第30話 6人でプール
夏休みに入ってすぐ、僕は駅に向かっていた。
朝なのに、やや暑い。
絶好のプール日和である。
駅に着くとすでに松君がいた。
「おはよう。早いね」と僕が言う。
「おはよう。僕もほんの少し前に来たところだよ」と松君が言う。
そして「おはよー」との声とともに、理沙さん、花奈、恵美理さん、そして最後に戸尾君がやってきた。
みんなで電車に乗り、目的地の駅に向かう。
途中まではかなり混んでいた。
下りになると少し余裕が出て一同ホッとする。
そして目的地の駅に着いたのである。
駅から少し歩き、エスカレーターを上がるとケーブルカー乗り場だ。
並んで順番を待ち、6人でケーブルカーに乗る。
急斜面を登っていき、登り終えると見晴らしがとても良い。
みんなのテンションが上がる。
「景色最高っしょ」と戸尾君がいいながらスマホで撮影をする。
しばらくすると遊園地エリアに。
またもやみんながはしゃぎ出す。
そんな5人を他所に僕のテンションは上がりきらない。
5人で騒いでいるけど、僕にはこのノリが合わないようだ。
陽キャ5人の中に、1人だけ普通の自分がいるような感じだ。
楽しみではあるんだけど、はしゃぎきれない。
ケーブルカーが着くと、みんなで降りてプールエリアへ向かう。
事前にチケットを買っていたのでそれで入場をする。
更衣室で着替えた後、コインロッカーに荷物を入れる。
「女の子の水着、楽しみだね」と戸尾君。
松君は「そうだね」と相槌を打つ。
少し歩くと松君が「久は楽しみじゃない?」と聞く。
「そういう訳ではないけど」と僕は言う。
「久も男なんだから楽しみっしょ」と戸尾君。
そして3人で待ち合わせ場所に。
少し経つと女の子3人がやって来た。
僕たち3人は色々と驚いた。
注目を集めたのは恵美理さんだ。
白のビキニである。
僕は目のやり場に困った。
理沙さんは水色のワンピースである。
そして……花奈は黒いラッシュガード姿だった
「花奈ちゃんそれ水着?」と戸尾君が聞く。
「ラッシュガードっていうんだよ」と花奈。
なんというかマリンスポーツをやるような、かなり露出の控えた水着である。
僕は花奈の水着を見て、がっかりしたような、ホッとしたような。
「それプールに入れるの?」と松君も花奈に聞く。
「入れるよ。一応注意事項見たけど、問題ないよ」と花奈。
そして6人で流れるプールに入ったのである。
花奈が僕の側にやって来る。
「水着どう?」
「いいんじゃないか。僕は良いと思う」
「ありがとう」
そう言うと花奈は理沙さんのところへ行く。
今度は恵美理さんがやって来た。
僕が何をしゃべっていいか迷っていると、
「久先生は、女の子の水着姿に感想ひとつ言えないの?」
「似合ってます。その……目のやり場に困って」
「かわいい反応。花奈がビキニじゃなくて残念?」
「別にそういうわけでは」
「水着買う時迷ってたんだよ。本当はかわいいの着たかったんじゃないかな。でも先生のためにあれにしたんだと思う」
そう言うと今度は僕の体をジロジロと見る。
「もう少し鍛えた方がいいね。最低あの2人ぐらいにはね」
僕は松君と戸尾君を見て「頑張ります」とだけ言った。
「女の子は少し鍛えたぐらいの体が好きだよ。ただマッチョまでいくとやりすぎね」
そう言うと恵美理さんは僕から離れていった。
「そろそろいっちゃう?」と戸尾君がみんなに聞く。
僕はなんのことだろうと思ったら、みんなプールからあがる。
僕も真似してあがり、みんなに着いていくと、スライダーをやることがわかった。
直線とスラロームの2つを滑っていく。
みんなテンションが高い。
戸尾君と理沙さんは再びスライダーに向かう。
「いやっほおおおおおお」と言いながら戸尾君が滑り落ちてくる。
「きゃあああああ」と言いながら理沙さんも滑ってくる。
2人とも楽しそうだ。
その後はみんなでお昼に。
みんなラーメンか焼きそばのどちらかを選んでいるが、花奈だけ2つ頼んでみんなを驚かせた。
「持つの大変」と花奈。
僕はそりゃそうだろうと思った。
戸尾君が花奈のフォローをした。
僕がやるべきだったと思ったが、花奈が戸尾君にお礼を言い、楽しそうに話している。
ちょっと複雑な気分になった。
食べ終わると、再びプールへ。
しばらくすると花奈がやってきた。
「久、楽しくない?」
「そんなことないよ」
「そうはみえないけどなあ。久って真面目過ぎるところあるでしょ。それはそれでとても良いことだと思うんだ。でもね、時にはそういうの取っ払って、楽しんで欲しい」
「努力するよ」
「だからそういうとこ。すぐ心にブレーキかけちゃうんだもん。みんなといる時ぐらいは、ブレーキ踏まなくてもいいんだよ」
そういうと花奈が去って行き、恵美理さんがやってきた。
「2人で抜ける打合せ?」
「違います」
「なんだ違うのか。先生、花奈と2人でどこかに行ってもいいんだよ」
「だからそんなことしません。花奈に」
「花奈に?」
「もっと楽しめって言われた」
「そうだね。先生はそれが足りないね。じゃあ遊園地で、私と思い切ったことでもする?」
「思い切ったこととは?」と僕がおそるおそる聞く。
「バンジージャンプ」
「無理無理」
「まあ気が向いたらやろうね」
そう言うと恵美理さんも去って行った。
一通りプールを満喫したのか「じゃあそろそろ遊園地に行くよ」と松君が言う。
「そうだね。そろそろ行こうか」とみんなが言い、更衣室へ向かったのである。




