第09話 同担拒否だから、ハーレムは認めない!
今日のフリーイベントは平日だった。
平日の18時から。
秋穂とは現地で待ち合わせをして、直接現地へ向かった。
「平日にマユちゃんに会えるって最高だな!」
隣には雪也がいた。
順調にHIGH&MEにハマってるらしく、部活をサボってまで同行していた。
宮沢は残念ながら予定があると帰ってしまったが……
イベント会場は平日ゆえか、普段より人は少なかった。
「んじゃ、フォロワーさんと会ってくるわ!」
SNSの知り合いと会う約束をしているらしく、現場について早々に走り去ってしまった。
あの行動力は羨ましいなと思いながらも、少しだけできた顔見知りと挨拶をしながら秋穂を待つ。
「おまたせ!」
背中を叩かれ振り向くと秋穂がいた。
普段の現場と違い、今日は制服姿のため周囲の視線が集まっている。
そして、その隣には一人の少女がいた。
「桜良ちゃん、久しぶり」
秋穂の親友の桜良ちゃんがついてきていた。
「おにいさん、お久しぶりです」
丁寧に頭を下げて挨拶してくれる。
秋穂とは違い礼儀正しい子だ。
たまに、秋穂が家に連れてくるので会話くらいはしたことがあった。
「秋穂に巻き込まれたか、ご愁傷さま」
「いえ、秋穂ちゃんが楽しそうだったから、私から連れて行ってってお願いしたんです」
「おにい!桜良!はやく!」
秋穂はすでに前方へ走って行って場所の確保を始めている。
二人で苦笑いを浮かべながら、秋穂の元へと向かった。
なぜかおれは、二人に挟まれて立っていた。
右には秋穂、左には桜良ちゃん。
「なぁ?なんでおれを挟むんだ?」
「前の人がでかいから、しゃーないでしょ」
おれの位置からだと、前の人が邪魔でステージが見えないらしい。
めっちゃ高いヒール欲しいって、よく言ってるからな。
それにしても、おれ越しに話すのはやめてほしい。
「秋穂ちゃん学校でもいつもお兄さんの話ばっかりなんですよ」
「ちょ!桜良それは!」
「それが、最近はチユちゃんが!って言ってるのが多くて、気になっちゃいますよね」
秋穂は学校でもブラコン扱いされてるらしい。
それが変わってきたことに興味が湧いたようだった。
「だって!あの可愛さを広めたいじゃん?おにいだって、ゆきくん巻き込んだじゃん」
「いや、あいつは自分からダイブしてきたけどな」
「チユちゃん可愛いから!っていうクセに他の子にしてってよく分からないこと言ってるんですよ」
布教と同担拒否が入り乱れて、よく分からないことになってるな。
おれはチユを、好きな人が増えたら嬉しいと思うけど。
ただし、ストーカーはダメ絶対。
「でも、桜良はカッコイイ系好きそうだから、マユ推しになると思う!」
「えー、一緒にチユちゃん推そうよー」
「絶対だめ!」
友達にいじられる秋穂とか珍しいものが見れたな。
普段いじられてる身としては、見てて面白い。
「でも、ほんと秋穂ちゃんとお兄さんは仲がいいよね。一緒にライブ行ったり、今も抱きついてたり」
おれは友達の前でまで抱きつけるこいつが分からなくなるけどな。
秋穂は何も気にすることなくいつでも抱きついてくる。
「私はお兄ちゃんに巻き付くとか無理だなぁ」
少しだけ、羨ましそうな顔をしながら、そう呟いていた。
*
ステージから音楽が鳴り始める。
周囲の空気が変わった。
そして三人が袖から出てくる。
周囲から上がる歓声に、桜良ちゃんは呆然としている。
そりゃあそうだ、おれだって最初は何が起こったか理解できてなかった。
そして、歌が始まる。
人が動き出した。
前へ向かう人、少しでも見やすい位置に動こうとする人。
そんな流れが生まれる。
秋穂はおれの手を取っていたが、桜良ちゃんが流れに飲み込まれかける。
咄嗟に手を伸ばし、腕を掴む。
「あ、ありがとうございます」
何が起こったのか分からないと言った顔で礼を言ってくる。
そして、遠慮がちにおれの腕をとる。
少し悩んだものの、まぁいっかとそれを流す。
秋穂はチラッとこちらを見たものの、すぐにステージに目を向けた。
「私も叫んだ方がいいのかな?」
桜良ちゃんのその声は秋穂には届いていない。
「好きに見ればいいんだよ。叫びたかったら叫べばいいし、手を振りたかったら振ればいい。好きに楽しむといいよ」
はい、とペンライトを桜良ちゃんに渡してステージを見る。
おれは両手が塞がっていてペンライトが振れなかった……
ライブが終わる頃には桜良ちゃんも大声で叫んでペンライトを振り回していた。
手が自由になってからも返してとは言えず、少しだけ寂しかったのは黙っておこうと思う。
桜良ちゃんは、秋穂の想定通りマユ推しになったらしく、一人でマユの列へ走っていった。
おれは秋穂とチユの列に並ぶ。
「全く、同担君はデレデレしちゃって情けない」
二人になった途端に、頬を膨らませながらそんなことを言ってくる。
桜良ちゃんがしがみついてたことを言ってるんだろう。
「どうした?ヤキモチか?」
「違うし!おにいなんてハーレム野郎って炎上しちゃえばいい!」
そんな、物騒なことを叫びながらも離れる様子はない。
代わりにしがみついてる腕に力がこもる。
「まぁ、気づかなかったらどっかに流されて一人きりになるとこだったからな、次はちゃんと見ててやれよ」
「うん、ありがと」
どうやら分かってくれたようで、一安心だ。
周りから聞こえてくる、ハーレム野郎?というざわめきは聞こえないことにしよう。
お願いだから炎上は許して……
「Bメロの人こんにちは!今日は制服なんだね学校帰りだよね!秋穂ちゃんも制服だったし、私も今日は学校から直行だったよ!」
チユのセリフにどうしても制服姿のチユを想像してしまう。
授業を受けているチユの姿。
友達に囲まれて弁当を食べているチユの姿。
そんな情景が浮かんできた。
「制服姿妄想してるでしょ?」
下から覗き込むようにして、いたずらっぽい笑みを浮かべたチユが言ってくる。
そして、少しだけ声を潜めて。
「秋穂ちゃんの声聞こえてたよ。私のこともハーレムに入れたいのかな?ハーレム野郎さん?」
さすがに、それはファンサが激しすぎるだろう。
「秋穂ちゃん悲しませたらダメだからね!」
――推しに会いに行ったら生きた心地がしなかった件
ステージを降りると、秋穂が待っていた。
桜良ちゃんはまだ列の半ばということで、少し離れたベンチで終わるのを待つことにする。
「やっぱり、現場はいいねー。制服可愛いって褒められちゃった」
「おれは、お前のせいで、ハーレム野郎って言われたよ」
それを聞いた秋穂は腹を抱えて爆笑し始めた。
何がツボったのか桜良ちゃんがやってくるまで延々と笑い続けていた。
*
「楽しかったです」
帰りの電車を待つ間、桜良ちゃんはしきりにそう言っていた。
マユがかっこよかった。
あの歌に憧れる。
直接話してみたら、かっこいいだけじゃなく優しかった。
そんなことを伝えてくれた。
秋穂も今だけはチユを布教するのではなく、ただ聞き役に徹していた。
電車が来ると、席が空いておらず秋穂たちとは離れて座ることになった。
まだ話し足りないのか、二人は楽しそうに話していた。
おれはSNSを開いて、念のため炎上してないかを確認する。
その際に見えた、「どこにいる?」という、メッセージはきっと気のせいだろう。
タイムラインを確認しても、特に叩かれてる様子はなく安心した。
「今日は助かりました。ありがとうございます」
桜良ちゃんが降り際に秋穂と共に、おれの元へ来てそう言って電車を降りていく。
秋穂は空いていたおれの隣に座るものの、どことなく不機嫌だった。
聞き役に疲れたか?
「楽しんでくれたみたいでよかったな」
「うん」
「疲れたか?」
「ちょっとだけ」
そう言って、もたれかかってくる。
お疲れ様という気持ちを込めて、その頭を撫でると嬉しそうに擦り寄ってくる。
「今日は寝過ごさないようにしないとな」
「そうだね」
やっぱり少し元気がなかった。
それは、電車を降りて帰り道を歩いてる最中も変わらなかった。
「おにい……」
急に立ち止まり、秋穂がようやく口を開く。
「どうした?」
「桜良のことどう思う?」
桜良ちゃん?
うーん、おれに対しても丁寧でいい子だよな?
「いい子だよな?」
その言葉に、秋穂が凍りつく。
「そっか……」
なぜか、秋穂の顔が曇る。
握られた拳が小刻みに震えていた。
どう見えても怒っていた。
「同担拒否だから、ハーレムは認めない!」
*
️秋穂の不定期ブログ(鍵付き)
今日は学校の帰りにチユちゃんに会えた!
親友の桜良も興味持ってくれたから一緒に連れていったよ!
ライブが始まった時の流れに飲み込まれそうになったとこをおにいが助けてくれたらしい。
さすがおにいだね!
でも、そのあと桜良が腕にしがみついてたのは、おにいが取られたみたいで嫌だったかな?
妹ポジは私の!ってなっちゃう
帰りの電車でも、マユちゃんのことを熱心に語ってて、ハマってくれたって実感できて嬉しかったなぁ。
でもさ、桜良ってば途中から。
「お兄さん優しくて素敵」とか、「かっこいいお兄さんで羨ましい」とか、挙句の果てに「ハーレム入ろうか?」とか言い出して。
ニヤニヤしてたから、からかってるんだろうけど、なんかモヤモヤする!
全部おにいが悪い!
*
あとがき
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