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断罪無視して世界を揺らす -悪役令嬢は歌いたいだけー  作者: 南蛇井


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Ⅲ.内部振動の発見

小屋の中は静まり返っていた。


遠くの都市から届く融合演奏も、ここではほとんど空気の震えにしか聞こえない。


机のランプの光が、薄く部屋を照らしている。


アリアは椅子に座ったまま、胸に手を当てていた。


さっきから続けている鼻歌。


「……ん」


弱い振動。


声とは呼べないほど小さい。


けれど今は、そのわずかな揺れを逃さないように、彼女はじっと耳を澄ませていた。


音を聞くのではない。


振動を感じる。


鼻腔の奥で生まれた揺れが、頬骨を伝い、頭の奥へ回る。


そこまではもう理解していた。


だが、もう一度同じ鼻歌を続けたとき。


「……ん――」


何かが変わった。


胸の奥で、小さく“コツン”と何かが触れたような感覚。


アリアは眉をひそめる。


そしてもう一度。


「ん……」


今度ははっきりわかった。


胸の奥の鼓動。


ドクン。


ドクン。


そのリズムと、鼻歌の微振動が――


ほんのわずかに、重なっている。


アリアは思わず息を止めた。


鼓動は止まらない。


ドクン。


ドクン。


その拍に合わせるように、彼女はもう一度鼻歌を流す。


「……ん」


振動が、胸に触れる。


鼻腔から始まった揺れが、

喉を通らず、

外へも出ず、


体の内側を伝って、


鼓動に近づいていく。


呼吸がゆっくり整う。


吸う。


吐く。


そしてまた鼻歌。


「……ん」


次の瞬間。


三つのリズムが、わずかに重なった。


呼吸。


鼓動。


鼻腔振動。


吸う。


ドクン。


ん――


微かな同期。


ほんの一瞬。


だが確かに重なった。


アリアの指先が、胸の上で強く握られる。


鼓動が早くなる。


ドクン。


ドクン。


その間に、もう一度鼻歌を差し込む。


「……ん」


今度は少し長く。


振動は弱い。


外に出れば、きっと誰にも聞こえない。


けれど体の中では違った。


胸の奥に、小さな波が生まれている。


外へ広がらない波。


体内だけを巡る波。


呼吸が揺れる。


鼓動が重なる。


鼻腔振動が滑り込む。


三つが完全には一致しない。


だが、少しずつ近づいている。


まるで、遠く離れていた歯車が、ゆっくり噛み合っていくように。


アリアの背筋に、小さな震えが走った。


これは――


外ではない。


舞台でもない。


観客でもない。


体の中だ。


彼女はもう一度鼻歌を出す。


「ん――」


鼓動。


呼吸。


振動。


三つの波が重なった瞬間、胸の奥で小さな共鳴が生まれた。


広がらない。


爆発もしない。


ただ、内部で確かに鳴る。


静かな波。


アリアの目が大きく開いた。


そのまま、信じられないように胸を見つめる。


そして、ゆっくりと呟いた。


「……中で」


呼吸。


鼓動。


鼻歌。


三つの揺れが、まだ胸の奥で続いている。


外にはほとんど聞こえない。


けれど体内では、はっきりとした波が生まれている。


彼女は、震える声で続けた。


「……中で鳴ってる」


外の空気は揺れていない。


都市の音楽とも混ざらない。


それでも確かに、ここにある。


これは――


外部共鳴ではない。


誰かと重なる歌ではない。


自分の内部で生まれる共鳴。


アリアは静かに息を吐く。


そして小さく言った。


「……内部共鳴」

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