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第1話:優等生エルフ騎士と、最悪の肉体乗っ取り

登場人物

クロード・フォン・シルヴェスター: 本作の主人公。名門高位貴族の御曹司でありながら、裏の莫大なローンと借金返済のために泥臭く冒険者稼業を営む苦労人。外面は優雅で完璧な貴族紳士(一人称「私」)だが、窮地に陥ると素の庶民的な感性が爆発する(一人称「俺」)。

リリア: クロードの相棒。かつて大陸最強と謳われた天才魔導師だったが、禁呪の失敗により「可愛い猫の人形」に魂が定着してしまった美少女の幽霊。「〜よ」「〜わ」の上品なお姉さん口調で毒舌を放つ。「クロードが他者とラブラブになると自分の魂が消滅する」という理不尽な仕様を抱えており、生存本能のためにクロードの肉体を強制乗っ取りしてフラグを粉砕する。

エルミナ: 第1話のヒロイン。王国騎士団所属のエルフの優等生騎士。厳格で真面目だが、クロードのひたむきさに密かな恋心を抱いている。

前書き

本日から新連載『貴族冒険者クロードは平穏に恋をしたいのに、イチャつくと消滅する相棒の猫人形(美少女幽霊)が毎回勝手に肉体を乗っ取ってフラグを粉砕する』が開幕です。泥臭い苦労人主人公と、厄介すぎる元・最強魔導師猫人形の織りなす波乱万丈なラブコメディをお楽しみください!

王都の一角、貴族街にほど近い由緒正しき石畳のオープンカフェ。

夕暮れの茜色が洗練されたテラス席を柔らかく包み込み、街路樹の葉が心地よい風に揺れていた。本来であれば、高名な貴族や令嬢たちが優雅にティータイムを過ごす、これ以上ないほどロマンチックな空間である。

しかし、そこに座る一人の男――名門伯爵家の御曹司であるクロード・フォン・シルヴェスターの心境は、トゲだらけの茨の道を裸足で歩かされているような絶望感に満ちていた。

(よし……外面的には完璧な高位貴族の紳士を装うんだ。姿勢はまっすぐ、笑みは上品に、声のトーンは低く落ち着いて……! くそっ、緊張で胃に穴が開きそうなんだが、今月の高級社交用スーツのローンと、内緒で買った魔導装備の分割払いは大丈夫か俺の懐事情はっ!? 先月の冒険者報酬だけでは到底足りないし、実家の父親にこの借金がバレたら本気で勘当されてしまうぞ……!)

心の中で激しく冷や汗を流し、血の涙を流しながらも、クロードは顔の筋肉を総動員して「余裕のある貴族の微笑み」を作り上げ、目の前に座る人物へと視線を向けた。

彼の向かいに座っているのは、王国騎士団の精鋭であり、エルフの優等生騎士として名高いエルミナであった。銀糸のような美しい長髪を後ろで一つにまとめ、凛とした佇まいを崩さない彼女は、普段の厳格な職務中とは打って変わって、どこかソワソワとした様子でカップの縁を指先でなぞっている。その尖った美しい耳が、わずかに朱色に染まっているのが見て取れた。

「――その、クロード殿。先日の危険な遺跡探索の件ですが……私をわざわざこんな素敵な場所にお茶に誘ってくださり、ありがとうございます。その、少し……意外でした」

エルミナは恥ずかしそうに視線を伏せながら、ポツリと言葉を紡いだ。

彼女のその仕草があまりにも純真で、かつ普段の凛々しさとのギャップで破壊力抜群だったため、クロードは胸をズキューンと撃ち抜かれたような衝撃を受ける。

(うっ……! なんだこの破壊力は! 真面目なエルフっ娘がこんなに可愛い顔をするなんて反則だろ……! よし、ここでスマートに甘いセリフを返して、一気に距離を縮めるぞ……!)

クロードはゴホンと軽く咳払いをして、貴族らしい優雅な口調を取り繕った。

「ふっ、気にするなエルミナ。君ほどの腕利きが、過酷な前線で私をかばってくれたのだ。お礼を言うのはこちらのほうさ。それに……君のような美しい騎士とこうして並んでお茶を飲むことは、私にとって家柄や名誉など関係なく、何物にも代えがたい至福のひとときだよ」

完璧なセリフだった。自分でも今の言い回しは紳士的で一百点満点だと確信している。

案の定、エルミナの耳の先まで真っ赤になり、彼女は胸元で小さな両手をぎゅっと握り締めた。

「し、至福のひととき、ですか……っ。クロード殿がそこまで私のことを……あ、あの、実は私も、日頃から貴殿のその高貴な身分でありながら泥臭く前線に立ち続ける真摯な姿勢に、深く感銘を受けておりまして……その……もしよろしければ、これからも私と……」

きた! これは完全に恋のフラグが成立した瞬間である!

クロードの脳内で盛大にファンファーレが鳴り響く。上流階級としての重圧や、家督を巡る面倒なしがらみを忘れさせてくれる至福の時間が、今、まさに訪れようとしていた。クロードはテーブル越しにそっと手を伸ばし、エルミナの白い指先に自分の指を重ねようとする。

その時だった。

クロードの足元に置かれた革製の高級鞄の中から、突如として眩い魔導の光が漏れ出したのは。

(……っ!? やばい、すっかり忘れていた……あれを!)

血の気が一気に引くのを感じながら、クロードは慌てて足元に視線を落とした。

そこに入っているのは、かつて大陸最強と謳われた天才魔導師でありながら、禁呪の失敗によって「可愛い猫の人形」に魂が定着してしまった、不運にして迷惑極まりない相棒――リリアの依り代であった。

鞄のチャックがパカッと開き、中からふわりと愛らしい猫の人形が飛び出す。そして、その傍らから透明感のある美しい美少女の幽霊としての霊体が、カッと眼光を鋭く光らせて顕現した。

リリア(宙にふわりと浮かび上がり、鬼気迫る美貌で叫ぶ):

「いけないわ! ここでこの男とエルミナが結ばれでもしたら、私の魂の波長が乱れて完全に消滅しちゃうんだから……! 私の生存本能にかけて、ここで全力を尽くすわよ!!」

クロード(冷や汗を滝のように流しながら、心の中で絶叫):

「(ちょっと待てリリア! お前が消えたくないからって、俺の人生のピークを勝手に奪うな! やめろ、来るな――っ!!)」

しかし、クロードの心の叫びが届くはずもない。

リリアの霊体は美しい軌跡を描きながら、オープンカフェのテーブルを飛び越え、クロードの身体へとダイブした――!

ビリビリビリッ! と全身に走る電撃のような衝撃。

次の瞬間、クロードの視界が強制的に斜め下に引っ張られ、身体の主導権が完全に奪い去られた。

「ぐっ……! お、おい、身体が勝手に……!?」

クロードが自分の意思で動かそうとするも、乗っ取りを果たしたリリアは、クロードの肉体を使って不敵かつ妖艶な笑みを浮かべた。そして、立ち上がった次の瞬間、自分の右手でクロード自身の頬を容赦なく「バチィッ!!」と強烈に平手打ちした。

「いったぁっ!? なんで自分で自分を殴るんだよっ!!」

心の中でクロードが絶叫するが、リリアに操られたクロードの身体は止まらない。彼は自分の両手で衣服の襟元をガッと掴み、目をカッと見開いて、目の前に座るエルミナへと顔を近づけた。その表情は完全にイッてしまっている。

リリア(クロードの肉体と声を借りて、超上から目線のドヤ声を響かせせる):

「ふん、甘いわねエルミナ! この程度の浅はかな好意で、我が輩――もといこの男のハートを射止められると思ったか! 愚民どもが、私に触れるなど一千年早い――!」

「ち、違うんだエルミナ! これは私の肉体を乗っしまった前時代の最強魔導師の霊が勝手に――っ! うわっ、勝手に右手が謎の古流武術の構えに入ったぞ、やめろ、変なポーズをとるな俺の肉体ッ!!」

クロードの心からの必死の弁解もむなしく、リリアはクロードの身体を使ってその場で奇妙な四股を踏み始め、さらにはエルミナが用意してくれていた手作りのクッキーの包みをひったくり、「こんな素人の作った泥団子など我が輩の口には合わん!」と近くの植え込みへ華麗に投げ捨てた。

オープンカフェのテラス席に、完全なる静寂が訪れた。

周囲の客たちがフォークやカップを持ったまま、完全に固まっている。

エルミナの動きが、ピタリと止まった。

彼女の美しい翡翠色の瞳から、スーッと恋心の熱が冷めていき、代わりに言い知れない恐怖と冷徹な光が宿っていく。

「……クロード殿」

「ち、違うんだエルミナ! これは私の意志ではない! 中の幽霊が勝手に――!」

「……先ほどまで高貴な紳士ぶっておきながら、私に暴言を吐き、自分の頬を叩き、謎の奇行の末に手作りのクッキーを植え込みに投げ捨てる……」

「待ってくれ、それは生存本能に基づく理不尽な――!」

「もう一言も言い訳は聞きませんわ。変態かつ重度の多重人格者、おまけに危険な奇行癖持ちとは、これ以上関わり合いになりたくありません。……二度と私の視界に入らないでください」

ガッ! とエレガントに椅子を引く音を残し、エルミナは一礼もせず、凄まじいスピードでカフェから走り去っていった。その背中からは、この世の終わりのような冷たいオーラが放たれていた。

数秒後。

クロードの身体の自由がパッと戻り、彼はその場にガクリと膝をついた。

「はぁっ、はぁっ……くそっ……俺の恋路が……優雅な貴族ライフが……またしても音を立てて崩れ去ったぞ……!」

床を這いつくばりながら絶叫するクロードの足元に、先ほどまで鞄に入っていた「猫の人形」がポトリと転がり落ちる。その人形の傍らで、リリアの霊体がふわりと優雅にあぐらをかき、満足げにふんっと胸を張った。

リリア(上品な微笑みを浮かべながら):

「あらあら、お疲れ様クロード! 私の完璧な肉体乗っ取りテクニックのおかげで、今日も無事に破滅的なロマンスを回避できたわね! 感謝しなさいよね?」

クロード(床を叩きながら号泣):

「誰が感謝するかぁぁぁっ!! 俺の青春と社会的信用を返せぇぇぇぇぇ――っ!!!」

こうして、名門貴族の苦労人・クロードのロマンスは、相棒である美少女幽霊の「圧倒的な生存本能による肉体乗っ取り」によって、初日から盛大に灰燼へと帰すのだった。

果たして次こそは、誰にも邪魔されずに平穏な恋ができるのか。クロードの戦いは――そして呪われた肉体泥棒との孤独な闘争は、まだまだ始まったばかりである。

第1話をお読みいただきありがとうございます! 上流階級のローン生活に苦しみつつ、いざ恋のフラグが立つと自分の身体に裏切られて奇行に走るクロードの不憫さと、消滅を回避するために全力で肉体をハックするリリアの暴走っぷり、いかがでしたでしょうか。次から次へと現れる魅力的なヒロインたちを相手に、リリアは今後どんな肉体乗っ取り(テロ)を仕掛けるのか……? 次回の展開もどうぞお楽しみに!

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