↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/6

第2話 解説 窓があるのに「窓のない階」

 柴田ビルの二階には、通りに五枚、路地に十枚の窓がありました。それでも消防は「窓がない」と言いました。理由は、消防の「窓」の数え方にあります。


 行政書士の小川洋史です。第2話で鳴海がしたことが、現実の消防法でも通るのかを解説します。物語はフィクションですが、条文は本物です。


◆1 消防の言う「窓」は、出入りのための穴


 消防法では、火事のときに中の人が逃げ出したり、外から消防隊が入ったりできる窓が足りない階を「無窓階」と呼びます。明かり取りの窓がいくつあっても、この意味の窓が足りなければ無窓階です。


 10階以下の階では、数に入る窓について、おもに次のような条件があります。


・床から窓の下の端まで1.2m以内で、格子などがなく、外から開けるか、たやすく割って入れること


・道か、道に通じる幅1m以上の通路などに面していること


・いつでも開けられる状態にしておくこと


 そのうえで、消防隊が入れる大きさの窓(直径1mの円が入る、または幅75cm・高さ1.2m以上)が2つ以上あり、ある程度の大きさの窓の開く部分を合計して床面積の30分の1を超えれば、「窓のある階」になります。


 鍵の付いた網入りガラスの窓は、外にバルコニーのような足場がなければ、原則として数に入りません。窓のすぐ外の看板も、原則として避難の妨げとして扱われます。柴田ビルの表の五枚は、看板があってもなくても数に入っていなかったわけです。


◆2 窓の外に「1mの通り道」が要る


 窓の外の通路が、置きっぱなしの室外機やゴミ箱などで1mを切ると、その通路に面した窓は数に入らなくなります。残りの窓で条件を満たせなければ、その階は無窓階です。建ったときは普通の階だった建物でも、こうして無窓階になることがあります。逆に、通路の幅を取り戻せば、普通の階に戻れる見込みが立ちます。


 店の中で窓の前に棚やケースを積むのも、原則として認められません(棚と外壁のあいだに1m程度の通路をいつも空けておくなど、条件つきで認められる場合もあります)。


◆3 無窓階になると、要る設備が増える


 無窓階になると、普通の階なら要らない設備が必要になることがあります。ここでは、柴田ビルと同じ「無窓階にある飲食店の部分」に絞って、屋内消火栓が要る床面積を見てみます(ほかの用途では数字が変わります)。


 建物のつくり:屋内消火栓が要る床面積


 ふつう:150㎡以上


 耐火構造(鉄筋コンクリート造の多く):300㎡以上


 耐火構造で、壁と天井の仕上げも燃えにくい材料:450㎡以上


(準耐火構造の建物でも、壁と天井の仕上げを燃えにくい材料にしていれば300㎡になります)


 屋内消火栓にはポンプや水槽が必要で、工事費が大きくなりがちです。


 飲食店などが入るビルは、建ったときの基準ではなく、今の基準に合わせる必要があります。設置の命令が出ると、標識などで公示されます。命令に従わず危険が残ると認められれば、建物の使用の停止を命じられることもあります。


◆4 現実で気をつけること


・通知書の中身を読む:立入検査の結果の通知には、何が問題かが書かれています。思い込みで「看板のせいだ」と決めずに、どの窓・どの通路が理由なのかを確かめます


・工事の前に、消防署へ相談する:千万円単位の設備工事の前に、建物の使い方を戻すだけで済まないかを相談する価値があります


・約束を書面に残す:「路地に物を置かない」「窓の前を空ける」は、貸主と借主の両方が守らないと続きません。争いのない合意なら、行政書士が書面にできます。争いになっているときは、弁護士に相談します


・最後に決めるのは消防署:数え方の細部は、消防本部によって扱いが違うこともあります


◆5 鳴海の解き方は、現実でも通るのか


 条件がそろえば、通ります。柴田ビルの場合、次の三つが必要です。


・路地側の窓が、大きさ・高さ・合計の面積の条件を満たしていること


・路地を、表の道に出るまでずっと幅1m以上に保つこと(室外機とゴミ箱を移し、二度と置かない)


・店の中で、その窓の前をふさがないこと


 ひとつ付け加えると、「昔から何も言われなかった」ことは、「昔は基準に合っていた」ことの証明にはなりません。物語の鳴海は「建ったときは窓の役目を果たしていたはずです」と推し量りましたが、現実では、建てたときの図面や消防の検査の記録、昔の写真などで確かめます。


 次の話では、古い事務所ビルを宿に変えた人が、「前の持ち主のときは何も言われなかった」と言います。


 この解説の根拠条文(2026年11月時点)


・無窓階の定義と窓の条件:消防法施行令10条1項5号、消防法施行規則5条の5


・網入りガラス・看板・空地の扱い:昭和50年6月16日消防安第65号(行政実例)


・窓の前の棚などの扱い:昭和50年6月11日消防安第62号(行政実例)


・屋内消火栓が要る階:施行令11条1項6号・2項、9条


・今の基準に合わせる建物:消防法17条の2の5第2項4号、施行令34条の4


・命令・公示・使用停止:消防法17条の4、5条3項(17条の4第3項で準用)、5条の2

次は「第3話 用途を変えた日」です。


続きが気になったら、ブックマークをしておくと更新をお知らせします。ページ下の☆☆☆☆☆から評価をいただけると、次の話を書く大きな励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。