人のこと。
光の扉を閉める?
…それはまだわからない。
「その文を読んで、昔、わたくしのじい様が話していた神話を思い出したのです」
おじいさんの神話?
あっ…とりあえずお茶を用意しなきゃ。
あたしも話に入りたい!!
「どんな神話だ」
「はい…。それは、光の扉を閉めたという偉人の話しにございます。
じい様の話しによりますと、1000年よりもさらに太古のこと、我が国には、2種の種族をいたと…」
「2種の種族? 興味深い話だ」
「二方の種族は、互いに争い合っていたそうです。憎しみ合い、殺し合い。その戦いは何百年と続き、終幕を迎える兆しはなかった。
だが、そんな種族達を哀れに思った1人の人間が、自分の命と引きかえに、いざよいの月が満ちるとき、この国を二つに分けた…という神話でございます」
国を二つにわける…か…。
まぁ…不思議な話ではあるけど、
神話は神話。
ちょっと信じられないな。
それに、あたしの帰る方法の当てにはならなそう。
「神話の中では、我々魔族が勝利をおさめたとなっておりますが、種族が別れた今、それは不可解のままでございます」
「なるほど…。 で、我々魔族と、もう一つの種族とはなんなんだ」
「はい…それは、“武器”というものを使う種族にございます」
ふーん。
武器VS魔力…ってことか。
確かに、力は互角かも知れない。
だけど、若様は、そんなアギ様の言葉に首をかしげていた。
「武器?なんだそれは…」
えっ?
―――ガシャーン…
あっ…
コップが…。
「カンナ!!どした?大丈夫か?」
「あっ…うん。ごめんなさい。すぐ片付けます」
「そんなものはいい!!手を見せてみろ!!ケガはしてないのか?」
「だ、大丈夫だよ…若様も大げさだなぁ。ちょっとびっくりしちゃって手がすべったの…」
若様は、すぐに護衛を呼ぶと床を片付けさせた。
“武器?なんだそれは…”
体中に鳥肌が立って治まらない。
何度も頭の中を若様の声がループする。
“1000年よりも昔、2種の種族が存在した”
まさか…。
そんな。
無意識にガクガクと震える足。
あたしは、やっとの思いで若様たちが座るテーブルに近寄ると、椅子へ腰を下ろした。
絡まっていた糸が、ようやくほどけかけているというのに、
この現実が怖くて、信じられなくて吐き気がする。
「自分たちの魔力が最強だと思う種族と、魔力が使えない代わりに、道具の開発に力を尽くす種族の戦いとは…哀れですな。そもそも武器とは己を守る道具のことです…時に人をも殺す道具…」
「道具…か。 一体どんなものか…想像もつかないな」
そう呟く若様の疑問に、
あたしは何も答えることができなくて、
ただ、ボーと彼を見つめていた。
「カンナ…気分は大丈夫か?」
「えっ?」
唐突に気を使いながらも、
じっとあたしを見据えるアギ様に、
もう、何もかも悟られてる気がして…。
「カンナを呼んだのは、その答えが知りたかった」
「……」
「お前は…魔力が使えないのだろう?」
「はい…」
「そして鏡の中から来たと…」
コクコクうなずいたあたしに、
“やはり”と言うかのように、
アギ様も相づちを打った。
「ならばお前は、武器を知っているのだな?」
アギ様の問いに、ただ小さくうなずく。
そういう…ことだったのね…。
鏡の世界も何も、なかったんだ…。
元からこの国は一つの国だった。
武器と魔力の争いが何百年も続いて、
憎しみ合い、殺し合い、
哀れに思った偉人が、この国を二つに分けた。
そんな話…普通の感覚なら信じられないし、ありえない。
だけど、“武器”を知るあたしの存在自体が、
不透明な神話を確信へと変えて行く。
だから、きっと神話は間違ってないんだと思う。
ある意味、神話=あたしが証拠。
信じざるを得ない。
でも…なんだか、悲しい。
この世界と、あたしの世界とは敵同士だった…なんて。
それに…
「あたしが魔力を知らなかったのと同じように、若様もアギ様も、武器を…知らないのですね?」
「そういうことだ」
若様は、あたしとアギ様を交互に見ながら、顔に“?マーク”を浮かべてる。
「まさかカンナは…武器の国からきた…そういうことなのか? お前は武器とやらを知っているのか?」
「…うん」
「昔、じい様に聞いたときは、ただの神話だとバカにしていたが、カンナの存在でこの話を思い出したのだ。もしかすると…と思ってな。だから確認したかった」
アギ様は、使いの人が入れてくれたお茶を、ク―っと飲み干すと、深いため息をついた。
「ならば、この2つの世界を共鳴しているのが、鳳凰の鏡…ということか」
「おそらく、そういうことだと思われます」
鳳凰の鏡が、
2つの世界をつなぐ扉…。




