無抵抗な体
どうして…。
どうしてよ。
「やだ…やめて…」
でも、もう彼に、
あたしの言葉なんか届いてない。
あたしの体に顔をうずめ、
胸には熱い吐息が当たる。
なでるように、首筋を唇でなぞられて、
「…っ…!!」
体中に電気が走ったみたいにビリビリしてくる。
「ほんとに、やだ…」
もう、どうすることもできないかもしれない。
だって、いくらもがいたところで、
この力に、あたしが勝てるはずない。
心の覚悟なんて決められないけど、
体は、“これは自業自得だ”と覚悟を決めて無力になったあたし。
蓮…ごめん。
ごめんね…。
何度も絡められる唇。
あたしの体の中に、大きな手が入ってきて、
ぎゅっと強く閉じた瞳からは、
ポロポロと涙があふれてきた。
もういや…最悪。
精一杯の憎しみを込めて、睨みつけるように彼を見上げた。
だけど…
「カンナ…」
「……」
甘い声でそう呼ばれて、
紺色の深い瞳に吸い込まれそうになる。
不覚にも思わず見つめ返してしまったあたし。
さっきまでの荒く野獣のようだった瞳が少し穏やかに見えて戸惑う。
「なっ…お前…泣いて…」
あたしの涙に気づいた若様は、
険しい顔であたしの体から離れた。
あぁ…。
涙が流れてくれて、よかったのかもしれない。
もし、あのまま続いていたら、あの瞳に流されていたかも…と心の中で胸を撫で下ろす。
やっと解放されたあたしは、
茫然自失のまま、気持ちを整えようと深呼吸を繰り返した。
「そんなに…泣くほど嫌なのか?」
なぜか、呆れた口調で平然と訪ねてくる若様に、コクコクと首を縦に振った。
「強引に扱ったことか?」
「……」
何も答えられなかったあたしを見て、
小さなため息を一つついたあと、体を起き上がらせた若様。
気まずいってもんじゃない。
そんなを通り越して、
重苦しい空気がこの部屋を包む。
しばらくの間続いた沈黙。
だけど、その沈黙を破ったのは、あたしだった。
「若様が…どうとかじゃなくてね…。あたし、好きな人がいるの」
そう言葉にすると、
“意外”とでも思ったのだろうか、
若様は、キョトンとした顔で、
あたしに視線を移した。
「だから、こういうのは本当にやめてほしい」
「お前があまりに私の話しに無関心だったから、少しむしゃくしゃした」
なにそれ…。
苛立ったからって、あんなことするの?
でも、確かに若様は、
あたしに何かを話かけていた。
それが何の話だったか、全く思い出せないほど、
「本に夢中で…」
若様は、今だ寝ころんだまま放心状態のあたしの腕をひっぱると、
グイッと体を起き上がらせた。
「いたずらしたくなる私の気持ちもわかれ」
「ごめん…なさい」
そして、また続く沈黙。
っていうか…
「ちょっと待ってよ。なんであたしだけが謝るの?若様も謝ってよ!!今したこと…」
「あ、謝る? 私が…?」
はぁ?って不満げな顔で、眉間にしわをよせながら、
なんだか少しパニックを起こしたように、パチパチ瞬きを繰り返してうろたえてる。
「もしかして…謝ったことないの?」
あたしの問いが図星だったのか、
バツが悪そうに、口をへの字にした若様は、無言のにらみを見せる。
「お前以外の人間に謝ったことは一度もない」
あたし以外?
あぁ~そう言えば、
こないだ、池に落とされて殺されかけた時、部屋へ謝りにきたっけ。
なんだ?このお坊ちゃん。
最低な育ち方だな。
「悪いと思った時は、ちゃんと謝るべきよ」
威圧気味に強く出たあたしに、
若様は少し身を引いて、
ためらいながらコクコクと首を縦に振る。
「わ、わかった。今回は私が悪かった。もうあのようなことはしない。それに他の男のことを考えてる女を抱いても、何も面白いことはないからな」
なっ!!
面白いとか、面白くないとかじゃないわよ!!
だけど、そもそも、そんな原因の元を作ってしまったのはあたし。
「あたしもごめんね。こんな夜中に押し掛けてしまって…」
「お前が帰る方法を懸命に探しているのはわかっている。 あぁ~そうだ。明日は、朝食を食べたらここに来い」
「えっ?どして?」
「アギが、お前に話たいことがあるそうだ」
「アギ様が?なんだろう」
「なんの話かはしらん。とにかく、アギを呼んでおくからお前も来るんだ」
「わかった」
はぁ…。
一体なんのために、こんな夜に若様の部屋を訪ねたんだか。
「じゃぁ、おやすみなさい」
結局、ただ襲われただけで、キトラ古墳のことを調べることはできなかった。
あぁ~そうだ。
明日聞く、アギ様の話しってなんだろう。
キトラ古墳だけじゃなく、
さらに気になることが増えちゃったし。
それに…。
未だ感触の残ってる唇をなぞるように片手を当てた。
はぁ…。
今夜は…気になることが多すぎて眠れそうもないな。
そんな思いで、あたしは部屋へと戻った。




