1.今日の任務は無事に結婚式を終わらせること!
思い返せば、長かった。本当に……。メイベルちゃんとアレンがイチャつくのをひっきりなしに見せられ、メイベルちゃんから「どうしよう? アレンと上手くいかなかったら~」と聞かされ、アレンには「今日、メイベルの手袋に穴が開いていて……」といった感じの、どうでもいい話から始まる惚気話を延々と聞かされ、その度に歯を食い縛って耐えてきた。
感慨深い気持ちでチャペルの天井を見上げ、溜め息を吐く。ここは遠くに海が見える結婚式場で、クラシカルな門といい、よく手入れされた芝生の丘といい、メイベルちゃん好みの雰囲気を漂わせていた。チャペルも彼女が好きそうな、木のぬくもりあふれる素朴な空間で、窓からは明るい光が射し込んでいる。
「何百回、何千回か? もうお前ら、付き合ってしまえよ! お互いに好きなんだよ! 両想いなんだよ!! と言いそうになったことか……」
「言えば良かったのに。俺だったら言ってる」
「ノアなら言うんだろうけど……」
隣に座ったノアがふんと鼻を鳴らし、どことなく嬉しそうな表情でネクタイを整える。今日は男装したい気分だったらしく、艶のある紺色スーツにシャンパン色のネクタイを合わせていた。整えた黒髪も、妹の結婚式に出席しているかのような、憂いと喜びが半々に混ざっている青い瞳も、いつもより美しく、一般人だらけのチャペルで浮いている。が、それはいい。いつものことだ。
驚いたのは、そんなノアの隣で、黒いスリーピース姿のハリーが大人しく座っていること。二人とも、黙って並べば美形に見えるからか、メイベルちゃんの友人らしき女性達にひそひそと、「かっこいいよね」と言われていた。……しかし、納得がいかない。二人の隣に座っていると、あちこちから視線を感じる。
「二人の隣に座っていると、視線を感じるなぁ……」
「何言ってんの? ヘンリーも見られてる側だって」
「そうそう! ヘンリーはき、品が良いからさ!」
「んん、それは認めたくない……」
「かなりモテそうだね、ヘンリーって」
ノアの呟きを無視して、溜め息を吐く。今日は二人の結婚式だからと思って気張り、まろやかなベージュ色のジャケットに、薄い水色のシャツと茶色のチェック柄ベストを合わせてきたが、やめた方が良かったかもしれない。ハリーが慰めのつもりなのか何なのか、そっと、膝の上に青虫のぬいぐるみを置いてきたので、黙って突き返す。……リアルで一瞬、背筋が凍った。でも、人差し指大のリアルなぬいぐるみだった。ノアも呆れ、溜め息を吐く。
「どこで売ってんの? それ」
「俺の友達が初恋の女の子から貰ったプレゼントだって。貰った」
「はあ? ……じゃあ、何でハリーなんかにあげたの?」
「先日、結婚したんだって。その子が他のやつと。だから」
「へ~、なるほどね? まあ、青虫のぬいぐるみを渡すぐらいだから、脈は無いだろうなと思ってたけど」
「泣いてた。脈あると思ってたみたい」
「アホの極みだね」
ノアの容赦ない言葉に怯まず、ハリーが肩を竦めた。今日はこの二人の仲がいつもより良くて、ほっとしている。前を見てみれば、深い青のスーツを着たフレデリックさんと、ディープグリーンのサテンドレスを着たシェラさんが話し込んでいた。ちなみに、シェラさんのドレスはマリエルさんが用意してくれた。二人の結婚式に出席するにあたって、「何か着れるようなものはありますか?」と聞いてみたところ、真顔で「ない」と言われ、絶望したが、気を利かせたマリエルさんが用意してくれて助かった。
「お酒はいつ出てくるの? 今?」
「あとで! 挙式が終わったあとで!」
「シェラさん? 披露宴で料理とお酒が出てくるはずですから……」
「そうじゃなくて、幻のワインを入手したから、あとで渡す約束してるんだよ。ほら、メイベルちゃんとアレンの結婚式だろ? 少なくとも、笑顔で挨拶ぐらいして欲しいなと思って」
「酒で釣ってるんですか。なるほど……」
よく見えなかったが、シェラさんがやたらと愛想良かったのはそのせいだったのか。しげしげとシェラさんを眺めていれば、フレデリックさんの隣で、ちょっと不貞腐れたような顔をする。
「あたし、笑うことぐらい出来るもん……」
「へー、そうなんですね」
「笑ってみて、笑ってみて。ヘンリー、よく見てろよ? シェラ、笑顔が意外と可愛いから」
「へー……うわっ!?」
びっくりしすぎて声が出てしまった。シェラさんが普通に、甘く微笑んでいる。いつもの冷たさが無くなって、可愛らしい一人の女性に見えた。ノアとハリーが「なになに?」と呟いたあと、にこにこと微笑むシェラさんを見て、黙り込む。彼女の場合、笑っていると可愛いとかではなく、不思議現象を目の当たりにしてしまった気にさせられる。
「な? 意外と普通に笑うだろ?」
「やれば出来る子、それがあたし……」
「う、うーん。俺はシェラさんの無表情を見慣れているせいか、そっちの方がいいなぁ。落ち着く」
「俺もヘンリーと同意見。違う人に見える」
「夜中に会ったらうわって言っちゃいそうだから、俺も無表情派かな!」
「は? 夜中ににこにこ笑ってる女がいたらやばいでしょ。それ」
「あ、ホラー現象だったか……」
まあ、何はともあれ、滞りなく無事に終わりそうだ。マリエルさんは離れたところでライさんとイチャイチャしてるし、ダニエルさんも自分の婚約者、エレンさんと一緒に離れたところに座っている。真っ直ぐな目で「エレンに何かあったら嫌だ」と言っていたが、正しくその通りだ。ハリーやノア、フレデリックさんとシェラさんに囲まれているところを想像するだけで、不安に駆られる。俺がようやくほっとして、メイベルちゃんとアレンが入場するのを心待ちにしていたら、ふいに肩を叩かれた。後ろに座っているのはアレンに似ていない弟、アラン君でふわふわの金髪巻き毛と、爽やかな水色のスーツがよく合っている。
「ん? どうしたの? アラン君。お手洗い?」
「ヘンリーさん、僕、子供じゃないから……。そうじゃなくて、兄ちゃんの元カノが来てる。どうしよう?」
「えっ!?」
早くもトラブル発生か!? この結婚式で何かあったら、俺がメイベルちゃんに沈められるんだが!? 慌てて指差す方を見てみると、後ろの席で何やらひそひそと、剣呑な顔で話し合っている女性達がいた。あれは確か、アレンの女友達なんじゃ……?
「……白いドレスを着ているのが元カノか。目立つなぁ」
「うっわ、分かりやす! どうする? ハリーをけしかける? ヘンリー」
「あっ、俺が今、立ち上がって奇声上げて、追いかけ回して追い払おうか!?」
「やめよう、やめよう! 落ち着け! いい子モードのハリーでいいんだ、今日は!」
いきなり立ち上がったハリーを押さえつけ、もう一度座らせる。フレデリックさんがわくわくした顔で、余計なことをのたまい出した。
「いやぁ~、いいねえ! わくわくしてきた! これぞ結婚式だよ、今から結婚式が始まるって感じがするなぁ~!」
「はあ? ほのぼので終わるのが結婚式でしょ。おかしいのは頭だけにして欲しい。言動までおかしくしてどうすんの? 唯一の取り柄が無くなるじゃん」
「おおっと、結婚式でも相変わらずの毒舌っぷりだな……」
「ヘンリー、どうする? あたしが行こうか?」
「いや、ここでシェラさんが行ってもなぁ……。とはいえ、アラン君が行ってもなぁ。えーっと、信じられないが、あの彼女はアレンに未練があるのか?」
「ううん、恨んでた。記念日も誕生日も忘れて、自分の趣味を優先してぜんぜんデートしてくれなかったのに、メイベルちゃんのことをすっごく大事にしてるって、共通の女友達から聞いて嫌になったみたい」
「や、やけに詳しいね……」
「さっき、追い出そうと思って話しかけに行ったらその、捕まって愚痴を聞かされて……」
気の毒! でも、あいつ、自分が蒔いた種じゃないか……。俺が刈り取ってやる必要は、まぁ、あるだろうな! メイベルちゃんに殺されるしな、俺が。海に沈められる予感しかしないぞ。
「よし、分かった。全員聞いてくれ。今日の俺達の任務は、この結婚式をつつがなく終わらせること。だから、出来れば俺の言うことに従って欲しい。……メイベルちゃんとアレンのためにも、みんなで協力して成功させよう!」
「うん、分かった! メイベル、悲しむの嫌だから……」
「はいはーい、俺もいい子になって協力する! 引きずり出したらいいのかな? あの白いドレスの元カノを」
「ハリー? 下手をしたら警察呼ばれて終わるぞ? 何もかもな。ハリーとフレデリックさん達はここで待機。ノア! それとシェラさん? マリエルさんを呼んで、あっちに行くぞ。美形攻撃だ」
「美形攻撃って。ふっ」
「ん、分かった」
ノアが笑いながらも、硬い木のベンチから立ち上がる。さぁ、これで上手くいくかどうか。スーツを整えていると、アラン君が「すごい、頑張って」と言ってくれた。任せておけと伝えるため、ぽんと肩を叩いてから、談笑中のマリエルさんを呼び寄せる。不機嫌そうな顔をしていたが、アレンの元カノが来ていると知り、にやりと邪悪な笑みを浮かべた。今日は金髪をパールのバレッタでまとめ、淡い薔薇色のレースドレスを着ている。一見大人しそうに見えるが、色気が出ているし、只者ではない雰囲気を醸し出していた。
「なるほどねぇ~……ふふふ、面白くなってきたじゃない。ノア? シェラ? 行きましょ、可愛い元カノさんの企みを潰しにね」
「もちろん。行こうか」
「あたし、笑ってた方がいい? ヘンリー。怖いんでしょ?」
「いや、あくまでも俺達から見て、怖いというだけなので……こう、つんと澄ました顔をしていてください。険のある感じで! そうそう」
冷たい表情のシェラさんはそれなりに怖く、顔立ちの良さが際立っている。ノアもマリエルさんも、邪悪な微笑みを浮かべているし、何とか撃退出来そうだ。俺が一歩後ろに下がれば、マリエルさんがくいっと顎を上げ、意図を察したノアが、俺の腕を掴んできた。ああ、逃げられないのか……。半ば引き摺られるようにして会いに行く。まず最初に、マリエルさんがとびっきり愛想の良い微笑みを浮かべた。
「ちょっとごめんなさい。話があるの。いいかしら?」
「え……?」
着飾ったマリエルさんとノア、険しい表情のシェラさんが並び立っているのを見て、ぽかんと口を開けていた。それにしても、白いドレス姿の女性は髪がぱさついているし、性格も悪そうだしで、アレンの好みとはかけ離れている。以前、アレンが「何でも話せる友達だったし、その延長で楽しく付き合えるかなと思って」と言っていたが……。失敗したな、アレン。
「あの、すみません。何の話ですか? もうすぐ式始まりますよね?」
「あら、話が通じなさそう。……今日ね? 私の姪っ子の結婚式なの。あのバカなアレンを恨めしく思う気持ちは分かるわ。でもね」
正確に言うと義理の姪っ子だが、気分はすっかり実の叔母らしい。はたから見ている俺達でも、背筋が凍りつくような冷たい睨みをきかせ、次の瞬間、嘘のように優しい微笑みを浮かべる。
「それって、花嫁と私達親族に関係ある? 無いでしょ? ……それにあなた、いいの? アレンは根に持つタイプだし、報復されるわよ。下手をしたらあなたの結婚式、お返しにぶち壊されるかもね」
「……だって、理不尽じゃないですか。あんなに可愛い子と結婚するだなんて! アレンはもっと、クソみたいな女と結婚すべきなのにっ!」
ああ、変な拗らせ方をしている……。でも、やめるようにと説得していたのか、隣に座っていた女性が、うつむいた彼女の肩に手を添え、困った顔をする。
「ほら、もうやめなよ。だから言ったじゃん……。気持ちは分かるけどさ? 可哀相だよ、花嫁さんが。それに、もてあそばれた訳じゃないし、浮気された訳じゃないんでしょ? 未練だって無いんでしょ? こんなことする意味ってある? ねえ」
「でも、帰るに帰れなくて……悔しくて」
ああ、色んな悔しさが混ざっているんだろうなぁ。どうしてあの子だけ大事にされるのかとか、女性をろくに大事にしてこなかったアレンが幸せになるなんてとか、色々混ざっているんだろうなぁ……。アレンに呆れていると、ふいにノアがスーツの内側ポケットから、黒い財布を取り出した。見たことがないぐらい、にっこりと眩しい微笑みを浮かべている。
「気持ちは分かりますよ。帰るに帰れないんですね? これ、少しですがどうぞ。美味しいものでも食べて帰ってください」
「えっ!? でも、そんな……」
「受け取れないです、そんなの! ごめんなさい。私がこの子を、責任持って連れて帰るので。それじゃ」
良い友達だなぁ。しっかりしていて真面目そうな女性が、「ほら行くよ! 話聞いてあげるから」と言って、複雑そうな顔をしている彼女を急かした。ノアも心を動かされたのか、強引に紙幣を捻じ込む。
「どうぞどうぞ、持って行ってください! 諦めてくれて助かりました」
「えっ? でも、本当にいらないので……」
「お二人でアフターヌーンティーでもしてきてください。今、ちょうどブラックホテルで春限定、苺尽くしのアフターヌーンティーを提供しているんですよ」
さらっと高級ホテルの名前を口にして、笑顔で紙幣を押し付けた。それでも断ってきたので、出入り口までエスコートしながら説得し、最後には手を握っていた。もちろん、ノアに手を握られた女性は、顔を真っ赤にしてこくこくと頷いていた。
「金と美形の力で追い出したって感じだったな、今の……」
「成功したんだからいいじゃん。マリエルさん、ありがと。実の叔母さんらしさが出てたよ」
「そうでしょう? でも、実の叔母気分でいるもの。私」
「あたしは何の役にも立てなかった気がする……」
「それを言うのなら、俺もそうなので大丈夫ですよ。俺、いる意味あったかなぁ」
「あった、あった」
「ヘンリーも美形の一人じゃないの。いればいるほどいいわ」
首を傾げながらも、フレデリックさん達の下へ戻る。無事に追い出せたことを報告し、談笑していると、カイルとウィルフレッドがやって来た。愛しい姉が結婚するのが辛いらしく、「ひっ、ぐっ、ひっ、うぇっぐ」と引くほど嗚咽を上げながら、ぼたぼたと涙を流している。
「すみません、ヘンリーさん。俺なりに慰めていたんですが、ウィル君が泣き止まなくて……」
「ひっ、うぐ、ひっ……」
「わ、分かった! ここは前の方で目立つから、後ろに行こうか……」
最前列ではメイベルちゃんの祖父がひたすら落ち込んでいるし、それどころじゃなさそうだ。カイルと二人で泣くウィルフレッドを慰めつつ、後ろの方に移動する。ああ、視線が突き刺さって痛い……。両家の親戚と二人の友達が集まっているから、チャペル内には意外と人が詰まっている。
「ほら、ウィルフレッド? メイベルちゃんも悲しむから、笑顔でお祝いしてあげようよ」
「ねっ、姉さんは悲しんだりしません! 俺のこと鬱陶しいって、そう思ってるから……」
「大丈夫大丈夫。俺ほど邪険にされている訳じゃないでしょう? 何とかなりますって、大丈夫大丈夫」
雑な慰め方だなぁ。どうりで泣き止まないはずだ。ハンカチを渡し、ひたすら背中を擦って慰める。これも新郎新婦の友人としての務めか……? 疲れた、早くも帰りたい。でも、ほっとすることに牧師が挙式が始まることを告げ、列席者全員が一斉に立ち上がる。あまりにも泣いていて、立ち上がれそうになかったので、俺とカイルの二人でウィルフレッドの腕を掴み、立ち上がらせた。
(おお、それっぽいな……アレン)
いつもは適当にしてある黒髪を上げ、額を出していた。青い瞳は嬉しそうに輝き、口元にはうっすらと自信のある笑みを浮かべている。華やかなグレーがかった銀色のタキシードがよく似合っていた。それに決めるまでの逸話は、メイベルちゃんからたっぷり聞かされていたからか、脳内で自動再生された。が、もう聞きたくないので打ち消す。
(ああ。やっと、やっと、アレンとメイベルちゃんが結婚してくれるんだ……!!)
これまでの数々の苦労が、まるで走馬灯のごとく駆け巡り、ついつい泣き出しそうになってしまった。しかし、ウィルフレッドが大きく泣き出したので、慌てて口を塞ぐ。カイルも手伝ってくれて助かった。
「静かにしろって! メイベルちゃん、入ってくるのこれからだぞ?」
「たっ、耐えれないかもしれない……。俺の夢が壊れてゆく!」
「ゆ、夢?」
「姉さんと半年でもいいから、一緒に住みたかったのに……!!」
「そ、そうか。でも、静かにしててくれ。頼むから。何かあったら一生、メイベルちゃんに恨まれるぞ? なっ? 頑張れ」
「っふ、ぐ、ふ、ううう……」
普通、こんなに弟が泣くか? 知りたくもないことを知るのは嫌なので、そこは無視しておく。カイルは何とも思っていないようで、さらりと「シスコンですね」の一言で済ませていた。アレンが祭壇に辿り着いたあと、チャペルの扉が開き、メイベルちゃんとその父親が入ってくる。誰かが「わぁ、綺麗……」と呟く声が聞こえてきた。
(すごいなー……。前日、俺に釘を刺してきた女性だとは思えないなぁ)
真っ赤なバージンロードの上を歩くのは、春らしい、淡いピンク色の薔薇と白いマーガレットの花冠をつけたメイベルちゃん。着ているドレスは、彼女の清純さを引き立てるAラインドレスで、肩には白い薔薇やマーガレットが咲き誇り、腰には濃いピンクリボンが巻かれている。スカート部分には、天井からの陽射しに透けるような、あえやかな薔薇色のオーガンジー生地が重ねられていた。持っている花束も、淡いピンク色と白の花で構成されている。レースで縁取られた、ウェディングベール越しに見る彼女の横顔は、確かに声が出るほど綺麗で、これまでのことを考えると、熱い涙が滲み出てきた。ああ、これでやっと解放される!
「メイベルさん、綺麗だ……」
「えっ? カイルまで泣くのか……」
シェラさんそっくりの深い青の瞳から、つうと一筋、涙が流れ落ちていった。というか、来るって聞いていなかったんだが、どうしてカイルが来ているんだろう……。
「ええっと、メイベルちゃんに呼ばれたんだよな? 今日は」
「アレンさんにですよ。ちなみに呼ばれたのは挙式だけです。自慢したかったんでしょうね、あの綺麗なメイベルさんを」
「……」
「ひっ、ひっ、ぐ、うぐ……」
アレン、お前というやつは! 散々俺に迷惑かけやがって!! ああ、腹が立ってきた。さっきまでの感傷が吹き飛び、前方の二人を睨みつける。諸々の誓いが終わったあと、俺の気持ちなんて一生理解出来そうにないアレンが、ゆっくりと、慎重な手つきでベールを上げていった。
「ああ、姉さん。悔しいけど、綺麗だ……」
「幸せそうですよね、本当」
「まあ、言いたいことは分かる」
小声でひそひそと囁き合う。なんとか首を伸ばして見たメイベルちゃんは、遠目からでもよく分かるほど、幸せそうに光り輝いていた。そうとしか言えない。この日のために手入れされた肌も、幸せそうにアレンを見つめる表情も、思わず息を呑むほどに美しい。俺まで泣けてきてしまった。
「あんなに手がかかったメイベルちゃんが……立派になって!」
「ヘンリーさんは母親視点なんですね」
「どちらかと言うと兄かな? ああ、これでようやく解放される……」
涙を指で拭い、誓いのキスを見守る。案の定、前日まで心配していた通り、メイベルちゃんがたじろいだ。でも、アレンが嬉しそうに笑い、両肩をしっかり掴んだまま、そっとキスをする。すぐさま、励ますかのように笑いかけ、メイベルちゃんの背中に手を添えた。ほっとしつつも、盛大な拍手を送る。
(あ~……このあと、何も起きないといいが!)




