第13話 同担拒否だけど、おにいだけは許す!
ライブ当日、おれは朝早くから初めてチユに出会った池袋の公園に来ていた。
今日は隣に秋穂はいない。
ティッシュの人とも相談して、秋穂がいると逆効果という結論になったので一人で来ていた。
朝の公園に人気は少なく、静かな空気だけが漂っていた。
「今日は辛い立場に立たされると思うけど、頑張って、ボクもそばにいるし何人か理解してくれた人も近くにいるから」
隣ではティッシュの人が励ましてくれる。
名前を聞いたところティッシュの人って呼んでくれと言われたのでそうすることにした。
少しずつ人が集まってくるのをベンチに座り眺め続ける。
何人かはおれのことに気づいてこちらを見るが、近づいてくる人はいなかった。
公園の入口に、秋穂が入ってくるのが見えた。
こちらに気づいて、一瞬駆け出そうとしたところで動きを止め視線も逸らす。
その横に見知らぬ女性が近づいていく。
ティッシュの人が念の為とそばに居てくれる女性を探してくれていた。
そして、遂にライブの時間が始まった。
ステージには三人が並んでいる。
その中から右にいるチユが、一人だけ前に進み出る。
おれはそれを後方のベンチに座りながら見ている。
「今回の騒動でお騒がせしてしまい、大変申し訳ありませんでした」
それだけの短い挨拶だった。
チユは黙って頭を下げ続ける。
最初は、一本だけだった。
人の波の中で、小さなオレンジの光が点る。
それに続くように、また一本、また一本と光が増えていった。
気づけば会場の半分ほどが、チユの色に染まっていた。
チユはまだ頭を下げていて気づかない。
後ろのメンバーを見てみると、マユとミユはタオルを顔に当てて俯いている。
「よかったね」
ティッシュの人のその言葉が胸に響く。
歪んだ視界の中でおれはそのオレンジの光を眺めることしかできなかった。
その後のライブは何事も無かったかのように進んだ。
そして、最後のMCでマユが一言だけ告げた。
「私たちは三人でHIGH&MEです。これからも、HIGH&MEのことを応援してください!」
詳しいことは何も言っていない。
それでも会場には、再びオレンジの光が灯される。
チユという叫び声が聞こえる。
なぜか、Bメロの人という叫び声も聞こえる。
それでも、おれは声をあげることはせず、ぼやけた視界の中でただその光景を見守っていた。
ライブが終わり、特典会が始まる。
チユの列はこれまでと比べて明らかに短くなっていた。
直接文句を言うために並んだのであろう、不満げな顔の人もいた。
その中には、秋穂と一緒に雪也と宮沢の姿も見えた。
自分の推しではなくチユに並んでくれた二人には感謝しかない。
特典会が終わり人がはけ始めても、おれは座ったままステージを見つめていた。
そして、人がほとんどいなくなった頃、おれは一人帰路に着いた。
結局、おれのことを直接責めに来る人は一人もいなかった。
*
駅に着くと、そこには秋穂が待っていた。
「もういいよね?おにい一緒に帰ろ」
おれの腕にしがみついて歩き出す。
「おにい、SNSの反応見た?」
「見てない」
そんなことを考える余裕もなかった。
「えっとね」
「チユのことは許せないけど許す」
「Bメロの人ずっと座ってたな、逃げずに来たことだけは認める」
「兄なら仕方ない」
「逃げなかったチユが好きになった」
「最後のマユの言葉で他界思いとどまった」
「よく考えたら、お兄ちゃんに甘えるチユ可愛すぎる」
秋穂が口に出して投稿を読み上げていく。
何件も何件も、肯定的意見も否定的意見も片っ端から読み上げていく。
「ね、もうみんな怒ってないよ。いや、みんなは言い過ぎだけどさ。許してる人もいっぱいいるよ」
秋穂の言葉に少しだけ気持ちは楽になる。
「逃げなくて良かったでしょ?おにいが来たことで認めてくれた人もいるんだよ」
「そうだな……」
まだ、前向きに見ることはできない。
それでも、許されてもいいのかもしれないという気持ちは生まれ始めていた。
「おれ、これからもチユを推していいのかな」
「当たり前だよ!」
強い肯定の言葉だった。
「チユちゃんも絶対その方が喜ぶ!いつかこの出来事を伝説にするんだ!ってくらいで推し続けよ!」
「流石に前向きすぎないか?」
「後ろ向きより全然いいでしょ!」
たしかにな、そう思うことにしたら、ずっと残っていたモヤモヤがスッキリした。
すぐは無理かもしれない。
それでも、前を向いて推し続けようと決めた。
「おにいはさ、実の妹って分かっても、チユちゃんのこと推せる?」
「推せる」
「そっか……」
秋穂は少しだけ黙り込んだ。
「なら私のことも推せる?」
それはこれまでとは違うか細い声だった。
質問の意味が分からなくて、反応に困る。
秋穂を推すという意味が分からない。
秋穂を見ると俯いていて表情は見えない。
「ねえ、私のことは推せない?」
「推せる」
「チユちゃんより?」
「そうかもな」
秋穂は大事な妹だ、なによりも一番大事にしたいと思っている。
ふと、腕が軽くなる。
秋穂が離れていた。
目の前には夕焼けに照らされた秋穂が満面の笑顔でこちらを見ている。
「だったら……」
「同担拒否だけど、おにいだけは許す!」
*
あとがき
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