第57話 再会
お弁当コンクールから3日後の放課後、花奈が言う。
「ちょっと校門まで付き合って」
「うんいいけど、なにかあるの?」
「ちょっとね」
校門に着くと、花奈は辺りをキョロキョロと見る。
誰か探しているのだろうか。
しばらくすると他校の女子生徒がこちらへ歩いて来た。
花奈が手を振る。
他校の生徒が花奈にお辞儀をする。
花奈もお辞儀をする。
僕も訳がわからないがお辞儀をする。
「久、この子覚えている?」
僕は返答に困った。
本人を前に「誰?」とも聞けないし、知らないとも言いづらい。
「お弁当コンクールの神奈川の高校の人。玲奈さんて言うの」
思い出した。
お弁当を作っている途中に、長崎の高校の人とぶつかって、料理と調理器具を落とした人だ。
僕は花奈を見る。
「実はあの後、玲奈さんと連絡先を交換したの。そしたら、私たちの学校に来てくれるって話になって」
僕は「ようこそ」と言った。
玲奈さんが改めてお辞儀をする。
「では部室に行きましょう」と花奈が言う。
来客口に行き、手続きを済ませて、部室に向かった。
なんでも教師たちにはすでに許可を取っているとのことだ。
僕にも先に教えてくれればよかったのにと思った。
部室に着くと玲奈さんが改まって話してきた。
「コンクールでは本当にありがとうございました。私あの時頭の中が真っ白になっちゃって。そして折角選ばれて本選にもいけたのにと思うと、泣きそうになっちゃって」
聞くと、玲奈さんは家庭科部に所属しているとのこと。
家庭科部は20人近くいて玲奈さんともう1人で代表に選ばれたことを話してくれた。
「でもあの後、2人で話し合って作り直したじゃない。私すごいなって思った」と花奈が言う。
「それは花奈さんが出来ることをみんなやろうって、あの時言ってくれたおかげ」
「でもやはり玲奈さんはすごいと思うよ。私だったら対応できなかったもん」と花奈が笑って言う。
「学校でみんなが送り出してくれたんだもん。必死だった」と玲奈さんが言う。
あの時の出来事を、今では笑って話せる。
この人は強い人だなと僕は思った。
「そうだ、折角だから何か食べない?何か作るよ。久が」と花奈が僕を見て言う。
「いえ。悪いですから」と玲奈さん。
「ガッツリ?軽め?スイーツとかお菓子?」と構わず花奈が聞く。
「じゃあ軽いお菓子で。でも今から作れるんですか?」
「そうだなあ。スコーンかチョコブラウニーなんかどうかな?」と僕が聞く。
「両方!」と花奈が言う。
「花奈には聞いていない」と僕が言う。
「じゃあチョコブラウニーでお願いします」と玲奈さん。
「じゃあ今から作るから花奈お願いね」と僕が言う。
チョコレートとバターを溶かし、卵を入れ泡だて器で混ぜる。
薄力粉と砂糖を加え、混ぜる。
型に入れオーブンで焼く。
その間、花奈と玲奈さんが喋っている。
「2人だけなの?」
「そうだよ。だから部活じゃなくて研究会なんだ」
「調理実習室を勝手に使っていいの?先生立ち合いじゃないの?」
「この学校家庭科部がないから使っていいんだけど、先生が立ち会わないとガスは使えないの。IHとオーブンなら立ち会わなくても良いって言われてる」
「うちとはだいぶ違う」
「さみしくない?」
「全然。2人で楽しくやってるし、ちょくちょく友達とかくるし」
それから少し玲奈さんは真剣な顔になり言う。
「昨日学校で結果報告をしたの。そしてアクシデントのこと、入賞できなかったことを報告したの。正直責められると思ってたの。せっかく代表に選ばれたのにこの結果で」
僕はオーブンの焼き加減を気にしながら話を聞いていた。
「でもパートナーが私のことすごく頑張ったって言ってくれたの。咄嗟に落とした分の料理をカバーするアイデアも出してって言ってくれた。そしたらみんな頑張ったねって言ってくれて」
そういうと玲奈さんは少し泣いてしまう。
「でもね。あれから私花奈さんの言葉を思い出すの。料理にアクシデントはつきもの。それをいかに乗り越えるか。私、頑張る。下を向いてばかりいられない。別の大会にも出て賞を取ってみせる」と玲奈さんが力強く言う。
「だから本当にありがとう。あの時に私たちに言ってくれて」と玲奈さんが花奈に言う。
「玲奈さんは強いね。私も見習わなくちゃ」
そして2人で握手をする。
「ところで別の大会もあるの?」と花奈が聞く。
「料理の大会はいくつかあるんですよ」と玲奈さん。
「じゃあまた、大会で会うかもしれないね」と花奈。
「その時は負けませんよ」
僕は話が落ち着いたところで、適度な大きさに切ったチョコブラウニーと紅茶を持って行った。
「お待たせ」
「美味しそう」と玲奈さん。
それから3人で料理の話になった。
料理の話をしている玲奈さんはとても楽しそうだった。
この人はもう大丈夫だと思った。
そして、帰りは駅まで送ることになった。
◆◆◆
駅まで玲奈さんと並んで歩いている。
久が少し離れて付いて来る。
駅に着く直前玲奈さんが小声で言う。
「彼氏、良い人ですね」
「違う。ただの幼馴染」
「そうなの?」
「そうです」
私は顔が少し赤くなってる気がした。
玲奈さんには多分気づかれているだろう。
ただ後ろは振り返らないようにした。
今の私を久にはみられたくないから。




