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理不尽な扱い

そう言った私に、


彼の隣にいたキトは、“くくっ”て小馬鹿にしたような声を漏らして苦笑している。



「そうか…わかった。そこまでこれが自分のものだと言い張るのなら。無知なお前に一つ話をしてやろう」



そう言うと、男は風の力を使ってあたしの手元から鏡を奪い取った。



…っ!!


あたしの…鏡…。



手にしたその鏡を大事そうに見つめたあと、男は冷酷な目であたしを睨みつけてくる。



「この鏡は、皇帝から王妃が受け継ぐ、王位継承者の証だ」



「…は、はい?」



きっとあたしの頭の上には“?マーク”が無数に並んでいたと思う。




「わからないであろう…ならばもっと簡単に言おう。


次の世継ぎの証として、皇太子を産んだ母上に献上される鏡だ」



な、なにそれ…。



余計意味がわからなくなったじゃない。



ポカーンとしてしまったあたしの横で



「つまり…皇太子のお母さんがこの鏡を持つってことでしょ?」



そうヒナタが代弁してくれる。




「そうだ…それが自分のものだと?笑わせてくれる」



んなこと言われたって、


それは、こっちの世界の話でしょ。



あたしの世界では、あたしの先祖が拾っちゃったんだからしょうがないじゃない。


あたしの誕生日におばあちゃんがくれた大事な家宝なんだから。



それに、この鏡がなかったらあたしは元の世界に帰れないのに。




「もう一度聞く、なぜ鏡を探していた」



「だから…それは…」



ちょっと待ってよ、こんな現実的な話されたあと、



“実は鏡の中から出てきましたぁ~♪”



なんて言ったらあたしどうなるんだろう…。




「答えないのなら、怪しいものと身請け3人まとめてこの場で始末する」



はぁっ?


何言ってんの?


うそでしょ?


あたしたちを殺す気?



でも、そう言った彼の目は全然笑ってない。



ただ脅している…

ってわけではなさそう。



ど、どうしよう。


本当のことを言う?


余計殺される気がするんだけど…。



「あ、あたしは…!!」



でも、信じてもらうしかないと思い、


思いきって言葉を切り出したあたしにみんなの注目が集まる。



「あたしは!! こ、この鏡の中から…来た…の…」



すべり出しはよかったものの、だんだん自信なさげに小さくなってしまった声と、


シーンと静まり返ったこの部屋の空気。



…やっぱり…ね。




「死にたいらしいな」



「ちょっと待ってよ。本当なんだってば!! 本当に鏡の中から来て、あたしは魔力だって使えないの!!」



真剣に訴えかけてるあたしの周りでは、みんな顔を見合わせてクスクス笑ってる。




「魔力が…使えないだと?」



キス男も呆れた顔で首を左右に振りながら、深くため息をついた。



「いいだろう…」



そして、いきなりあたしの目の前まで接近してくると、


ぐいっとあごを掴んで、


あたしの瞳をじっと見つめてくる。



深く紺色の瞳。


その瞳に吸い込まれそうで、うまく呼吸ができないほど、


とてつもなく胸の奥が苦しい。




「茶色…白虎か。ならば、こいつを庭の池へ連れて行け。 手足を地に縛り付け、水をためるんだ」



な、なにそれ。



ちょっと待ってよ。



一体、


なんの…冗談?




「白虎なら地を割り抜け出すことなどたやすいだろう。 魔力が使えないのなら溺れ死ぬだけだ」



はぁ?


あたしが茶色の瞳をしてるから白虎族だと思ってるの?



それに、地を割るって…。



そんな…バカな…。



んなこと、できるわけないじゃない!!



キス男が、周りにいた男たちに向かって、あごで指示するような仕草をすると、


二人の男が強い力であたしの両腕を掴んでくる。



「やだ!離して!!」



部屋の扉の方へとグイグイ体を引っ張っぱられながら




「そんなこと絶対できないよ!! お願いだから話しを聞いて!!」



ムチャクチャなことを言うこの男に向かって大声で訴えかけると、



「命乞いなど私には通用しない」



冷たい声と共に薄笑いを浮かべてる。



この男…


本当に頭イカれてる。



「カンナ!!」



あたしを呼んだ叫び声と共に、今まで見たことないようなバカでかい炎を男めがけて放ったヒナタ。



だけど、彼の風の魔力があっという間に、その炎を吸い込むかのように飲みこんで、


ヒナタは、暴風の威力と一緒に、数メートル上の壁へ吹っ飛んだ。



「ヒナタ!! ちょっと!! ヒナタに何するのよ!!」



一瞬でヒナタの魔力を封じこめるなんて…強すぎる魔力。



「友人の心配より、己の心配をしろ」



取り押さえられたヒナタとモアの手首には、太い黒い布が巻かれてる。



また…あの黒い布…。



「二人の魔力は封じ込めた。もう誰もお前を助けることはできない」



そうか。


あの黒い布は魔力を封じる布だったのね。



「ヒナタとモアは関係ないでしょ?二人を離してよ!!」



「お前の魔力は封じてない。死にたくなければ魔力を解放するんだ」



魔力を解放?


まだそんなことを…。



あたしの言ってることは、全く信じてもらえてない。



本当にこれは脅しでもなんでもないんだと悟ったとき、



急に体がガクガクと震えだした。



本気だ…。



この人は、


本気であたしを殺そうとしてる。



泣き寝入りなんてしたくないのに、


あまりの理不尽すぎる言いがかりに、もう何も言葉がでてこない。



まるで囚人のように両手首をひもで結ばれて、


引っ張られながらヨタヨタと進むあたしの体。



チラッと後ろを振り返ると、ヒナタとモアも同じように、捕らわれの身となってあたしの後についてくる。



「さっさと歩け!!」



グイッと、ひもが引かれて、体が屋敷の外に出た瞬間、


ピューっと顔を横切った風がひんやりとして冷たい。



この冷涼の中、今から起こりうるであろうことを想像すると、身に鳥肌が立つ。



あの男が指示した通り、中庭の池まで連れてかれると、


前にいた男二人は淵に立って中を覗き込んだ。



「よし!!入れ!!」



「……」



「おい!!早くしろ!!」



これから殺されるっていうのに、『入れ』と言われて素直に入るバカがどこにいるのよ。



「……」



無駄な抵抗だとわかりながらも、


つーんっとそっぽを向いて反抗して見せたあたし。



だけど…




「どけ!!」



「…キト様」



もの凄い速さで武空してあたしの目の前まで来たキトは、


あっという間にあたしの体を暴風で包み込んだ。



「やめてーー!!」



ブワっと勢いよく宙を舞ったと思ったら、


あたしの体はそのまま急降下して、


水のはっていない池の中へと叩きつけられた。




「…痛っ!!」



酷い…


酷過ぎる。



どうしてあたしがこんな目に。



地面で打った左腕はジンジンといつまでも痛みが響く。



本当にこれは現実なの?


それとも悪い夢でも見ているのだろうか。



わずかな力を振り絞りながら上半身を起き上がらせて、


斜め上を見上げると、満足げな表情であたしを見降ろしてくるキトと、


何十人かの男たちが池の周りを囲んでる。



そして、その中でも、際立って高飛車なあの男がゆっくりと口元を動かした。




「女を地に縛りつけろ」



「はっ!!」



数人の男たちが池の中へ入ってきて、


あたしの体を十文字に張り付ける。




その間も終始あたしは、


あの男を見上げていた。



あの男は、


この世界に来て出会う度、なんだかんだ言いながらも、


いつだって結局あたしを殺すことはなかった。



むしろ、助けてくれることの方が多かった。



無表情で無感情で無愛想で…だけど、どこかでその心を信じていた。



なのに、


最後はあたしを殺す。




「水をためろ!!」



「はっ!!」



どこまでも、こいつらの言うがままになったことが悔しい。



話を聞いてくれなかったことが腹立たしい。



鏡のことを信じてもらえなかったことが悲しくてしかたない。




あたしは、手首と足を地に締め付けられたまま、


ただぼーっと空を見上げていた。



あぁ…


この世界で唯一うらやましく思うことは、


この満天の星空だ。



澄んだ空気、


今にも降ってきそうなこの星は、元いた世界では味わえない。



でも、この美しさとは対照的に、刻々と近づいてくる死の恐怖。



じわじわとあたしの体にしみこんでくる水で背中が冷たい。



気づいたら、肩が浸かるほど水が覆ってきていて…。



あたし…あと何秒生きてられるかな。



信じられない。

水の中で人間は、息ができないんだよ?



窒息するのかな。



それとも先に気を失うんだろうか…。



もう怖いとかそんなものはなかった。



ただただ不本意で仕方ない。



でもこれでやっと、


鏡の中の世界とかいう非現実的なお遊びから解放される。



そして、


ゲームオーバーになったのは、あたし。




「カンナぁぁ!!」



遠くの方で誰かが呼んでる。



ヒナタ…


それともモア…。




耳までに水がつかったとき、あたしはチラッと視線を星空から現実に戻した。



そして最期に見たのは、


あたしの方をあざ笑うかのように眺めている



あの男の顔だった。



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