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断罪無視して世界を揺らす -悪役令嬢は歌いたいだけー  作者: 南蛇井


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Ⅲ.世界静域

その日、世界は止まった。


誰もがそれを、あとになってから同じ言葉で語る。


**「あの日、世界は止まった」**と。


朝は、いつも通り始まった。


都市の中央塔では合唱師たちが朝の旋律を奏で、街路では職人たちが振動機構を調律していた。

市場の屋根では軽やかな和音が風を呼び、運河の水門は低いベース音でゆっくりと開く。


音律文明。


それは、音で動く世界だった。


歌えば火が灯り、

旋律で都市が動き、

和音で空が変わる。


誰もが音を使い、

誰もが振動を操る。


それが当たり前だった。


その瞬間までは。


最初に気づいたのは、音律技師だった。


中央発電共鳴炉。


都市を支える巨大共鳴装置の調律中、

彼は奇妙な違和感を覚えた。


弦を弾いた。


……鳴らない。


もう一度弾く。


やはり、鳴らない。


弦は確かに振れている。

しかし音が生まれない。


技師は首をかしげ、振動測定器を確認する。


針は動かない。


振動が――


存在しない。


「……は?」


その瞬間だった。


世界中で同じ現象が起きた。


楽師が歌う。


声が出る。


だが音にならない。


空気は揺れない。


振動が発生しない。


楽団の指揮者が杖を振る。


管楽器が沈黙する。


弦楽器も沈黙する。


打楽器さえも、鳴らない。


音が――


生まれない。


都市が止まった。


共鳴塔が沈黙する。


浮遊街区を支える旋律機関が停止し、

空中都市がゆっくりと沈み始める。


水門は動かない。


照明も消える。


火を灯すための歌が、

もう効かない。


音律魔法師たちは必死に詠唱した。


共鳴回路を起動する。


振動式魔導器を展開する。


だが。


何も起きない。


共鳴が起こらない。


振動が発生しない。


音律魔法の三原理。


振動

共鳴

現象変換


その最初の段階。


振動


それが――


世界から消えていた。


学者たちはすぐに原因を突き止めた。


いや、

正確には。


一人の存在に行き着いた。


王。


レクイエム。


彼の能力は一つだけ。


静域。


振動を消す力。


共鳴を停止させる力。


音律魔法の根源を――


無効化する存在。


そしてその日。


レクイエムはそれを使った。


個人に対してではない。


都市でもない。


国家でもない。


世界に対して。


空の彼方。


誰も到達できない高空。


そこに、彼はいた。


王。


レクイエム。


彼はただ、目を閉じていた。


歌わない。


奏でない。


ただ、存在するだけ。


だがそれだけで、


世界は静かになっていく。


振動が消える。


共鳴が消える。


音が消える。


やがて――


世界は完全な静寂に包まれた。


それは


巨大な静寂の領域。


世界を覆う


超広域振動抑制場。


名を。


世界静域。


その日。


文明は終わった。


音律魔法文明は、


完全に沈黙した。


そして人々は、


ただ一つの問いを残された。


なぜ王は、


世界を黙らせたのか。

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