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第十七話

 十一月の第二日曜日。

 電話が鳴る音が聞こえ、耕治は読んでいた文庫本から顔を上げた。時計に目を向けると時刻は午後二時を少し回った所だった。耕治は文庫本に栞を挟むと受話器を取った。

 電話の相手は百合だった。彼女は今、姉の千絵と一緒にこの近くにあるデパートまで買い物に来ているらしい。その帰りにこちらに寄ってもいいかと電話を掛けて来た。

 耕治は二つ返事でそれを了承した。すると、それからに十分程で百合たちが葛西家のインターフォンを鳴らした。

 玄関を開けると、最初に百合が、「こんにちは」と言って顔を出した。

 続いて、姉の千絵が現れたが、それが彼女だと耕治はすぐに気付かなかった。耕治の記憶では千絵は百合よりも頭一つ背の高く、腰のあたりまで髪を伸ばしていた。だが、今の千絵の髪は肩のあたりで揃えられていた。

「ご無沙汰しています」千絵は耕治を見ると頭を下げてそう言った。「すみません。百合がいつもお世話になっていたみたいで。この子、そんなこと一度も話さなかったものですから。今までご迷惑ではなかったですか?」

「そんなことありませんよ。むしろ孫が出来たようで、私も家内 も喜んでいるくらいですから」

 耕治がそう答えると、百合は得意気に千絵の方を見る。

「ほら、お姉ちゃん。だから、言ったでしょ? 私、おじいちゃんたちとは仲良しなんだから」

「ええ、そうみたいね。でも、目上の人に対してあまり馴れ馴れしくしちゃだめよ」

「はーい」百合はそう答えると、辺りを見渡す。「あれ? そういえばおばあちゃんは?」

「あいつなら買い物だよ。だが、そういえば遅いな。もうそろそろ戻って来てもいいはずなんだが……」

「どうしたんだろう?」

「どうせ、また、近所の婆さん連中と話でもしているのだろう」

 耕治はそう答えたのだが、百合は念のためと言って沙織の携帯に電話を掛けた。

「あなた、奥さんの番号知ってるの?」

「うん。前に交換したから」

「あっそう……」

 電話がいつまでも繋がらずにいると、「何か、あったのかなあ?」心配そうに百合は言った。そして、少しだけ考え込んでから口を開く。「私、ちょっと様子見てこようか?」

「いや、大丈夫だよ、百合ちゃん。よくあることだから」

「うーん、でも、まあ一応?」百合はそう言うと、自分の荷物を千絵に預ける。「ちょっと行って来るね」

「でも、百合。あなた、葛西さんの奥さんがどこに買い物に行ってるのか知っているの?」

「駅前のスーパーだよね?」

 百合に尋ねられ、耕治が頷く。それを見て、千絵が首を傾げる。

「何で分かるの?」

「前に何度か買い物に付き合ったことがあるから覚えてただけ」

「あなたそこまで……」額を抑えて千絵が言う。

「まあ、そういうことだから。私ちょっと見て来るね。お姉ちゃん、玄関の鍵閉めといてね」

 言うが早いか、百合は玄関から外へ出て行ってしまった。

「……行っちゃった」

 残された千絵は呆然とした様子で百合を見送った。


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