第05話 同担拒否だけど、思い出に罪はない!
ライブが終わったあとは特典会だ。
ビギナーチケットはそのままチェキ会の参加券にもなるらしい。
「ゆきくんはだれ推し?」
「おれはやっぱりマユだな、ぶっちゃけ圧倒的だった」
その気持ちは分かる、おれもチユがいなかったらマユを推してたと思うほどだ。
「ぼくは王道のツインテが好きなのでミユですね」
宮沢くんはミユ推しらしい。
確かに、一番背も小さく守ってあげたい可愛いキャラだった。
「ならよし!」
秋穂はなぜか、上から目線で許可を出した。
「で、おにいは?」
「チユ、てか、あの流れで推し変したらヤバいやつだろ」
「まぁ、同担拒否ではあるけど、それはさすがに許せないかな」
なら、言うなよ……
今日のところは許してくれるらしいので、二人でチユの列に並ぶ。
ここにいるのはほとんどがチユファンだ、他のファンを見る秋穂の目が険しくなる。
「大変そうだな」
「辛いけど並ばないと!」
おれとしてはチユが笑いながらチェキを撮ってるのを見て癒されるけど、秋穂にとっては耐えられないんだろうな。
「ほら、もうすぐだぞ」
「ドキドキしてきた、緊張する」
ステージに上がる以上に緊張することもないだろうに、今更じゃないか?
あと二人と思ったところで、スタッフに話しかけられる。
「あの、チユさんから良かったら三人でチェキ撮らないかと提案があったんですがどうでしょう?もちろん二枚撮らせてもらいますので」
「秋穂どうする?」
おれはむしろその方が嬉しい。
でも、同担拒否と言ってる秋穂にとっては、せっかくのチェキにおれも写ってるのは嫌だろうと思い、秋穂に判断を任せる。
「いいんですか?撮ります!」
即答だった。
同担拒否どこいった?
提案された通り、今日は二人でチユの前へ進む。
「よかった、三人で撮りたかったんだよ!」
嬉しそうにチユが微笑む。
「ポーズはどうする?」
「私とおにいで、おっきいハート作るから、その間にチユちゃんってどうだろう?」
どんなポーズか分からないので二人に任せることにして、おれは秋穂と二人で大きなハートを作る。
同じポーズで二枚撮って、少しだけの会話タイム。
今日は全て秋穂に譲って、二人が話してるのを横で見ていることにする。
こうして見ていると秋穂は本当に楽しそうで、おれはどうすればいいのか分からなくなってくる。
同担は拒否、でも推すのは続けろ。
難しいことを言われながらも、秋穂が楽しく推し活できるようにしてあげたいと思ってしまう。
帰り道、雪也、宮沢と別れて秋穂と二人になった。
「たのしかったねー!でも、おにいの最前はずるい!しかもチユちゃんの目の前!」
「おいおい、今日は許してくれるんじゃなかったのか?」
「それでも、やっぱりずるい!」
まぁ、最前なんて奇跡のようなものだろうしな。
今後二度とあるかも分からないような経験と思えば、秋穂が悔しがるのも無理はない。
「次は一緒に見れるといいな」
秋穂が一瞬固まる。
「……いや、同担拒否だから離れて見る!」
「おれは秋穂と一緒に見たいけどな」
「おにい、それはずるい……」
秋穂の声は小さく、何を言ったのかは聞き取れなかった。
「とにかく、早く推し変してくださーい。そしたら一緒に見てあげる!」
そんなことを言っている秋穂の顔には満面の笑顔が輝いていた。
ほんと、何がしたいのか理解できない。
*
日曜日は特に予定もなかったので、推し活アカウントというものを作ってみようと挑戦してみる。
これまで、SNSの投稿なんてしたこともなく、見る専門だったので、よく分からないけど、あった方がいいと言われた。
「ニックネーム……、本名はまずいよなぁ……」
まずそこで悩むこと一時間。
ライブで聞こえてきた、「Bメロの人」という言葉を思い出して、それを、ニックネームにしてみた。
これなら、チユにも見つけてもらえるかもしれない。
「プロフィールは、チユ推しって書いておけばいいか」
さて、何を投稿しようか。
他の人の投稿を眺めていると、チェキの写真やライブのレポート、現地に到着したとか。
歌の感想とか色々書いてるな。
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チユを見つけた。
#チユ #HIGH&ME
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それだけのシンプルな投稿に、最初に撮ったチェキを添付して投稿してみる。
この一文を投稿した頃には既に夕方だった。
これだけに何時間かけてんだよと、少しおかしくなる。
投稿するとすぐに、反応があった。
たくさんのいいねとフォローが飛んでくる。
その中に「あきほ」という名前を見つけ、飛んでみると、今日だけで数十件の投稿がされていた。
少し遡ると、昨日のライブの感想が長々と記載されていた。
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#HIGH&ME 初参戦した!!
なんと!プレゼント企画に当選して最推しのチユちゃんからブロマイドも貰っちゃった!
なにこれ?嬉しすぎでヤバい!
しかも、このあとチェキ会まである!
#チユ
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秋穂が帰ってきたら、また説教コースだな……
きっと、「同担の投稿が情けなすぎるから、私が監修する!」とでも、言い出すだろう。
帰ってくる前に、もう少しまともな投稿上げとかないとだな。
*
珍しく、父親に呼ばれてリビングへ向かう。
父は大人しい人で、あまり会話には入ってこずに、おれと秋穂のやり取りを見ながら微笑んでいるような人だった。
そんな父が今は難しい顔をしてソファーに座っている。
「千夏、母さん……おまえの母親から連絡が来て。近いうちに食事でもって言ってるんだけど、どうする?」
母親とはもう数年会っていない、最後に会ったのは小学校の低学年の頃だっただろうか?
たしか、仕事の関係で遠くに引っ越すからもう会えなくなると言われて大泣きした記憶がある。
「最近こっちに戻ってきたらしくてな。もちろん今更だし、断っても大丈夫だぞ」
「いや、久しぶりに会いたいし行くって伝えといて」
別に母のことを恨んでたりはしないので、行くのは問題なかった。
ただ、本当の息子のように扱ってくれている義母には、少しだけ申し訳ない気持ちがある程度だ。
「じゃあ、場所と時間が分かったら伝えるから」
「分かった」
そう答えると話題もなくなり、沈黙が訪れる。
部屋に戻るかテレビを付けるか悩んでると父が話しかけてきた。
「最近、秋穂ちゃんとはどうだ?嫌いだとか色々聞こえてくるが」
「まぁ、色々複雑みたいだけど、多分そんなに問題ないと思うよ。態度もそんな変わらないしそのうち落ち着くでしょ」
「それならいいんだけどな」
なにか言いたそうな父を置いておれは部屋に戻った。
こっちは、何かまともな投稿しないと秋穂に何言われるか分からないんだ。
*
「おにい、今日は何してた?」
日も暮れてきた頃、秋穂が突然部屋に乱入してきた。
「今日は推し活アカウント作ってたよ」
「あー、Bメロの人ね!あの名前、同担として警戒対象なんですけど!」
もはや、同担って言葉を使いたいだけじゃないかって気までしてきてる。
それくらい、スイッチの入っていない時はいつも通りなんだよな。
「ただ、あの投稿はヤバい、短文なのに完璧だった」
「怒らないのか?」
「あれは怒れない!」
長文の投稿は間に合わなかったけど、あれで正解だったらしい。
「で!どうせ、ブロマイドもまだそのままなんでしょ。これあげるからちゃんと保管しなさい!」
渡されたのは小さなアルバムだった。
そういえば、買おうと思って忘れてたな。
秋穂に礼を言いながら、アルバムを受け取ると、秋穂の視線は机の上に固定されていた。
その視線の先には、昨日撮った三人のチェキが、写真立てに入れられて飾られていた。
たまたま、部屋に写真立てがあったから入れてみた。
チェキだからサイズは合ってなかったけど、一番大事な写真だと思って、入れることにした。
「これ入れるなんて、おにい私のこと好きすぎない?」
ニヤニヤと笑いながら抱きついてくる。
好きすぎるのはどっちだと言いたいところだ。
「そっかぁ、そっかぁ、同担拒否だから一緒の写真は嫌だけど、おにいがそんなにしたいなら私も昨日のチェキ飾っちゃおうっと」
「別に無理しなくていいんだぞ?」
「おにいこそ、素直に喜べばいいのにー、写真立て買ってくる!」
そう言って、おれから離れていく。
「なぁ、同担拒否としておれと写ってるのでいいのか?」
秋穂はうーんと少しだけ考え込む。
その表情からはどう見ても拒否の感情は読み取れない。
むしろ、口元はにやけている。
「同担拒否だけど、思い出に罪はない!」
*
秋穂の不定期ブログ(鍵付き)
今日はビギナーズライブに行ってきた!
ライブハウスって初めてだったけど、熱がすごい!
あんな世界知らなかったよ。
でも、おにいだけ最前だったのはずるすぎ!
私も、最前でチユちゃんみたかった!
でも、すごいこと起こった!
なんと、おにいと二人でステージに上がってチユちゃんからプレゼント貰えた!
そのあとの特典会でも三人でチェキできたの嬉しかったな。
そういや、おにいとハート作って写真は初めてかも?
なんか嬉しいな
*
あとがき
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