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第08話 同担拒否だけど、おにいはおにいだよね

SIDE:秋穂


私が小学校の頃、お母さんが再婚して引っ越すことになった。

そこにいたのが、ひとつ年上で中学に上がったばかりのおにいだった。


最初は、知らない年上の男の子が怖くて、千夏さんって呼んでいた。

でも、周りの男子とは違って、すごく優しくて気づいたら怖くなくなっていた。

それに気づいた時、千夏さんからお兄ちゃんに変わった。

それでも、今みたいな距離感じゃなかった。

それが、おにいに変わったのはいつだっただろう?



夏!


家族が増えた最初の夏。

家族の親睦を深めるって名目で、お義父さんが海に連れてきてくれた!


海の近くのコテージとか素敵すぎ!


もう、朝からテンションは最高潮だった。

早く、海に飛び込みたいのに、お兄ちゃんに止められて準備運動をさせられている。

授業じゃないんだしどうでもいいじゃん!


「ちゃんと準備運動しないで、溺れたらいやだろ?」

「千夏は足つって溺れたからな」


マジメか!

って、思ったけどお義父さんが言うには、実体験済みみたいだ。

それならしゃーない!

仕方なく真面目に準備運動をして、ようやく海に飛び込む!


「きもちいいーー」


準備運動でかいた汗が、冷たい水に流されていく。

コテージに付属のビーチのおかげで、いつもの人だらけのビーチとは違って、広々としてる。


「お兄ちゃん競争しよ!」

「泳ぐの苦手なんだよ」


嫌がりながらも、付き合ってくれる。

そんなお兄ちゃんを、本当のお兄ちゃんだと思えるようになってきていた。

頼りに……はならないけど、優しいお兄ちゃん。

私たちの関係はそんな感じ。

お兄ちゃんはまだ気を使ってそうだけど、私からガンガン距離詰めたらそのうち仲良くなれるよね?


お兄ちゃんを砂に埋めたり、お兄ちゃんにナマコを投げつけたりして遊んでいたらあっという間に夕方になっていた。

お義父さんとお母さんはバーベキューの準備を始めていて、お兄ちゃんも手伝いに行っちゃった。


しかたないから、私も手伝うことにする。

お兄ちゃんと話しながら、野菜とお肉を串に刺していく。


「これお兄ちゃんのね!愛情込めたから食べてね!」


悪戯心が湧いて、ピーマンだけを刺した串を差し出してみる。

それでも、お兄ちゃんは笑顔で「ありがとう」と言って受け取ってくれる。


晩御飯が始まると、お兄ちゃんは本当にピーマンだけの串を「おいしいよ」と言いながら食べている。

ピーマン苦手なはずなのに、嫌な顔ひとつしないでもぐもぐと食べているのを見て、少しだけ不安になった。


夜、一人で砂浜に座って今日のことを思い出していた。

正直、やりすぎたと思った。

だけど、お兄ちゃんは文句も言わず私に付き合ってくれた。

ほんとにいい人だと思う。

でも、本当のお兄ちゃんだったら、ここまで付き合ってくれたんだろうか?

そんな疑問も浮かんでくる。


本当のお兄ちゃん。

本当の妹。


お兄ちゃんには、昔離れ離れになった、本当の妹がいるらしい。

だから、私は単なる代わりなんじゃないかと思っちゃう。


「秋穂、一人でなにしてる?」


コテージからお兄ちゃんが出てきて近づいてきた。

今は顔を見たくない気分だったので、走って逃げる。


百メートルほど走ったところでサンダルが壊れて転びかけたとき、後ろからお兄ちゃんが支えてくれた。


「大丈夫か?」


そう言って支えてくれた手を私は振りほどく。

お兄ちゃんの目が、私を通して知らない誰かを見ている気がして、涙がこぼれる。


「秋穂……」

「お兄ちゃんはなんでそんなに優しいの?」


聞いちゃいけないと思いながらもつい口から出てしまった。

こんなこと聞いたら嫌われる。

そう思っていたのに、一度零れると止めることができなかった。


「なんで、あんなにしたのになんで何も言わないで笑ってるの?」

「ピーマンだって嫌いなの知っててやってるのに、なんでありがとうなんて言えるの?」

「気を使ってる?本当の妹の代わり?もう分かんないの!」


そんな叫びを、お兄ちゃんはただ黙って聞いている。

幻滅したんだろう。

何も言ってはくれない。


しばらく沈黙が続く。


これで、みんなが険悪になったらどうしようと思いながらも、口から出た言葉はもう取り消せなかった。


「秋穂、おれはな、お前と本当の兄妹になりたいんだよ」


そんな言葉から始まった。


「確かに我慢してないって言ったら嘘だけどさ、それで秋穂が楽しそうにしてるなら、嬉しいからそうしてるんだよ」


そう言って、私の手を取る。

私も距離感おかしいかもだけど、お兄ちゃんもたいがいだと思う。


「それで不安になるなら、今度からはもう少し自分を出すようにするな」


逆の手が頭に伸びてきて、優しく撫でてくれる。


「それに、妹の代わりなんかじゃない。それだけは怒っておく」


そう言って、デコピンされた。

痛い……


お兄ちゃんと座って話をする。

私がどう思ってるのか、お兄ちゃんがどう思ってるのか。

競争は負けて悔しかったこと。

埋められたのは楽しかったこと。

ピーマンは意外と美味しかったこと。


まだ、少し緊張してること。

くっつかれるのは恥ずかしいこと。


「そういえば、本当の妹からはなんて呼ばれてたの?」

「覚えてないけど、多分お兄ちゃんかな?」

「そっか」


頭の中で色々と考えるけど、なかなかピンと来ない。

少し考え込んで、お兄ちゃんが不安そうな顔をした時、自然とひとつの言葉が出てきた。


「おにい!今日からおにいって呼ぶ!」



そうして、私はおにいと呼ぶことになった。

最初は妹への対抗心だった。

でも、今となってはお兄ちゃんなんて恥ずかしくて絶対に呼べないくらい当たり前になっていた。


チユちゃんを見つけて、複雑な感情が生まれた。

おにいがチユちゃんを見る目にモヤモヤする。

おにいがチユちゃんのことを話すとモヤモヤする。


同担拒否


その言葉が私とおにいの間に壁を作る。

いや、私にしか見えない壁だ。


それでも……


「同担拒否だけど、おにいはおにいだよね」




あとがき


ここまで読んでいただきありがとうございます。

続きも読んでいただけたら嬉しいです。


読後に何か残るものがありましたら、リアクションやコメントで反応をいただけると励みになります。

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