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神も人も〜人に砕かれた神の核を巡る、現代妖異譚〜  作者: 佐藤 潮


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閑話 相楽澪の受難

東京都某所・陰務省。

ここは、表向きには存在しない国家組織。

しかし、日本を陰で支える、なくてはならない存在でもある。


(そんな重責を負っているからなのだろうか。私の胃が痛くなるのは……)


「澪ちゃん、あたし今日はダメみたい」


 椅子の上で体育座りをし、わざとらしく、しくしくと泣いている赤髪の女がいる。

 久遠緋珠――陰務省の総監。仕事はやればできるし、実力も確かに認めている。


 でも。


「ここ見てよ!やっぱ見ないで!ニキビできちゃったの……」


 そう言って、両手でおでこを隠す素振りをする。


 ――これは、日々、面倒くさい上司と自由すぎるメンバーに振り回される私、

 副総監・相楽澪の苦難の記録である。


Case1・総監室にて。


「澪ちゃん、お願い?」


「総監、私の方こそお願いします。真面目にやってください」


 今日も相変わらず、緋珠の机の上には山のように書類が積み上げられている。


(やり始めたら早いくせに)


「今日はムリなのー。これはあれよ! 五月病ってやつだわ!」


(この人はなんて馬鹿なことを、キメ顔までして……)


「今は五月でもなければ、そもそも五月病は病ではありません」


「澪ちゃん、マジレスじゃーん」


 澪の胃が、きりきりと痛む。


「はあ……午前中にそれ、終わらせてくださいね。さもないと――」


 澪は声を落として、緋珠に告げる。


 すると緋珠も、ぴん、と姿勢を正した。


「も、もう。澪ちゃん、冗談じゃん! 冗談……はははは」


 乾いた笑い声が、総監室に木霊した。


Case2・訓練室にて。


 澪は緋珠の補佐だけではなく、様々な場所へ緋珠の代わりに顔を出し、常に陰務省内の状況把握もしている。


 澪が廊下を歩いていると、訓練室から何かが破砕する轟音と悲鳴が響いた。


(またか……)


 中へ様子を見に行くと、そこはまさしく死屍累々だった。

 殲異部隊と制縛部隊が、実戦形式で訓練という名の殺し合いをしていたのだ。


 その中央に立っているのは、各隊長の東冥斬と結城一。

 ほかの隊員は皆、地に伏している。


 澪は入口の両脇で気配を殺している二人に声をかけた。


「何度言ったら分かるのですか」


「すみません」


「まだ言われ足りないようです」


 殲異部隊副隊長、夜凪怜央。

 制縛部隊副隊長、御門皐月。


「はあ……今日中に報告書を提出してください。それと、今後はせめて頻度を減らしてください。今月で四度目ですよ」


「「善処します」」


 敬礼とともに、まったく信用のない返事が返ってくる。


 ――キリキリ。


Case3・廊下にて。


廊下の奥から、足音もなく駆けてくる影があった。


「あ、副総監殿!うちの隊長、見かけませんでしたか?」


 隠密部隊副隊長、御影澄明。


(ここもか……)


「籠杜さんですか?すみません、私は見かけておりません」


 御影は、あからさまに肩を落とし、ため息をついた。


 澪は御影のことを、自由奔放な上司を持つ者同士の“仲間”だと思っている。


「お互い、苦労が絶えないようですね」


 そう言うと、御影は乾いた笑みをこぼす。


「そうですね。ははは……」


「一応、見かけましたら、御影さんのことを伝えておきます」


「すみません、よろしくお願いします。それでは」


 御影はそう言い残し、また駆け足で廊下の向こうへ消えていった。


(……お疲れ様です)


 澪は心の中で、もう一度だけ労った。


Case4・医務室にて。


澪は医務室へ向かっていた。

常用薬の胃痛薬が、残りわずかになったからだ。


(減る速度が確実に早くなってる……)


 その事実に落ち込みつつ、医務室の前に着く。


 ノックのため扉に触れようとした、その時。中から不気味な笑い声が聞こえた。


 踵を返し、今日はやめておこうかと思ったが――背に腹はかえられない。澪は意を決してノックをし、扉を開けた。


 そこに居たのは、薬剤を調合しながら不敵に笑っている、祓医部隊隊長の毒島夷織。

 こちらには一切気づいていない様子だ。

鼻を突く薬品の匂いに顔を少し顰める。


 奥からパタパタと駆けてきたのは、副隊長の如月朔。


「副総監殿、お疲れ様です。今日もいつもの胃痛薬ですか?」


「はい、お願いします。毒島さんは相変わらずの様子ですね」


「大体そうですね。ちゃんと優先の仕事を片付けてからしてる分、文句はありませんが」


 朔はそう言いながら、手際よく薬を用意してくれた。


(羨ましい……)


 思わず自分の上司――緋珠と比べて、心の声が漏れそうになった。


「ありがとうございます。では、私はこれで失礼しますね」


「あ、はい」


 部屋を出る直前、朔が声をかける。


「あまり無理しすぎないでくださいね」


 にこっと笑顔を向けられ、澪は小さく頷いた。


「善処します」


 我ながら、意味のない返事だと思う。


Case5・その他。


幹部絡みは心労が絶えない。

しかし澪は、部下たちの面倒も見ている。


 緋珠へ上がってくる書類は、まず澪が精査する。

 そこで書類上のミスを拾い、部下との関係も築いていくのだ。


「副総監殿! ここなのですが――」


「副総監殿! また殲異部隊と制縛部隊が――」


「副総監殿! 籠杜隊長が――」


「「「副総監殿!」」」


 澪は遠い目になった。


(ああ、この仕事やめたい……)


 相楽澪の苦難の日々は、まだまだ続く。

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