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第3話:素直すぎる獣人少女と、まさかの主従逆転

登場人物

クロード: 本作の主人公。名門高位貴族の御曹司でありながら、裏の莫大なローンと借金返済のために泥臭く冒険者稼業を営む苦労人。

リリア: クロードの相棒。禁呪の失敗により「可愛い猫の人形」に魂が定着してしまった美少女の幽霊。クロードがラブラブになると消滅するため、肉体を強制乗っ取りしてフラグを粉砕する。

フィーナ: 第3話のヒロイン。犬や猫系の特徴的な獣人耳を持つ、ピュアで元気いっぱいの見習いハンター。クロードに命を救われたことがきっかけで彼にベタ惚れしており、野生の直感と抜群の身体能力を持つ。

前書き

第1話の「ドン引き逃走」、第2話の「狂愛の沼落ち」に続き、第3話ではピュアで可愛い獣人少女・フィーナが登場! 野生の直感を持つ彼女を相手に、リリアの肉体乗っ取りはどのような爆笑ハプニングを引き起こすのか……? 主従のパワーバランスがガラリと変わる、新展開の第3幕をお楽しみください!

魔物がうろつく危険な夜の森林地帯。

パチパチと心地よい音を立てて燃え盛るキャンプファイヤーの炎が、周囲の暗闇をオレンジ色に照らし出していた。大木の根元に敷かれた毛布の上で、夜風を遮るように寄り添うふたつの影。本来であれば、過酷な冒険の合間に訪れた、これ以上なくロマンチックで甘酸っぱい野営のひとときである。

しかし、そこに座る一人の男――名門伯爵家の御曹司でありながら、連日のトラブルと借金地獄で心身ともにすり減っている苦労人、クロード・フォン・シルヴェスターの心境は、地獄の釜の底に落とされたような焦燥感に満ちていた。

(くそっ……! 先日の魔族のお姉さん一件で変なマークをされたというのに、今度はよりによって純真無垢な獣人の女の子とふたりきりの夜営だなんて……! いや、フィーナは純粋ないいい子だ。借金のことも知らないし、俺の奇行を見てドン引きすることもないはず……だが、だからこそここでうっかりいい雰囲気になってしまったら、あの『最悪の保険』が発動してしまう……!)

心の中で冷や汗を滝のように流しながら、クロードは表情筋を引きつらせて「頼れる大人の冒険者」としての笑みを保とうとした。

彼の隣にちょこんと座っているのは、犬系か猫系かを思わせるふさふさとした獣人耳をぴくぴくさせながら、真っ直ぐな瞳でクロードを見つめる少女、フィーナであった。見習いハンターとして駆け出しだった彼女を、以前のクエストでクロードが命がけで庇って以来、フィーナは彼のことを「恩人であり、憧れの人」として全幅の信頼を寄せ、そしてあからさまな恋心を抱いていた。

「あのさ、クロードさん……」

フィーナは恥ずかしそうに自分の尻尾(服の下で隠されているが、明らかにソワソワと揺れているのがわかる)を抑えながら、潤んだ瞳でクロードの顔を覗き込んだ。

「いつも私みたいな未熟者を守ってくれて、本当にありがとう。その……私、クロードさんと一緒にいると、なんだか胸の奥がキュンキュンして、すごく温かい気持ちになるの。……もしよかったら、これからもずっと、私と一緒に……その、お嫁さん……じゃなくて、パートナーにしてくれたら、嬉しいな、なんて……っ!」

耳の先まで真っ赤に染め上げながら、フィーナは小さな両手をぎゅっと握りしめてクロードの服の裾をそっと引っ張った。

そのあまりのピュアさ、そして子犬のような上目遣いの破壊力に、クロードの胸はズキューンと激しく撃ち抜かれた。

(うっ……! なんて純真で可愛い破壊力だ……! 変な誤解をする魔族のお姉さんとは違って、これはガチで純度百パーセントの恋のフラグじゃないか……! よし、ここで俺も男らしく――)

「ああ、フィーナ。君のことを守るのは私の――」

最高潮にロマンチックな雰囲気が完成し、クロードが優しく彼女の手を取ろうとした、まさにその瞬間だった。

クロードの足元に置かれた革鞄の中から、激しい魔導の光がチカチカと明滅し始めた。

(――っ!? やばい、来た……!)

血の気が一気に引くのを感じながら、クロードの目の前でカチャリと鞄のチャックが開き、中から「可愛い猫の人形」が勢いよく飛び出した。そしてその傍らから、かつて大陸最強と謳われた天才魔導師・リリアの霊体が、鬼気迫る形相で宙に現れた。

リリア(宙にふわりと浮かび上がり、半狂乱の声で絶叫する):

「ダメよダメよダメよーーっ!! そこでそんな純愛イベントを完遂されたら、私の魂の波長が限界突破して完全に消滅しちゃうでしょ……!! 私の生存本能にかけて、今すぐこの肉体を乗っ取って全力でぶち壊すわよ!!」

クロード(冷や汗を滝のように流しながら、心の中で阿鼻叫喚):

「(やめろリリア! 相手は純粋な女の子なんだぞ、変な奇行を見せたらトラウマになる! 来るな、俺の肉体を自由にするんだ――っ!!)」

しかし、リリアの耳にクロードの悲痛な叫びが届くわけがない。

リリアの霊体は美しい軌跡を描いてキャンプファイヤーの空気を切り裂き、クロードの肉体へと猛烈な勢いでダイブした!

ビリビリビリッ! と脳髄を直接電撃で焼かれるような衝撃。

次の瞬間、クロードの視界が強制的にひっくり返り、身体の主導権が完全に奪い去られる。

「ぐはっ……! ま、また勝手に身体が動く……っ!?」

クロードの意識が内側から絶叫する中、乗っ取りを完了したリリアは、クロードの肉体を使って不敵な笑みを浮かべた。そして、立ち上がった次の瞬間、自分の右手で地面の泥をひと掴みし、自分の顔面に容赦なくベチャリと塗りたくったのである。

「なっ――!? なんだその自虐的な泥パックはァっ!!」

心の中でクロードが絶叫するが、リリアに操られたクロードの身体は止まらない。彼は泥まみれの恐ろしい顔のまま、目の前に座るフィーナをギロッと睨みつけ、野太い声(クロードの声帯を無理やり使った裏声)で叫んだ。

リリア(クロードの肉体と声を借りて、全力の拒絶を叩きつける):

「ふん、甘いわね小娘! この程度のピュアな好意で、我が輩――もといこの男のハートを射止められると思ったか! 獣の匂いを漂わせる小動物など一千年早い、近寄るなァーー!」

「ち、違うんだフィーナ! これは私の肉体を乗っ取った前時代の最強魔導師の霊が勝手に――っ! うわっ、勝手にその辺の木の枝を拾ってチャンバラの構えに入ったぞ、やめろ、変な野生のポーズをとるな俺の肉体ッ!」

クロードの心からの必死の弁解もむなしく、リリアはクロードの身体を使ってその場で奇妙なモンキーダンスを踊り始め、さらにはキャンプファイヤーの灰を頭から被るという、完全なる狂気のサバイバル奇行を次々と炸裂させた。

真夜中の森のキャンプ地に、完全に凍りついた静寂が訪れた。

あまりの斜め上の展開に、フィーナはピタリと動きを止めた。

(やばい……流石のフィーナも、これにはドン引きして「変態だ!」と泣きながら逃げ出すか、恐怖で震え上がるはずだ……!)

クロードが心の中で絶望に打ち震えていると、フィーナのぴくぴくしていた獣人耳が、スッとピンと立った。彼女の優れた「野生の直感」が、目の前のクロードから発せられている尋常ではない魔導の気配(=リリアの魂の波長)を正確にキャッチしたのだ。

フィーナは怖がるどころか、目をキラキラと輝かせ、信じられない一言を放った。

「……すごっ……!」

「……え?」

「クロードさん、すごいよ! 私、ずっと気付いてたの。クロードさんの身体の中には、人間じゃない、すごく強くて巨大で、最高にモフモフした『すごい霊魂けもの』が一緒に暮らしてるんだって……!」

(は……? けもの……? 霊魂……?)

「しかも、その『中の人』が必死に出てきて暴れてる……! なにそれ、めちゃくちゃカッコいいじゃないですか! 私、こういうワイルドで野生味あふれる多重人格……じゃなくて、憑依体質の大人の男性、大好き……っ!」

「待ってくれフィーナ、それはカッコいいとかじゃなくて、ただの不審者と迷惑幽霊のコラボだぞ!?」

しかし、フィーナのテンションはもう誰にも止められなかった。彼女はクロード(の中のリリア)に向かってスタスタと歩み寄り、なんとクロードではなく足元の「猫の人形(リリアの依り代)」に直接話しかけ始めたのである。

「ねえねえ、中のすごいくまさん(?)、そんなに怒らないでよ! 私、フィーナって言います。クロードさんのこと、いつも助けてくれてるんでしょ? 私にも撫でさせて、そのカッコいい霊体をさぁ!」

「ちょっ、待て獣人! なんでそっちの猫の人形に懐くのよ! 私は敵よ、お前の恋路を邪魔する最大の害悪よ!」(リリアの声は周囲には聞こえていないが、クロードの身体が勝手に後ずさる)

「ふふっ、照れ隠ししちゃって可愛いところあるんだから! よし、今日のキャンプは私とクロードさんと、この『中の人』の三人で仲良く川の字で寝ましょうね!」

「待て待て待て待て、それは俺の精神的社会的寿命が完全に尽きる地獄の川の字だぁぁぁっ!!」

夜の森に、クロードの悲痛な絶叫がいつまでも響き渡るのだった。

数秒後。

クロードの身体の自由がパッと戻り、彼は泥と灰まみれの姿のまま地面に崩れ落ちた。

「はぁっ、はぁっ……くそっ……俺のロマンチックな夜営が……純真な少女の好意が……なぜか『中の人(幽霊)』に懐かれるという最悪のバグを引き起こして終わったぞ……!」

頭から灰を被り、顔に泥を塗ったまま床を這いつくばるクロードの足元に、先ほどまで鞄に入っていた「猫の人形」がポトリと転がり落ちる。その人形の傍らで、リリアの霊体がふわりとあぐらをかき、冷や汗を流しながら震えていた。

リリア(若干引きつった笑みを浮かべながら):

「な、なにあの獣人の子……! 普通ならドン引きして逃げ出すはずでしょ!? なんで私の存在を嗅ぎ取って、しかも懐いてくるわけよ……! 計算外よこんなの!」

クロード(床を叩きながら血の涙を流して絶叫):

「こっちのセリフだぁぁぁっ!! お前のせいで、俺は恋人を作るどころか、謎の霊体を飼っている危ない男としてあの獣人っ娘にマークされたぞ!! 返せ、俺の平穏な青春を返せぇぇぇぇぇ――っ!!」

こうして、名門貴族の苦労人・クロードの甘いロマンスは、相棒である美少女幽霊の「圧倒的な生存本能による肉体乗っ取り」によって、またしても盛大に粉砕された。

しかも今回は、ヒロインが幽霊リリアの存在に気付いて懐くという、予想外すぎる「主従逆転の泥沼」へと突入してしまうのだった。

果たしてクロードに平穏な恋の日は来るのか、そしてリリアの運命は――? クロードの戦いは、まだまだ終わらない!

第3話をお読みいただきありがとうございます! 素直で可愛い獣人の見習いハンター・フィーナの登場により、まさかの「リリアの存在にヒロインが気付き、むしろリリアに懐く」という新しいバグ(誤解)が生まれました。クロードの苦労がさらにマシマシになっていく本作ですが、次回はどんな強敵あるいはヤバいヒロインが登場するのか……? 次回もお楽しみに!

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