30.ヴィンテージの植物図集と夜の賑わい
「そうか……。とうとうメイベルちゃんとアレンが結婚式するのか。それじゃあ、俺も気合い入れて行かないとな!」
「やめてくれ、ハリー。お義父さんになんて言われるか……」
「大丈夫、アレン。あたしもちゃんと結婚式に出席するから」
「やめてくれ!! 頼むからお前らは来ないでくれ! 俺がお義父さんに問い詰められるじゃねーか!」
リビングにて、念入りに準備運動を始めたハリーとシェラを見つめ、アレンが頭を抱えていた。許して貰えたし、とうとう結婚式準備をすることになったんだけど、何故かハリーとシェラがやる気満々になっちゃった。白いケーブル編みニットの袖をまくって、温かいコーヒー入りマグカップを二つ持って歩き、もう一つは、ソファーでうなだれているアレンへと手渡す。あとは寝るだけだし、アレンは黒い長袖Tシャツとスウェットパンツを着ていた。
「ああ、ありがとう。メイベル。こいつらをどうにかしてくれ……」
「大丈夫だよ、私の友達でもあるし」
「俺は新郎様の友達席に座ろうかな! シェラさんはどうする?」
「あたしもそうしようかな……。マリエルとノアはメイベルのお友達として参加するって言ってた。でも、フレデリックはアレンの友達として参加したいって」
「おい、ちょっと待て。なんで問題児ばっかり、俺の友達として参加するんだよ!? てか、お前ら全員来んな! 呼びたくねーよ、家で残飯でも食ってろ!」
念入りにアキレス腱を伸ばしていたハリーが嫌そうな顔をして、屈伸していたシェラと顔を見合わせる。何故か二人ともジャージ姿だった。ハリーは黒で、シェラは濃いピンク色のジャージを着ている。
「ねえ、アレン? でも、淋しいからみんなも呼びたいんだけど……」
「うっ! ああ、まぁ、じゃあ、しょうがねぇな」
「ありがとう、アレン! ごめんね? 不安になっちゃうのに」
ソファーに座ってアレンに抱きつくと、渋々とした様子で肩に手を回してきた。そのまま、熱いコーヒーをちびちびと飲み進める。そんなアレンを見て、ハリーとシェラが呆れた顔をしていた。
「相変わらず甘いなぁ~……。俺、思うんだよね。メイベルちゃんが言って、一秒で意見変えるならさ? 最初から言わなきゃいいんじゃないかって」
「うるせぇな、ハリー。言っとくが何もするなよ? ぼろぼろ飯こぼして食っててもいいが、頼むから余計なことはするなよ? 奇声を上げるのも無しだ。あと、女性の招待客に踏んでくださいって絡むな」
「大丈夫! 俺だって友達の結婚式ぐらい、出席したことあるから! 裸でビール浴びながら踊ってたけど」
「不安要素しかねぇよ!! 来るな、もう! お義父さんが厳しいんだよ、ガチで」
「いやいや、踊ってたのは新郎だし、はやし立ててたのは俺達だよ。いやぁ~、あれは楽しかったなぁ。今まで出席した結婚式の中で一番楽しかった」
「なるほど、お前が楽しいと言うぐらいだ。さぞかし、ろくでもねぇ結婚式だったんだろうな?」
これ美味しい~。アレンが買ってきてくれた、胡桃とオレンジピールが入りのチョコクッキー! 素朴な形のクッキーで、テディベア柄ペーパーの上に積み重なっていると、すごく美味しそうに見える。頬を緩めながら食べていると、アレンが優しく髪を梳かしてきた。
「とにかくも、シェラ? お前も余計なことすんな。ハリーよりマシだろうが」
「招待客と飲み比べしたい」
「やめろ。そういうことはどっか行ってやれ。迷惑だ」
「俺は余興したい! 余興! フレデリックさんとシェラさんの三人でやりたいんだ! すっごいやつ!」
「怖いからやめろ!! 余興なんてすごさを目指さなくていいんだよ! ああいうのはアホみたいな顔をして、いいお友達ね~みたいなことを言いたい招待客向けにやるんだからな! しょっぼいやつでいいんだよ、しょっぼいやつで!」
「え~? それじゃあつまんないよ、俺!」
「せっかくの、一生に一度の結婚式なのに……」
「一生に一度の結婚式だからこそお前ら、頼むから大人しくしててくれ……。結婚式に目新しさや面白さを求めるな! ああいうのは高い飯食って、新郎新婦を適当に褒めちぎって解散でいいんだよ。誰もそれ以上のものを求めてねぇんだよ……!!」
「アレン、お友達の結婚式で酷い目にでもあったの?」
なんだか心配になってきちゃった。アレンがあまりにも怯えるから……。苦笑しながら顔を覗き込めば、眉を寄せたあと、軽く私にキスしてきた。突然のことに驚いて、何も言えなくなり、口元を押さえる。すると、アレンが平然とした顔で肩を抱き寄せてきた。
「とにかくもだ。お前ら余計なことすんな、絶対に」
「ちょっ、待って欲しい! 今の……アレン、そういうことするタイプだったんだ!? 俺、彼女の髪の毛一本さえ見つけられないのに!?」
「いるのか? まぁ、どうせいないんだろうけど。訳の分からん表現するなよ、ややこしい」
「うわっ! 余裕風! 余裕風吹かせてやがる!! ダニエルさん!? ちょっ、追い出そうよ! こんなクソクソカップルども! 家に置いてたら柱が腐って、独身の俺が病む! 家が古くなって病んでしまう!!」
「ええ……?」
両手にダンボール箱を持ち、白いタートルネックとズボンを着たダニエルさんが困った顔をする。今は婚約者のエレンさんと同棲することが決まって、引越し作業中だった。もう明日には引越してしまう。明日にはヘンリーがここの家主になる。
「ハリーも彼女作ったらいいよ……。き、気が進まないけど、エレンの友達紹介してあげようか?」
「お嬢様だろうから、別にいいや……」
「そっか。でも、親御さんが血眼になって結婚相手を探しているお嬢様だから、いつでも言って」
「ちなみにそいつの年齢は?」
アレンが怯みながら尋ねると、涼しい顔をしたダニエルさんがテーブルの上へどんと、ダンボール箱を置きながらあっさり言い放った。
「四十二歳。ハリーと合うと思って」
「もしもし、ダニエルさん? なんで俺と合うと思ったの? ねえ」
「いや、ハリーはいっそ、うんと年上の女性と結婚した方がいいんじゃないかな……?」
「嫌だーっ!! 俺は年下が好み! 理想を言うのなら、二歳年下でしっかりしていて俺の面倒を見るのが好きな女性と結婚したい! あと顔が可愛い子!」
「そういうやつはお前と結婚しないんだよ……。諦めろ」
「いや、運命の出会いがあるかなと思って」
「アホか。ばかばかしい」
「でも、アレンは運命の出会いを果たしたじゃん?」
「まぁな」
その言葉を聞いて、アレンがちょっとだけ眉を持ち上げ、クッキーを摘まんで食べた。あ、アレンがさらっと甘いことを言った……!! 恥ずかしくなってうつむいていると、ふっと笑い、頭を優しく撫でてくれる。それを見たハリーが、どこからか取り出したハンカチを悔しそうに噛み締めた。
「ギーッ!! ダニエルさん!? 追い出そうよ、もう! こいつらさ!?」
「シェラ、メイベル? これ……俺の部屋から出てきた本なんだけど。昔、趣味で集めてて」
「聞いてくれないの!? 俺の話! ヘンリーは!? 一体どこ!?」
「色々疲れ果てて、部屋で眠ってる……。アレンとメイベルのことで随分と気を張ってたみたいだから。ああ、そうだ。ハリーもいる? 装丁が綺麗な植物図集なんだけど」
「いる!」
「考えもせずに言うなよ。ぜってー、こいつ大事にしないぞ? ぐちゃぐちゃにされて終わりだろうな」
「うん……。でも、まぁ、見るだけでも……」
「優しー! ダニエルさん!」
ハリーが喜んでダンボール箱へ駆け寄ったので、私も慌てて覗き込む。ダニエルさんが集めていたものなら、きっと綺麗なものだろうし、汚されてしまう前に選びたい。予想通り、煌く金と青色の箔押しがされた、幻想的な装丁の植物図集に、色鮮やかな赤い薔薇が表紙の図集、絶滅してしまった美しい植物のイラストが多数入った、湖面のように揺らいでいる表紙の図集が入っていた。その他にもあるみたいで、ダンボールの中に積み重ねられている。
「わ~! 綺麗! でも、いいんですか? 手放しちゃうんですか?」
「ああ、うん……。もったいなくて、集めるだけ集めて見てないし……。買ってから五年以上経つのに、ちゃんと見れてないから。あ、これはポストカードになってて切り離せるんだよ。ほら」
「あっ! 本当だ! シェラ、この中で欲しい本はある?」
「あたし、飲めないのはいいかな……」
「そっか。植物のお酒だったら良かったのにね」
「うん」
「飲みすぎはあんまり良くないよ……」
心配そうなダニエルさんの呟きを聞いて、シェラがぷいっとそっぽを向き、どこかへ行ってしまった。ハリーは思っていたのと違ったらしく、ひたすら複雑な顔をしてダンボール箱を見下ろしている。
(でも、すごく綺麗だし……。もったいないな。エレンさんにあげたりしないのかな?)
私が貰って大事にするよりも、エレンさんにあげて、大事にして貰った方がこの本達も喜ぶような気がする。
「ダニエルさん? これ、エレンさんにあげたりしないんですか?」
「エレンに? いや、でも、興味が無いかもしれないし……。押し付けちゃうみたいで申し訳無いし、断れない性格だからね」
「ふふっ、それもそうですけど! でも、エレンさんはこういうの好きですよ。二人で眺めてみたり、あとポストカードなんだし、お友達に出してみてもいいんじゃないですか? 結婚式の招待状にしてもいいし」
「ああ、それは考えたことなかったな……。そうしてみようかな?」
私も結婚式の招待状、どういうものにするか早く決めなくちゃなぁ。とびっきり凝ったものにする人が多くて、高校の同級生は魔術仕掛けの招待状を送ってきてくれた。小鳥が私の部屋の窓を叩いて、ピイピイと鳴きながら、招待状を渡してきてくれたのが本当に嬉しくて……。その時の光景を思い出していると、それまで座っていたアレンが身を乗り出す。
「友達価格で安くしてやろうか? 俺がそのポストカード、お前らの好きな動物に変えてやるぞ?」
「じゃあ、お願いしようかな……。ヴィンテージ物だし、喜ばれるかもしれない」
「おいおい、アレン? そこはタダにしろよ~。ケチ臭いなぁ、お前」
「フレデリック。うるせぇな、魔術使うと気力削るんだよ」
お風呂上がりなのか、がしがしと、短い黒髪を拭いたフレデリックさんがドアを開けて、こっちへやって来た。戸惑うダニエルさんの隣に立って、ダンボール箱を覗き込み、興味深そうな顔で「ふぅん」と言う。
「綺麗だなぁ。これどうすんの? 捨てんの?」
「いや、エレンにあげようかと思って……。全部。でも、多いかな?」
「エレンさん、これとこの本はすごく好きだと思います! でも、この本は多分、エレンさんの好みじゃないだろうけど、私の好みだから……。貰ってもいいですか?」
情熱的な赤い薔薇が入った本を持ち上げ、ダニエルさんに聞いてみる。絵かと思ったら、本物の薔薇が入ってると知って欲しくなっちゃった。ダニエルさんが穏やかに苦笑して「どうぞどうぞ」と言ってくれる。
「確かに、エレンは真っ赤な薔薇が好きじゃないから……」
「エレンちゃんが好きなのは確か、マーガレットとか、素朴な野花系だよなぁ」
「フレデリック? その、なれなれしく呼ぶのはやめて欲しいんだけど?」
「あれ、嫉妬? ダニエルも意外と心が狭いなぁ。でも、かなり年下の子にさん付けするっていうのも、なんかしっくりこないし、このままで~」
「なら、マークビーさんて呼べばいいだろ? ほら、ダニエル。結婚祝いの一つだ、大盤振る舞いしてやる」
「うおっ!?」
アレンが手を軽く振れば、こうっと魔術の風が巻き起こった。煌く緑色の風がフレデリックの口元を包み込み、すぐに消えてゆく。フレデリックが慌てて身を乗り出した。
「おいっ! アレン!? 今のはどういった魔術なんだよ!? 急にかけるなよ! 俺らは解き方が分からないんだからな!?」
「大したことない魔術だから。でも、一生って指定するとかなり魔力を消費しちまう。だから二十年にしておいた。ダニエル? そいつ二十年間、エレンに触れないし、マークビーさんと呼び続けるぞ。そういう魔術だ」
「ありがとう、アレン……」
「嘘ぉ!? マジで!? 俺、マークビーさんがコート着る手助けも出来ないじゃん!?」
「俺がするからしなくていいよ。メイベル? それと、あと他に欲しい本は? 沢山あるし、遠慮しないで」
「あ~、もし、エレンさんが欲しくないって言う本があればください! でも、気を使わせちゃうと思うので、エレンさんにはこのこと、言わないでくださいね? 私にはこの本が一冊あれば十分ですから。でも、売るのなら欲しいかな……」
「分かった。じゃあ、そうするよ。ありがとう」
ダニエルさんがいつになく、嬉しそうに笑った。エレンさんの話をする時、嬉しそうな顔をすることが多い。……アレンもあんな風に、笑う時ってあるのかな? 気になってアレンを振り返ってみれば、不思議そうな顔で「ん?」と言ってきた。
「あ……何でもないの、大丈夫。あとでフレデリックさんやヘンリーに聞くから」
「えっ? こいつらに何を聞くんだよ?」
「俺も気になる、教えて~」
「教えて、教えてっ!」
それまで意気消沈していたハリーが、フレデリックさんの肩を握り締め、びょんびょん飛び跳ね始めた。でも、どうしようかなぁ~。絶対絶対、言ったら惚気話って言われちゃうよね? ダニエルさんが不思議そうな顔で、恥ずかしがる私を見下ろす。
「ええ~? 大したことないんだけどなぁ。でもね? エレンさんの話をする時のダニエルさんが、すごく優しくて嬉しそうな顔してるから、アレンが私の話をする時、どんな顔してるんだろうなって思って、それがどうしても気になっちゃって~。ふふふふっ」
「おっと、地雷でも踏み抜いちまった気分だぜ……。おい、ハリー。お前に任せる。メイベルちゃんのことを話す時のアレン、一体どんな顔してるんだ?」
「目を見開いて真顔。動悸がしてるんだろうなと思わせる、切羽詰まった表情に深刻そうな顔」
「確かに、そんな顔してる時の方が多いな……」
「あ!? 絶対そんな顔してねぇだろ! 目が悪いのか!?」
「いや、してるから……」
ダニエルさんがもごもごと、言いにくそうに呟く。でも、そっか。私もアレンのそんな顔、よく見てるかもしれない……。しょんぼりと落ち込みながらも、チョコクッキーを食べる。がっかりしている私を見て、アレンが慌てて話しかけてきた。
「メイベル? でも、ヘンリーにはでれでれした顔してるって言われるから、あとで起こして聞くといい」
「うん、分かった。そうする……」
「か、可哀相だから、やめてあげて……」
「ヘンリー、いつもメイベルちゃん達の犠牲になってるよなぁ~」
「フレデリックさん、俺もなってるんですけど!? ねえ!」
「ハリーはその分だけ、迷惑かけてるだろ。どっちもどっちだ」
「そ、そんな……!!」
「じゃあ、起こさない方がいいね……」
「メイベル」
ダニエルさんの言う通りよね。起こすのは申し訳ないから明日の朝、洗面所で待ち伏せして聞こうっと。ヘンリーは毎朝ヒゲを剃りに、共有の洗面所に行くから捕まえるのが楽ちん。私がうつむいていると、アレンが焦って顔を覗き込んできた。
「メイベル? でも、俺はほら、デートしてる時とか、その、だらしない顔してるし……」
「なんか始まったぞ? よそでやれ、よそで。ここはリビングだぞ? 分かってんのか?」
「そうかなぁ? だらしない顔じゃなくて、優しく笑ってる顔ですごく好きだけどなぁ」
「はーい、そこのカップル。退散してクダサーイ。元社畜の現在独身の俺にはきついものがありまーす。もはやカップルのイチャイチャは公害だと思いまーす」
「メイベル……」
「聞かねぇなぁ、本当に! アレン、聞こえてるか!? 無視してんの!?」
「そこのカップルは退散してクダサーイ! 迷惑です! 俺の心が破けて死にそうです!!」
「うるせぇな、お前ら! ちょっとは静かに出来ねぇのか!?」
私の手を握っていたアレンが振り向いた瞬間、ハリーとフレデリックさんが同時に親指を下げ、バカにしたような顔で「ブー! ブー!」と言い出した。二人とも、白目になっていて思わず笑ってしまう。
「ここでイチャつくから悪いんだろ!? 俺だってなぁ! 昨日、三股かけてたのがバレて修羅場だったんだよ! 結局、全員に振られたし!」
「知るか、この色ボケジジイが! てめぇのせいだろ!? ざまあみろ!」
「俺だって、浮気したら殺してくれそうな金髪クール美女に会いたいんだけどさ!? みんな言うの! 俺の頭がおかしいって!!」
「ああん!? 事実だから当然だろ!」
「俺は大学生の時、初めて出来た彼女に振られて以来、そういう甘酸っぱい空気とは無縁なんだよ! どうしてくれるんだよ! 誰か紹介しろーっ!」
「お前みたいなエキセントリック男、紹介したら俺が女友達に殺されるだろ……」
アレン、女友達がいるんだ……。薄々そうかなとは思ってたんだけど、気になっちゃう。私が暗い顔でコーヒーを飲んでいると、慌ててダニエルさんが止めに入ってくれた。
「ほ、ほら、メイベルもうんざりしてるし、やめた方がいいって……」
「あっ、ごめん。メイベルちゃん。でも、騒がれたくないのならリビング以外でイチャついてくれないかな?」
「本当それ! 俺の心が死ぬし、本当それ!!」
「あっ、はい……。でも、アレン? 女友達ってどれくらいいるの?」
「ん? ゴリラが二人と、ライオンが三人かな……」
「それもっと詳しく」
「そうか。まぁ、フレデリックにはぴったりかもなぁ」
「お、女友達って言ってたよね……?」
戸惑いながら振り返ると、優しい笑みを浮かべ、私のおでこに軽くキスしてくれた。ハリーが悲鳴とも、嗚咽ともつかぬ「おおふぅっ……!!」という呻きをもらす。
「大丈夫。しょっちゅう会って喋ってる訳じゃないし……。前、会っただろ? ほら、俺がメイベルにプロポーズした店で友達にさ」
「あっ、うん。ええっと、なんて名前だったっけ?」
「俺はリックって呼んでる。そいつが俺の女友達と付き合ってるんだよ。それの繫がりで男友達交えて、たまーに飲みに行くだけだから。大体、あいつら全員ゴリラだからな~。やたらと俺につっかかってくるし、いちいちうるせぇんだよ。メイベルとは大違いだ」
「これは断言出来る。アレン? 絶対絶対、お前がその気の強い女友達を怒らせてるんだろ……?」
「さぁな。知らね。キレるあいつらが悪い」
怪訝そうな顔のフレデリックさんに見つめられ、アレンがそっぽを向く。でも、良かった! 心配いらないみたい。まだ少しもやもやするけど、さっき貰った薔薇の図集を開けば、もやもやが吹き飛んでいった。
「わ~、綺麗。アレン、私達は招待状何にする?」
「手を加えてやるぞ? メイベルなら鳥か? いや、それとも天使か?」
「も~、アレンってば!」
「カップルはイチャつくのをご遠慮くださあぁ~いっ……!!」
「うわ、こわ。お前、なんだ? その顔は」
ハリーが血の涙でも流しそうな勢いで、恨みと絶望が混じった顔をしながら、がしっとダンボール箱の端を握り締める。フレデリックさんも虚ろな顔をしているし、ダニエルさんも疲れているみたいだし、アレンと二人で私の部屋へ移動した。
「は~、疲れたなぁ。今日はなんだかんだ言って」
「ふふふ。でも、お父さんにも認めて貰えたし良かった!」
「うん……。まぁな」
アレンが隣の小さなソファーに腰かけ、さっきの図集を見ていく。ページをめくる度、きらきらとした金粉が舞っていった。ふっと息を吹きかければ、ページの中で咲き誇っている薔薇が葉を揺らす。
「なぁ、メイベル?」
「ん? どうしたの?」
「……俺、いつまで部屋に帰らなきゃだめなんだ?」
「えっ?」
不思議と、すぐに言っている意味が分かった。アレンの青い瞳が熱を帯びているからかもしれない。その日は朝までずっと一緒にいた。寝過ごしちゃったから、早くに起きてヘンリーを待ち伏せして、私のことを話している時、アレンがどんな顔をしているか聞き出せなかった。でも、そのことを照れながらヘンリーに話せば、寝る前の歯磨き中だったヘンリーがごぼぉっと、歯磨き粉混じりの唾液を吐き出していた。悪いことしちゃったみたい? 今度からは、歯を磨き終えたあとに話そうっと。




