Ⅱ.王レクイエム
王レクイエム。
その名は、今ではほとんど伝説のように語られている。
彼が人間なのか。
あるいは別の何かなのか。
それすら、もう誰も知らない。
ただ一つだけ、確かなことがある。
彼はこの世界で
最大の共鳴体であるということ。
音律魔法文明において、共鳴体とは力の源だ。
強い振動を生み、広範囲に共鳴を広げる存在。
だがレクイエムは違う。
彼は共鳴を生み出さない。
逆だった。
彼の能力は、ただ一つ。
静域。
それは振動を消す力。
空気の揺れ。
大地の震え。
魔法を生む旋律。
すべてを沈黙させる力。
共鳴は止まり、
音律魔法は崩れ、
振動そのものが存在できなくなる。
音律魔法文明にとって、それは――
根源の否定だった。
人々は歌えなくなり、
魔法陣はただの線になり、
都市を支えていた旋律装置は次々と停止した。
世界は突然、
静かになった。
それはゆっくりと起きた出来事ではない。
たった一度。
一瞬だった。
戦争の終わり。
無数の国家が音律兵器をぶつけ合い、
空は轟音で裂け、
大地は共鳴暴走で崩れ始めていた。
その時――
レクイエムは力を使った。
静域。
それは一都市でも、一国でもない。
世界規模。
音が止まった。
歌が消えた。
振動が消滅した。
魔法は、そこで終わった。
戦争も終わった。
そして世界は知る。
この文明はもう、
王の許可なしには歌えないということを。




