◆幕間之二 なぜなにイチカ~魔法編Ⅰ~
解説編、という名の設定垂れ流し回です。
「メイシーとー?」
「モ、モニカの…。」
「「なぜなにイチカー。」」
「わ~。」
白衣を纏い、何故か眼鏡をかけているメイシーとモニカがホワイトボードの前でポーズを決める。
それを、ケインが楽しそうに拍手で迎える。
「…モニカ。」
「は、はい、何でしょう?」
「嫌ならやんなくていいのよ?」
誰が見ても照れ顔でポーズを決めているモニカに向かってルシエが声をかける。
「でも、シャロさんが、やれって…。」
「人生を勢いで生きてるようなやつに合わせなくていいのよ…?」
「でも、すごく可愛かったですよ!モニカさん!」
「可愛い、なんて…。あ、ありがとう、ございます…。」
屈託のない笑顔でモニカを褒めるケイン。その評を聞いて照れながらも笑みを返すモニカ。
(コイツは…悪意も下心もない笑顔でまた…。)
(これはケイン君、女たらしの才能があるね…。)
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「そ、それで。今日は、ケイン君に、魔法について教えると、聞いていましたが。」
「うん、そだよー。ケイン君は黒魔法、白魔法、青魔法は知ってるって言ってたけど、具体的にはどれくらい知ってる?」
「ええっと…。黒魔法は攻撃する魔法、白魔法は治す魔法、青魔法は強くなる魔法、くらいしか…。」
「なるほどなるほど、ぼんやりした感じだね。じゃあ、魔法はどうやって使うかはわかる?」
「…いえ、すみません。よくわかりません。」
「ケインは魔法が使えないんだし、その質問は少し意地が悪いんじゃない?」
「あはは、そうだったね。ごめんごめん。じゃあ、まずは魔法っていう技術についてざっくり説明していくね。」
メイシーは人差し指を立てて説明を始めた。
「魔法は今からおよそ一万年くらい前、エルフによって発見された技術、と言われてる。大気中にある無色透明、無味無臭の元素、"マナ"を体に取り込んでイメージと共に呪文を唱え、起動語と共に効果を現す。これが、魔法のおおまかな概要だよ。」
「言われてる?」
「…はっきりとは、記録に残って、いないんです。少なくとも、8000年は昔だと、言われていますが、詳しくは、わかっていません。」
「なるほど…。」
「マナがどうして、いつからあるのかもよくわかってないんだよね。世界が出来た時からあるんじゃないか、とは言われてるけど。」
「マナについて、わかっていることは、場所によって濃さに濃淡があること、生物には宿っていないこと、使ってもすぐに再生産されること、使うには適性がいる、ということくらい、ですね。」
「だねー。まあマナの起こりとかになると長くなるし、今回の話とは関係ないから、また機会があったらにしよう。」
「はい、わかりました。」
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「じゃあ、次は魔法を使用する条件についてだね。条件は大きく三つ。ひとつ、呪文や起動語を発音できる環境・状況であること。ふたつ、ある一定度のマナ濃度があること。みっつ、使用する人にある程度のマナ適性があること。」
モニカはホワイトボードにそれらをきっちり書いていく。字は整っており綺麗だ。
「まず一つ目の条件ですが、単純なように見えて、とても大事です。声が出せない環境にあったり、何等かの原因で、声を奪われると、魔法使いはそれだけで、無力化されてしまいます。」
「最もわかりやすいのは水中では魔法が使えない、ってことだね。この間の種族の話でもしたけど、水中で声が出せるのはネレイドとポセイドンだけ。他の種族は水中発声用の魔法がないと声は出せない。だから、基本的に水中で魔法は使えないんだ。」
「それから、魔法で声を奪われても、魔法は使えなくなります。あとは、器官として喉や口、声帯、肺が潰されても、魔法は使えなくなります。」
「喉や口、肺を潰されたら、魔法を使う以前に死んじゃう気がしますが…。」
「実際重傷ではあるわね。でも潰すってのは何も叩く、斬るってだけじゃなくて、口を塞いでしまえば魔法が使えないのだから、そうやって無力化することもあるわ。」
「確かに…。何も傷つけなくてもいいんですね。」
ケインのほっとした顔にモニカは優しく微笑む。
「優しい子ですね。関連したお話に、使用にあたり、呪文が必要な魔法は、その呪文を全て唱えないと、効果が現れない、という点があります。」
「? どういうことですか?」
「例えば私が使う【風の獣よ、嵐を呑め】は、発動前に長い呪文があるでしょう。あの呪文をすっ飛ばしていきなり【風の獣よ、嵐を呑め】とだけいっても、何も起きないってことよ。」
ルシエの補足にメイシーが頷く。
「途中の呪文を省略することを"詠唱破棄"っていうんだけど、これは実質無意味なことなんだ。魔法が出ないからね。」
「でも、皆さん魔法を使う時、起動語?しか言ってないことがありますよね?」
「それは、使用にあたり、起動語しか存在しない、魔法を使っているからです。例えば、空を飛ぶための【飛行】や、一時的に暗闇でも、ものが見えるようにする【暗視】は、起動語だけで、発動します。」
「へ~。じゃあ、ルシエさんがよく使う【大気爆発】も、起動語だけで出るんですか?」
ケインの疑問に、ルシエは首を横に振って否定する。
「【大気爆発】は三小節の中魔法よ。普通に使うなら詠唱がいるわ。私があれを詠唱破棄で使えてるのは、ちょっとしたズルをしてるからよ。」
「しょうせつ?ちゅうまほう?」
わかりやすく頭にはてなマークを浮かべるケインを見て、モニカも笑ってしまう。
「シャロさんから、聞いてはいましたが、疑問がとても、わかりやすい子ですね。小節というのは、呪文を区切る単位のことで、中魔法というのは、その魔法の等級を、表すものです。」
「まず小節から説明していくね。例えば【大気爆発】だと、呪文は『大気よ爆ぜろ。空を割り、汝を縛る傲慢を吹き飛ばせ。』ってなるんだけど、今の呪文、三回区切った場所があったでしょ?」
「あ、はい。言いやすくするためなのかなと思ってたんですが、違うんですか?」
「そうだよー。この区切りが"小節"。で、この区切りの多さで魔法の等級が違うんだ。」
「起動語のみ、もしくは二小節までの魔法は"小魔法"と呼ばれます。三小節以上、五小節以内の魔法は"中魔法"になります。」
「六小節以上、十小節以内の魔法は"大魔法"、十一小節以上、十六小節以内の魔法は"儀式魔法"、十七節以上の魔法は"極大儀式魔法"って呼ばれるよ。」
「ふむふむ…。極大儀式魔法よりさらに上はあるんですか?」
「ないねー。三十小節くらいまで呪文が長い魔法は、そうそうないし。」
「魔法は基本的に中魔法や大魔法が多いわ。私達は普段儀式魔法とかばかり使ってるけど、本来は数が少ないものなの。」
「なるほどー。でも、やっぱり呪文が長いからには強力だったり、便利だったりするんですよね?」
ケインの問いに、メイシーはちょっと首を傾げつつ答える。
「確かに強力になる傾向はあるけど、便利かどうかは別かなー。【飛行】や【暗視】なんかは小魔法の筆頭格だけど、起動語だけで使えて利便性がいいから、普段魔法は使ってない人でもこの魔法だけは覚えてるって人もいるし。」
「呪文が、長いという事は、それだけ、使うにも時間がかかると、いうことになります。時間がかかるということは、それだけ取り回しが、悪いということになるので、強力な魔法は、便利な魔法とは、別なことが多いですね。」
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「ルシエちゃんがやってるズルは、後で解説するとして。ふたつめ、魔法の使用には一定以上のマナ濃度が必要なんだ。マナ濃度は、ケイン君もわかるよね。」
「はい、場所によってマナの濃さに濃い薄いがあるんですよね。」
メイシーは頷く。
「その通り。マナ濃度は場所とかによってまちまちなんだ。だいたい80%~140%くらいの濃度のところが多いんだけど、場所によっては70%以下だったり、150%以上だったりする。」
「その中でも、特に、マナ濃度が、50%以下のところを、"低濃度マナ領域"と呼びます。反対に、マナ濃度が、200%以上のところを、"高濃度マナ領域"と呼びます。後者が、通称"ホットスポット"と、呼ばれているのは、ケイン君も、ご存じですね。」
「はい、一度連れて行っていただきましたから。」
「あの時は大変だったわねえ。」
「うんうん、まさかサスカッチが出るなんてねー。」
ルシエとケイン、メイシーはしみじみ頷いている。
「それでね、魔法は低濃度マナ領域…マナ濃度50%以下の環境だとうまく発動しないんだ。効果がよく現れなかったり、不発に終わったりする。」
「特に大きな魔法ほど、不発になる可能性が高くなるわ。そういった魔法ほど、一度に使用するマナの総量が多いものだから。」
「ふむふむ。」
「低濃度マナ領域は、メイシーさんのような、フェレメルの方が、マナ欠乏症を発症する、ボーダーラインでも、あります。」
「その、モニカさん。質問があるんですが。」
「はい、何でしょうか?」
ケインが学校よろしく手を挙げて質問する。
「ホットスポットはなんか環境がおかしくなってるところが多いというのは、この間お二人に教えていただいたんですけど、低濃度マナ領域には特徴があるんですか?」
「いい、質問ですね。はい、ホットスポットよりは、わかりづらいですが、特徴はあります。マナ濃度が、薄くなりすぎると、おおむね周囲の環境は、荒れて枯れ果てていくと、言われています。」
「荒れて、枯れ果てる?」
「すっごく単純に言うと、マナ濃度が薄くなればなるほど砂漠に近づくんだ。例えばあたし達がケイン君を助けたあの荒れ地だけど、マンテリアにかなり近い場所だったのにマナ濃度は90%程度しかなかったんだよ。」
「…それ、低いんですか?」
ピンと来ていない感じのケントを見て、ルシエが口を挟む。
「まあ、ピンとこないのも無理はないわね。今のところは、おおよそ濃度100%以下の場所は他に比べて低いと考えて間違いはないわ。」
「で、あのあたりって赤茶けた土がむき出しで、草木があまり生えてなかったでしょ?マナ濃度が薄くなると、ああいう土地が増えるんだ。」
「なるほど…。もっとマナ濃度が低い場所や国って、あるんですか?」
「はい、あります。…ウィンデリアの西、"砂の国"デザークレイです。」
「砂の国…。」
「幻想氷原に行ったときに、ケイン君も見たでしょ。あの氷原の向こう側に砂漠が広がってたの。あの砂漠が、まるまるデザークレイの領域なんだよ。」
「はい、少しでしたが見ました。あれが、砂漠なんですね。」
「デザークレイの、平均マナ濃度は、50%弱と、言われています。砂漠の中では、濃度が30%を下回る場所もあります。」
「オアシスのマナ濃度は他に比べて高いけど、それでも100%に届く場所は少ないと言われてる。必然、デザークレイでは魔法をほとんど使えない。それどころか、場所によっては魔機の起動すら怪しい場所もあるのよ。」
「マナ濃度が薄すぎて、あたし達フェレメルが一人もいない国でもあるんだよ。…まあ、国の話はまたあとの機会にしよう。ここまではわかったかな?」
「はい、よくわかりました。ありがとうございます!」
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「最後はマナ適性だね~。マナにどれだけ影響を与えられるか、どれだけ正確にイメージを具現化できるかっていう適性を表す指標で、普通はS、A、B、C、Dの五段階で表されるんだ。」
「このうち、Cランク以下の適性の方は、あまりうまく、魔法を扱えません。ですので、魔法使いは、最低でもBランク以上の適性が、求められます。」
「あの、魔機には適性がいるんですか?」
ルシエは首を横に振る。
「魔機はアンタみたいな特別な例を除けばマナ適性は関係ないわ。発動時に周囲にマナがあればいいからね。」
「なるほどー。じゃあ、マナ適性は魔法が使えるかどうか、くらいしか影響しないんですか?」
「大体その通りなんだけど、マナ適性にはもう一つの側面があるんだ。」
「もう一つの側面?」
ケインの疑問にモニカが頷いて応える。
「はい、それは"魔法に対する抵抗力"です。」
「ていこうりょく?」
「単純に言うと、魔法から受ける影響を、どれだけ減らせるか、という力です。一般的に、適性が低い方ほど、抵抗力が高いと、言われています。」
「マナ適性とマナから受ける影響は、相互性があるんだ。だからマナ適性が低いとそれだけマナから受ける影響が少なくなって、結果的に魔法が利きづらくなったり、受けるダメージが減ったりするんだよ。」
あたし達フェレメルみたいな例外もいるけどね、と付け足すメイシー。
「なるほど…。僕みたいな人はマナ適性が全くないから、魔法の影響も受けないってことなんですね。」
「そうだよ~。適性NNや、適性Dなんかの人は無能とか言われて、よくいじめの対象になったりするんだけど、それでもめげずに大きくなって、強くなったら、魔法使いの天敵になれるんだ。」
「それこそアンタがやってくれた、黒い太陽みたいな魔法を受け止めて、消してしまうってこともね。だからこそ、NNは狙われるって側面もあるのだけど。」
「でも僕、あの魔法を一瞬で消しきれませんでした。すごく熱くて、手足が焼けてしまうかと思いました。」
「あれはあたしも驚いたよ。NNも強力で大きすぎる魔法は一瞬で消せないみたいだね…。もしかしたら、他にも知らないことがあるのかもしれない。」
「知られてることが、まだ少ないですからね。でも、少なくとも私達は、その究明のために、ケイン君を実験台にするつもりは、ありませんので、安心してください。」
「はい!」
優しく話すモニカにケインは笑顔で答えた。
メイシーはちょっとだけ残念そうな表情を浮かべるが、ルシエがじろっと睨んでいることに気づいて慌てて目を逸らす。
「魔法についての基礎的な話は以上かなー。何か質問ある?」
「あの、ひとついいですか?」
「んー?何ー?」
「僕みたいな、さっきの五段階に収まらない特異なマナ適性の人って、他にいるんですか?」
ケインの質問に、一課ガールズは顔を見合わせた。
驚いたというよりは、回答に困っているような表情をしている。
「…いなくは、ないんだけど。」
「教えるべきかは、困りますね…。」
「えっ…?僕、なんかいけないことを聞いてしまいましたか…?」
三人の反応に驚きと恐縮の表情を浮かべるケインに、ルシエは小さく首を振って否定する。
「別に聞いていけないことではないわ。…ただ、あるにはあるんだけど、伝説上の存在だから教えるべきか困るのよね。」
「何せ"そういうのがいたかもしれない"ってレベルの話でさ。そんな眉唾ものの話を教えても仕方ないかなーと思うんだよね。」
「…でも、ケイン君が知りたいなら、教えてあげても、いいんじゃないでしょうか。実害があるわけでは、ありませんし…。」
「うーん…そうだね。知ってて損する話じゃないし、教えちゃおうか。」
メイシーは皆と相談した後、改めてケインに向き直る。ケインも思わず姿勢を正した。
「…これはフォレリアに伝わる伝説上の存在なんだけどね。特異適性にはケイン君みたいなNN以外に、もう一つあるんだ。」
「マナ適性ランク:測定不能。通称"EX"と呼ばれる存在が、そうよ。」
「そくてい、ふのう…!」
少年の心をくすぐる言葉にケインは思わず目を輝かせる。
「その、測定不能といっても、魔法の強さが天井知らず、というわけでは、ないそうです。記述に寄れば、その強さはおよそ、Sランク相当であると、言われています。」
「じゃあ、何がすごいんですか?」
「その伝説の記述にはね、"その者は魔法によって砂漠に雨を降らせ、泉を作り樹を生い茂らせた"ってあるんだ。」
「砂漠で、魔法を…?あれ、でも砂漠はマナ濃度が低くて、魔法が使えないんじゃ?」
ケインの疑問に一同は頷く。
「その通り、普通は使えない。でも、適性EXの人間は、"例えそこがどんなところであっても""いつも通り"魔法が使えるんだ。」
「一説によれば、EXはこの世界のどこかに"ある"と言われてる、マナの源泉に直接接続できる者を指す、らしいわ。周囲のマナじゃなくて、源泉から直接マナを吸い上げてるから、マナ濃度が薄い場所でも魔法を使える、って言われてる。」
「マナの、げんせん…!」
「最も、記録上、そういったものが見つかった記録は、ないんですけど。」
「でも、世界のどこかに、あるかもしれないんですよね…!?いいなあ、見てみたいなあ。」
ケインの瞳は未知の魅力と冒険心できらきら輝いている。
ルシエは彼の様子を見てしまった、という顔をしている。視線をずらせば、獲物を見るような目で見ているメイシーがいる。
「んっふっふ~。ケイン君も気づいたかい、マナの謎の魅力に。何を隠そう、あたしがやってるホットスポットの調査もそのためにやってるんだよ。さあ、ケイン君も今度一緒にホットスポットの調査に行こう。何なら本格的に調査するために魔法研究所にざいせぎゃふん!」
ケインを勧誘するメイシーの顔面にコップが投げつけられる。コップはメイシーの小さな頬にクリーンヒットした。
「魔法研究所はダメ!アンタ達、ケインを研究材料にするつもりでしょう。それはやらないって言ったばかりなのに、約束を破る気?」
「でもルシエさん、僕もホットスポットの謎は気になります!この間言った氷の塔も、結局よくわからないままですし。」
「ほら~ルシエちゃん、少年の好奇心を殺しちゃうって言うの~?」
「んぐ…でも、好奇心猫を殺すって諺もあるんだし…。」
いやらしい目で見てくるメイシーと、対照的にきらきらした瞳で見つめてくるケインを見て、ルシエはうぐぐぐと唸ってしまう。
「わかったわよ、その代わり出来る限り私も連れて行きなさい。いくら一課に入ったからって、私はケインの保護者であることに変わりないんだから。」
「やったー!ありがとうございます!」
「やりぃ~、一気にパートナー二人ゲット!」
三人のやりとりを見て、モニカはやれやれと苦笑いしていた。
(すっかり話が、脱線してしまっていますが、それはいいんでしょうか…。)




