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第03話 同担拒否だから、家にいるのが嫌!

「なるほど、他界は拒否されたんですね」

「で、週末ライブに行くんだけど、なんか気をつけることとかあったら教えてくんないか?」


週末のライブに行くにあたって、ライブの注意事項などを宮沢に聞くことにした。

こういうことを聞ける人間が近くにいたのは本当に助かる。


「じゃあ、カラオケでも行きましょうか」


陰キャを絵に描いたような宮沢から、まさかのカラオケの誘いだった。

ライブについて聞いてカラオケというのが不思議だが、なにか考えがあるんだろう。


「まじで?おれも行く!」

「よし、HIGH&MEの良さを叩き込むチャンスだな」


雪也も横から入ってきて三人でカラオケへ向かうことになった。

きっと、雪也もハマってくれるよな?


結局、宮沢くんのライブ講座の名のもとに、ペンライトの振り方や、コールについて叩き込まれた。

まさか、一曲も歌ってないのに声が枯れるとは思わなかった……。



ライブ前日の金曜日、学校帰りに秋穂に呼び出され池袋で途中下車していた。

この辺では大きい駅なこともあり、同じ学校の生徒などもたくさん見かける。


「よっ!同担!」


普段なら抱きついてくるところ、普通に声をかけられる。

それだけのことなのに妙に調子が狂う。


「明日はライブです!なのでその準備をしましょう」

「準備ってなにするんだ?」

「ペンライト買わないとでしょ!」


そういえば、忘れてたな。


「あと、チユちゃんのチェキ!机に置きっぱ!」


いつバレたのか分からないが、チェキは机の上に置いたまま放置されていた。


「同担がチユちゃんを雑に扱ってるのは耐えられない!なので、アルバムも買います!」


店へ向かう途中、横で秋穂が推しに対する真摯な態度という名目でクドクドと説教をしてくる。

そんな言葉をはいはいと受け流しながら、店へと向かった。


「いっぱいある……、どれがいいんだろ?」


ペンライトは色々な種類があった。

チユ推しだし、安いオレンジの単色でもいいかと思っていたけど、宮沢にそれは止められていた。

最低限、全メンバーの色が入ってるのにしろ、じゃないと後で後悔する。そんなことを言われていた。


宮沢くんのおすすめは聞いていたので、サンプルを試しつつ、勧められたものに決める。


「クラスのやつにこれを勧められたからこれにするかな」

「え?高くない?」


確かに一番安い単色のだったら二本買える値段だった。

でも、


「まぁ、高くてもこれがオススメって言われたからな、とりあえずこれにしてみるわ。秋穂は?」

「私はこれを二本買う!みんな両手に持ってたから、私も両手で持ちたい!」

「単色はやめた方がいいって言ってたぞ」


その言葉で、秋穂はもう一度考え直す。


「でも、やっぱり二本持ちたいからこれにする」


結局、単色を二本買うことに決めていた。

ペンライトを選んだあとは、UOを買うかどうか二人で悩む。


25本入り3000円。


学生には手を出しづらい値段だった。


「どうする?二人で買って分けるか?」

「うーん、今回はパス!特典会行きたいから節約しよ」


特典会に参加するためにはまたCDを買わなくちゃいけない。

そのためにはまたお金がかかる……

そう考えるとさすがに節約するか。

定期で行ける範囲でのライブが多いのがせめてもの救いだな。



色々と買い込んだおれと秋穂は何故かカラオケに来ていた。


「同担くんが恥ずかしい思いしないように、私がコール教えてあげる!」


既に練習済みなんだけどと思いながらも、そういうと秋穂が拗ねるのは分かっていたので大人しく付き合うことにした。


「はいこれ!コール表って言うらしいよ!作ったからこれみてがんばれ!」


わざわざ作ってきたらしいそれを見てみる。

秋穂から渡されたのは、歌詞に独特な丸い文字でルビが付けられた紙だった。

歌詞とコールを追いかけているうちに、秋穂はスマホをカラオケに接続して、動画を流し始める。


――コール動画


そう書かれた画面がカラオケの大型ディスプレイに映される。


「みんな色々叫んでたでしょ?あれがコールって言うんだよ。明日いっぱい叫べるようにこれで練習しよ!」


そう言って隣に座る。

肩が触れ合う。

いつも通りの距離。

いまは、その距離に少し安心する。


スピーカーからはイントロが流れ出す。

三小節目から画面内の男が叫び出すのに合わせておれも一緒に叫ぶ。

秋穂はワンテンポ出遅れていた。


歌が始まり手拍子が始まる。

秋穂のテンポは少しズレていた。


Bメロ、サビ、間奏。


練習した通り、最後まできちんとできたと思う。


「ねえ?なんでそんな上手くできるの?」


やばい、やりすぎたか?

そう思った時には、もう遅かった。


「もしかしてこっそり練習した?」

「そりゃあ、少しはな。でもこんなコール表作るなんて発想なかったし、秋穂はすごいな!」


秋穂を刺激しないように宥めながら、秋穂のことを持ち上げる。

というか、コール表を自分で作るなんて本当にすごいと素直に思った。


「でしょ!どうせなら完璧目指したいからね!」


どうやら、機嫌を直してくれたようで一安心だった。

その後、全曲を三周して予習は十分と秋穂も満足したようだった。


「じゃあさ!私が歌うからコールしてみてよ!チユちゃんの気持ち味わってみたい!」


そう言って、PVを流して自分も歌い始める。

相当練習したんだろう、歌詞も出ていないというのに完璧に歌っている。

おれは注文されたままに秋穂の歌にコールを入れていく。

二番のサビが終わったところで、秋穂の顔が近づいてくる。

距離が近い、普段から距離が近いとはいえここまで間近で顔を見ることなんてない。

秋穂がマイクを下ろす。


――あなたに見つけてもらいたい

――あなたを見つけたい


チユのパートだ。

囁くように歌うと、秋穂は何事もなかったみたいに元の位置へ戻った。

なんだったんだ……?


「うっわぁ、コール入るのめっちゃ楽しいんだけど!おにい、これからは全部コール入れてね!」


歌い終えた秋穂はいつも通りだった。

さっきのはなんだったのか、それを聞くこともできずに、ただ秋穂を見つめることしかできなかった。


「……なに見てんの」

「いや、めっちゃ練習したんだなと思って」

「同担に褒められても嬉しくないし!」


結局、退店のコールが鳴るまで、秋穂の歌にコールを入れ続けることになった。



夕食後、リビングで明日の予習とばかりに、テレビに映したHIGH&MEの動画を二人並んで見る。


「ここ!このチユちゃんの表情!これがいいの!」

「あー、この儚げな表情いいよな」


テレビに映っているのは、チユのソロパート。

見つけて欲しい。

その気持ちを儚い笑顔で表しているシーンだ。


「からの、このラストの全開の笑顔のギャップがまたいいよな。見つけて貰えたんだなって感じがしてさ」


歌の終わり、メンバー全員が最高の笑顔を向けているシーン。


「いやいや、ここはあなたを見つけたって方の笑顔でしょ!私は見つけたからあなたも見つけてねって語りかけてきてるんだよ!」

「まぁ、それも一理あるかもだけど」


納得はいかないものの、これ以上踏み込むとまた同担拒否モードに入るのが目に見えてるので、意見は引っ込めておくことにした。

宮沢くん曰く、同担拒否とうまくやるには相手を立てろって話だったしな


「全然納得してないじゃんか、これだから同担は」


引いた意味はあんまりなかったらしい。


「やっぱりキツイなぁ」

「いきなりどうした?」


秋穂は立ち上がって、おれの正面に来る。


「同担ってさ、普通現場でしか会わないじゃん?SNSはミュートすればいいし」

「まあ、そうだな」

「現場なら見ないようにするとか我慢もできるんだよね」


まだ、リリースイベントしか行ってないくせに、分かったようなことを言っている。

どこかの受け売りなんだろう。


「でも、おにいはずっと家にいるわけじゃん?」

「そりゃあそうだな」


逃げようと腰を浮かせたところで、肩を押さえられ立ち上がれなくされる。

義母の方を見ると、微笑ましいものを見るような顔でこちらを見ている。

逃げ場はなかった。


「どうしてもさ、比べちゃうんだよね」


秋穂の手に力が込められ、肩に指が食い込む。


「私より詳しいと悔しいし、詳しくないと情けないって思う」


込められていた力が抜けて、秋穂の手が遠ざかっていく。


「同担拒否だから、家にいるのが嫌!」



あとがき


ここまで読んでいただきありがとうございます。

続きも読んでいただけたら嬉しいです。


読後に何か残るものがありましたら、リアクションやコメントで反応をいただけると励みになります。

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