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同情

この世界に迷い込んで4カ月。


この屋敷に来て3ヵ月が経っていた。



あたしたちは、毎日、


組織の洗濯・掃除・食事の準備に追われてて、


少しでも時間が空けば、三人で書庫へ行って、頼りになる本を片っ端から探した。



若様の部屋も、今じゃ机の上は山積みの本だらけ。



でも、帰る方法は一向に見つからなくて。




それと最近、




「どうしても帰りたい?」




「えっ?」




ヒナタは、そんな言葉をよく口にする。




そして、最後はいつも、



「ごめん…聞かなかったことにして…」



そう言って、また分厚い本のページをめくる。



あたしだって、


4カ月も毎日一緒にいれば、ヒナタと別れるときのことを考えると、寂しい気持ちになってくる。



向こうの世界に帰るということは、


もう二度とヒナタとモアにも会えなくなるということ。



でも、あたしには


大事なおばあちゃん、


愛しい蓮、


親友のユリがいる。



だから、できるだけ早く、


帰る方法を見つけなければいけないんだ。




ヒナタとモアとの別れの日が、


少しでも辛くならないように。






若様Side



カンナがこの館にきて3ヵ月が経っていた。



最近、あいつは、


よく笑うようになった。



出会ったころとは違う。



眉間にしわをよせ、


どこか不安気に身を引く姿。



孤独だったのだろう。



たった独り違う世界の人間という不安。



その心の不安を少しでもわかってやろうとしても、


私には、あいつに共感してやることはできない。



それは、鏡の世界に飛ばされ、孤独を感じた者にしか、

わかってやることはできないだろう。



今はまだ、帰る方法すら見つからない。



もしかすると、もう元の世界に帰ることはできないかもしれない。



まさか異世界の人間とも知らず、成り行きで留めてしまったが、


もしも、このまま帰る方法が見つからなかったら、


あいつは、どうするつもりだろうか。


まさか、ずっとこの組織に居座るつもりか…。




「掃除は終わったのか?」



「うん!!もう少ししたら夕食の下ごしらえをするよ」



「ならその間、少し付き合え」



「えっ!?…付き合えってどこに? あたし、今から書庫に行こうと…」



「書庫は今日はいい」



「えぇぇ~。今しか空いてる時間ないのに…」



「ゴタゴタ言わずについて来い!!」




カンナは両頬をパンパンに膨らましながら、気だるそうに私のあとを着いてくる。




中庭に出て、


「武空して行こう」



飛べないカンナの手を取り、


グッと胸の中へ引き寄せると



「ちょ、ちょっと!!何するのよ!!変態!!」



「はっ?変態?なんだそれは…」



大声と共にドンっと突き飛ばされた体。




「歩いて行けば日が暮れるぞ?」



「そういう意味じゃない…胸じゃなくて、背中に乗らせて」



カンナは私の背中に周り込んで、スーッと後ろから両手を絡めた。



あぁ…そういうことか…。



それとなく視線を落とすと、


私の胸で絡まっている白くて細いその手は、小さく震えている。




「怖いのか?」



「こ、怖いわけないでしょ?」



声まで震えているというのに、強がるその口調に呆れて苦笑する。



「じゃぁ行くぞ。しっかりつかまってろ」



「う、うん!!いつでもOKだよ!!」



空を見上げて、とりあえず目指す高さまで、飛んだ瞬間、




「ぎゃぁあぁぁあぁぁぁ!!」



街中に響き渡っているかと思うほどの叫び声。



うるさい…。



「もういい!!もういい!!降ろして!!」



「まだ飛んだばかりだぞ」



「きゃぁぁぁ!!怖いよぉ~。許してぇ、ごめんなさい!!お願い、もうしません!!降りたいよぉ~」



「なんでさっきから謝ってるんだ? まさか…また何かしでかしたのか?」



「違うよぉ~そんなんじゃないけど、本当にもう無理!!手がちぎれそうで限界!!」



「もうすぐ着く」



意を決したのか、それとも気絶寸前なのか、叫ぶことなく、やっとおとなしくなった。




「ほらっ…着いたぞ!!」



目的地が見えて、徐々に高度を落としながら着陸する。



トンっと私の足が地面に着いたあと、


ズルズルと背中からすべり落ちるように、地へ倒れていったカンナ。




「ひ、ひどい…。武空初心者にこんな仕打ちなんて…」



ふにゃふにゃになって座り込んでいるカンナに手を差し出すと、


私の手に掴まりゆっくりと立ち上がった。




「でも、怖い思いをしてでも来てよかっただろ?」



「えっ?」




高い丘の上。


どこまでも果てしなく続く、真っ平らな緑地に、雲ひとつない空。



緑と青で造られた景色の間には、


真っ赤に染まる夕日が沈んでいく。




カンナは、両手をいっぱいに広げると、


はぁ~と大きく深呼吸をした。




「すっごーい!!空気が美味しい!!」



「味などわかるのか…」



「あのねぇ?物の例えよ!!」



クルクル回りながら、


むじゃきにはしゃぐカンナの姿を


ただ目で追っていた。



「若様~!! 早く来て!! 景色が凄くいいよ!! わぁ~!!町がたくさん見える!!」



胸の内は、早く元の世界へ帰りたい思いでいっぱいだろう。


そう察すると、今も私に向けられる笑みがなんとも言えなく同情してしまう。




しばらくボーっと景色を眺めていたカンナは、不意に緑の上へと腰を下ろした。




「若様も座って!!」



「あぁ…」



それからも、ただ口を閉ざしたまま、遠くを見つめるその視線の先は、


元いた世界を思い出しているのだろうか。




「ヒナタとモアにもこの景色見せたかったなぁ。屋敷の外に出るなんて3ヵ月振りだもん」



3ヵ月振りの外の世界…。



そうだ…。



一度組織に入れば、


外へ出すわけにはいかない。




秘密を知られてしまった以上、



出すことはできない。



「ねぇ?若様?」



「なんだ」



「一つ…お願いを聞いてほしいの」



「願い?」



「そう…。もしね…もしも…あたしが元の世界に帰ることができたら…」



「あぁ…」



「そのときは、ヒナタとモアを解放してほしいの」



「2人を…解放する?」



「うん…外の暮らしに戻してくれないかな?」




屋敷の外での暮らし…。



それはきっと、


あの組織にいる全員が望んでいること。



そして、私自身も。




「わかった。そのときがきたら、2人は解放しよう」



「ありがと…」




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