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第5話:ギルドの受付嬢と、尊きドケチ暴言

登場人物

ミリア: 第5話のヒロイン。冒険者ギルドで働く真面目で心優しい受付嬢。いつも泥臭くボロボロになって帰ってくるクロードの頑張りを見守っており、ひそかに好意を寄せている。


前書き

第1話の「ドン引き逃走」、第2話の「狂愛の沼落ち」、第3話の「霊への懐き」、第4話の「ドM開眼」を経て、第5話ではついに「冒険者としての泥臭い生活感」と「ギルドでの温かい触れ合い」を描きます! 過酷なダンジョンを駆け抜けた先で待ち受ける、受付嬢ミリアとの甘いひとときと、リリアによる容赦ないドケチ暴言の化学反応をぜひお楽しみください!

王都郊外に広がる、魔物が巣食う危険な地下迷宮――『黄昏の廃坑』。

湿った冷気が漂う暗い洞窟のなかで、一人の男が血みどろになりながら魔物の群れと対峙していた。名門伯爵家の御曹司でありながら、裏の莫大なローンと今月の利息返済に追われる苦労人冒険者、クロード・フォン・シルヴェスターその人である。

(くそっ……! 今月の分割払いの期日まであと三日だというのに、手に入った魔石の素材価値は二束三文……これでは到底、魔導具のローンと実家への言い訳がつかないぞ……! おまけに全身筋肉痛で、服はボロボロの泥まみれだ。俺は一体、何のために高位貴族に生まれたのか……!)

心の中で激しく涙を流しながら、クロードは大型のゴブリンの鋭い爪を紙一重でかわした。

しかし、疲労困憊の身体では次の動きがどうしても遅れる。ゴブリンの二撃目がクロードの背後から容赦なく振り下ろされた――まさにその瞬間だった。

クロードの革製の鞄に入っていた「猫の人形」から、突如として鋭い魔導の光が放たれた。

リリア(鞄の中から、呆れ返ったような、しかし的確すぎるツッコミを飛ばす):

「ちょっとクロード! 何ボーッとしているのよ、右肩が完全にガラ空きよ! そのままじゃ腕を落とされるわ。右へ二歩ステップを踏んで、落ちている鉄パイプを拾いなさい!」

クロード(心の中で必死に絶叫しながら身体を動かす):

「(わかっているさ! だが身体が重くて――っ!)」

リリアの叫びに導かれるように、クロードは反射的に身体を捻った。

ガキィッ! と乾いた金属音が響き渡り、ゴブリンの攻撃は見事に空を切る。直後、リリアの指示通りに足元の廃材を利用したクロードの渾身の一撃が、魔物の急所を正確に捉え、巨大なゴブリンは崩れ落ちるように沈黙した。

「はぁっ、はぁっ……なんとか、倒した……」

冷や汗を拭いながら、クロードは崩れ落ちるようにその場に膝をついた。

元・最強魔導師であるリリアの戦闘センスと的確な指示がなければ、今頃とっくにモンスターの餌食になっていただろう。普段のドタバタや理不尽な肉体乗っ取りを除けば、このダンジョン内での相棒としての信頼関係は、驚くほど強固なものになっていた。

リリア(猫の人形の口元をかすかに動かしながら、ふんっと鼻を鳴らす):

「ふん、まったく……私がいなければ、この程度のザコ相手に一瞬で骨になっていたところよ。もっと私に感謝しなさいよね、この凡骨!」

クロード(苦笑しながらも鞄を軽く叩く):

「はいはい、毎度どうも助かってますよ、偉大なる魔導師様……っとに、口の減らない猫人形だこと」

やれやれと息をつきながら、クロードは回収した魔石をバッグに詰め込み、地下迷宮を後にした。

数時間後。

夕暮れ時の赤みがかった光が差し込む王都の冒険者ギルド。

受付カウンターには、今日も今日とてボロボロの姿で帰還した冒険者たちの姿がちらほらと見受けられた。その一角で、ひときわ真面目な面持ちでカウンターに立つ女性――受付嬢のミリアは、入口のドアが開く音を聞いてパッと顔を上げた。

そこに立っていたのは、服のあちこちに泥がつき、額に汗を滲ませたクロードだった。

「あ、クロードさん……っ!」

ミリアはほっと安堵したような、しかしどこか心配そうな表情を浮かべながら、小走りでカウンターから出てきた。彼女はいつも、無理をして危険なクエストばかり選ぶクロードの体を密かに気遣っていたのだ。

ミリアは手際よくクロードの冒険者証を受け取ると、懐から小さな温かい陶器のマグカップを取り出し、そっと彼の両手包み込むように差し出した。

「お疲れ様です、クロードさん……。今日もすごく危険な奥地に行っていたんでしょ? ボロボロじゃないですか。これ……私、個人的に作った特製のハーブスープなんです。少しでも体の疲れが取れればいいなって思って……その、よかったら、温まってください」

マグカップからふわりと立ち上る、優しいハーブと野菜の温かい香り。

ミリアは頬をほんのりと赤らめ、潤んだ瞳で上目遣いにクロードを見つめていた。その純粋な優しさと、自分を気遣ってくれる温もりに、クロードの疲れた心は激しく揺さぶられた。

(うっ……! なんて優しくて健気な女の子なんだ……! 泥だらけの俺をこんな風に心配して、手作りのスープまで……。借金とローンにまみれた荒んだ俺の心に、この温かさは染み入る……! よし、ここで紳士的に感謝を伝えて、少しだけ心の安らぎを得るぞ……!)

クロードはぐっと胸を熱くさせ、ミリアの手を取りながら、優しく微笑みかけて口を開いた。

「ミリア……ありがとう。君のその優しい気遣いは、過酷なダンジョンで冷え切った私の心と体に、何よりも染みるよ。……こんな私のような男に、そこまでしてくれて……私は本当に、君に――」

完璧なトーンだった。これ以上ないほど誠実で、ロマンチックな感謝の言葉が紡がれようとしていた。

ふたりの距離が縮まり、甘く温かい空気がふわりとロビーを包み込む。

その瞬間だった。

クロードの革鞄の中で、突如として眩い魔導の光が激しく明滅し始めたのは。

(――っ!? やばい、来た……!)

血の気が一気に引くのを感じながら、クロードの目の前でカチャリと鞄のチャックが開き、中から「可愛い猫の人形」が勢いよく飛び出した。そしてその傍らから、かつて大陸最強と謳われた天才魔導師・リリアの霊体が、鬼気迫る形相で宙に現れた。

リリア(宙にふわりと浮かび上がり、切羽詰まった声で絶叫する):

「ダメよダメよダメよーーっ!! そこでそんな甘い雰囲気を完成させたら、私の魂の波長が限界突破して完全に消滅しちゃうでしょ……!! 私の生存本能にかけて、今すぐこの肉体を乗っ取り、全力でその甘いフラグを木っ端微塵に粉砕してやるわよ!!」

クロード(冷や汗を滝のように流しながら、心の中で阿鼻叫喚):

「(やめろリリア! 相手は日頃からお世話になっている純粋な受付嬢だぞ、変な暴言を吐いたら俺のギルドでの信用が永遠に消滅する! 来るな、俺の肉体を自由にするんだ――っ!!)」

しかし、リリアの耳にクロードの悲痛な叫びが届くわけがない。

リリアの霊体は美しい軌跡を描いてギルドの空気を切り裂き、クロードの肉体へと猛烈な勢いでダイブした!

ビリビリビリッ! と脳髄を直接電撃で焼かれるような衝撃。

次の瞬間、クロードの視界が強制的にひっくり返り、身体の主導権が完全に奪い去られる。

「ぐはっ……! ま、また勝手に身体が動く……っ!?」

クロードの意識が内側から絶叫する中、乗っ取りを完了したリリアは、クロードの肉体を使って不敵かつ傲慢な笑みを浮かべた。そして、立ち上がった次の瞬間、自分の右手でミリアが差し出した温かい特製のハーブスープのマグカップをひっつかみ、なんとそのままギルドの床に勢いよくぶちまけたのである。

「なっ――!? なんだそのスープの自爆テロはァっ!!」

心の中でクロードが絶叫するが、リリアに操られたクロードの身体は止まらない。彼は床に零れたスープを冷ややかな目で踏みつけ、ギルド中に響き渡るような大声で怒鳴り声を上げた。

リリア(クロードの肉体と声を借りて、超絶怒涛のドケチ暴言を叩きつける):

「ふん、ふざけるな小娘! こんな安物の草の汁で我が輩――もといこの男の気を引けると思ったか! 無駄な差し入れに時間を割くくらいなら、もっと効率の良いクエストを持ってこい! ギルドの経費削減と労働生産性の向上を阻害するその態度は、まさに悪徳商法並みの愚行だ、二度と私に近づくなァ!」

「ち、違うんだミリア! これは私の肉体を乗っ取った前時代の最強魔導師の霊が勝手に――っ! うわっ、勝手に自分の頭から余ったスープの残りをシャンプーの如くぶっかけ始めたぞ、やめろ、変なドケチの狂気を見せるな俺の肉体ッ!」

クロードの心からの必死の弁解もむなしく、リリアはクロードの身体を使ってその場で奇妙な「超効率化を訴える謎の経済ダンス」を踊り始め、さらには「一分一秒の無駄遣いは死に値する!」と絶叫しながらギルドの窓から外へ飛び出そうとするという、完全なる精神崩壊コンボの奇行を次々と炸裂させた。

冒険者ギルドのロビーに、完全に凍りついた静寂が訪れた。

あまりの斜め上の暴言と、差し入れを床にぶちまけてのドケチ発言の連続に、ミリアはピタリと動きを止め、マグカップを持ったまま完全にフリーズしていた。

(やばい……流石の心優しいミリアも、これには怒り狂うか、恐怖のあまり二度と口を利いてくれなくなるはずだ……!)

クロードが心の中で絶望に打ち震えていると、ミリアの様子に劇的な変化が起きた。

彼女の潤んだ瞳が、信じられないほどの尊敬と慈愛の光を帯びてカッと見開かれたのだ。彼女は両手でマグカップを胸元に抱きしめ、頬を薔薇色に染めながら、感動に震える声を絞り出した。

「……あ……あぁ……っ……!」

「……え?」

「なんてこと……! クロードさんは、私のような一般の受付嬢が『個人的な私情で仕事中に差し入れなんて甘えたことをしている場合じゃない、もっと自分を厳しく律してプロの受付嬢としての生産性を上げなさい』ってことを、あんなにも全身全霊をかけて身をもって教えてくれたんだわ……!」

(は……? なにを言っているんだこの真面目な受付嬢は……?)

「私がギルドの財政難や、自分の甘えに気づかずにのんびりしていたせいで、クロードさんにそこまで厳しい嫌われ役をわざわざ買わせてしまったのね……! なんてストイックで、なんて公私の区別がしっかりしていて、組織の未来を考えている素晴らしいお方なの……!」

ミリアは感極まった様子で両手を合わせ、うっとりとした表情でクロードを見つめた。

「私、感動しました……! クロードさんのその厳しい愛の鞭、しかと受け止めましたわ! これからは私もうぬぼれず、ギルドの利益と効率化のために命を捧げます! だから、そんなに自分を犠牲にしてまで私を叱らないでください、クロードさん……っ!」

「待ってくれミリア、それはカッコいいとかじゃなくて、ただの冷酷なドケチ暴言と不審者の発作だぞ!?」

「逃がさないわよ、じゃなくて、これからもずっとあなたを陰ながらお支えしますね、クロードさん……っふふ!」

((……やばい、また一人、俺の想像を絶する方向で重度な勘違い沼にハマった……!!))

クロードの魂の絶叫が、ギルドの天井裏まで盛大に響き渡るのだった。

数秒後。

クロードの身体の自由がパッと戻り、彼はスープまみれの床の上で力なく崩れ落ちた。

「はぁっ、はぁっ……くそっ……俺の泥臭い冒険者ライフとささやかな癒やしが……またしても変な経営コンサルタントみたいな誤解のせいで、さらにハードルの高い聖人君子地獄へと進化してしまったぞ……!」

頭からハーブの香りを滴らせ、床を這いつくばるクロードの足元に、先ほどまで鞄に入っていた「猫の人形」がポトリと転がり落ちる。その人形の傍らで、リリアの霊体がふわりとあぐらをかき、冷や汗を流しながら震えていた。

リリア(若干引きつった笑みを浮かべながら):

「な、なんなのあのギルドの受付嬢……! 私の渾身のドケチ暴言は、相手をドン引きさせて二度と私に近寄らせないための完璧な生存戦略だったはずでしょ!? なんであんなに目を輝かせて『素晴らしいお方』とか崇めてるわけよ……! 計算外よこんなの!」

クロード(床を叩きながら血の涙を流して絶叫):

「こっちのセリフだぁぁぁっ!! お前のせいで、俺は心優しい受付嬢を『過激派の社畜信者』にクラスチェンジさせてしまったぞ!! 返せ、俺の平穏な冒険者ライフを返せぇぇぇぇぇ――っ!!」

こうして、名門貴族の苦労人・クロードのささやかな日常は、相棒である美少女幽霊の「圧倒的な生存本能による肉体乗っ取り」によって、またしても盛大に粉砕された。

しかも今回は、冒険者としての泥臭い生活の中から、まさかの「社畜的聖人君子としての誤解」を生み出してしまうのだった。

果たしてクロードに平穏な恋と借金返済の日は来るのか、そしてリリアの運命は――? クロードの戦いは、まだまだ終わらない!

第5話をお読みいただきありがとうございます! 冒険者としての泥臭いダンジョン探索から、ギルドの受付嬢ミリアとのふれあい、そしてリリアの「ドケチ暴言」がまさかの「ストイックな経営指導(社畜的勘違い)」に変換されてしまうという怒涛の展開をお届けしました。次から次へと新しい沼にハマっていくクロードの不憫さは加速するばかりですが、次回はどんな強敵(あるいは新しいヒロイン)が現れるのか……? 次回の第6話もどうぞお楽しみに!

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