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第12話 同担拒否だけど、現場放棄は許さない!

翌日、学校に着くと早速雪也と宮沢がやってきた。


「おまえ、何炎上してんだよ!てか、どういうことだ?」

「千夏さん、見損ないましたよ」


ただ、炎上したと言っても狭い世界の出来事だ。

クラスでは二人以外には知られていないらしい。


「ごめん、今は何も言わないようにって言われてるから、説明できない。でも、やましいことはしてないから、それだけは信じて欲しい」


あの写真を見せられてやましいことがないと言っても、信じられないと思うけど、そこは信じてもらうしかないだろう。

二人になら言っても良いかとも思ったけど、それはやめておいた。


「まぁ、そう言うなら少しだけ待ってやるか」

「言いたいことは色々ありますけど、まぁそうですね」


二人にはどうにか許してもらえたらしい。


「千夏経由でマユちゃん紹介してもらいたかったんだけどな!」

「雪也さん、それは流石に不謹慎では?」


宮沢の標的がおれから、雪也へと向かう。


「ま、話せるようになったらちゃんと話してくれよな?」


非難の目を軽く受け流して、自分の席へ戻って行った。


「ぼくはそれなりに長くドルオタやってますけど、こういう騒動で引退した子も何度も見てるので、そこは覚悟した方がいいと思いますよ」


最後にクギを刺して、宮沢も席に戻って行った。


――引退


その言葉が重くのしかかる。

兄だと発表したとして、本当に落ち着くんだろうか?

落ち着いたとして、確実にチユファンは減るだろう。

昨日の夜何度も自問自答した問いが、また蘇ってくる。

どれだけ考えても、今おれにできることは何もない。

それでも、どうしても考えてしまう。


少なくとも今後のライブには顔を出さない方がいいだろう。

裏でひっそりと、チユを応援する。

それだけでも満足だった。



授業が終わり、家に着くと秋穂はリビングでくつろいでいた。

おれの顔を見ると、少しだけ眉間にシワが寄った。


「おかえり、六時から事務所の発表があるってさ。一緒に見る?」


普段なら有無を言わさず一緒に見ることになるけど、今日は少し違った。

秋穂の中ではまだおれのことを許せないんだろう。


「見る……」


少し離れて隣に座ると、秋穂は擦り寄ってくる。

言ってることや表情と態度が違うけど、秋穂もまだ混乱してるんだろう。


「ねえ、チユちゃん大丈夫だよね……?せっかく見つけたのに引退とかなったら嫌だよ……」


先程までの不機嫌な顔から一転して泣きそうな顔でこちらを見上げてくる。

そんな秋穂の頭を撫でながら、遅々として進まない時計を見上げる。

あと五分……


テレビに動画サイトを映すと、既に準備中という文字とともに配信が開始されていた。

配信が始まる前だと言うのに、コメント欄は荒れていた。

非難する声、辞めろという声。

擁護する声もあったが、その数は圧倒的に少なく、非難の声に押しつぶされていた。


「こんなの酷いよ……」


秋穂がそう言うが、おれは何も言えなかった。

これはおれが巻き起こしたことだ、目をそらすことなんてできない。


六時になり、画面が切り替わる。

そこには頭を下げたチユとマネージャーらしき女性が映っていた。


「この度は、私の不用意な行動で、皆様を不安にさせてしまい、大変申し訳ございません」


チユのそんな言葉から会見は始まった。


«謝るくらいなら、なんであんなことしたんですかー?»

«お前のせいでマユちゃんにまで迷惑かかってんだけど?»

«チユ推しだったけど、推し変します»

«チユ推しだったから、他界します»


謝罪に対して、コメントが一気に流れていく。


「私には六歳の時に離れ離れになった兄がいます。」


ゆっくりとチユが話し出す。

画面には幼い頃のおれと千冬の写真が映し出される。


「離れてからは一度も会うことはなくて、兄がいたことすら覚えていませんでした」

「そんな兄が私を見つけてくれました。最初は分からなくて、少しずつ違和感が重なっていって」

「母に聞いたら、兄だということが分かりました」


そこで言葉を区切り、脇に置いていた水を一口だけ口に含む。


«おにいちゃん?»

«できすぎだろ»

«Bメロお兄ちゃん!»

«都合良すぎてだれも騙されない»


当たり前だけど、それを信じる人はいない。

チユもコメントは見てるであろうに、動揺する様子は見られない。

こういう所は、流石はプロだなと、場違いな感想を抱く。


「ねえ、誰も信じてないよ。大丈夫かな?」


不安そうな様子で、おれを掴む手にも力が入る。


「昨日は母に頼んで兄との食事会でした。」


画面には昨日撮ったであろう三人の写真が映される。

おれと母の顔は隠されているが、服装から同一人物と分かるだろう。


「私はずっと、お兄ちゃんという存在に憧れてました。そのせいではしゃぎすぎた結果があの写真です」


今度は問題の画像が映される。

チユがおれに抱きついて、おれが頭を撫でている。


秋穂の手が伸びて来て、おれの手を自分の頭に乗せる。

仕方ないので、そのまま撫で始める。


「今回の件は以上です。例え兄だったとしても軽率な行動だったと反省しています。」


チユは画面の中で立ち上がる。

そして、改めて深く頭を下げる。


「改めて、皆様を不安にさせてしまいましたこと、誠に申し訳ございませんでした」


その姿勢のまま、数十秒無言の時間が続き、配信は終了した。


「おにい、チユちゃん大丈夫かな?」

「分からない……」


最終的には好意的なコメントもたくさんあったが、それでも否定派の意見が圧倒的多数だった。


「せっかく大好きな相手見つけたのに居なくなったら辛いよ……」


そう言って泣き続ける秋穂を、おれはただ慰めるしかできなかった。



翌日、学校からの帰り道、駅前で急に声を掛けられた。


「Bメロの人くん、だよね?」


炎上の際に、学校などは特定されていた。

アンチに刺されないように気をつけろと宮沢には言われていたが、まさか本当に誰かが来るとは思ってもいなかった。

振り向くとそこにはティッシュの人がいた。


「キミを引き込んだのは僕みたいなもんだからね、責任を感じて少し話に来たんだ」


この人は何も悪くないし、むしろ感謝してるくらいなのに、申し訳なさそうな感じで頭を下げられる。


「よかったら、喫茶店でも入って少し話さないかい?彼女も呼んでくれてもいいよ」


そう言って、駅前の喫茶店を指さす。

詳しい人に話が聞けるならと、お言葉に甘えさせていただくことにする。

秋穂にも連絡すると、すぐに来るということだった。


「話は彼女さんが来てからの方がいいかな、少し待とうか」

「いえ、秋穂は彼女じゃなくて妹ですよ。よく間違えられますけど……」

「チユちゃんだけじゃなく、あんな可愛い妹もいるなんて、羨ましいね」


そんな話をしているうちに、秋穂が店に入ってくる。

男はレジに向かい、秋穂が注文した分の支払いだけして先に戻ってきた。


「さて、何から話そうか」


秋穂が席に座ったところで、男が居住まいを正して頭を下げる。


「まずは、この騒動のきっかけは、君たちを誘った僕にもあると思ってる。本当に申し訳ない」

「そんな、お陰でチユちゃんに出会えたんだから、感謝しかないですよ!」


秋穂が慌てて、頭を上げさせようとする。


「それでも、申し訳ないと思ってる。何か困ったことがあったらなんでも協力するから、気軽に相談して欲しい」


ファン歴が長い人が味方についてくれるのは正直心強い。

それでも、この人に背負わせるのは違うということくらいはおれにだって分かっている。


「何かあったら、相談させてもらいます」

「うん、できる限り力になるよ。それで、この告知は見たかい?」


それは運営からの告知だった。


========================

週末のフリーライブは予定通り実施します。

また、その場でチユより皆様に直接ご挨拶させて頂きます。

========================


その告知は、やけにあっさりしていた。

でも、その内容はとても重たかった。


「チユちゃん、出るんだ……」

「大丈夫なのか……?」


この騒動の後に、実際にファンの前に立つ。

それはどれだけ辛いことだろう。

周りからは非難の声が上がるだろう。

その矢面に立つのはおれではなくチユだ。


SNSでの非難で擦り切れそうなおれとは違って、そこに立とうとしている。

でも、おれにはその場に行く資格は、もうないように思えていた。


「チユは強いね、僕はそのまま引退するアイドルを何人も見てきたけど、君のことを認めてもらうために足掻こうとしてる」


チユがステージに立つところを想像する。

昨日のコメント欄にあった言葉が直接投げかけられる。

それでも、気丈に振る舞って心の中で泣きながら謝罪する。

そんな情景が浮かび上がってくる。


「もし来るのであれば、僕は全力で君たちを守るよ。でも、辛い立場に立たされると思うから、来なくても責めることはない。今日はね、それを言いたかったんだ」


数回しか会ったことのない、しかも、まともに話したこともないおれたちに、こんなことを言えるなんてすごい人だな。


「ありがとうございます」

「あとは、二人でゆっくり考えるといいよ。それじゃあ僕はもう行くね」


本当にそれだけを言うためにわざわざ来てくれたんだろう。

あっさりとそう言って、男は店を出ていってしまった。


「おにいはどうするの?」


これまで気を使っていたのか静かだった秋穂がようやく声をあげる。


「ちょっと、考えたい」

「そっか、私も少し考える」


結局その後はまともに会話することもなく、家に帰りついた。



週末まではあっという間だった。

明日はフリーライブが控えていた。

秋穂もおれに考える時間をくれるためか、HIGH&MEの話題は一切出さずに過ごしていた。


「秋穂、明日なんだけど」


ようやく結論を出して、秋穂にそれを告げる決意ができた。


「おれは行かない。行く資格なんてない」


胸に鈍い衝撃が走る。

目の前には、おれの胸に拳を当てた秋穂がいる。

その目には涙が溜まっていた。


「おにいは逃げないって信じてたのに……」


――逃げ。


その言葉が重くのしかかる。

おれにとって「ケジメ」だと思ってた結論は、「逃げ」だったんだろうか。


「チユちゃんは戦おうとしてるんだよ。なのに、おにいは逃げるの?」


その言葉に固まるおれを秋穂が抱きしめる。

優しく慰めるように、ゆっくりと抱きしめる。


「辛いのは分かる。怖いのも分かる。でも逃げるのは違うよ」


一言ずつ区切るように、ゆっくりと告げてくる。


「チユちゃんはきっとおにいに見てもらいたいと思う、だから私もそばにいるから、逃げないでよ」


秋穂の声が少し震えてくる。

おれも視界が霞んで秋穂のことがよく見えない。


「私の大好きなお兄ちゃんは、絶対に妹を一人になんてしないんだから……」


秋穂の指が、おれの涙をそっと拭った。


「……同担拒否だけど、現場放棄は許さない」




あとがき


ここまで読んでいただきありがとうございます。

続きも読んでいただけたら嬉しいです。


読後に何か残るものがありましたら、リアクションやコメントで反応をいただけると励みになります。

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