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第4話:高慢な公爵令嬢と、想定外のドM開眼

登場人物

クロード: 本作の主人公。名門高位貴族の御曹司でありながら、裏の莫大なローンと借金返済のために泥臭く冒険者稼業を営む苦労人。

リリア: クロードの相棒。禁呪の失敗により「可愛い猫の人形」に魂が定着してしまった美少女の幽霊。クロードがラブラブになると消滅するため、肉体を強制乗っ取りしてフラグを粉砕する。

セシリア: 第4話のヒロイン。王国随一の名門公爵家を背負う誇り高い令嬢。普段はクロードに対して「あなたみたいな没落寸前の貧乏貴族なんて興味ないわ」と高慢な態度をとっているが、内心では彼に密かな恋心を抱いている。

前書き

第1話の「ドン引き逃走」、第2話の「狂愛の沼落ち」、第3話の「霊への懐き」に続き、第4話ではプライドの塊のような高慢な公爵令嬢・セシリアが登場! リリアが放った渾身の毒舌論破は、彼女の心に予想外のスイッチを入れてしまい……? 予想の斜め上をいくドM開眼の第4幕をお楽しみください!

王都でも一際格式高い、貴族専用の完全予約制サロン。

白亜の柱と絢爛豪華なシャンデリアが輝くその一室は、最高級のダージリンティーの香りと、気品に満ちた静寂に包まれていた。本来であれば、高位貴族の御曹司と令嬢が優雅に婚約の話し合い(あるいはロマンチックなティータイム)を楽しむ、これ以上ないほど洗練された空間である。

しかし、そこに座る一人の男――名門伯爵家の御曹司でありながら、裏の莫大なローンと借金返済のプレッシャーで胃の痛みに苦しむ苦労人、クロード・フォン・シルヴェスターの心境は、地雷原を裸足でタップダンスしているような極限の緊張感に支配されていた。

(くそっ……! 先日の獣人少女一件の変なバグを引きずったまま、今度はよりによって一番面倒くさい相手とのティータイムだというのに……! いや、セシリアは我が家とのお見合い話が持ち上がっている高名な公爵家の令嬢だ。普段は「あなたみたいな没落寸前の貧乏貴族なんて興味ないわ」と徹底的にツンケンしているから、ある意味で一番安全なはず……だが! だからこそ、万が一にも彼女がツンを脱ぎ捨ててデレを見せた瞬間、あの『最悪の保険』が爆発してしまう……!)

心の中で冷や汗を滝のように流しながら、クロードは顔の筋肉を総動員して「余裕のある高貴な紳士の微笑み」を作り上げ、目の前に座る人物へと視線を向けた。

彼の向かいにゆったりと腰掛けているのは、王国随一の名門公爵家を背負う令嬢、セシリアであった。波打つ黄金の美しいロール髪に、冷ややかな美貌、そして高慢さを絵に描いたようなロイヤルブルーのドレス。彼女は普段からクロードに対して露骨に冷たい態度をとっているが、今日のティータイムに向けて、いつも以上に身なりを整え、心のどこかで期待しているような、何とも言えないソワソワした雰囲気をまとっていた。

「――ふん。お父様がどうしてもと言うから仕方なく付き合ってあげているけれど、勘違いしないでちょうだいね、クロード殿。私のような高貴な身分の人間が、あなたのような最近パッとしない伯爵家の男と席を共にするだけでも、どれほど慈悲深いことか」

セシリアはツンとした態度でカップを持ち上げながら、フイと顔をそむけた。

しかし、その上品な耳の付け根や首筋は、分かりやすく真っ赤に染まっている。普段の高慢な態度とは裏腹に、内心ではクロードに好意を寄せていることがダダ漏れの状態だった。

(うっ……! なんて分かりやすいツンデレだ! 普段はあんなにツンケンしているくせに、いざふたりきりになるとこんなに赤面して……! やばい、このままでは本当に良い雰囲気になってしまうぞ……!)

クロードの脳内で危機管理アラートがけたたましく鳴り響く。これを何とか穏便にかわさなければならない。クロードはゴホンと軽く咳払いをして、貴族らしい大人の余裕を演出しようとした。

「すまないね、セシリア。君の貴重な時間を奪ってしまって。……だが、こうして君と静かにお茶を飲む時間は、私にとっても決して嫌いではないよ。君のその……何事にも妥協しない誇り高い姿勢は、実に見事だと思っている」

完璧な紳士的フォローのつもりだった。しかし、この言葉がセシリアの心に想定外の直撃を与えてしまった。

セシリアはピタリと動きを止め、カップをソーサーにガチャリと音を立てて置いた。彼女の瞳が潤み、胸元を小さく上下させながら、震える声で呟いた。

「……なっ、私の姿勢が……見事、だって……? そんな風に、私の内面まで真っ直ぐ見てくれた人なんて、これまで誰もいなかったわ……。いつもみんな、私の家柄や外見ばかりを褒めそやして……でも、あなたは……!」

きた! これは完全に恋のフラグが臨界点を超えた瞬間である!

セシリアの頬が桃色に染まり、彼女はトロリと蕩けるような熱っぽい視線をクロードに向けながら、テーブル越しにそっと小さな手を伸ばしてきた。その手がクロードの指先に触れようとする。

その時だった。

クロードの足元に置かれた革製の高級鞄の中から、突如として眩い魔導の光が激しく明滅し始めたのは。

(――っ!? やばい、来た……!)

血の気が一気に引くのを感じながら、クロードの目の前でカチャリと鞄のチャックが開き、中から「可愛い猫の人形」が勢いよく飛び出した。そしてその傍らから、かつて大陸最強と謳われた天才魔導師・リリアの霊体が、鬼気迫る形相で宙に現れた。

リリア(宙にふわりと浮かび上がり、切羽詰まった声で絶叫する):

「ダメよダメよダメよーーっ!! そこでそんな超特大の純愛イベントを完遂されたら、私の魂の波長が限界突破して完全に消滅しちゃうでしょ……!! 私の生存本能にかけて、今すぐこの肉体を乗っ取り、全力でその甘い雰囲気を木っ端微塵に粉砕してやるわよ!!」

クロード(冷や汗を滝のように流しながら、心の中で阿鼻叫喚):

「(やめろリリア! 相手は超プライドの高い公爵令嬢だぞ、変な奇行を見せたら今度こそ我が家とお前の両方が政治的に抹殺される! 来るな、俺の肉体を自由にするんだ――っ!!)」

しかし、リリアの耳にクロードの悲痛な叫びが届くわけがない。

リリアの霊体は美しい軌跡を描いてサロンの空気を切り裂き、クロードの肉体へと猛烈な勢いでダイブした!

ビリビリビリッ! と脳髄を直接電撃で焼かれるような衝撃。

次の瞬間、クロードの視界が強制的にひっくり返り、身体の主導権が完全に奪い去られる。

「ぐはっ……! ま、また勝手に身体が動く……っ!?」

クロードの意識が内側から絶叫する中、乗っ取りを完了したリリアは、クロードの肉体を使って不敵かつ傲慢な笑みを浮かべた。そして、立ち上がった次の瞬間、自分の右手で優雅に置かれていたダージリンティーのポットを掴み、中身をテーブルクロスの上にぶちまける――のではなく、なんと自分の頭から豪快にぶっかけたのである。

「なっ――!? なんだその紅茶のシャンプーはァっ!!」

心の中でクロードが絶叫するが、リリアに操られたクロードの身体は止まらない。彼は頭から紅茶を滴らせたびしょ濡れの姿のまま、目の前に座るセシリアをギロッと睨みつけ、ありったけの冷徹なトーンで叫んだ。

リリア(クロードの肉体と声を借りて、超絶怒涛の毒舌を叩きつける):

「ふん、馬鹿馬鹿しい! その作り物の高慢な仮面と、成金趣味のフリルドレス、そして中身のスカスカなプライド……見ていて吐き気がするわ! 自分の実力でも何でもない家の権威に寄りかかり、愛を乞うているだけのその姿、愚民以下の道化芝居だな! 私の前に立つなど一千年早い、今すぐここから消え失せろ!」

「ち、違うんだセシリア! これは私の肉体を乗っ取った前時代の最強魔導師の霊が勝手に――っ! うわっ、勝手にその辺のカーテンを破り捨ててターザンのようなポーズをとり始めたぞ、やめろ、変な野生のポーズをとるな俺の肉体ッ!」

クロードの心からの必死の弁解もむなしく、リリアはクロードの身体を使ってその場で奇妙な高笑いを上げ、さらにはサロンの床を転げ回るという、完全なる貴族社会追放コンボの奇行を次々と炸裂させた。

王都の高級サロンに、完全に凍りついた静寂が訪れた。

あまりの斜め上の暴言と奇行の連続に、セシリアはピタリと動きを止めた。

(やばい……流石の公爵令嬢も、これにはプライドをズタズタに引き裂かれて激怒するか、気絶して二度と口を利いてくれなくなるはずだ……!)

クロードが心の中で絶望に打ち震えていると、セシリアの様子に異変が起きた。

彼女の美しい翡翠色の瞳が、信じられない熱量を帯びてカッと見開かれたのだ。彼女は全身をブルブルと震わせ、真っ赤に染まった頬を両手で押さえながら、信じられない言葉を漏らし始めた。

「……あ……あぁ……っ……!」

「……え?」

「すごい……すごすぎるわ……! これまで誰も私にそんなこと言ってくれなかった……! 父も、お茶会の友人たちも、みんな私を恐れてお追従を笑うばかりだったのに……!」

(は……? なにを言っているんだこのお嬢様は……?)

「私の仮面が作り物だと見抜き、ドレスの趣味を罵り、私のスカスカなプライドを根底から叩き潰して……『愚民以下の道化芝居だ』って……! あんなにも容赦なく、私という人間の醜さと弱さを真正面から全否定してくれた男性なんて、人生で初めてよ……!」

セシリアは椅子からガタッと立ち上がり、潤んだ瞳に狂おしいほどの情熱を宿してクロードに詰め寄った。その顔は、恐怖や怒りではなく、完全に「新しい扉を開いてしまった人間」の陶酔に満ちていた。

「クロード様……! あなたは私の本質を見抜いていたのね! 私のこの歪んだプライドも、臆病な心も、すべてをその圧倒的な言葉で打ち砕いて、本当の私を裸にしてくれた……! なんて高潔で、なんて残酷で、なんて素敵な方なの……っ!」

「待ってくれセシリア、それはカッコいいとかじゃなくて、ただの悪口と不審者の奇行のコラボだぞ!?」

「逃がさないわよ、クロード様! 今日のこの屈辱と歓喜、一生忘れないわ! 次にお会いするときは、もっともっと私をその冷酷な言葉で罵ってちょうだい! あなたの足元にひざまずいてあげるから……っふふ、ふふふふっ!」

((……やばい、完全に壊れた……!!))

クロードの魂の絶叫が、サロンの天井裏まで響き渡るのだった。

数秒後。

クロードの身体の自由がパッと戻り、彼は紅茶まみれの姿のまま床に崩れ落ちた。

「はぁっ、はぁっ……くそっ……俺の平穏なティータイムが……またしても変な性癖を刺激したせいで、さらなる地獄の沼へと進化してしまったぞ……!」

頭から紅茶を滴らせ、床を這いつくばるクロードの足元に、先ほどまで鞄に入っていた「猫の人形」がポトリと転がり落ちる。その人形の傍らで、リリアの霊体がふわりとあぐらをかき、冷や汗を流しながら震えていた。

リリア(若干引きつった笑みを浮かべながら):

「な、なんなのあの公爵令嬢……! 私の渾身の毒舌論破は、相手のプライドを完璧に粉砕して二度と顔を合わせられなくするための完璧な作戦だったはずでしょ!? なんであんなに嬉しそうに目を輝かせてるわけよ……! 計算外よこんなの!」

クロード(床を叩きながら血の涙を流して絶叫):

「こっちのセリフだぁぁぁっ!! お前のせいで、俺は高慢なお嬢様を『ドMの重度な狂愛者』にクラスチェンジさせてしまったぞ!! 返せ、俺の平穏な貴族ライフを返せぇぇぇぇぇ――っ!!」

こうして、名門貴族の苦労人・クロードの甘いロマンスは、相棒である美少女幽霊の「圧倒的な生存本能による肉体乗っ取り」によって、またしても盛大に粉砕された。

しかも今回は、プライドの高い公爵令嬢を「罵倒されると喜ぶモンスター」に仕立て上げてしまうという、最悪のバグを引いてしまうのだった。

果たしてクロードに平穏な恋の日は来るのか、そしてリリアの運命は――? クロードの戦いは、まだまだ終わらない!

第4話をお読みいただきありがとうございます! プライドの高い公爵令嬢・セシリアの登場により、まさかの「容赦ない毒舌論破がドMの扉を開いてしまう」という斜め上の展開になりました。クロードの苦労人としてのライフはもうゼロよ状態ですが、彼に平穏なラブコメライフが訪れる日は来るのでしょうか? 次回の展開もどうぞお楽しみに!

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