キトラの秘宝伝
「ねぇ?書庫に行ってみない?」
次の日の昼下がり。
昼食を終え、部屋に向かって歩いていた途中、
突然、発作的に足取りを緩めたヒナタがそう促してくる。
「書庫?でもあたしたち、この館から外には出れないんでしょ?」
「館の中に書庫があるらしいのよ。シュンが教えてくれたの。それに鳳凰の鏡って、なんか伝説があった気がするんだよね。
昔の本とか、伝説の話とかいっぱい本があるみたいだから、何か手がかりが見つかるかもしれないよ?」
「本当!?なら行く!!行ってみたい」
共通する歴史のことも調べたかったし、
これで帰る方法の手掛かりでも見つかれば最高の気分だ。
「シュンって愛敬があって、本当いい奴」
「ん?もしかして惚れちゃったの?」
シュンを思い出しているかのように、嬉しそうに言葉にするヒナタを見て、
半分からかいながらあたしが茶化すと、
ヒナタは片手をヒラヒラさせて首を横に振った。
「あぁーダメダメ。あれは恋愛対象外。友達よりは上、恋人よりは下ってとこかな…」
友達以上恋人未満…か。
思えばあたしも、蓮に対して初めはそういう感情だった。
でも恋愛ってほんと不思議。
その人のことを考えるだけで胸が苦しくなったり、
相手と視線が絡みあったときの、あのドキドキ感。
本人すら無自覚のうちに、
なぜか心だけが先に発展してて、
いつの日か、
ふと気付くんだ。
あぁ~
ずっと恋してたんだって。
はぁ…。
蓮が恋しいな。
元気にしてるかな。
早く会いたいよ。
「ここだね」
ヒナタが足を止めたのは、ワイン色で金枠が縁取られてる大きな両扉。
なんのためらいもなく、ガチャッとドアを開けて中へ入って行ったヒナタに、
あたしとモアも続いた。
書庫の中は、向こうの世界でも経験したことのある、
古本屋で本を買ったときのような、あの独特の匂いが漂ってる。
「「「アギ様…?」」」
思わず3人の声が重なって、お互い顔を見合わせた。
中に入ってすぐ右にあるカウンターの中で、
鷲鼻にちょこんと小さなメガネを乗せて椅子に腰かけていたアギ様は、
ギョロリとした堀りの深い瞳をあたしたちの方へと向けた。
「おぉ~君たちか…どうした?」
「あの…本を見せていただきたいのですが…」
顔色を伺いながら、
恐る恐るあたしがそう尋ねると
「本?あぁ…いいけど、どんなのを探してるんだい?」
アギ様は席を立ってカウンターからこちらへとヨタヨタ出てくる。
「…鳳凰の鏡が載ってる本を見たいんです…」
「鳳凰の鏡?…とは、王家に伝わるあの鏡のことか?」
「…は、はい」
そうだ…
この世界では…そうなんだ。
前に若様も言ってた。
鳳凰の鏡は、皇太子を生んだ王妃が受け継いでいくって。
「ならこの列の一番奥。“伝説・伝記・歴史”と書いてある棚に、鳳凰の鏡系の話しがあるはずだよ?」
「どうもありがとうございます。じゃぁ…ちょっと探させてください」
「あぁ…持ち出すときは、この紙に題と名前を書いて行ってくれ」
「はい」
本を探すことにすんなり許しをもらったあたしたちは、伝説系の棚の前までくると、手当たり次第に本を読み漁った。
3人ともひたすら無言で半端ない集中力。
受験勉強もこんだけ集中力があれば、
もっと簡単にあの高校へ入れたはずなのに…
そんなことを思いながら、かれこれ2時間くらい。
「ねぇ!!カンナ!!これを見て!!」
「ん?なに?」
目を輝かせながら近づいてきたモアが、
あたしの目の前に差し出してきたものは、
「キトラの…秘宝伝?」
「そう!!…ここみて…えっと…ここ!!“いざよいの月が満ちるとき、鳳凰の鏡。麒麟の鏡。キトラに眠るもの、光の扉を閉める”ですって!!」
「なにこれ…どういう意味だろう…いざよいの月?」
「なんのこと言ってるのかは全然わからないけど…でもほらっ!!鳳凰の鏡って書いてあるでしょ?」
確かに意味はわからないけど、鳳凰の鏡ってのは…間違いなくあの鏡のこと。
麒麟の…鏡?
えっ?
じゃぁ鏡は二つあるってこと?
「モア!!ありがと。よく見つけてくれたね」
あたしがそう言うと、モアは少し照れくさそうに微笑みながら、“また探してくる”って小走りで駆けていった。
「カンナ…どう?手掛かりになりそう?」
「ん~…」
キトラの…秘宝伝…。
キトラ…
キトラ…
キトラって、どっかで聞いたような。
いざよいの月が満ちるときって、一体なんのことなんだろう。
でも…これだけじゃ帰る方法すらわからないな。
モアが探してくれた、このキトラの秘宝伝。
もう少し調べる価値はありそうね。
借りたい本を数冊抱え、
アギ様にお礼を言って、
あたしたちは、北の館へと向かった。
「隅から隅まで読めば、なんかしらの手掛かりが見つかるかもしれないわね」
歩きながら、ペラペラと本をめくるヒナタを横目に、
あたしは、若様の部屋がある東の館の前でふと足を止めた。
あっ…そういえば。
「ヒナタ…モア…」
「ん?どした?」
「ちょっと、この本読みたい…な…」
握りしめていたキトラの秘宝伝に向かってそう呟くと、
「うん!!部屋に戻って読もうよ」
ヒナタは、“何を今さら?”って表情で、先を指さしながら促してくる。
だって…。
「鏡の調べ物するときは、ここの部屋でやれって言われてるのよ」
「えっ?誰に?」
「若様…」
全く何もいわくありげに言ったつもりはなかったのに、
ニヤッとした顔つきで同時に笑みを浮かべてくる2人。
ちょっと、
なによその顔…。
「違うよ?全然そんなんじゃないからね?なんか勘違いしてるよね?」
ブンブン手のひらを振って全否定しすぎたのか、
余計言い訳みたいになってるあたしに、
「はいはい!!わかったからごゆっくり~!!」
って、ヒナタは呆れた顔で背中を叩いてくる。
もう!!なんの想像してんの?
本当にそんなんじゃないのに。
そそくさとあたしを置いて、
足早に帰っていきながら
「夕食の時間になったら呼びに来るから!!」
クルッと振り返って、
小声でそう言いながらウィンクしてくるヒナタ。
…なにあのウィンク。
絶対、なんか勘違いしてるよ。
まぁいいや。
今はとにかく、このキトラの秘宝伝の続きが気になってしょうがない。
急いで若様の部屋に向かうと、
扉の前には一人の護衛が立っていた。
「あの…入ってもいいですか?」
「若様はいらっしゃらないですが…カンナさん?ですか?」
「はい…ちょっと調べ物をしたいんですけど…」
ダメって言われるかな?と思いながら、
表情を伺っていると、
「若様から聞いてます」
そう言って扉を開きながら、キョロキョロ辺りを見回している。
どうかしたの?って首をかしげながら彼を見上げていたら、
「キト様に見つからないうちに早くっ!!」
えっ?
キト?
「キト様に見つかったら入れてもらえませんよ?」
彼は小声でそう言うと、
四方八方を見渡しながら、
あたしの体を肘でクイックィっとドアの方へ押してくる。
確かに、
あいつに見つかると厄介だ。
あぁ~でも、よかった。
この人がキト側の人間じゃなくて。
「どうもありがと。失礼しまーす」
一応の挨拶をして部屋の中へ入る。
綺麗に片づけられている部屋は、
若様がいつも身に付けている香の香りだけが漂っていて…。
あの性格に似合わず、柔らかい香り。
鼻で一度大きく深呼吸をして、
椅子へ腰を下ろした。




