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優しい彼女と変人だらけのシェアハウス  作者: 桐城シロウ
第四章 夏の終わりにあなたと
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33.俺の苦労を返せ!

 


 足を一歩踏み入れた瞬間、驚いた。ミルクティーのような色合いで描かれたマーブル模様の石床に、宗教建築を連想させる、青いモザイクタイルの天井。息を呑まずにはいられない。奥は全面ガラス張りになっていて、首都の光景が一望出来た。すぐ目の前には魔術仕掛けなのか、水のクジラが床から現われ、虹色に光りながら天井へと登ってゆく。左にはウォータースライダーらしきものもあるし、右手に広がっている温水プールは驚くほど広く、白い砂浜まであった。


「すごい、豪華だ……」


 そして、この高級感あふれる豪華なプールにて、卑猥な姿のハリーが解き放たれている……。不安しかない。一気に目の前が暗くなってしまった。が、絶望している場合じゃないと気を取り直し、裕福そうなカップルと家族連れの間を通り抜け、急いでハリーを探す。


(でも、意外と人がいるな。なにせ広いし、ここから見つけるのは困難だぞ)


 でも、そんな心配は無用だった。きょろきょろと辺りを見回していると、すぐ近くにいた若い女性二人組の会話が聞こえてきた。


「ねえ、さっきやばい水着を着た人がいたんだけど」

「え? どこどこ? まだいる?」

「もういない。なんか奇声を上げて走って行ったし。でも、本当に笑っちゃいそうになった! 水着の形状があれでさ、毛もはみ出ててさ……」

「ええっ!? やだ! 気持ち悪い!」


 絶対にハリーのことだ!! すぐさま振り返り、黒いビキニを着た女性が指差している方向へ向かう。あっちはウォータースライダーだな……。まさかあの格好で? スタッフさんが止めてくれるといいが、あんな水着を貸し出している施設である以上、そんな期待はしない方がいいだろう。焦って早歩きをしていれば「わ~、すごい!」と、聞き慣れた声が飛び込んできた。


「イルカだ~! ほらほら、カイルさん! こっちまで来ましたよ?」

「本当だ、可愛いですね。まあ、メイベルさんの方が可愛いんですけど」

(ひっ!? あいつ!)


 水の形のイルカを指差して喜んでいるのはおそらく、背中に紐が交差しているタイプの赤い水着を着たメイベルちゃん。何故か隣にはカイルがいて、シェラさんやフレデリックさんはいなかった。二人はこちらに背を向けて立ち、呑気に喋っている。


(でも、ちょっと待てよ? ここにメイベルちゃんがいるということは……すぐ近くにアレンがいるはずだ! どこか身を隠せるような場所は?)


 あった。行ってみるか。イルカを見て楽しむ二人から顔を背け、そそくさと、チェスの盤上をイメージしたプールへと行く。ここはかなりの深さがあって、丸ごとチェス盤が沈んでいるかのようだった。馬に乗った騎士が水しぶきを上げながら、敵の黒い騎士と戦い、奥のバーでカップル達がそれを鑑賞している。


 ただ、普通に入って泳ぐことも出来るらしく、やんちゃ盛りの子供達が馬にしがみついて泳いでいた。そんなプールのふちにしがみついて、パイナップル付きのグラスを手に持ち、ストローをがしがしと噛み締めている男がいた。黒いサングラスをかけてはいるが、あれは絶対にアレンだな……。しぶしぶ近寄って、目の前にしゃがみ込む。


「おい、アレン。浮いてるぞ? ガラが悪い」

「ヘンリー、どけよ。メイベルが見えないだろうが」

「俺、お前に言いたいことがいっぱいあるんだが……!? ま、まあ、いい。そのことは。切りが無いからな、帰ってからまとめて言うさ。そんなことよりもハリーを見かけなかったか? まずいことになったんだ」

「知らね」

「その一言で済ませるなよ……!? そもそもの話、お前のせいだろうが!」

「よせ、メイベルとカイルにばれるって! いでででっ!?」


 苛立ってアレンの頭を掴めば、慌ててプールの中で飛び跳ねた。苛立ちが収まることは無いが、一つ深呼吸をしてから落ち着く。


「いいか? お前が俺に押し付けてきた、セクシー水着をハリーが着ちゃったんだ」

「へえ。お前なら着こなせただろうにな。もうちょいそっちに行ってくれ。メイベルが見えない」

「恋に浮かれているところ悪いが、ハリーを捕まえて水着の形を変えてくれないか? 魔術師なんだし、それぐらいは出来るだろう?」

「あ~……ただ、レンタル水着だろ? 悪いが出来ない。店のものと他人のものは勝手に変えちゃいけない決まりになっていて。特に俺、子供達に魔術教えてる立場だしな~」

「なんで今、そこで急に真面目になるんだよ……!? じゃあ、どうしたらいいと思う? 見つけ出して返すしかないか?」

「そういうことになるな。下手に魔術で変えて、元に戻せませんでしたってなると警察に通報されそうで嫌だ。器物破損と同じ扱いになっちまうんだよ。お前ら一般人は知らないだろうけどな」

「じゃあ、今すぐハリーを見つけ出してくれ。魔術で」

「おい、メイベルが移動するみたいだぞ。行くか」

「聞けよ、人の話を!!」

「うおっ!?」


 俺が半泣きで肩を揺さぶれば、ようやく焦った表情で「分かった、落ち着け! 聞くから! 話を聞くから!」と叫ぶ。もうメイベルちゃんはとっくに移動していて、こっちに気が付いていなかった。アレンとほっとしながらも、一旦プールへ入って、アレンから渡されたパインジュースを飲む。ストローは噛み締められて、ぺちゃんこになっていた。


「そう……俺があれだけ止めたのに、ハリーは何も聞かずに飛び出て行ったんだ」

「いつものことだな。でも、俺もそんなハリーが見てみたい。やばすぎだろ!」

「言っておくが、笑い事じゃないからな!? 今は奇跡的にメイベルちゃんと会ってはいないみたいだけど、会ったら、メイベルちゃんが叫ぶこと間違いなしの卑猥な水着姿で、」

「バカ野郎! それを早く言えよ!?」

「お前が聞かなかったんだろうがーっ!!」


 ついうっかり、周りを気にせず叫んでしまった。しかし、アレンが俺のジュースを奪い取って、思いっきりプールへ沈めてから去って行ったので、周囲を気にしている暇はない。げほげほと咳き込みながら上がると、アレンの姿はもうどこにも無かった。慌ててさっき、メイベルちゃんが向かった方向へ走る。


(ああっ、俺も呑気にプールを楽しみたい! 今度一人でも来たいところだが、トラウマになりそう。楽しめそうにはないな……)


 驚いた表情のカップルや家族連れを無視しながら、とにかく走る。子供が遊ぶゾーンに差しかかっていた。いかにもハリーが好きそうなところだな、ここ。奥にはアトラクションとカヌー体験が出来るプールがあった。手前には貝殻型の浮くベッドに乗って、いちゃついているカップルが大量発生しているプールがある。そこにはアザラシとイルカが泳ぎ回り、沢山の花びらが浮いていた。ロマンチックな音楽と光に包まれ、天井からはひらひらと、真っ赤な花弁が舞い落ちている。


(ここにはいそうにないな……って、いた! いた!!)


 そんなカップル達の甘い一時を邪魔したいのか、卑猥な水着姿のハリーがたっ、たっ、たっと真剣な顔をして走っている。やけに良いフォームで走っているのが腹立つ! ただ、ぞっとする光景だ。あいつ、カップルが浮かんでるプールに飛び込んでめちゃくちゃにする気だぞ!? 焦って向かおうとしたところ、ハリーの後ろからアレンが猛然と走ってやって来て、急にタックルした。ハリーが「うわあああーっ!?」と叫びながら、二人まとめて、どぼんとプールに落ちる。派手な水しぶきとカップル達の悲鳴が上がった。膝から力が抜け落ちた。


(ああっ、アレン……!! 俺が言いたかったことはそういうことじゃないんだ、俺が言いたかったのはそういうことじゃないんだ!!)


 水に濡れた石床を叩いていても、何も事態は改善されないので正気に戻り、慌てて駆け寄って覗き込む。二人はロマンチックな淡いピンク色のプールにて、お互いに掴みかかり、花びらをあちこちにくっきながら、ぎゃあぎゃあと騒いでいた。


「お前な!? 何をする気だったんだよ、本当に! そんな姿でメイベルに会ったら承知しねぇからな!? てか、お前のせいで落ちたじゃねーか! 謝れ! 俺に! 謝れ!!」

「俺だってこんな、カップルが漬けてあるプールになんて入りたくなかったよ!! てか、アレンがタックルしてきたんじゃん!? 俺は何も悪くないもん、俺は何も悪くなんてないいもんーっ! うわあああああっ!!」

「うるせーっ!! 叫ぶんじゃねえ、黙れ! 大体お前がおかしな行動に出なかったから、こういうことにはならなかったんだよ! 今すぐ謝れ、今すぐ俺に謝れ!!」

「ヘンリーっ!! アレンが俺のこといじめるよおおおおっ!! 痛い~!」

「髪の毛全部引っこ抜いてやろうか!? ああ!?」


 このまま帰って、家でホットココアを飲んで寝ても、神はお許しくださるはず……。気が遠くなる光景だった。カップル達が戸惑い、一斉に見つめてくる。ああ、家に帰りたい。そもそもの話、尾行すると言ったアレンをなだめて、バニラちゃんと一緒にお留守番していれば良かったんだ……。全てを間違えていたと知っても、時は止まってくれない。アレンとハリーは静かになってくれない。今や二人とも、子供のようにお互いの髪を掴み、ばしゃばしゃと水をはねさせながら騒いでいた。これを止めるのか、今から……。ハリーにまともな水着を着せるという、難しいミッションも待ち受けているというのに。


「ほらほら? 二人とも、落ち着いてくれ……。子供じゃあるまいし、こんな豪華なところで騒がないでくれ。アレン? メイベルちゃんは? 今どこにいるんだ?」

「この奥にいる。気が付いてないっぽいが」

「鈍感だなぁ! 本当に。ほら、ハリー? あとでアイスでも買ってあげるから、落ち着いてくれないか? 俺はもう疲れたんだ、頼むからやめてくれ……」

「可哀相にね……」

「……」

「やっぱ沈めるべきだろ? こいつ。なぁ、ヘンリー」


 哀れみ深い眼差しを向けられ、アレンの言う通り、思いっきりプールの底に沈めた方がいいような気がした。が、今まで家族に言われてきたことを思い出し、ぐっと耐える。あいつらに比べたらハリーなんて可愛いもんだ。そう、年の離れた弟だと思って……。


「は、ハリー? 心配してくれてありがとう。アレンはメイベルちゃんと話があるみたいだし、そろそろ上がって、」

「あれ~? ヘンリーとアレンじゃん。何してんの?」

「むあっ」

「おっ、フレデリック」


 後ろを振り返ってみると、カレーとナンをひたすら口に突っ込んでいる、黒いビキニ姿のシェラさんとフレデリックさんが立っていた。あ、このまま二人のことを任せて立ち去ってしまいたい……。でも、フレデリックさんもフレデリックさんで、とんでもない火種だ。油断は出来ない。


「やっぱついて来てたのか、アレン。メイベルちゃん達、向こうにいるぞ?」

「知ってる。バングル持ってるからな」

「あーっ! そうだ、俺、アレンから貰ったバングルを奪われたんだよ!! メイベルちゃん、酷くない!? ねえ!」

「お前に比べりゃ天使だよ! フレデリックは珍しくシェラと一緒か」

「俺がリクエストした黒ビキニを着てくれたから、奢ってたんだ~。腹減ってるみたいで」

「むおっ」

「そうか。じゃあ、この卑猥なハリーを頼む」

「えっ!?」

「うわっ!?」


 アレンが指先を動かし、ぽーいとハリーを投げ飛ばした。プールサイドに着地したハリーが何故か、気障っぽく茶髪を掻き上げ、ムキッと腕に力こぶを作り、変態的な水着姿を披露する。フレデリックさんは爆笑していたが、シェラさんは毛がはみ出ている股間を見たあと、酷く嫌そうな顔をした。そして、スプーンで股間を指し示す。


「ハリー、似合ってないから脱いだ方がいい。下品だし」

(そういう問題!?)

「ええっ!? 似合ってると思ってたのに!」

「小さい子供もいるし、今すぐここから出て行って欲しい……」

「そんな! でも、シェラさんがそう言うのならそうするよ」

「謎の聞き分けの良さを発揮しやがって! 行くぞ、ヘンリー。メイベルの下へ!」

「なんで? 一体どうして!?」

「フレデリック、シェラ、ハリーを頼んだ。受付で新しい水着を貰って、着替えさせてくれないか?」

「え~? 面白いからこのままでいいじゃん、別に」

「ん、分かった。あとでね、アレン。それから」

「ん? どうした?」


 シェラさんが珍しく、アレンのことを真剣に見つめる。ハリーは今さら自分の水着が気になってきたのか、赤い布をつまみ、股間の辺りをやたらと気にしていた。


「メイベル、不安で暴走してるから気をつけた方がいいよ。今回のこともちゃんと理由があるから」

「あ? 理由……?」

「それは本人に聞いてきて。カイルが不安につけこもうとしてるし、早く行った方がいいよ」

「くそっ! お前の弟だろうが、お前が止めろよ!? ヘンリー、ほら早く!」

「はいはい……。分かったって」


 文句を言っても無駄な気がしたから、花びらが浮かんだピンク色のプールへ飛び込み、一緒に奥を目指す。奥には花の洞窟があるらしく、そこにいるとのことだった。じゃぶじゃぶと、隣で泳いでいるアレンが文句を言う。


「あ~……奥、暗くなってんのにな。大体、俺が女友達と二人でこういうところに来たら騒ぐぐせに。なんで自分だけ遊びに行くんだよ。おかしくないか? なぁ」

「そこの辺りは二人できちんと話し合ってくれ。ただ、シェラさんの言う通り、不安で暴走しているのなら、頭ごなしに怒ったりせずちゃんと話を聞いた方がいい。今さら破局だけはするなよ!?」

「分かってるって。大体、メイベルを前にしたら責める気なんて失せていくしな……」

「まあ、何も考えてないからな!」


 俺もなんだかんだで怒れないのは、笑顔で「ヘンリー、おはよう!」と言ってくるから。だからつい、もう惚気話は聞きたくないと言えなくなってしまう……。男二人でカップルの間を通り抜け、虚ろな顔で泳いでいると、すぐに洞窟が見えてきた。ちょうど出てきたところだったのか、露出度が高い水着を着たメイベルちゃんが、両手でがっとカイルの頭を掴み、いきなりプールへと沈めた。頭が真っ白になって、硬直する。


「えっ!? なぁ、おい、あれ……見たか!?」

「ああ、見たよ! おーい、メイベル! いくら何でもその水着、胸が出すぎだろ!?」

「嘘だろ!? おい、アレン、嘘だよな!? まさか、メイベルちゃんしか見えてないなんてことないよな!? なっ!?」


 確かに胸の谷間がくっきり浮いてるし、真っ赤でセクシーな水着だし、不安になるのは分かるんだけども! 俺が驚いて肩を揺さぶれば、きょんとした顔をしやがる。


「あれ? 言われてみると、カイルがいないな……? どこに行ったんだ? あいつ」

「嘘だろ!? 嘘だろ!? なぁ、嘘だろ!?」

「アレン!? どうしてここにいるの!?」


 驚いて水を掻き分け、こっちにやって来たメイベルちゃんが俺の肩を掴み、一旦アレンから引き離した。戸惑っていると耳元でささやく。


「カイルのこと、どうにかしてきて? ヘンリー」

「は、は、は、はい……」


 こっわ!! すぐさま俺から離れ、誤魔化すためなのか「アレン~!」と甘い声を出しながら抱きつく。振り返って見てみれば、アレンが嬉しそうな顔をしていた。あいつ、あっさり騙されやがって!! まあ、気持ちは分かるけども……。彼女にあんなことをされたら嬉しいよな。アレンがハニートラップに引っかかっている最中、浮かんできたカイルの腕を掴んで一旦離れる。呆然とした顔をしていた。な、何があったんだ、本当に……。


「おーい、カイル? 大丈夫か? 聞こえてるか?」

「……びっくりした。まさか、いきなり沈められるとは思っていなくて」

「大丈夫、俺もアレンも思っていなかったから。……ただ、アレンはさっきの光景、目撃していないっぽいから。絶対に絶対に、メイベルちゃんには言うなよ!? じゃないと俺もプールに沈められる!!」

「わ、分かりました……。分かったんで、もうちょっとだけ離れてください。近いです」

「ごめん」


 話を聞いてみると、メイベルちゃんに「君のことが諦めきれない」と伝えたらしく、その直後、いきなりプールに沈められたらしい……。ただそうなる前に「余計なことはしなかったか?」と聞いてみると、そっと目をそらして黙り込んだので、いきなりメイベルちゃんがブチキレた訳じゃないらしい。ほっとした。アレンに余計なことを言うなよと言い含めてから、アレンの下へ戻る。きっと、メイベルちゃんが俺に求めている“後始末”ってこういうことだよね……?


「あっ、ヘンリー! ありがとう。ごめんね? 色々迷惑かけちゃって!」

「い、いやいや、お安い御用だよ……」

「悪いな、ヘンリー。どうやらメイベルが不安になって、暴走しちゃったみたいでさ~」

「それ、さっきもシェラさんから聞いたぞ……? どういうことだ?」


 聞かなきゃ良かった、そんなこと。俺はこの日、二番目に手酷い失敗をやらかした。もちろん、一番の失敗は家でバニラちゃんをもふもふして寝ているべきだったのに、それをしなかったことだ。アレンが一気にでれっと、だらしない顔になってから、メイベルちゃんの肩に手を回す。さっきまでのマフィア感が消え失せ、すっかり可愛い彼女に変身したメイベルちゃんが、にこにこと幸せそうに笑っていた。


「いやぁ~、メイベルがまだ俺に緊張するみたいでさ。好きすぎて辛いし、重たくなって振られたらどうしようって思って、カイルに相談してみたら、冷たくすることも大事だって、余計なことを吹き込まれたみたいで……」

「へ~。もういいから、俺は帰って寝た、」

「ただ、俺も構いすぎて鬱陶しがられたらどうしようとは思ってるし、さっき、その辺りのことをちゃんと話し合ったんだよ。まぁ、ごめんな? なんか巻き込んじゃってさ」


 その一言でぷっつんと、何かが切れたような気がした。アレンに虚ろな微笑みを返し、頷いておく。


「いや、いいよ、もう……。二人が無事に結婚してくれるのならそれで。シェアハウスも出るしな、あともう少しで!」

「おう。まだまだこれから話し合うつもりだけど、早々にシェアハウスを出て、入籍してから、春に挙式しようって話になってる。ごめんな~、散々迷惑かけて。じゃ! 俺はこれからメイベルと洞窟に行ってくるから」

「ありがとう! ヘンリーにカイルさんも~。すっごく楽しかった! また結婚式でお会いしましょうね? じゃあ」


 さりげなく「春まで会わねぇからな」と釘を刺したな……? 隣を見てみれば、虚ろな真顔で手を振っている。最初から諦めていれば、プールに沈められるようなことも無かっただろうに。遠ざかっていく二人の後ろ姿を見て、深い溜め息を吐いてしまった。


「惚気話よりも何よりも、春に挙式するって話を先に聞きたかったな……」

「え? 聞いてなかったんですか? 二人から」

「聞いてないよ!! あの二人、本当に自由だな!? でも、いいんだ! 俺は自由になる、俺はあの二人から解放されて自由になれるからっ……!!」

「二人で飲みにでも行きましょうか。ここ、バーがあるんですよ」

「行こうか。聞いて欲しい話が沢山あるんだ……」

「俺もです。まあ、でも、先にヘンリーさんの話を聞いてあげますよ。顔色が酷いし、今にも倒れそうだ。やつれましたね」

「おかげさまでな……。今は紅茶じゃなくて、ウォッカを十杯ぐらい飲みたい気分だよ。やれやれ、今日も疲れた」






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