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第2話:魔族の妖艶なお姉さん幹部と、最悪の肉体乗っ取り

登場人物

クロード: 本主の主人公。名門高位貴族の御曹司でありながら、裏の莫大なローンと借金返済のために泥臭く冒険者稼業を営む苦労人。外面は優雅で完璧な貴族紳士だが、窮地に陥ると素の庶民的な感性が爆発する。

リリア: クロードの相棒。禁呪の失敗により「可愛い猫の人形」に魂が定着してしまった美少女の幽霊。「〜よ」「〜わ」の上品なお姉さん口調で毒舌を放つ。クロードがラブラブになると自分の魂が消滅するため、生存本能からクロードの肉体を強制乗っ取りしてフラグを粉砕する。

ヴェロニカ: 第2話のヒロイン。魔族の大手商会で幹部を務める、妖艶で包容力抜群のお姉さん。仕事熱心なクロードの泥臭さに密かに惚れ込んでおり、あの手この手で甘い誘惑を仕掛けてくる。

前書き

前回の優等生エルフ騎士とのデートを最悪の形で終えたクロードですが、苦労人貴族の日常(と借金地獄)に休息はありません! 第2話では、魔族の妖艶なお姉さん幹部・ヴェロニカが登場。大人の魅力全開で迫る彼女に対し、リリアの生存本能(肉体乗っ取り)はどんな暴挙に出るのか……? 泥沼の第2幕をお楽しみください!

王都の喧騒から少し離れた、格式高い高級レストランの個室。

ビロード調の赤いカーテンに囲まれたその部屋は、甘い香水の匂いと、微かに漂う高級ワインの芳香に満たされていた。本来であれば、大人の男女が密やかな逢瀬を楽しむにはこれ以上ないほど妖しくロマンチックな空間である。

しかし、そこに座る一人の男――名門伯爵家の御曹司でありながら莫大な借金に喘ぐクロード・フォン・シルヴェスターの心境は、断頭台の前に引き据えられた死刑囚のそれと何ら変わらなかった。

(よし……外面的には隙のない高位貴族の紳士を装うんだ。背筋を伸ばし、口元には余裕の笑みを……! くそっ、それにしてもこの個室の雰囲気がエロすぎるだろ! 今月の魔導具の分割ローンと、先物の大暴落で膨れ上がった借入金の返済期日が迫っているというのに、俺の心臓は別の意味でバクバク言っているぞ……!)

心の中で冷や汗を滝のように流しながら、クロードは必死に「大人の色気」を演出しようとグラスの縁を指先でなぞった。

彼の向かいにゆったりと腰掛けているのは、魔族の大手商会で若くして幹部まで上り詰めた女性、ヴェロニカであった。艶やかな黒髪に、頭部から生えた美しい漆黒の角、そして大人の色香をむんむんと漂わせるグラマラスな肢体を包む深紅のドレス。普段から仕事で顔を合わせる彼女は、今日の商談(という名のデート)に向けて、明らかに本気のエスコートを仕掛けてきていた。

「――ふふっ。どうしたのクロード君? そんなに真面目な顔をして。今日はビジネスの相談じゃなくて、ふたりっきりのプライベートなディナーなのよ? もっと肩の力を抜いてちょうだい」

ヴェロニカは艶然と微笑みながら、ワイングラスを傾けた。

その瞳には、仕事で見せる冷徹な商人の顔とは裏腹に、あからさまな好意と熱っぽい甘さがたっぷりと含まれている。彼女の放つ圧倒的な大人の色気と香水の香りに、クロードは脳の血管が焼き切れるような衝撃を受けた。

(うっ……! なんて破壊力だ! エルミナのピュアな可愛さとは違って、この魔族のお姉さんの熟れた色気は直撃すぎる……! よし、ここで紳士的なセリフを返して、一気にこの大人の雰囲気に飲まれないように踏み留まるんだ……!)

クロードはゴホンと軽く咳払いをして、貴族らしい低音ボイスを取り繕った。

「すまない、ヴェロニカ。君があまりにも美しいドレス姿で現れたものだから、つい目のやり場に困ってしまってね。……それに、君とこうして静かな空間でグラスを傾ける時間は、私にとっても非常に心地よいものさ」

完璧なエスコートだった。自分でも今の言い回しはダンディズムの極みだと確信している。

案の定、ヴェロニカはクスクスと魅惑的な笑声を漏らし、スッとテーブルの上に身を乗り出してきた。その豊満な胸元がクロードの視界いっぱいに広がり、甘い吐息が耳元をくすぐる距離まで顔を近づけてくる。

「嬉しいこと言ってくれるじゃない……。ねえ、クロード君。あなた、いつもあんなに泥臭く危険な冒険者稼業を頑張っているでしょう? 見ていてハラハラしちゃうのよ。いっそ、うちの商会に完全に専属で入らない? そうすれば、あなたが抱えている面倒な借金やローンなんて、私の権限で一晩ですべて帳消しにしてあげるわ」

甘美すぎる誘惑だった。

クロードの脳内で「借金全額免除」という悪魔的なワードが光速で駆け巡る。さらに、ヴェロニカの白い手がクロードの手にそっと重ねられ、トロリと蕩けるような視線で見つめられた。

「おまけに……仕事のあとのプライベートな時間は、私の大きなお屋敷で、ふたりきりでたっぷり甘やかしてあげる……なんてね。どう? 悪い話じゃないでしょう?」

きた! これは完全に、経済的破綻の回避と大人のロマンスが同時に成立する奇跡の瞬間である!

クロードの脳内で札束の雨とファンファーレが盛大に鳴り響く。長年の苦労が報われる、人生最大の勝負所が今まさに訪れようとしていた。クロードはぐっと息を呑み、ヴェロニカの手を優しく握り返そうと指を伸ばす。

その時だった。

クロードの胸ポケット(あるいは足元の鞄)に入れてあった革製の高級鞄、その中から激しい魔導の光がピカピカと明滅し始めたのは。

(……っ!? やばい、あの猫の人形が暴れ出している……!)

血の気が一気に引くのを感じながら、クロードは冷や汗を拭うこともできずに凍りついた。

そこに入っているのは、禁呪の失敗によって「可愛い猫の人形」に魂が定着してしまった美少女の幽霊――リリアの依り代であった。

カチャリと鞄のチャックが勢いよく開き、中からふわりと猫の人形が飛び出す。そして、その傍らから透明感のある美しい美少女の幽霊としての霊体が、鬼気迫る形相で宙に現れた。

リリア(宙にふわりと浮かび上がり、切羽詰まった声で絶叫する):

「ちょっと待ったぁ――っ!! そこでその魔族の雌狐の甘い言葉に乗ったら、私の魂の波長が限界を超えて完全に消滅しちゃうでしょ……!! 絶対に許さないんだからね、私の生存本能を舐めないでちょうだい!!」

クロード(冷や汗を滝のように流しながら、心の中で阿鼻叫喚):

「(やめろリリア! お前の消滅回避のために俺の人生最大のチャンスを潰すな! しかも雌狐って言うな本人に聞こえ……いや聞こえないけど! 来るな、俺の肉体に触るな――っ!!)」

しかし、クロードの悲痛な心の叫びなどリリアの耳に届くはずもない。

リリアの霊体は美しき流線を描きながら、高級レストランのテーブルの上を飛び越え、クロードの身体へと猛烈な勢いでダイブした――!

ビュリュリュリュッ! と全身の神経を逆撫でされるような、凄まじい電撃的衝撃。

次の瞬間、クロードの視界が強制的にひっくり返り、身体の主導権が完全に奪い去られる。

「ぐはっ……! ま、また勝手に身体が……っ!?」

クロードの意識が内側から絶叫する中、乗っ取りを完了したリリアは、クロードの肉体を使って不敵かつ傲慢な笑みを浮かべた。そして、立ち上がった次の瞬間、自分の右手で高級なワインボトルをひっつかみ、なんとグラスではなく自分の頭からドボドボと赤ワインをぶっかけたのである。

「なっ――!? なにするんだ俺の身体で高級ワインをシャンプーするなァっ!!」

心の中でクロードが絶叫するが、リリアに操られたクロードの身体は止まらない。彼はびしょ濡れの赤ワインまみれの姿のまま、テーブルにドスンと両手を突き出し、目の前に座るヴェロニカをギロッと睨みつけた。

リリア(クロードの肉体と声を借りて、超上から目線のドヤ声を響かせる):

「ふん、甘いわね魔族の女! この程度の札束と色気で、我が輩――もといこの男の魂を骨抜きにできると思ったか! 愚民が、私に愛を語るなど一千年早い――!」

「ち、違うんだヴェロニカ! これは私の肉体を乗っ取った前時代の最強魔導師の霊が勝手に――っ! うわっ、勝手に上半身の服をビリビリに引き裂き始めたぞ、やめろ、変な野生のポーズをとるな俺の肉体ッ!!」

クロードの心からの必死の弁解もむなしく、リリアはクロードの身体を使ってその場で謎の原始的なダンスを踊り始め、さらにはテーブルの上の高級キャビアを自分の鼻の頭に塗りつけるという、狂気のエクストリーム奇行を次々と炸裂させた。

高級レストランの個室に、完全に凍りついた静寂が訪れた。

あまりの展開の斜め上っぷりに、ヴェロニカの美しい瞳が点のように小さくなり、完全にフリーズしている。

数秒の沈黙の後。

ヴェロニカはゆっくりと瞬きをし、その妖艶な唇にふっと得体の知れない深い笑みを浮かべた。

「……なるほどね」

「ち、違うんだヴェロニカ、これは不可抗力で――」

「ふふっ、いいわ……すごくいいわよ、クロード君。いつもはあんなに真面目で硬派な貴族紳士を気取っているのに、いざ私の誘いに乗ろうとした瞬間、プレッシャーからか奇抜なパフォーマンスで自らを守ろうとするその不器用さ……!」

(……は? なにを言っているんだこの人は!?)

「私の気を引くために、わざわざ高級ワインを頭から被り、キャビアを鼻に塗って原始的なダンスを踊るなんて……そんなの、最高に可愛いじゃない! 私の母性本能とドS心が猛烈に刺激されちゃったわ……!」

「待ってくれヴェロニカ、それは可愛いとかじゃなくて完全に精神異常者のムーブだろ!?」

ヴェロニカは立ち上がり、すっと濡れたクロードの頬に自らの指を這わせた。その瞳には、先ほどまでの「甘い誘惑」とは全く違う、底知れない「狂愛の光」がギラギラと宿っていた。

「逃がさないわよ、クロード君。今日のところは引き上げてあげるけれど、次会ったときは、その奇行癖ごと私すべり芸のすべてを愛してあげるから覚悟しなさい……ふふっ」

ガッ! と妖しく微笑みながら、ヴェロニカは魅惑の香水を残して個室から優雅に去っていった。その後ろ姿からは、恐ろしいほどの執着と、新たな性癖に目覚めてしまったような危険なオーラが放たれていた。

数秒後。

クロードの身体の自由がパッと戻り、彼は床に崩れ落ちた。

「はぁっ、はぁっ……くそっ……俺の借金返済計画が……大人のロマンスが……変な誤解のせいで、さらにハードルの高い沼にハマったぞ……!」

頭からワインを滴らせ、鼻にキャビアをつけたまま床を這いつくばるクロードの足元に、先ほどまで鞄に入っていた「猫の人形」がポトリと転がり落ちる。その人形の傍らで、リリアの霊体がふわりと優雅にあぐらをかき、満足げに鼻を鳴らした。

リリア(上品な微笑みを浮かべながら):

「あらあら、お疲れ様クロード! 私の完璧な肉体乗っ取りテクニックのおかげで、今日も無事に破滅的なロマンスを回避できたわね! 魔族の女もすっかり骨抜きにしちゃって大成功じゃない!」

クロード(床を叩きながら血の涙を流して絶叫):

「どこが大成功だぁぁぁっ!! 俺は借金まみれのまま、謎の変態奇行男としてあの魔族のお姉さんにマークされたぞ!! 返せ、俺の平穏な貴族ライフを返せぇぇぇぇぇ――っ!!」

こうして、名門貴族の苦労人・クロードの甘いロマンスは、相棒である美少女幽霊の「圧倒的な生存本能による肉体乗っ取り」によって、またしても盛大に灰燼へと帰すのだった。

果たして次こそは、誰にも邪魔されずに平穏な恋ができるのか。クロードの戦いは――そして新たな強敵(狂愛系お姉さん)の影におびえる孤独な闘争は、まだまだ始まったばかりである。

第2話をお読みいただきありがとうございます! 魔族の妖艶なお姉さん幹部・ヴェロニカの登場により、フラグ粉砕の仕方がさらにカオスな方向に加速したクロードの不憫さ、いかがでしたでしょうか。まさかの「奇行すらも褒められてしまう」という予想外のバッドエンド(?)を迎えてしまいましたが、彼に平穏な恋の日は訪れるのか……? 次回、さらなる手強いヒロインが登場予定です。どうぞお楽しみに!

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