襲われた夜
「おいしぃ♪」
「このようなもの生まれて初めて口にした」
「不思議な食感だ…」
「カンナ!!今度あたいにも材料と作り方を教えて?」
「いいよ~!!」
夕食に振る舞ったあたしのドリアは、
組織のみんなに大人気で、
若様は、“これが異世界の食べ物か…”
と興味津々に口へ運んでいた。
何がともあれ、みんなが喜んでくれて嬉しい。
夕食の片づけを終え、あたしは、いつもより早めに部屋へと戻った。
だけど、なんだか今日は、久しく外に出たせいか、
それとも、心の片隅に寝付けないことでもあるのか、
とにかく、テンションが上がったまま、なかなか眠りにつけない。
あぁ~そうだ…結局今日は、鏡のことを何も調べなかった。
ベッドの上に転がりながら、ぼーっと天井を見上げ、
今までにわかっていることを思い出す。
一つは、
ここは鏡の中の世界なのに、飛鳥時代までの歴史がまるっきり一緒だということ。
そして、
キトラの秘宝伝に書かれていた
“いざよい”という意味が、
十六夜だったこと。
はぁ…たったこれだけ…。
“いざよいの月が満ちるとき…キトラに眠るもの…”
キトラに…眠るもの…。
キトラ…
明かりを消した部屋の中、だんだんと重たくなってきた、まばたき。
ん~。
キトラ…って
どっかで聞いたことあるんだけど。
どこで聞いたんだろう。
キトラ…
キトラ…
“キトラ古墳の壁画には…”
えっ?
キトラ…古墳?
あれ?
なんだっけ…キトラ古墳って
…どっかで聞いた気がする。
耳にしたことのある言葉には間違いないんだけどな。
キトラ古墳…。
“東西南北の壁の中央には、青龍、白虎、朱雀の模様が描かれており”
そ、そうよ…確かそんなことを言ってた。
誰の…声?
四神の話なら、何か手がかりになるはず。
誰の、なんの話しだったか、
よく…思い出すのよ。
四神…四神…
四神…
“四神は…中国に伝わる…神…壁画…当時の日本も…影響を受けて…”
とぎれとぎれで、はっきり覚えてない。
頭の中をループするこの声は…。
だれなの?
ギュッと強く瞳を閉じて記憶をたどる。
思い出せ…思い出せ…思い出せ…
“お前ら2人!!出ていけ!!”
えっ?
そ、そうだ!!
思い出した!!
一気に目が覚めたあたしは、
勢いよくベッドから飛び降りると、
つんのめりながらも、若様の部屋がある東の館を目指して、廊下を突っ走った。
――コンコン!!
コンコン!!
「若様!!若様?起きてる?」
寝ちゃったかな…。
しばらく扉の前で耳を澄ませて反応を伺う。
――ドンドンドンドン!!
今度は、少しだけ力強く扉を叩いてみた。
「若様?」
もう一度声をかけて、扉へ耳を当てると、
「カンナか?」
部屋の中から聞こえた小さな声。
ゆっくりと開いた扉からは、
もう寝るところだったのだろうか、
うつろに瞳を開いてる若様は、
けだるそうにあたしを見降ろした。
「どうした?こんな時間に」
「ごめんなさい!!どうしても、今キトラの秘宝伝が読みたいの!!」
全速力で走ったせいか、
未だハァハァと息の上がっているあたしを見て、若様は呆れた顔で首を横にふる。
「それならあすでもいいだろう?」
「お願い!!思い出したのよ!!“キトラに眠る者”っていうのは、キトラ古墳に葬られてる人のこと!!きっとそうよ!!」
「…?一体なんの話を…まぁいい。入れ」
「ありがと!!」
許可してくれた若様をかきわけるようにして追い抜かし、部屋の中へと入る。
あれは、夏期講習。
そして、その声の主は、
間違いなく山田先生。
蓮と一緒に受けていた日本史の授業だ。
RPGにハマってるって言ってた蓮は、
やたら四神詳しくて…。
そのときの山田の授業はこうだった。
奈良県にあるキトラ古墳の壁画には、
青龍、白虎、朱雀、玄武の四神が描かれてる…と。
「そういえば、カンナの連れてきた流白村のものたち。よく働いてくれるぞ」
「えっ?…あぁ…」
2つのカップに飲みものを注いでいる若様はそう呟いた。
「時がきたとき、役にたってくれそうだ」
「そっか…。ならよかった…」
キトラ古墳ができたのは、何年だろう。
もし、古墳ができたのが、飛鳥時代よりも前ならば、
この世界にもキトラ古墳があるはず。
キトラ古墳…キトラ古墳。
あれ?書いてない。
キトラの秘宝伝には、キトラ古墳のことは書いてない。
なら…歴史の本で調べるか。
ん?
でも、待てよ…。
なんか、おかしいなぁ。
あたしのいた世界には、
四神なんてものは存在しないはずなのに。
確かに、ゲームやファンタジーの中では、出てきたりするけど。
実際に、白虎族とかもいない。
なら、どうして、存在もしない四神が、
あっちの世界のキトラ古墳には、描かれてるんだろう。
まさか…
あたしが知らなかっただけで、青龍族とかが…いたとか?
いやいや、それはない。
絶対ありえない。
この世界になれた所為か、
“あっちの世界にも四神族がいたかもしれない!!”なんて思うこと自体、
あたしの感覚がおかしくなってる。
キトラ古墳…か。
うん…きっと、
キトラ古墳には何かがあるんだ。
それがわかれば、
もしかしたら帰る方法も…。
「あっ!!ちょっと!!」
あたしの手元からスーッと頭上に消えていった本。
その本を奪い取った若様は、
明らかに機嫌の悪そうな顔であたしを見降ろしてくる。
「私の話など興味なしか」
「えっ?あぁ~違うよ。ごめん…。つい夢中になっちゃって。え~っと、なんの話だっけ?流白村の人たちがどうしたの?」
「もういい」
そうあしらって、ムッとした表情を浮かべながら、
いきなりあたしの腕を、グィッと掴んで引っ張ると
隣にあったベッドの上に、
ドンとあたしの体を押し倒した。
「きゃぁ!!…わ、若様?」
びっくりして、すぐに起き上がろうとしたら、
若様は、あたしの体を囲むようにして馬乗りになってくる。
真上から見下ろしてくる鋭い瞳。
ちょ…ちょっと…なに?
なんなの?
なんでこんなことになっているのか、困惑してるあたしを更に追いこむように、
若様の唇が、
強引にあたしの唇を包み込む。
「んっ…やめっ…てっ」
若様の両肩をぐっと押し上げて逃げようとしても、
ベッドと若様に挟まれたあたしの体は、
全く動くことができなくて。
一度、唇を解放した若様は、
少し距離をとってあたしを見降ろした。
「こんな夜に男の寝所にくるとは、お前も大胆な女だな」
「な、なによ…それ」
「軽率な行動をとれば、どういうことになるか、わからせてやる」
「いやっ!!」
再び重ねられた唇と、
あっという間に無残にもほどかれていった帯。
「っちょっと待って!!ごめんなさい!!あたしが悪かったわ!!」
忘れていたわけじゃない。
若様が男だっていうこと。
でも、こんなことする人じゃないって思ってたのに。
信じてたのに…。
裏切られた気がして悲しくなってくる。




