『公女殿下、平野の騎士と魔剣士をエヴァリュエーションする』
これ見よがしに冗長な口上を盛り付け、遅すぎる定型魔法を出力してドヤ顔を浮かべる魔法士たち。
そんな名ばかりの「魔法士団」が陣取る後方から、レクシア平野のさらに前線へと視線を移せば、そこには全く異なる「実戦」の空気が張り詰めていた。
総合野外演習――通称『ピクニック』とは言え、ここは数万の兵がひしめく国家行事の現場である。
前線に展開するのは、王都警護の第二騎士団や兵站を担う後方部隊を除く、第一、そして第三から第五騎士団。上空の対空防衛ログを受け持つ竜騎士団。そして、戦場の花形とも称される、王国最高峰の超火力職『魔剣士団』の面々だった。
「――来るぞ! 害獣の第2ウェーブだ! 前衛、盾殻陣を展開しろ! 一リコも下がるな!」
「魔剣士隊、前へ! 一撃でシステムを制圧するぞ!」
騎士たちの防壁の隙間から、鋭い眼光を放つ魔剣士たちが音もなく滑り出す。
彼らは魔法士のように外部サーバーから既製品をダウンロードするのではない。
自らの肉体に流れる生命エネルギー――生命力そのものである『プラーナ』をその身で直接コンパイル(錬成)し、武器に纏わせることで一時的に攻撃力を爆発的に限界突破させる、極めてストイックな前衛職だった。
「おおおおおッ! 『命脈錬成』ッ!!」
魔剣士たちが自らのヒットポイントをガリガリと消費し、その輝きをブレードへと収束させていく。
キィィィン、と空間が軋むような高周波の駆動音が響き、彼らの持つ剣が、眩い生命の光を纏った「魔剣」へと変貌を遂げた。
ドズゥゥゥンッ!
魔剣士の一撃が振り下ろされる。
プラーナによって物理・魔術の攻撃プロパティを最大まで上書きされた斬撃は、突撃王猪の強固な毛皮をいとも簡単に一刀両断し、大地に深い一文字の爪痕を残した。
自らのヒットポイントを削って放つ、絶対的な超火力。これぞ、形骸化した魔法士たちとは一線を画す、実戦組織としての誇りと技術の証明だった。
だが、そんな命を燃やす魔剣士たちの間を、さらに異質な速度で疾る『2つの影』があった。
若き魔剣士レオンハルトと、彼の師である老人ジュウベエだ。
二人は魔剣士団に所属していながら、この組織の絶対仕様であるはずの『プラーナの錬成』が一切できない。周囲の魔剣士たちから見れば、それは一種の出来損ない――欠陥データのようにも思えた。
だが――二人は、周囲のプラーナ錬成が引き起こす激しいエネルギーの残滓など、文字通り一リコもものともしなかった。
ザッ!
平野の草を爆砕する、あまりにも洗練された俊敏な足さばき。
凄まじい即応速度で、あっという間に突撃王猪の懐へと肉薄する。
「――シッ!」
短い呼気と共に、二人の手が奔った。
彼らが手にしていたのは、この国の伝統的な直剣とは明らかに規格の異なる、異形の武器。
まるで三日月のように細く、美しく湾曲した一振りの刃。
閃光が奔ったと認識した次のスコネッドには、突撃王猪の強固な首が、一切の抵抗ログを残すことなく虚空へと狩り飛ばされていた。
プラーナというエネルギーに頼らず、極限まで磨き上げられた純粋な『剣速』と『刃の軌道』のみで、世界の防御力を強引に突破せしめる規格外の技。
そんな命がけの熱い戦線の中、第一騎士団の新人騎士として配備されていたアーサーもまた、一本の剣を構えて前線に立っていた。
周囲の先輩魔剣士たちが「おおおッ!」と命を燃やしてプラーナを昂らせる中、アーサーだけは極めて冷静に、一リコの無駄もない最小限のステップで害獣の攻撃をいなし、正確無比な太刀筋で討伐をこなしていく。
(……相変わらず、いい腕をしていますわね。アーサーも、レオンハルトも)
遥か後方、最高級パラソルの下で優雅に紅茶を口に運ぶルーナティアは、『フィジカル・アナライズ』の眼で、アーサーの洗練されたモーションコードをプロファイリングしていた。
無駄な魔力も、過剰な生命力の消費もない。
彼のクリーンな戦い方は、見ていて非常に心地が良かった。
前線で繰り広げられる、魔剣士たちの生命力を削る圧倒的な実戦の熱気。
それを一リコの無駄もない美しいモーションで処理していくアーサーの姿を、ルーナティアは極めておっとりと、しかし頼もしげに眺めていた。
これほど安定した戦闘スレッドが走っているのだ。
定刻が来れば、この『ピクニック』は何のエラーもなく正常終了する――全組織の兵たちが、当然のようにそう油断しきっていた。
――その、数アインタムが訪れるまでは。
「はぁーあ。国家規模の演習っていうから緊張してたけど、ただの間引きか。退屈だなぁ」
はるか上空。
飛竜にまたがり、演習場の対空警戒に就いていた竜騎士団の新兵リチャードは、あくび交じりにそうぼやいた。
地上での激しいプラーナの輝きも、雲の上から見下ろせばただの小さな火花に過ぎない。
想像していたものとは違う、拍子抜けするほど安全な年中行事。
初の実戦経験を積むための飛行任務としては、あまりにも刺激が足りなかった。
「――ッ!!?」
次の瞬間、相棒である飛竜が、聞いたこともない悲鳴を上げて激しく身震いした。
手綱を握るリチャードの手が強張る。
飛竜の視線は、さらに上空――雲一つない、完璧な描画を保っていたはずの真っ青な青天の一点へとロックオンされていた。
そこには、ぽつりと。
インクを落としたような、不穏な『黒い点』が浮かび上がっていた。
「なんだ、あれ……? 事前の配備表に、あんな出現予定は設定されてないはずだぞ……?」
リチャードの脳内に、冷たいエラーの予兆が走る。
黒い点は、1リコの遅延もなく、幾何学的な速度で急速に「拡大」していく。
空間の描画システムそのものを強制的に書き換えるようにして現れたそれは、広大な影で陽光を遮る巨大な翼と、すべてを圧殺する圧倒的な質量――システム負荷を伴った恐怖のオブジェクト。
世界の仕様を完全に無視して強制ポップした、最悪のエラーデータ。
――古の災厄、上位竜。
「ギャオォォォォォォォォォンッ!!!」
大気を、平野を、そして構築されたすべての術式を物理的に破壊するような絶叫が、レクシア平野の全域に轟いた。
あまりの質量の違いに、伝統魔法の魔法士はもちろん、命を燃やしていた魔剣士団、上空のリチャードを乗せた竜騎士団の戦意が一斉にフリーズする。
その最悪の不具合の幕開けを感知した瞬間。
最高級パラソルの下で、紅茶のカップをそっとソーサーに戻したルーナティアの瞳が、すっと鋭く細められた。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
本作のベースは某超有名RPGの「ファイナルファなんちゃら」です。
魔剣士やナイト、竜騎士は、その名残りですね。
もっとも、実際に小説として形にするまでの間に、もりもりもりもりと色んなゲームや小説の影響が加算されてます。
そうした要素がどこから出典を得ているかは、ご想像にお任せします(でも、後書き欄を使ってべらべらと喋りそうな気はします)
「レオンハルト、名前そのまんますぎるだろw」「リチャードも、名前そのまんますぎるだろw」と思ってくださった方は、
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