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世界静域の時代 Ⅰ.世界の前提
かつて、この世界は音でできていた。
人々は剣ではなく歌を持ち、
魔法陣ではなく旋律を描き、
力ではなく共鳴で現実を動かしていた。
それは音律魔法文明と呼ばれている。
音はただの空気の揺れではない。
この世界では、振動そのものが力だった。
歌えば、火が灯る。
旋律を重ねれば、都市が浮かぶ。
和音が広がれば、空は雲を動かし、雨を呼ぶ。
人々はそれを当たり前のように扱っていた。
音律魔法の原理は単純だ。
振動。
それが世界に触れる。
振動はやがて共鳴を生み、
共鳴は周囲の現実を巻き込み、
そして現象へと変換される。
振動。
共鳴。
現象変換。
それが世界を書き換える三段階。
子どもたちは学校で音階を学び、
技師は都市を支える旋律装置を調律し、
音律師たちは大気の和音を整えて天候を管理する。
文明は音楽そのものだった。
街にはいつも歌があり、
塔の上では風の旋律が鳴り、
夜になれば共鳴灯が静かに光る。
この世界は、
歌うことで生きていた。
だが――
その文明を、
たった一人で終わらせた存在がいる。
歌ではなく、
沈黙で。
振動を生み出すのではなく、
すべての振動を止める力で。
世界の中心に座る王。
その名は――
レクイエム。




