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第10話 同担拒否だけど、今日はここにいて

「やだぁー、ライブ行くーー」


ベッドに横になりながら、秋穂はか細い声で叫んでいた。


38.2℃


どう見ても、外に出られる状態ではなかった。


「さすがに、無理だろ……、今回は大人しくしてろ」


今日は、秋穂も楽しみにしていた、ライブハウスでのライブだった。

もちろんチケットも連番で用意している。


「でもー、せっかくのライブなのに……」


諦めきれないようだけど、流石にこの状態の秋穂を連れていくことはできない。


「飲み物は置いておくからな。じゃあ、おれはそろそろ行くぞ?」

「ひどい!鬼畜!人でなし!!」


散々な言われようだけど、こればっかりは仕方ない。


「おにい、桜良の面倒お願いね」


今日は桜良ちゃんも入れて三人で行く予定だった。

秋穂がいないと辛いけど、さすがに一人にするのはな……


「桜良可愛いからって、変なことしたらダメだからね!」

「しねーよ!」



会場に着くと、桜良ちゃんはすでに着いていた。

その横で、大学生だろうか?少し年上に見える男が話しかけていた。

一瞬、彼氏か?と思うが表情から違うことが分かる。


「桜良ちゃんお待たせ」

「あ、千夏遅いよ!」


いきなりの名前呼び。

そして、普段とは違う口調に反応が遅れる。


「じゃあ、人が来たので」


そう言って、桜良ちゃんは近づいてきて、おれの手を取る。

話しかけていた男は、つまらなそうな顔をして、他の女の子の元に向かっていった。


「おにいさんすみません。あの人しつこくて……」


男が見えなくなった頃、手を離した桜良ちゃんがおれに謝ってくる。


「それはいいけど、大丈夫?」


おれが先に来ていれば怖い思いさせずに済んだだろうに。


「大丈夫です。秋穂ちゃん風邪の具合どうです?」

「熱が下がらなくてキツそうだったかな。おれに絡む元気はあるみたいだけどな」

「秋穂ちゃんらしいです」


そう言って、笑ってる桜良ちゃんはどこか楽しそうだった。



開場の時間になり、中に入るとすでにたくさんの人がいた。

今日のライブはオールスタンディング。

場所は早い者勝ちだった。


「できるだけ前に行きたいです!真ん中より右がいいですよね!」


会場の雰囲気に桜良ちゃんのテンションも上がっている。

それでも、チユの位置を考慮して右側と言ってくれるだけの冷静さは残っているようだった。


前に身長の高い人もいなく、そこそこ前方という良い位置を確保することができた。


「あー、緊張してきました……」

「初めてのライブ会場は緊張するよな、とは言ってもおれも二回目なんだけどな」


しかも、オルスタはおれも初めてだ。

宮沢の勧めで、バーの位置に来たはいいけど、これになんの意味があるのかまでは分からない。


ライブが始まるまでは、桜良ちゃんとHIGH&MEの話で盛り上がる。

秋穂とだとチユの話ばかりになるので、マユの話が聞けるのは新鮮だった。


そして、照明が落ちメンバーがステージに現れた時、異変が起きた。

最初は前にいた人が消えた。

そして、後ろからの圧力がかかる。

いつものくせで、咄嗟に桜良ちゃんの肩を抱いて流されないように庇う。

まずいとは思ったものの、桜良ちゃんもおれにしがみついてくる。


――圧縮


普段のフリーライブでも体験していたけど、ライブハウスではここまで違うとは思ってもみなかった。

例えるなら満員電車の中で全員が前に押し寄せようとしているような、そんな圧力だった。


「おまえらー!会いたかったぞー!」


おれの横を人が過ぎ去りバーを潜って前へ向かう。

そんな流れは、マユの叫びでピタリと止まった。


周りの動きが収まったことを確認して、抱いていた肩を離す。

桜良ちゃんは気にした様子もなく、ステージを見つめていた。


圧縮のお陰で、バーの前には人がいなく見晴らしは良くなっていた。


一曲目が始まる。

秋穂の好きな歌だ、桜良ちゃんと一緒にペンライトを振って大声でコールする。


楽しいのに、何か違和感を感じていた。

その違和感はライブが終わるまで消えることはなかった。



「楽しかったですね!」


額に大粒の汗を流しながら、桜良ちゃんは満面の笑顔を浮かべている。


「ああ、最高だったな!」


おれもテンションは最高潮だった。

ビギナーズライブでは席は決まっていた。

席が決まっていないだけで、こんなに熱が違うとは思わなかった。


この感動を秋穂に届けるべく早速文章にして送信する。


「何してるんですか?」

「ん?秋穂に感想送ってた」

「ほんと、お兄さんって秋穂ちゃんのこと大好きですね」


桜良ちゃんの言葉にはどこかトゲがあるように感じた。

秋穂のことはもちろん大事だし、同担として伝えたいと思うのはおかしいことだろうか?


「横に女の子がいても、秋穂ちゃんなんだからほんと彼氏みたいですよね」


彼氏?

秋穂は妹だし、むしろそういうふうに見るならあの距離はないだろう。


「今日も助けてくれたし、お兄さんのことかっこいいなぁって思ったのに残念です」

「ちょっ、何言って……」


焦っているおれを見て、桜良ちゃんは腹を抱えて笑い出す。


「冗談ですよ、冗談。お兄さんってこういうの真に受けるんですね」

「冗談でも言っていいことと、悪いことがあるだろーが」

「でも、優しいなって思ったのは本当ですよ」


秋穂にしてることを、反射的にしただけ。

そう思うと、罪悪感が湧いてくる。


「じゃあ、私は特典会不参加なので先に帰りますね!今日はありがとうございます。秋穂ちゃんにもよろしくお願いします!」


そう言って、桜良ちゃんは走り去ってしまった。



「今日は一人なんだね」


チェキの待ち時間にチユに言われる。


「あー、風邪ひいて家で寝てるんだよね」

「早く良くなるといいね!」

「その言葉伝えたら、すぐ元気になりそうだよ」


そんな会話でチェキ会は終了した。

ステージを降りて、一人駅へと向かう。

いつも隣にいる秋穂がいない帰り道に、寂しさを覚える。


思い返せば今日のライブも、ここで秋穂ならこんな反応するだろう。

そんなことばかり考えていた。


ずっと、一緒にいたせいであいつの騒がしさ込みで、ライブって感覚になってるんだろうな。

桜良ちゃんと一緒に盛り上がったのももちろん楽しかった。

それでも、やっぱりどこかに違和感が付きまとっていた。


「これじゃ、どっちが依存してるんだか」


そんなことを考えながら、一人帰路に着いた。



その日の帰宅後。

部屋にいると、秋穂が乱入してきた。

熱も落ち着いてきたのか、顔色は少し良くなっている。


「おにい!自慢はいらないんだけど!!」

「いや、感動を共有しようと――」

「私も行きたかったのに!」


よく考えたらそうだよな。

行けなかったライブの楽しさとか語られたら、普通はムカつく。


「それに、桜良となんかあったでしょ!教えてくんないんだけど!」

「いや、圧縮に流されそうなところを助けただけだって」


――残念です。


その言葉が浮かんだけど、これは言わない方がいいだろう。


「そういえば、チユから早く良くなってね。って伝言預かったぞ」

「まじ?すぐ良くなる!じゃなくて!」


残念ながら、誤魔化すことはできなかったようだ。


「やば、興奮したら気持ち悪い」


急に秋穂がへたり込む。

熱があるのに、無理するから……


秋穂を抱き起こして、部屋まで運ぶ。

さっきまでとは違ってしおらしい。


ベッドに寝かせて、その横に座る。


「ほら、お土産」


ライブグッズのチユのアクリルスタンドを手渡す。

秋穂がどうしても欲しいと言っていたグッズだ。


「ありがと……」


嬉しそうに受け取り、胸に抱いている。


「おにい」

「同担拒否だけど、今日はここにいて」




あとがき


ここまで読んでいただきありがとうございます。

続きも読んでいただけたら嬉しいです。


読後に何か残るものがありましたら、リアクションやコメントで反応をいただけると励みになります。

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