第二十話『肝っ玉母ちゃん魔法……チートやん』
シェリナの話ではこの街は神魔国の中では比較的規模が小さな街らしい。
主要街道から外れているため小さな街だが荒野や森、草原など自然物資も豊富なため賑わっているようだ。
数軒の宿屋を回り、個室の空室のある宿屋に泊まることに決めた。
神速の暴風は男女混成パーティーなので、安く泊まれるけれど、共同部屋で雑魚寝ではなく個室の宿屋を探したのだ。
共同部屋はトラブルも絶えないらしい……
今は荷物のみ鍵付きの保管庫、コインロッカーのような所に預けることで睡眠中の盗難などを防いでいるらしいけど、ある程度実力が付いたパーティーや女性冒険者は共同で一部屋個室を借りるらしい。
まぁ、中には共同部屋に泊まるツワモノもいるみたいだけどね。
貴重品以外の荷物を部屋に預けて、酒場へ繰り出すガイズとアスタリと別れて街へと繰り出したユキとシェリナは、ヴォルフを引き連れて広場へと向かって歩き出した。
広場には露店の屋台が連なっており、野菜や珍しい交易品が売買されている。
香ばしく焼かれた肉の串焼きの香りに、空腹だと訴えるようにぐぅ~となった。
「先に少し食べてから動こう。買ってくるからシェリナはユキとあっちの花壇のところで場所を取って置いてくれ」
ヴォルフは当たり前のように屋台へと買い出しに行っく。
「さぁユキ!場所取り行きましょう」
シェリナに手を引かれて歩き出す。
どうやらこの神魔国の住人たちは長身の人が多いようで、楽しげに走っていく子ども達ですらユキの身長を超えている。
たしかにこれでは小学生に見えても仕方がないかな?
「ユキ、このテーブルを借りましょう」
目ざとく空いているテーブルを見つけて場所を確保したシェリナさんに手招きされる。
広場には露店で購入した食べ物を食べられるように簡易的なテーブルや椅子も準備されており、その中から空いている物を借りることにしたのだが……ううむ、汚い。
雨ざらしの上に風で巻き上げられた砂がこびりついてしまっている。
溢れたのか垂れたのか分からないが、油染みで所々ベタつくし、足元に散乱するゴミに顔が引きつる。
店内で食事を提供している酒場や召喚されたお城の食堂は、その店の店員さんがある程度清掃をしてくれていたから綺麗だったけど、やはり野外は別らしい。
「わかってる、ここは異世界……日本じゃない」
そう、郷に行っては郷に従え。
その国独自の文化や思想があるし、店の前にゴミがあればあるほど繁盛している証拠だと捉える国すらあることも理解している。
我慢だ、我慢すれば良い……我慢……無理ぃ!
自分の中で何かがプチっと切れた気がした。
使い慣れた【肝っ玉母ちゃんのやりくり上手】はこの世界の硬貨を使用して地球のものが手に入る。
いわゆる異世界間通販みたいな魔法だけれど、この汚れっぷりはユキの世界の掃除道具を入手しても、すぐに綺麗にできるような生易しい汚れじゃない。
地面に落ちているゴミを拾う事は可能だけれど、このベッタベタなテーブルを何とかしたい。
うんうんと悩んでいると、頭に浮かんできたのは肝っ玉母ちゃん魔法の魔法陣だった。
円形の中の二重丸の間に日本語で『肝っ玉母ちゃんの知恵袋』と表記され、ヒョウ柄の服を纏った笑顔のパンチパーマ風の髪型をしたおばちゃんが虫眼鏡を使用して本を読む姿が浮かび上がる。
突然の事にフリーズしていると、ご丁寧に説明文が浮かんでくる。
【肝っ玉母ちゃんの知恵袋】
肝っ玉母ちゃんの知恵袋は、過去に生きた歴代のお母ちゃん達の知恵を借りることができる能力です。魔法陣を思い浮かべてサーチと唱え、その後調べたいことを考えると教えてもらえるんやで!
……Goo……じゃなくて肝っ玉母ちゃんの知恵袋、地味にすごくないかな?
とりあえずこのベタベタ机を綺麗にする方法を検索してみる。
【肝っ玉母ちゃんの治癒の心得】
傷んだものを癒す力、なので治癒だけでなく壊れたものや汚れたものを修復する事も可能。
なので治癒によって毒は消せるものの、薬の副作用で急成長した身体は戻せない。
……肝っ玉母ちゃん魔法、万能すぎないかなこれ。
「ユキどうしたの?」
「シェリナさん、少し試したいことがありまして……やってみて良いですか?」
「なになに? やってみて!」
楽しげなシェリナさんの許可をいただいたユキは、ベタベタの机に意識を集中させると、テーブルの上に肝っ玉母ちゃんの治癒の心得魔法陣をコピペするイメージで貼り付ける。
「えっ、ナニコレ!?」
あっ、この魔法陣他の人にも見えるのか……シェリナさんの驚く声に苦笑しながら、ユキはテーブルとついでに椅子も少しずつ治癒、本来の綺麗な状態をイメージしながら魔力を込めていく。
なんということでしょう!
見る見る汚れたテーブルが逆再生するかのようにまるで新品のように綺麗になっていきます。
よし、これで心置きなく串焼きが食べられる!
まだ事態についと来れていないシェリナさんには悪いけど、内心ご機嫌に椅子に座ろうとした所で、ガシッと肩を掴まれた。
「もしかしてお嬢ちゃん魔術師さまかい!?」
鼻息荒いおばちゃん、じゃなくてお姉さんにガシッと肩を掴まれてしまった。
いいえ、私はただの肝っ玉母ちゃん系女子高生です。




