『公女殿下、特権アタッカーの迅速な例外処理(お姫様抱っこ)によってサルベージされる』
(――起動、仕様外最大出力。『岩弾』ッ!!)
次のスコネッド。
ドラゴンの直下の地面から――描画エラーを起こしたかのような巨大な岩石のオブジェクトが、超高速で垂直に射出された。
ドゴォォォォォンッ!!!
レクシア平野に凄まじい衝撃音が響き渡る。
ルーナティアの放った巨大な岩石は、回避行動を取ろうとした上位竜の顎を正確無比にカチ上げ、その巨躯の首を、強制的に真上へと向かせた。
「グ、ギャァ!?」
完全に首を上へとはね上げられ、無防備な急所である瞳を天へと晒してしまった上位竜。
そこへ――生身で虚空を落ちながら、槍に自力の雷光を纏わせたリチャードの急降下突撃が、幾何学的な神速で肉薄する。
「これで……終わりだぁぁぁぁぁッ!!!」
一筋の流星と化した新米の竜騎士の槍は――。
ルーナティアが放った岩弾によってカチ上げられたドラゴンの頭部、その右目を真っ向から貫いた。
「グ、ギャァァァァァァァァォォォンッ!!!!」
レクシア平野全域を物理的にハッキングしていた龍圧が、痛烈な激痛の叫びによって激しく掻き乱される。
己の全体重と重力加速のすべてを一点に集中させ、ドラゴンの右目の奥深くへと無骨に突き刺さった、剥き出しの鉄の長槍。
上位竜は凄惨な血のパケットを撒き散らしながら絶叫した。
だが――その世界の仕様を超えた決死の直撃と引き換えに、リチャードの肉体にも凄まじい反動が直撃していた。
超高高度から生身でダイブし、ドラゴンの肉体へと突撃した落下ダメージ。
槍を突き刺した瞬間にリチャードの全身の骨が悲鳴を上げ、彼のヒットポイントは瞬時にミリ単位――完全な瀕死状態へと陥った。
「が、はっ……ッ!」
視界が急速にブラックアウトしていく。
それどころか、右目を潰されて狂暴化したドラゴンが、激痛のままにその巨躯の首を激しく振り回した。
長槍を握る手を強制的に引き剥がされ、リチャードの意識を失いかけた身体が、虚空へとゴミのように放り出される。
生身のまま、頭から地面へ墜落する――それは確実な絶命を意味していた。
――だが、その最悪のエラーを許さない『影』が、上空からマッハの速度で滑空してきた。
「ギャオォォォォンッ!!」
愛竜、ギルフォードである。
主の魂の再起動によって恐怖を克服した飛竜は、主を追って限界以上の速度で急降下を敢行していた。
ギルフォードはその強靭な翼で風を捉えると、地表に激突する寸前の座標で、虚空を舞うリチャードの身体をその背中で見事に回収してみせた。
リチャードの愛竜はそのまま一リコの減速もなく反転し、前線の危険領域を脱して――第六から第八騎士団が設営していたバックエンドの『救護天幕』へと滑り込んでいった。
(――よかった。間に合いましたわね……)
遥か後方、その鮮烈な救出ログを『フィジカル・アナライズ』の眼で視認したルーナティアは、お淑やかに小さく安堵のため息を吐いた。
新米竜騎士もその相棒も、なかなかにクリーンな根性を見せてくれた。
だが、救護天幕へと滑り込んだ彼の生命力は、一リコの猶予もない完全な瀕死状態を維持したままだ。
一刻も早く、私の魔術で治療をして差し上げなければ。
ルーナティア自身もその天幕へ向けて走ろうと、踵を返したその時――。
『――気を抜くな、ルーンっ!』
彼女の持つ杖のコアから、ライ・ヴァルク様の、余裕をかなぐり捨てた鋭い警告が割り込んだ。
右目を潰され、完全な狂乱状態に陥った上位竜が――周囲のオブジェクトをすべて無差別に消去する、破滅の蹂躙を実行したのだ。
――ブウォオンッッッ!!
大気を引き裂く音を立てて迫るのは、ドラゴンの巨大な尾。
それは凄まじい物理的な衝撃波を伴い、救護天幕へ向けて走り出そうと背中を向けた、まさにその無防備なルーナティアの座標へと、回避不能の速度で猛烈に迫り狂う。
(――ッ!)
いくら『無詠唱3並列』の規格外な魔術が使えようとも、踵を返した瞬間の硬直に対し、完全な物理演算の到達が早すぎる。
防御障壁の構築・展開プロセスの完了よりも――ドラゴンの尾の直撃が、数スコネッド早く到達してしまう。
絶体絶命のデッドロック。
だが。
――カカカッ、カカカッ、カカカッ!
「ルゥゥゥン――ッ!!」
その理不尽な強制消去を力ずくで書き換えるように、一頭の軍馬が戦場を爆走してきた。
聞き馴染みのある、どこか不敵で聡明な声。
第一騎士団の新人騎士であり、ルーナティアの全てを知る唯一の理解者――アーサーだった。
彼はドラゴンの尾がルーナティアの小柄な身体を押し潰す寸前、並の物理演算を遥かに置き去りにした最短経路で愛馬を滑り込ませると、馬の背から大きく身を乗り出した。
高度な体術、一リコの無駄もない美しいモーションで、ルーナティアの身体をすくい上げる。
「あら、アーサー」
「まったく――君は、無茶をする」
次のスコネッド、ルーナティアの身体はふわりと宙を舞い、アーサーの逞しい両腕の中へと完璧にホールドされていた。
世に言う、完璧な『お姫様抱っこ』の体勢である。
アーサーはそのまま絶妙な手綱捌きで馬の進路を一八〇度反転させ――ドラゴンの尾が大地を爆砕した絶望の攻撃範囲から、ギリギリのところで完全離脱してみせた。
「全く、前線に出すぎだ。いくら君のコードが頑丈でも、心臓に悪い」
「ふふ、ごめんなさい。ですが、助けてくださってありがとう存じます」
腕の中で少しもおっとりした態度を崩さないルーナティアに、アーサーは「相変わらずいい性格をしてる」と苦笑しながら、馬を駆って安全圏へと脱出していく。
背後では、片目を完全に破壊され――これ以上の戦闘継続は、自身の生命維持に致命的な支障が出ると判断した上位竜が、無念の逃亡ログを出力していた。
「グ、ギャァァォォォォンッ!!」
バサァ――ッ!
これ以上のアクセスを拒絶するように、ドラゴンは大きく翼を広げると――凄惨な血のパケットの軌跡を残しながら、レクシア平野の彼方へと猛烈な速度で離退していった。
雲一つない真っ青な青天へと消えていく、世界の不具合。
形骸化した魔法士たちには手も足も出なかった最悪のエラーデータは――若き実戦職たちの泥臭い意地と、前線へ飛び出した公女殿下のリファクタリングによって、ひとまず正常な処理へと書き換えられたのだった。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
お姫様抱っこ!
お姫様抱っこですよ!(机バンバン!)
リチャードの決死のダイブアタックにより、危機は回避されました。
が、リチャードは無事なのでしょうか!?
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