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第二十五話

『お久しぶりです、葛西さん』電話口から聞こえて来たのは清々しいほど白々しい明るいトーンの声だった。

 その声を聞いて耕治はすぐに相手が誰かを思い出す。

「あんた、あの死神か?」

『はい。覚えて頂けて光栄です。先日、お邪魔した那由多です』

「何か用か?」

『ええ。そろそろ私どもの力が必要になるのではないかと思いまして』

「どういう意味だ?」

 耕治が尋ねると、一呼吸おいて死神が言う。

『死のうと思えば何だって出来るでしょう。自ら命を絶つくらいなら、いっそ有効活用しませんか?』

 死神の口調は耕治が抱えている問題やその胸中まで、すべてを見透かしているかの様だった。

「何が言いたい?」

『命はそんな簡単に捨てて良いものではないと申し上げたのです』

「あんたが言うと皮肉にも聞こえんな」

『そうですね。本心ですから』那由多は真面目くさった口調でそう言ってから耕治に尋ねる。『葛西さん、一度、私の話を聞いては頂けませんか?』

この前までの耕治ならきっとノーと即答していただろう。だが、今は迷いが生じている。その逡巡が相手に話を引き延ばす機会を与える。

「あんたの話とは?」

『もちろん、葛西さんの命をお売り頂けないかというお話です』そう言った那由多の口調は死神と呼ぶにふさわしい冷酷な響きを持っていた。だが、次の瞬間、彼は間の抜けたような明るい声を発した。『あーでも、勘違いしないで下さい。何も葛西さんの命のすべてをお売り頂こうという訳ではありませんから』

「どういうことだ?」

『それも含めて一度お話をさせて頂きたいのですが、如何でしょう?』

命をすべて奪われる訳ではない。それが少しだけ耕治の警戒を解いた。

「まあ、話を聞くだけなら……」

『それは良かった。では、後日、こちらからご自宅へお伺いさせて頂きます。ご都合の宜しい日はございますか?』

 耕治はカレンダーを見つめる。そこには沙織がスケジュールを書き込んである。それによると明日はちょうど沙織は出掛ける予定になっていた。他にもカレンダーには以前より増えた彼女の外出のスケジュールが書かれている。それらを見ながら耕治は答える。

「明日の午後一時以降なら構わんが」

『ではその時間にお邪魔させて頂きます』

「わかった」

『はい。それでは失礼致します。葛西様』

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