血縁関係
え~っと、
何ページだったかな…。
ん~っと。
あぁ~ここだ。
“いざよいの月が満ちるとき。
鳳凰の鏡。麒麟の鏡。
キトラに眠るもの、光の扉を閉める”
光の扉って…なんだろう。
確か、鏡の中に入った時に、光を感じたのは覚えてる。
記憶に残るほどの強い光だった。
この光とは、
あのとき感じた光のことかな。
だとしたら、
それを閉める?
それに、いざよいってなによ…。
はぁ…もう言葉の意味さえわからない。
辞書ないかな。
キョロキョロ部屋を探して、
片隅にあった本棚から国語辞典を勝手に拝借。
いざよい…いざよい。
あった…これだ。
“いざよいとは、十六夜のこと”
十六夜?
十五夜なら聞いたことあるんだけどな。
いざよいの月…
十五夜の、次の日の月…か。
それに、若様は飛鳥時代を知っていた。
昨日、若様からもらった歴史本を頼りに飛鳥時代を探す。
飛鳥時代…
512年~710年まで。
あたしが暮らしてきた世界との歴史が、
ここまでは時代の配列も人物も何もかも一緒なんだよね。
それ以降の歴史ががらりと違う。
どうしてここからが違うの?
この時代に、何かあったんだろうか。
あぁ…もう頭がいたい。
あたし、本当に帰れるのかな。
一歩ずつは、前進してるんだろうか。
帰る道に、進めてるのかな。
毎日不安で、出口の見えないトンネルの中。
でもそこに、ほんの少しでも光がさしているのならそれでいい。
どんな些細なことでもいいんだ。
帰るために直接関係ないことであったとしても、
ひたすら手掛かりを集めていけば、
それがいずれ帰る手段につながるかもしれない。
今は、そう信じたい。
自分のやってることを信じるしかない。
「カンナ!!ご飯、肉鍋だって」
閉まっている若様の部屋の廊下から、
聞こえてくるヒナタの大声。
肉鍋?
もしかしてすき焼きみたいなもん?
「やったぁ!!すぐ行くね」
本を、パタンパタンと閉じて、椅子から腰をあげると、
「あっ…若様…お帰りなさい」
部屋に戻ってきた若様は、
今日も忙しかったのだろうか、
なんだか、疲れた顔をしてる。
「勝手に入って…ごめんなさい」
「いや、構わない。調べものか?」
「うん…」
「今日はどこへ行ってた」
「あぁ…書庫に…」
「書庫? お前ここで働く気があるのか?」
そんなこと言ったって、
なんの仕事すればいいのかわからないし、
でも鏡を見張っておきたいから、この組織をでていくわけにもいかない。
「まぁいい。とりあえずは家事だ」
「へ?」
「ここは女が一人もいない。だからお前たちには皆の洗濯と全部屋の掃除、食事の支度、それらを明日からしてもらう」
「あたしたちを召使いにでもする気?」
「さっきのヒナタたちとの会話はなんだ。今日は肉鍋だと?ふざけやがって。ただで飯が食えると思うな」
やっぱりこいつは鬼だ。
若様と一緒に部屋を出て、食堂へ向かうと、
すでに席に座っていた200人くらいの職員たち。
若様が部屋に入ってきたことに気付いた職員たちは、
いっせいに立ち上がって、
深く頭を下げる。
「カンナ、こっちへ」
「あっ…は、はいっ‼」
一番奥の上座。
そして、一段高くなっているフロアに上がると、
キトにシュン、それにヒナタとモア。
そして10人ほどの側近が丸いテーブルを囲むように座っていた。
若様が座ったのを見て、あたしも腰を下ろそうとしたら、
横からキトが、
10本ほどのとっくりが乗った円盆を
あたしの方へ向けてくる。
あぁ~飲めってこと?
盆に並んでるとっくりを一本手にとって
「ありがと…」
そう小さくお礼を言うと、
「違う!!」
「へ?」
「注いで周れ」
「はぁ?」
なにそれ…。
あたしたちは、召使いの上に女中かよ。
すき焼きの匂いを嗅ぎながら、
あたしたち3人は、みんなの席にお酒をついで周った。
キィィィ!!
あの男、酷過ぎる。
全員に酌をして周り、やっとのことで席に戻ると、
鍋の中は、小さくなった肉のかすだらけ。
はぁ…。
「「「いただきます…」」」
小さく肩を落として手を合わせたあたしたち3人に、
「お疲れ様!!ほらっ。取ってあるよ?」
そう言って、いっぱい肉が入ってる丼ぶりを渡してくれたシュン。
あぁぁ!!本当にいい人だ。
「シュン!!ありがとぉ!!」
キャーキャー、
はしゃいだあたしたちを横目に、
キトはチッて舌打ちした。
それからは、皆お酒も入って、
わいわいと楽しい時間を過ごした。
この組織の人たちは、みんな仲がいい。
それに、団結しているというか、
一つの家族のような、
そんな印象がある。
チラッと、若様を見ると、
彼もみんなの話しに笑みながら穏やかにお酒を飲んでいた。
こんな若造に、みんなペコペコしながら敬語で話す。
一体、こいつは何者なんだろう。
組織の弱みでも握ってるのか?って思うほど、
20代前半の男に対する態度にしては、明らかに不自然。
そんな組織の人たちを見ていて
ふと浮かんだ疑問。
「あの~そういえば、このお屋敷にきたときから気になってたんですけど…ここは“白虎”の組織なんでしょ?なのにどうして組織のトップが“青龍”の若様なの?」
誰に聞いたわけでもないけど素朴な疑問を輪の中に投げかけると、
皆、いっせいに箸を止めて、
無言のまま、あたしの方を見てくる。
ん?
あたし、なんかまずいことでも聞いた?
シーンと静まり返ってしまった席。
やばい…余計なこときかなきゃよかった。
空気がきまずくなっちゃったよ。
そんな中、
「カンナ?」
「ん?」
「それはね?若様の母上様が白虎の方だからだよ?」
そう笑顔で答えてくれたシュン。
その笑顔に
「そうなんだぁ」
ってこっちまで顔がほころぶ。
だけど、全然意味がわからない。
質問の答えにもなってない気が…。
お母さんが白虎族だから…。
それで?
でも、あまり触れちゃいけない話題みたいだから、とりあえず、そのまま流しておいた。
「若様のお母さんって白虎族なんだね。なら、あたいと同じだ…」
「だから、流白村の人たちは、すんなりこの屋敷に入れたのかしら…」
食事を終え、部屋に戻ると、
ヒナタとモアもさきほどの話しが気になったのか、若様の話をしていた。
「じゃぁ若様は、お父さんが青龍の方なのね」
1人納得しながら、うなずいてるヒナタ。
えっ?
お父さんが青龍?
「どうしてお父さんが青龍ってわかるの?」
「あたいたち魔族はね、父親の血を告ぐのよ。あたいのお母さんは玄武だけど、お父さんが朱雀だから、あたいは朱雀なの」
なるほどね…そういうことなんだ。
「でも不思議よね?」
「なにが?」
「あんな20歳そこらの若様がこの組織のトップなんて。もしかすると、お母様が白虎の中でも高貴な方だったのかしら。それにお父様はどうしたの?って思わない?」
「お母様は崩壊した白虎の王家と関係があったんじゃないの?」
繰り広げられてる、ヒナタとモアの会話にあたしはただただポカーン。
崩壊した白虎の王家…?
あぁ~そう言えばヒナタが前に、
白虎は、王も城も今は無いって言ってたっけ。
「何もかも15年前の戦争が悪いのよ。あれさえなければ、流白村もこんなみじめな思いをせずにすんだのに…。リシル皇帝を憎むわ…」
「モアっ!!不謹慎なことを言うもんじゃないよ!!そんなこと口にしたって、世の中が変わるもんじゃないんだから」
「わかってるよ。でも今は、皇帝を恨む以外に、すがるところがないだけよ」
「……」
モアの言葉を最後にあたしたちの部屋には沈黙が続いた。
こんな話に発展するなら、
やっぱりさっきの夕食での話題は、触れちゃいけない話だったんだって…思う。
ヒナタもモアも15年前の戦争を思い出すと、気持ちが沈む。
あたしも帰るときがくるまで、この世界にいるつもりなら、
ヒナタやモアと同じ心境になって暮らさなければいけないんだ。
いたずらに興味本位で聞いてみたり、
軽はずみな発言をするのは、これから気をつけなければいけない。
そう…強く感じた。




