罠
…もう最悪だ。
誰に聞いても“知らない”ばっかりで。
諦める訳にはいかないのに、これ程まで手がかりが掴めないとなると、さすがのあたしも、心がめげてしまいそうになる。
もしかして、この屋敷に鏡はないのかな。
それか、格のある人たちしか知らない…とか。
「あっ!!すみません」
「はい…」
「あの…これくらいの鏡をこの館で見た事ありませんか?」
「あぁ…その鏡なら見たことありますよ」
…ほらね
…やっぱり。
誰も知らない…って…
…えっ?
ちょっと待って…
今なんて。
「か、鏡を…見たことがあるんですか?」
「はい…鳳凰の鏡ですよね?」
「そう!!それよ!!それ!!」
「その鏡なら、南の館の一番奥の部屋にしまってありましたよ」
「本当に?南の館ね!!どうもありがとう!!」
うそ…信じらんない。
まさか、本当にこんなにも早く鏡を見つけることができるなんて。
あぁ…あきらめないで、聞きまわってよかった。
でも、やっぱり鏡はあいつらが持って行ったのね。
くっそぉ~!!
人の鏡を勝手に!!
これでやっと帰ることができるよ。
いや、帰れるかどうかははっきりしないけど、
とりあえず鏡が手に入れば、帰る日も近いはず!!
…ん?
でも、
…なんか、
おかしいな。
今までいろんな人に聞いても誰も知らなかったのに
どうして急に…。
まぁいっか。
そんなこと知ったことじゃない!!
鏡さえ取り戻せればそれでいい。
ユリ…おばあちゃん…それに蓮。
あたし…帰れるかもしれないよ。
早くみんなに会いたい。
蓮に思いっきり抱きしめてほしい。
早く…
早く会いたいよ。
「ヒナタ!! モア!!」
二人に朗報を伝えたくて全速力で走りながら、騒々しく部屋に戻ったあたし。
「どうしたのよ。そんな慌てて」
「鏡が見つかったかもしれないの!!」
「えっ?本当に!?」
談話していた二人は、目をまん丸くさせながら立ち上がった。
「南の館で見たことあるって人がいたの」
「やったわね。カンナ!!」
嬉しさのあまりピョンピョン跳ねながら、三人で抱き合った。
でも、ゆっくりと体を離したヒナタは、あたしの肩を両手で掴むと、沈んだ瞳でじっと見つめてくる。
「…そしたらカンナは…帰ってしまうのね」
「ヒナタ…」
ここまでヒナタにはいっぱい助けてもらった。
なのに何もお礼ができないことが申し訳ない。
「カンナとまだ1ヶ月も一緒にいないのに、なんだか離れるのが寂しいよ。…もう…あんたに会えないなんてさ…」
「いっぱいいっぱい助けてくれて…ありがと…」
お互い、目に涙をためながら、ギュッと強く抱き合ったあたしたち。
この世界に来て出会ったのがヒナタで、本当によかった。
もう会えないけど、いつまでも大切な友達。
この世界の…家族。
ありがとう。
ヒナタ。
パッと笑顔に戻ったヒナタは、ポンっとあたしの背中を叩く。
「よし!!鏡を取り戻しに行こう!!」
「うん!!」
「若様…南の館に…」
「わかった」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
夕食が終って、夜が更けるのを待つと、みんなが寝静まったころ、あたしたちは
南の館へと向かった。
夜の館は、まるでお化け屋敷。
三人で身を寄せ合いながら一番奥の部屋を目指す。
「もう、行き止まりだよ?」
「じゃぁ…この部屋かな?」
「たぶんね…」
南の一番奥だと思われる部屋の前までくると、一度大きく深呼吸をしてから、静かに扉へ手を当てた。
「どう?あった?」
ヒナタは、あたしの背中から中をのぞきながら訪ねてくる。
「真っ暗で何も見えない」
あたしたちは、改めて部屋の中へ体を入れると扉を閉めた。
「ちょっと待ってね」
そう言って、ポワーンと手の平に小さく灯ったヒナタの炎。
それを頼りに、鳳凰の鏡を探す。
おそるおそる歩いて
部屋の真ん中辺りまで辿りつくと、
正面に祭るように高々と掲げてあった、見覚えのある物体に視線が止まった。
「あ、あった!!」
ヒナタとモアはあたしの声と共にそれを見上げる。
「あれが…鳳凰の鏡?」
「うん。ヒナタ取れる?」
「任して!!」
フワッと飛んだヒナタは、
掲げてある鏡をそっと手に取ると、あたしたちのところへ戻ってきた。
「ありがと」
「本当にこの鏡から帰れるの?」
半月振りにあたしの手に戻ってきた、鳳凰の鏡。
鏡面には、あの日と同じ場所に汚れがある。
「うん…あたしの鏡に間違いない」
この汚れを拭き取ろうとしたら、この世界に吸い込まれた。
「ねぇ…あたしが今から変なことしても呆れないでね。 でも、もしかしたらこれで最後かも…。ヒナタ…モア…二人とも本当にありがと」
ヒナタは心配そうな表情であたしと鏡を交互に見てる。
「じゃぁ…行くね」
「うん。カンナ…気をつけて…」
あたしは鏡を手にしたまま二人と少し距離をとって遠くへと離れた。
よし!!
まずはあの日と同じ様に、鏡面を軽く手で触れてみる。
ん?あれ?
あの日は、ぶわぁんって鏡面が波うったんだけど。
おかしいな。
ゆっくり手のひらを近づけて見たり、
逆に勢いよく手を突っ込んでみても、カツカツ音を出すだけで何も起きない。
えっ?
どうして?
鏡の中に入れない。
肘を当てたり、
足を当てたり、
しまいには頭に乗っけたり、いろいろしてるうちに、
ふいにヒナタとモアと目があった。
「あははっ…」
思わず苦笑いしたあたしと、無表情で口をポカーンと開けて、こっちを見てくる二人。
そりゃ…そのリアクションだよね。
散々今まで、鏡の中から来たなんて言っておいて、かっこよく帰れればいいものの、
はたからみたらあたしの行動って絶対おかしい。
自分でもバカバカしくなってくる。
「なにか…呪文とか?」
苦笑いのモアは一応なんか言ってやらないとというような哀れんだ瞳であたしを見てくる。
「呪文?なんも言ってない」
場所がいけないのかな。
あの洞穴じゃないとダメとか?
あぁ…もう!!
一体どうしたら帰れるのよ!!
方法に行き詰って、
鏡を抱えながら、ため息交じりに俯いたとき、
「お前は一体何者だ。なぜ鏡を探してる」
「えっ?」
突然、暗闇の中から聞こえた声。
やばいっ…。
その声に気づいたときには、
部屋の中は数人ほどの人で囲まれていて。
なんで?
どうしてこんな時間に、こいつらがここへ。
えっ!?
まさか…。
パッと眩しいほどの明かりが部屋の中に灯って、あたしは改めてぐるりを見渡した。
逃げ場もないくらい完全に包囲されているあたしたち。
そっか。
これは、キス男が仕掛けた罠だったんだ。
急に鏡が見つかってなんかおかしいと思ったよ。
「なぜ鏡を探してる」
もう一度聞かれたその質問に、あたしはゴクリとツバを飲んで彼を見据えた。
「そ、それは…この鏡は、あたしのだから…」




