第十九話『旅の始まり』
アスタリさんのお誘いに即答せずに考える。
現状自分がどこにいるのかすらわからず、何の準備も出来ずに飛ばされた。
正直言って、またいつ魔物に襲われるかもわからないこの森の中から、集落へ同行させてもらえるのはありがたい。
それに……アスタリさんの後ろで平静をよそおっているけれど、尻尾が忙しいヴォルフさんが目に入ってくる。
「むしろこちらからお願いしなければならないのに、ご迷惑をおかけしますが、ご同行させてください。よろしくお願いいたします」
頭を下げと、ひょいっと身体を持ち上げられて宙に浮いた。
「こちらこそよろしく頼むユキ!」
ヴォルフさんの太い腕の上に座らされる形で抱き上げられてる……
「すまないねぇユキ、頑丈な乗り物だと思って我慢して」
ごきげんな様子のヴォルフさんに苦笑しつつ、シェリナさんに言われる。
同年代の少女たちに比べてどちらかというと逞しい方ではあるこの身としては、よもや高校生にもなって子どもみたいに誰かの腕に座らせられているこの状況に混乱してしまう。
しかし同時に守られる安心感が知らない世界で家族から引き離された不安を軽くしてくれる。
「そうと決まれば飯にしよう、よろしく頼むユキ」
「よろしくお願いいたします。いただきます」
ガイズさんが差し出してくれた堅焼きパンを受け取り、齧りつく。
どうやらこの堅焼きパン、ユキが召喚されたお城で出されていたものよりも日持ちするように改良されているらしい。
まるで岩を刮げて食べるようなこのパンは、スープがなければかなり食べるのに手こずるのではなかろうか。
この世界はなかなかに生きていくのが大変そうだ、パンにすら歯が立たない。
朝食後、出発する事になったのだけど、一悶着あった。
ユキは自分で移動すると行ったのだけど、なぜかヴォルフさんの背中におぶわれて移動することになった。
この広大な森林は神魔国の中でも外れにあり、この森を抜けても今度は荒野が待っているらしい。
運動不足と私の装備での踏破はかなり難易度が高いらしく、シェリナさんにもヴォルフさんに運ばれたほうが安全だとお勧めされた。
普通は魔除けなんかを使わずに移動するらしいのだが、移動を優先するらしくアスタリさんが魔除けの術をかけてくれた。
そのうえでバトルアックスを持ったガイズさんが先陣をきり、シェリナさんが木の枝を足場にして進行方向を確認しながらものすごい速さで進んでいく。
もちろん街道なんてあるはずもなく、あっても獣道、今回は最短距離で森を抜けるつもりのようで、足元は太い木の根や倒木、私の目線程に生い茂った草木……
歩ける気がしない、絶対に埋もれちゃう……
これはヴォルフさんによる運搬をお勧めされるるわけだわ。
それから野営を繰り返さすこと二日、とうとう私たちは森を抜けることに成功した。
「見ろユキ!あれが神魔国最果ての街、ムンドだ」
「凄い……」
まだ何キロも草原を挟んだ先にみえる大きく頑丈な外壁に囲まれた要塞都市ムンド。
「やっと街に出たわね、今日はあの街で宿を取りましょう」
結局私は保護されてからここまでの間に肝っ玉母ちゃん魔法の類は一切使っていない。
申し訳なさがこみ上げてくるものの、この異世界に日本人のお人好し常識が通用しないのはこの数ヶ月で嫌というほど理解した。
数日の旅で神速の暴風のみんながいい人なのは理解したけれど、悪い人ほど善人を装って近寄ってくるものなのだから。
「ユキ、疲れてないか?」
「ありがとうございます。大丈夫です、ヴォルフさんのおかげで元気です」
こちらの様子をうかがうように声をかけてきたヴォルフに礼を述べる。
「ユキ、あの街には公衆浴場もあるの、一緒に行きましょうね! ユキは入ったことあるかしら? ユキの着替えも買わなくちゃね!」
「えっ、お風呂があるんですか!? 入りたい、けど私お金持ってなくて……」
「あら! 心配する必要はないわよ、お財布ならヴォルフに出させればいいのよ将来の番のためにたんまり溜め込んでるからね」
「えっ、番さんのための貯めたお金を使ってもらうわけにはいきませんよ!?」
「あら、たとえ番じゃなくても女の子相手にケチるような甲斐性なしは、番を迎えられる器じゃないもの、気にせずムシって上げればいいのよ」
「そうだな、仮にも神速の暴風は高ランク冒険者だからな、遠慮なく言ってほしい」
魔獣の心配をしなくていい街に戻れるのが嬉しいのだろうシェリナが、楽しげにステップを踏んで見せてくれる。
「おい、落ち着かないと転ぶぞ?」
ガイズさんが落ち着きないシェリナに注意する。
「あらいいじゃない、ガイズだって早く居酒屋に行って
お酒飲みたいでしょ?」
「当たり前だろう? 何日飲んでないと思ってやがる。 今日は浴びるほどに飲むさ、なぁアスタリ」
「はいはい、お付き合いしますとも」
そんなやり取りをしながらやってきました外壁門前。
門番は一人らしく、顔見知りらしいシェリナが先行して私の事を説明してくれるらしいのだが、門番が、驚いた様子でこちらを見てる……いったいシェリナはなんと説明したのだろうか。
「あのやろう……」
「ヴォルフさん? どうかしました?」
「いや、気にするな」
悪態をついているか、ヴォルフの尻尾は上機嫌に揺れていた。
シェリナさんが説明してくれて、事前に私の分の入場料を支払っていたため、すんなり街へと入ることが出来た。
「ほらヴォルフ、ユキを降ろしてあげな」
ベジベジとシェリナさんに腕を叩かれたものの、なぜか無視しようとするヴォルフに声を掛ける。
「ヴォルフさん! 街まで運んでいただきありがとうございました、もぅ自分で歩けます」
上機嫌に揺れていた尻尾が、シュンと力なく垂れ下がる。
「わかった……」
ゆっくりと地面に下ろしてもらうと、久しぶりに地に足が付いた。
舗装はされていないものの整地された地面が嬉しい。
「さぁ宿を取りに行きましょう!」
シェリナに手を引かれて歩き出した。
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