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第二十四話

 年の瀬も迫り、世間では師走の喧騒がより一層顕著になっていた。だが、家の中でほとんどの時間を過ごす耕治にはそれほど実感が湧かなかった。その代わりに日々、少しずつ焦燥に似た感覚が膨らんで行くのを覚えていた。葛西家を支配し始めている圧迫感、その出所となっているのは日を増すごとに減って行く沙織の口数だった。

 このままではいけない。それは分かっているのだが、どうすればいいのか皆目見当がつかない。いや、分かってはいるのだ。分かっていてなお、どうする事も出来なかった。

 沙織が今のようになった原因は十中八九、介護疲れから来るものだろう。今の逼迫した生活もそれに拍車を掛けている。そう考えるとむしろ今までが平穏過ぎたと言える。このままでは沙織が壊れてしまう。そう思うと気が気でなかった。

 だが、異変を来していたのは沙織だけではなかった。耕治自身もまた鬱屈した感情を身の内に抱えていた。

 自分のせいで、自分さえいなければ。そんな自責の念が日増しに強くなっていく。

 今までは何とか家庭内の調和を保って来たが、ここ数か月でその調和に乱れが目立ち始めていた。見ないようにしていた不満や不安がここへ来て一気に溢れ出して来たようだった。

 こういう時、本来であれば夫である自分がしっかりしなければならないのだが、根本的な原因が自分にある以上何も言えない。

 それでも気持ちだけは何とか張っていた。今、自分が切れてしまったら沙織はどうなる。彼女は今とても不安定だ。

 たとえ出来ることはなくとも、せめて気持ちだけは強く持っていよう。その思いが耕治をギリギリのところで踏み止まらせていた。

 しかし、年が明け、三が日も過ぎた頃、それは起こった。

深夜、耕治は急に喉元に違和感を覚えた。ひんやりとした冷たい感触が首を絞めつけ、その感覚に耕治が目を開けるとそこには沙織の姿があった。彼女は虚ろな瞳でこちらを見下ろしながら耕治の首を絞めようとしていた。

「沙、織?」首を掴まれた耕治の口から掠れた声が出る。

 その声に沙織が反射的に手を放した。

「わ、私……。今、何を?」沙織は放心した様子でそう言うと、自分の両手を見つめた。「今、もしかして私、あなたを?」

 耕治に向けられたその瞳には恐怖の色が浮かんでいた。それはその瞳に映った耕治の表情にも同じことが言えた。お互い、今起こった出来事が信じられずにいた。

 翌日以降、二人の会話は完全に途絶えた。目を合わせることもなくなり、まるで他人の様に余所余所しく振る舞った。介護をする時でさえ沙織は耕治の顔を見ないようにしているようだった。

 会話が無くなった分、耕治には考え事をする時間が増えた。

 今、自分はどうするべきなのか。

 沙織に対し何がしてやれるのか。

 だが、その結論はいつも同じ所に帰結した。

 自分は沙織にとって不要な存在なのではないか。

 それならばいっそのこと……。

 耕治がそんな思いを抱いた時、電話のベルが鳴った。

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