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第04話 同担拒否だけど、今日は許す!

ライブ当日、おれたちは新宿にあるライブハウスに来ていた。

周辺には既に人が集まっており、HIGH&MEのTシャツを着た人もたくさんいた。


「あのTシャツ欲しい!今日買えたりしないかな?」

「おれはあっちのキャップが欲しいな」


グッズで身を固めている人たちを見ると、自分たちの格好が恥ずかしくなってくる。

200mくらい離れれば浮いているのはあちらのはずなのに、ここでは普通の格好が凄く浮いて見えるから不思議だった。


「秋穂ちゃんやっほー」


声をかけてきたのは雪也だった、隣には宮沢もいた。


「あれ?ゆきくんじゃん、こんなとこでどうしたの?」

「どうしたのって、千夏がハマったアイドルのこと見てみようと思ってさ、おれもチケット買っちゃった」

「まじ?うれしい!でも、チユちゃんにハマったらだめだよ!」

「同担拒否ね、千夏から聞いてるから他の子にしとくよ」


軽い調子で秋穂と話してるが、おれはこいつが秋穂に惚れていることを知っている。

良い奴だから上手くいって欲しいと思う反面、なんとなく上手くいって欲しくない気持ちもある。

もしやこれが同担拒否か?

いや、おれは別に秋穂推しじゃないけど……


「あれ?この間の学生カップルじゃん。来てくれたんだ」

「あ、この間はありがとうございます」


誰だ?秋穂が話してるから知り合いだろうか?


「この間、隣で色々教えてくれた人だよ、おにい忘れたの?」


人の顔を覚えるの苦手なんだよ……

チユへのレスを教えてくれた人だったらしい。


「だれ推しになったの?まだ箱推しかな?」

「「チユです」」


おれと秋穂の声がハモる。


「カップルで同じ推しとか羨ましいね。じゃあ、これプレゼント」


そう言って、チユのメッセージが入ったティッシュを二つ取り出して渡してくれる。


「えっ……?まじで?いいんですか!?」

「新規さんは大事だからね、できれば長く推してくれると嬉しいな」

「一生推します!」


あれだけ欲しがってた、チユのメッセージ。

それを貰えただけで秋穂は既に泣きそうだった。


「じゃあ、おれはティッシュ配りに戻るから、今日は楽しんでね」


雪也はマユ、宮沢はミユのティッシュを受け取っていた。

秋穂は「あの人、いい人すぎる……」と呟きながら、去っていく男の背中を見つめている。


「おれも、ティッシュ配れば……」


横で何か言っている雪也ばかは放っておこう。



開場の時間が迫っていた。

おれたち四人は固まって並んでいた。

ライブの経験も豊富らしい宮沢が居れば心強い。

少しずつ列が進んでいき、会場に入る。

会場はそんなに広くなかった。

前方には十列ほど椅子が並べられており、一番前の列からステージまでの距離は一歩分ほどしかなかった。


チケットとドリンク代500円を渡すと、箱からくじのようなものを引かされた。


引いたくじには8と書かれていた。


「なんだろ?8?」

「私27」

「席番ですよ。チケットが席番じゃなくてここで、抽選みたいですね」


宮沢が教えてくれる。

椅子の数を数えてみると、一列あたり八個の椅子が並んでいた。

仕方なくバラバラに分かれて席へ向かうことにした。


最前列右端。

その席は後ろで見た以上にステージに近かった。

そして、右端はチユのポジション。

チユ推しとしては最高の席であることは間違いなかった。


後ろを振り返ると、左側の後方に秋穂がいた。

緊張したように、少しソワソワしながら、ステージを見ている。

隣には雪也が座っている。

ある意味引きが強いやつだ。


そして、照明が落ちた。

まわりが一斉に立ち上がる。


マユー!

ミユー!


あちこちでメンバーを呼ぶ声が聞こえる。


チユー!!


他とは違う少し高い声、秋穂の声が聞こえた。

曲のイントロが流れ始める。

それに合わせて、周りの熱が高まっていくのを感じる。

そして、ステージの端からメンバーが登場する。


まだ歌ってもいない。


なのに、周りは異常なほど盛り上がっていた。

これがライブか……

リリースイベントで感じた熱とは比べ物にならないほどの熱に、おれのテンションも少しずつ上がっていく。


歌が始まる。

目の前、一メートルほど離れたところにチユがいる。

笑顔を浮かべて、楽しそうにダンスを踊っている。

目が合った。

そう感じてしまうほどの至近距離。

おれの目にはチユしか入らなかった。

何故か涙が零れる。


せっかく買ったペンライトを振ることも。

練習したコールを発することもできないまま。

チユを、見続けて一曲目は終了した。


二曲目が始まっても、おれはチユを見続けている。

今度は練習した通りにペンライトを振り、周りに合わせてしっかりとコールもした。


――一体感。


実際に現場に立ってコールして初めて分かった。

あの地獄のカラオケを経験してよかった。

心からそう思えた。


――好きだよ(おれもー!)

――誰が好き?(チユが好き!)


練習したおかげで、スムーズに声が出る。

二曲目が終わる頃には、おれはもうライブの虜になっていた。


「改めまして、私たち……」

「「「HIGH&MEです!」」」


二曲目が終わるとMCコーナーに切り替わり、周りは座り始めた。

おれも座り後ろを見てみると、秋穂は呆然としたまま、一人立ったままだった。

そして、周りが座っていることにようやく気づいたのか、慌てて座っていた。


その後、立て続けに五曲歌い、再度MCコーナーがやってきた。


「では、ビギナーライブ恒例のプレゼントコーナーのお時間です!」


周りがざわめき出す。


「今回はグッズで出してるブロマイドフルセット!」


うぉーーーー!と、周りから雄叫びが上がる。


「しかも!メンバー全員のサイン入り!おまえら嬉しいかー!」


うれしいーーーー!

うらやましいーーー!


両方が聞こえた。

定番コーナーと聞いていたので、この反応も含めてお約束なんだろう。


「当選者は全部で六人!各メンバーから二つずつ手渡しするからね!当選だけじゃなく、推しが当ててくれることを祈りなよ!」


まずは左端のミユからくじを引いていく。


「28番!」


後ろを見ると秋穂が信じられないといった顔で雪也を叩いていた。

雪也は呼ばれるがままに、ステージに上がっていく。


「おめでとう!」

「ありがとうございます!」


いつも通りの様子で受け取る。

おれならきっとまともに返事できないだろう。


短い会話を挟んで、雪也はステージから降りていった。

その後も順にくじを引いていき、最後にチユの番が来た。

おれはここまで当たりがない。

ラストチャンスだった。


――頼む!


その祈りも虚しく、全く違う番号が読まれた。

まぁ、雪也が当たったし、あとで見せてもらおう。


「あれー?まだ余ってる?」


ステージではわざとらしい声が聞こえた、定番のやり取りなのか、後ろからは


「いつものやつー」


なんて、言葉が飛んできていた。


「この余ったやつはどうしよっかー?」

「ちょーだーい」


後ろからは慣れているような声で誰かが叫んでいる。


「なんと、ここにもうひとつ箱がありますねー。じゃあ深く考えず引いてみましょう!」


定番のやり取りなのか、慣れた手つきで箱から一枚の紙を取り出す。


「チユ!」


その紙にはチユと書かれていた。


「チユのコーナーは私を見つけてくれた人だね!」


あとから聞いた話だと、他のメンバーだと数字あてやボール投げなど、これも定番のコーナーらしい。


「じゃあ、ここからはチユ!任せた!」

「任されました!」


そう言って、チユが中央に出てくる。


「みんな、この間のブログに書いたこと覚えてる?」

「Bメロの人ー」

「UO炊いたカップル!」


後ろからはそんな声が聞こえてくる。


「じゃあ、その人がここにいたらその二人にあげちゃおうと思うんだけどいいかな?」

「「「いいよー」」」


そんなやり取りをしながら、チユは辺りを見回す。

おれと秋穂で一瞬視線が止まったのは気のせいではないだろう。


「じゃあ、そこのキミだよね?あと、そこの女の子?」


チユがおれと秋穂を交互に見てそう告げる。


「お?来てるのかー、じゃあ二人ともステージに上がっちゃおう!」


スタッフに連れられて、おれと秋穂がステージに上がる。

ステージは思った以上にライトの熱が近く、立っているだけで汗が滲み出てくる。

目の前にはライトに照らされ、キラキラと光るチユがいた。


「今日は来てくれてありがとう!」

「チユちゃんだぁ……」


秋穂は既に涙が零れていた。

おれはと言うと緊張で何も言葉が出なかった。

いまなら、右手と右足が一緒に出てしまいそうだ。


「あのとき、ほんと嬉しかったんだよ。二人で私に並んでくれて。だからついブログに書いちゃった」

「チユちゃん……」

「今日は楽しめた?今日の思い出に、これ受け取って!」


そう言って、おれと秋穂にブロマイドを渡してくれる。

それを落とさないよう、慎重に受け取る。


「チユの心を動かした少年と、彼女さんに拍手!」


最後にマユが場を締める。

会場からはたくさんの拍手が鳴り響く。

今更ながら多くの人に見られてたことに気づいて、照れながらステージを降りていった。


その後、三曲を歌い、今日のライブは終了した。



「千夏おまえ、卒業証書じゃないんだから、もっと受け取り方あっただろ!まじ笑いこらえんの大変だったぞ」


会場を出て目が合った瞬間、雪也が爆笑し始める。


「んなこといっても、丁寧な受け取り方なんて他に知らないんだからしゃーないだろ」

「おにい、あれは私もどうかと思った」


そして、知らない人たちからも「おめでとう!」と声をかけられ、恥ずかしさがどんどん増していく。


「おにい!」


秋穂に呼ばれて振り返る。


「これはおにいのおかげだから」


ブロマイドを大事そうに胸に抱えて。


「同担拒否だけど、今日だけは許す!」




あとがき


ここまで読んでいただきありがとうございます。

続きも読んでいただけたら嬉しいです。


読後に何か残るものがありましたら、リアクションやコメントで反応をいただけると励みになります。

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