18.製作スキルもでき〼
ミネルの年齢設定は確か二十代前半くらいだった。
しかし、長身細身の体形やこの世界に転生してきたばかりのプレイヤーを導く役割のこともあって、もっと年上に見えるキャラクターだ。
私の目の前でダイラーに腕を引っ張られながら歩く女性キャラクターは、見た目は同じなのに、設定より年下のような印象だ。ダイラーが本気で掴んで引っぱっていなくても、むすっとしながらついていっている様子は特に、だ。
そのミネルが突然、灯台の入り口手前で、ダイラーの手をえいっと振り切り、光の玉になってパッと散った。
一瞬の出来事で、私の涙も引っ込んで唖然となった。
しかし、私やダイラーが何かする前に、光の玉は再び収束してミネルの姿の戻った。
「なによ。“観測者”って大嫌い!」
そう言って頬を膨らませているミネルの姿に。
「え? お前、今、逃げようとして、また戻ってきたのか?」
混乱気味のダイラーを鋭く睨みつけて、ミネルはふくれっ面のまま自分から灯台の中に入っていった。
「もう逃げないわよ。どうせまたここに来るんだし」
ミネルは灯台守が座っていた椅子にストンと腰を下ろすと、後からハテナマークだらけの顔で入ってきた私たちに目を輝かせながら、
「それよりお茶を出してくれるんでしょう? 私、ミルクティーが飲みたい。ミルクティー出してよ」
「なんだよ。NPCのくせに生意気だな」
「なによ」
またダイラーとミネルが顔を突き合わせてにらみ合う。
「他人に出すお茶っていったら緑茶とか紅茶とかなんだよ。なんでそんなもん飲みたがるんだよ」
「世間では流行っているんでしょう。あたし女子だし。飲みたがるのが当然じゃない」
「俺が、そんなもん流行っているなんていつ言った」
「言ってたわよ。『女子がミルクティーしか買っていかない。目当ての商品がないと文句言われる。色んなメーカーが増えて補充がヤバい。今までのと何が違うんだ』ってぶつぶつぶつぶつ。それって流行ってるってことよね」
どうもダイラーは仕事の愚痴をミネルに吐き出していたらしい。
私には言った覚えのないことばかりだ。そうか──今、ピンときた。
目の前にいるミネルは、私といたミネルじゃない。
ダイラーのミネルなんだ。
ここでは、ダイラーと一緒にいたミネルと、私と一緒にいたミネルは別のキャラクターとして存在しているんじゃないだろうか。ミネルが複数いるのなら、性格が違うこともありえそうだ。大人し気だった(と思っているのだが)私のミネルは他の場所にいるのかもしれない。
「のみたいー! のみたいのー!」
ダイラーのミネル──ダイラ・ミネルは足をバタバタさせて喚いた。
「あのなぁ。俺の持っているお茶は、ロンジェンが落としたお茶のパックだっつーの。あんな洒落たもんじゃない。文句言うな!」
「ミルクティー飲みたいー!」
「ああ! まったくもう!」
二人は平行線のまま、にっちもさっちもいかない。ここは冷静さを取り戻した私がなんとかするしかないな。
「ダイラー。私もロンジェンとの対戦でたまった無数のお茶パックと巨山羊の乳を持っている。製作スキルもまあまあだ」
「そうか。俺、調合はあんまり上げてないから。ミルクティーってレシピあるのか」
「やってみた方が早いだろ。知らんけど」
このゲームの製作スキルは戦闘スキルほど数がない。料理は薬と同じ調合スキルで作ることになっている。
調合スキルlevel3発動。私の前に鉄製の竈がついた作業台が出現した。
私は銀色の作業台の上にアイテム保管庫から取り出したてんこ盛りのティーパックと牛乳瓶(巨山羊の乳だけど)を並べた。
〈これで何を作りたいの?〉──作業台の下の竈が尋ねる。
「ミルクティー。三人分で」
レシピが台面に浮かび上がった。効果は各耐性+1。食器や道具は脇の引き出しの中だ。
ボウルにレシピ分量通りの乳とティーパックを抛りこむ。
そのボウルを竈に入れると、竈がボウルを温め、チーンと鳴った。
ボウルには温かく甘い香りのミルクティーができていた。
レシピにあるのはここまでだったが、店で売っていたのは冷たいミルクティーだろうから、浮かんでいたティーパックを取りあげ、料理用冷気魔法で冷ましてから3個のガラスのコップに注ぎ、氷とストローを入れて完成とする。
「はいお嬢さん、どうぞ」
ダイラ・ミネルはじっとコップを見つめたまま、眉をしかめてしばらく固まっていたが、おもむろにコップを手にすると、チュウゥッと軽くストローを吸った。
「どうだ、うまいか?」
ダイラーが訊く。
「まあまあってとこね。ミルクとお茶の味がするわ」
そっけない返事だがストローは離さない。
「そりゃそうだ。ミルクとお茶を混ぜたんだから」
ダイラーはコップを取って一息で飲み干して言った。
「こんなのを飲むために並ぶ奴の気が知れねぇんだよな」
「……俺は並んだけどな」
「そうなのかよ。おや、キャラ崩壊か?」
私は黙ってコップを取ってストローを吸った。何の味もしない。最新の感覚リンク型ゲームも味覚は作れない。あくまでも雰囲気だ。甘い香りも私の脳が状況から作り出した錯覚なのだ。
実際に味わえるとしたら、ロンジェンのお茶は中国茶なので紅茶ベースのものとは違う風味になる。そこが面白いのだろうが、飲み物の味の差なんて私にもダイラーのようにどうでもいいことだった。
──だから、それを喜ぶその人に合わせて「おいしい」と言ってもすぐに見透かされてしまった。
忘れかけていた人の半分怒っていそうな声が、ゲームとつながっていない頭の奥から蘇ってきた。
『そっかー。また私だけが楽しんでいるのかー……』
楽しんでいないわけじゃない。楽しんでいる君を見て楽しんでいた。
多分それも見透かされている。「わざわざつきあっていただいて申し訳ございません」と意地悪く言われたけど、手を繋いでくれた。カップを持って冷えた手を。
横から、ズズーと楽しみ終えた音がやけにリアルに伝わってきた。
「ごちそうさま」と、ダイラ・ミネル。
「作ってくれたから話してあげるか。本当は不意打ちで瞬殺したいところだけど」
「不意打ちなんてくらうか」と、ダイラー。「いったい何だっていうんだ」
「ここであなた達がやられてくれたら、私たちが完璧になるの。保存できなかかったデータを私たちが拾ってね」




