第59話 くさや
僕と花奈が職員室で舞留先生と話をしている。
そこへ花奈が突然言い出した。
「コンクールの時、他の学校の人とくさやの話がでたんですけど、くさやってそんなにすごいのですか」
職員室が静まり返る。
花奈が困惑している。
「織美亜(花奈)さん。高校生にくさやは早すぎます」と舞留先生。
「おいおい学校でくさやを焼くのは絶対禁止だぞ」
「やめてくれー」
「人類にはまだ早すぎる食べ物だ」
「知ってるか、くさやは世界でもトップクラスに臭い食べ物と言われているぞ。当然日本では1位だ」
と職員室にいた先生が口々に言う。
これだけの人を恐怖に陥れる。
いったいくさやとはどれほどのものか興味が湧いた。
花奈は当然、僕以上に興味津々なので……
「絶対食べようね」と花奈は僕に言う。
それを聞いた舞留先生が「くさやは焼く時が1番匂いがすごいのです。どうしても食べると言うのであれば、周囲の許可を取り焼き上がっているものにしなさい。そして匂いが取れないのも覚悟してください」
本当にそこまで恐ろしいものなのか。
花奈はスマホを操作して「通販で焼いた後のをパックにして売ってるよ」と僕に言う。
「学校では絶対ダメだぞー」と男の先生が言う。
数日後、花奈の家にくさやのパックが届いた。
「久、うちに来てよ。くさや食べるよ」
「嫌だ」
「来なさい」
「だって死にたくない」
「死にはしないから」
僕はなるべく捨ててもいいような服で花奈の家に向かう。
花奈がパックを見せる。
そしてそのままパックを開けた。
匂いは確かにする。
しかし先生方の言ったことまでの匂いはしない。
2人で恐る恐る食べる。
結構美味しい。
魚のうま味が凝縮されていて、噛めば噛むほど味が出る。
多少の匂いに目をつぶれば結構いける味だ。
花奈も「美味しいじゃん」と言って食べている。
その時、僕は一瞬、目を離してしまった。
花奈の行動を見ていなかったのだ。
気づいた時には花奈は台所にいてフライパンを火にかけ、残ったくさやを焼きだしたのだ。
台所から煙が上がった瞬間、僕は全てを理解した。
花奈は「焼いたらもっと美味しいかも」という、料理人として正しい発想をしてしまったのだ。
その後僕は卒倒しかけた。
*くさやは伊豆諸島に伝わる伝統的な発酵食品です。独特の香りがありますが、うま味が強く、昔から親しまれている食品です。




