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機動妖精ルシエさん  作者: あまぐにれい@びたみん
◆幕間章
18/18

◆幕間之三 なぜなにイチカ~魔法編Ⅱ~

気づいたら9000字を超えていました。こんなはずでは。

「ごちそうさまでした。」

「ごちそう、さまでした。」

「ごちそうさまでした~!おいしかったよ~!」

「ありがとうございます、お粗末様でした。」


ルシエ宅の食卓で、一課ガールズが食事を終える。

あの後なんやかんや昼食の時間になってしまったので、食事をしてから続きをやろう、ということになったのだ。


「いいな~ルシエちゃん。こんなおいしい手料理を毎日食べられるなんて~。ねーケイン君、今からでもウチに来ないー?」

「あはは。嬉しいお誘いですけど、僕はルシエさんに返しても返しきれない御恩がありますので。」

「そういう事よ、諦めなさい。」


ケインは食器を手早く片付け洗いつつ、答える。

その答えを聞いて、メイシーは心なしかドヤ顔で誇るルシエを見つつ口を尖らせた。


「それにルシエさん、一人にしたらまた元に戻りそうで。少しずつ掃除や家事も、頂けるようにはなってきたんですけど…。この間も、パソコンをつけっぱなしにして椅子で寝ていましたし…。」

「し…仕方ないじゃない。術式コードチェックがなかなか終わんなくて…。あの日は、任務で疲れてたし…。」

「お仕事で大変なのはわかっています。でも椅子で寝たら疲れも取れませんし、風邪をひいてしまうかもしれません。忙しい時でも、お風呂に入ってベッドで休んでほしいです。お風呂は何時でも入れるように用意してますから。」

「うう…。わかってはいるんだけど…。」


心底心配そうな表情でルシエをのぞき込むケイン。それを受けて縮こまっていくルシエ。


「…ルシエちゃん。」

「な、何よ…。」


メイシーが哀れみたっぷりな表情で尋ねる。


「保護者なんだよね?ケイン君の。」

「…うっさいわよ…。」


ルシエは更に縮こまってしまった。メイシーよりも小さく見えるのは、きっと気のせいではないだろう。


*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*


「そ、それより。まだ続きがあるんじゃないの?魔法の。」


話題を変えるべく話を切り出すルシエ。


「そだねー。さっきまでは魔法の基本的な概念について話してきたけど、次からは今この世界で確認されてる魔法の種類について話していこうかなって。」

黒魔法リビオルとか、白魔法ヒーリングとかですか?」

「うん、そうだよ。それらの種類と、それぞれどんなことができるかってのをざっくり話していこうかなって。」


言い終わり、メイシーはホワイトボードに黒魔法リビオル白魔法ヒーリング青魔法エンチャント紫魔法サイコリジョンと書いていった。字癖がやや強い。


「はい、まずこれが今この世界で確認されてて、使用が認められてる4つの魔法だよ。紫魔法サイコリジョンについては、ケイン君知ってたかな?」

「正直、あまり…。ナッシュさんがよく使っておられる魔法ですよね?」

「うん、そう。対象の精神に作用する魔法だよ。…詳しい話はあとでやるとして、まずは黒魔法リビオルから解説していくね。」


メイシーの宣言にケインが頷く。それを見てメイシーも頷き返し、話を続ける。


黒魔法リビオルは、またの名を"現象魔法"って言うんだ。あたしみたいにこの魔法が特に得意な魔法使いのことを"黒魔術師ウィザード"って呼ぶね。」

「げんしょうまほう?攻撃魔法とは違うんですか?」

「うん、現象魔法。火を起こしたり風を起こしたり…この世で起きる現象や、一時的にではあるけどモノを召喚させる魔法なんだ。よく攻撃魔法って言われるけど、実際は魔法の中でも随一の汎用性がある魔法なんだよ。」

「例えば、空を飛ぶための【飛行フライト】は、風を起こして、その風で飛ぶので、黒魔法リビオルに、分類されます。その他、灯りをつけるための【照明ライト】という魔法も、黒魔法リビオルです。」


「今は魔機灯ギアトーチにとってかわられることが多いけど、昔は夜になると【照明ライト】や【天覧サイト】なんかの魔法の灯りが町に灯っていたらしいわ。他にも、水流制御に黒魔法リビオルが用いられたり…。」

「社会インフラを、担っていた魔法ですので、昔は今よりも、黒魔術師ウィザードの地位は、高かったと、言われていますね。」

「はあ~、なるほど~。」

黒魔法リビオルについてはこんな感じかな。次はー白魔法ヒーリングかな?」


一通りの説明を終え、メイシーはモニカに話を振る。モニカも頷き話を続ける。


「はい。次に白魔法ヒーリングですが、別名に"回復魔法"とあるように、主に怪我や、病気を治すための、魔法です。私のように、白魔法ヒーリングを主に使用する魔法使いのことを、"白魔術師ヒーラー"と、呼びます。」

白魔法ヒーリングは、僕の母も白魔術師ヒーラーなので他の魔法よりもよく見る機会がありました。救護班の方々も、負傷した兵隊さん達を治しておられましたよね。」

「はい。よく、見ておられますね。術者の力量にも、よりますが、おおよその怪我や病気は、治せます。時間が経っていないことが、必要となりますが、失った手足を、再生させることも可能です。」

「手足を…!?すごいです!」


「勿論、時間がかかる魔法では、ありますが…。それで、白魔法ヒーリングには、他の魔法と違って、気をつけなければいけない点が、ひとつあります。」

「気をつけなきゃいけない点?」

「はい。白魔法ヒーリングは、患者さんに体力があることが、必要です。その傷が深ければ深いほど、その病気が重ければ重いほど、完治に体力が、多く必要になります。」

「もし、その患者さんに必要な体力がなかったらどうなるんですか?」

「…衰弱して、死んでしまわれます。」

「そんな…!」


ケインは驚きと悲しみの表情を浮かべる。


白魔法ヒーリング事故って言ってね。昔は時々見られたらしいわ。」

「そう、ですね。その事故を回避するためにも、医術や薬は、重要な役割を、もっています。医術や薬も、患者さんの体力次第な側面がありますが、それでも、医術や薬なら、患者さんの状態に合わせた、治療ができますから。」

「だから白魔術師ヒーラーがいても、お医者さんや看護師さん、薬師の人がいるし、町には病院があるし、戦争になると救護班が出て野戦病院が展開されるんだよ。この世界じゃ、白魔法ヒーリングと医療は、切っても切れない関係なんだ。」

「…確かに、僕も救護班で手当てや負傷した人の食事を作る手伝いをしていましたけど、皆さん一生懸命働いてらっしゃいました。」

「地味な魔法ではあるけど、平時でも有事でも人を下支えしてる大事な魔法ね。白魔術師ヒーラーには感謝しなければならないわね。」


言ってルシエ、ケイン、メイシーはモニカをなむなむと拝み始めた。


「あ、ありがたいですけど、拝むのは、やめてくださいぃ…。」


モニカはその様子を見てあわあわとするばかりであった。


*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*


「それで…次は青魔法エンチャントかな。ルシエちゃん、お願いできる?」

「はいはい。」


呼ばれたルシエはメイシーと場所を交代しホワイトボードの脇に立つ。眼鏡はかけていない。


青魔法エンチャントは別名"強化魔法"と言って、身体能力や道具の性能を上げるための魔法よ。私のように、特にこの魔法が得意な魔法使いは"青魔術師エンチャンター"と呼ばれるわ。腕力を上げる【腕力強化アームアシスト】や、脚力を上げる【脚力強化レッグアシスト】なんかが代表的ね。」

「その、青魔法エンチャントは他の魔法に比べて使う人が少ない、と聞いたことがありますが、本当なんですか?」


ケインの疑問にルシエは頷く。


「その通りよ。青魔法エンチャントはその機能の大体が魔機ギアの性質変化で代替できるの。魔法と違って性質変化はその形になったら自動的に効果が現れるから、いちいち魔法を使う必要もない。現に私も、大技以外あんまり使っていないしね。」

「ただ、魔機ギアの性質変化と、青魔法エンチャントの強化は、それぞれ相乗して効果を現すことが、可能です。ですので、ご自身が優れた魔機ギアの使い手で、かつ国でも随一の、青魔術師エンチャンターであるルシエさんの、個人の戦闘能力は、一課でもトップなんですよ。」

「【風の獣よ、嵐を呑めロード・スレイプニル】もありますもんね…。あ、そういえば、先ほど言っていたルシエさんのしてるズルって、結局何なんですか?」


「ああ…あれは【風の獣よ、嵐を呑めロード・スレイプニル】の付随効果よ。あの魔法は身体能力の全体的な向上、移動速度の増強、【矢避けの風ミサイルプロテクション】の自動付与、飛行能力の獲得、物理攻撃が風属性になる…っていう様々な効果の複合体なんだけど、その中に『風属性の魔法に限り、五小節までの詠唱破棄を可能にする』って効果があるのよ。」

「凄い魔法なんですね…。」


ケインは驚き半分、疑問半分というような顔をしている。

なんとなくすごい魔法だという事はわかるが、いまいちピンと来ていないようだ。


「まあさっきのズルについてだけ言えば、あの魔法中は風に関する魔法はいくらか詠唱破棄が出来るってだけ覚えてくれればいいわ。どうせ深く理解しても、使えるのは私とエリスくらいなものだろうし。」

「はい、わかりました。なんかすいません。」

「いいのよ。それで…次は紫魔法サイコリジョンかしら。メイシー?」

「はいはーい。っても、国一の使い手のナッシュはいないから、概要的な話になるけどねー。」


呼ばれて再びメイシーとルシエは場所を交代する。


紫魔法サイコリジョンは、別名"精神魔法"って呼ばれてる。その名の通り、相手の精神に作用して効果を現す魔法なんだ。これを特に得意とする人を"紫魔術師サイキッカー"って呼ぶよ。」

「精神に作用…。具体的には、どんな感じの魔法なんですか?」

「そうだなあ…眠気を引き起こして相手を眠らせる【睡眠スリープ】、一時的な放心状態にして短時間動きを止める【放心スタン】、強烈な恐怖を与えて一時的に口を利かせなくする【失声サイレンス】なんかがあるかな。」


紫魔法サイコリジョンは、その魔法の性質上、相手にも人間と同程度の知能がある必要が、あります。例えばワンちゃんに【失声サイレンス】をかけても、まったく効果が現れません。」

「何でですか?」

「【失声サイレンス】で与える恐怖は、あくまで人間の知能を基準にしたものだからよ。その辺の犬に人間の恐怖を見せても、犬は理解できないから効かないってこと。」

「なるほど…。」


ケインは一通り話を聞き、少し考え込んだ後に質問する。


「あの…今まで例示して頂いた魔法は、どれも他人に悪影響を与えるための魔法だと思いますが…人の役に立つ紫魔法サイコリジョンもあるんですか?」

「まあ、あるにはあるねー。【認識阻害イリュージョンバイアス】で認知機能をいじられてる人の機能を回復させる【認識回復オーディナリバイアス】、一定時間恐怖心を感じなくさせる【狂戦士の心ブレイブハート】、自信とやる気を与える【克己心エンライテン】なんかがそうかな。」


「まあそれでも、アンタが思った通り、基本的に紫魔法サイコリジョンは人を害するための魔法であることは間違いないわ。紫魔法サイコリジョンに対抗できる魔法も紫魔法サイコリジョンだから、軍人とか私達は抵抗のために修めてはいるけど、基本この魔法を使う人=犯罪者ってレッテルは免れないわね。」

「そう、なんですね。…なんだかちょっと、残念です。」


(怖いじゃなくて、残念か。…本当に優しい子だね。)


目を伏せるケインを見て、メイシーは弟を心配する姉のような複雑な笑みを浮かべるのだった。


*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*


黒魔法リビオル白魔法ヒーリング青魔法エンチャント紫魔法サイコリジョン…。4つの魔法を教えていただきましたけど、この他に魔法はないんですか?」

「まだあるよー。って言っても、理由あって少なくともウィンデリアじゃ禁止されてる魔法と、あったと言われてるけど今はなくなった遺失魔法だけど。」

「いしつまほう…!」


ケインが目を輝かせる。


「ワクワクしてるところ悪いんだけど、まずは禁止魔法から。灰魔法ネクロマンシーと、藍魔法ウィークってのがそうだよ。」


言いつつメイシーは癖字でホワイトボードに書き込んでいく。


灰魔法ネクロマンシーは、別名"死霊魔法"と呼ばれます。その名の通り、死体や亡霊を呼び、操る魔法です。これを特に得意とする魔法使いは、"灰魔術師ネクロマンサー"と呼ばれます。」

「対して藍魔法ウィークは、別名"衰弱魔法"と呼ばれるわ。その名の通り、生物を弱らせるための魔法よ。これが特に得意な魔法使いは"藍魔術師フィアレンサー"と呼ばれるわ。」

灰魔術師ネクロマンサー藍魔術師フィアレンサー…。その二つは、どうして禁止魔法になったんですか?」

「どちらも社会には悪い影響しか与えないからだね~。」


メイシーはコップに注がれていた茶を飲みつつ答えた。


灰魔法ネクロマンシーは使用するのに死体が必要だし、亡霊を呼び出すにしてもそこで沢山の命が亡くなってなきゃいけない。必然、灰魔法ネクロマンシーを十全に活用するには死体を確保する必要があって、そのためだけに何十人、何百人と人殺しが行われることだってあったんだ。」

「何百…!」

「対して藍魔法ウィークは、明確に生物に害を与えるための、魔法です。紫魔法サイコリジョンと違い、他者に有用に働く魔法は、一つもありません。」

「片や使用のために人殺しをするような魔法使いがいて、片や明確に他人を害するための魔法。どっちも社会には要らない魔法と認定されて、禁止魔法になってるわ。」

「なるほど…。そんな魔法を編み出した人は、一体どういうつもりで編み出したんでしょうか…。」

「それは知る由もないね~。一応灰魔法ネクロマンシーは圧倒的なコストの少なさで軍隊が作れちゃうから、そう言う目的で使う人はいたみたいだけど。」


ケインは悲しそうな目をしている。明らかな悪意をもって編み出された魔法を使う者であっても悲しむ、心優しい少年であった。


「あとは…遺失魔法だね。遺失魔法は赤魔法ゲート緑魔法クロック、そして…虹魔法オラクルってのがあった、と言われてる。」


メイシーはホワイトボードに書き込んでいく。


赤魔法ゲートは何か移動のための魔法、緑魔法クロックは時間に関する魔法なんでしょうか?」

「おっ、流石勘がいいねえケイン君。緑魔法クロックはほぼその通り、赤魔法ゲートも半分くらいは当たりだよ。」

緑魔法クロックは、別名"時魔法"。その名の通り、時間と空間を操る、魔法と言われています。文献には、この魔法を使う人の事を、"緑魔術師ヘキサー"と呼んでいた、そうです。」

赤魔法ゲートは、別名"転移魔法"って言うんだけど…現代でも通りやすい別名が、また別にあるんだ。」

「? それは何ですか?」


メイシーは人差し指をぴっと立てて言った。


「"召喚魔法"だよ。」

「召喚魔法…!」

赤魔法ゲートは、瞬間移動をするための魔法ではなく、どこか別の場所、別の次元から生物を呼び出すために作られた魔法だって言われてる。一応移動用の魔法もあったみたいだけど、主だった目的は何かを呼び出すための魔法なんだ。これが得意だった人は、"赤魔術師サモナーって呼ばれてたらしいから、名前からも目的が透けて見えるってもんだよね。」

「すごい…!神様を呼んだり、伝説にあるような魔物を呼んだりできるんでしょうか…!」

「神様を呼べるかは知らないけど…過去に生きていたことがある、或いは生きていたとされてる生物なら呼べたらしいから、ひょっとしたら呼べるのかもしれないわね。」

「すごいなあ…見てみたいなあ…。あ、でも、失われてるんでしたよね…。どうしてこれらの魔法は失われたんでしょうか?」


「単純にコストがかかりすぎたり、条件が厳しすぎたからみたい。赤魔法ゲートなんかは結構マナが濃いところで、高い適性があって初めてスタートラインだったみたいだし、単純に使う人、継ぐ人がいなくて廃れた、って感じだねー。」

緑魔法クロックも同じような理由で、滅んだと言われています。7000年ほど前の文献あたりから、記述を見なくなるそうですから、少なくとも滅んでから、7000年以上は経過していると、思われます。」

「そんな昔から…。あ、最後の虹魔法オラクルってのは、何なんですか?虹って言うからには、とても凄そうですけど。」


ケインの問いに、またしても微妙に困った顔をする一課ガールズ。


虹魔法オラクルは、伝説上"あった"と言われてる魔法なんだけど…本当にあったかがわからないのよね…。」

「一応、フォレリアでは古くから信じられてる伝説だけどね…。あたしもあるのかなかったのかって言われたら、なかったんじゃない?って思っちゃう。」

「どんな魔法だったんですか?」

「この世にあるすべての魔法の始祖。万物の始まりであって、万物の頂点とされるモノ。無から有を生み、この世の在り方を変えるモノ。それが虹魔法オラクルって言われてる。」

「?…すいません、よくわからないです…。」


ケインは首をかしげる。頭上にははてなマークが5つくらい浮かんでいる。


「無理もないよ。ていうかこれでわかったらあたし以上の天才だよ、ケイン君は。今のはフォレリアに伝わる伝説なんだけど、正直あたしもよくわかんないし。」

「一応…今ある魔法、失われた魔法含めて、すべてを起こすことができる魔法…だと、言われてるわね。」

「そういった、伝説にしか残っていないので、どんな魔法なのかは、私達にもわからないんです。ただひとつ、明確に今ある魔法と違うと言えるのは、"呼び出したものが、ずっと残る"ということでしょうか。」

「ずっと残る…?」


モニカはケインの問いに頷く。


「魔法で起こした現象や、呼び出したものは、基本的にずっとその場にとどめることが、できません。例えば黒魔法リビオルで、大きな岩を呼び出したとしても、10分もすればマナとなって、霧散してしまいます。」

白魔法ヒーリング紫魔法サイコリジョンみたいに、その魔法で何かの影響を与えたらその影響は残るけど、基本起こした現象、呼び出したものはずっとこの世に残らないっていうのは、魔法の大原則なの。でも―」

虹魔法オラクルで出したものは、ずっとこの世に残る。例えば剣を呼び出したら、ずーっとその剣を使うことができるんだ。伝説では、デザークレイのオアシスにある湖のいくつかは、虹魔法オラクルで作られたものだって言われてる。」

「この世のあらゆるものを、命さえ作り出せると言われてることから、虹魔法オラクルは別名"創成魔法"とも、呼ばれています。まさに奇跡の魔法ですが、魔法が起こったとされる、最初期の文献にも、言い伝え的な内容でしか、残されていないため、本当はなかったのではないか?、とも言われています。」

「まさに伝説って感じの魔法ですね…。いいなあ、もし本当にあれば、見てみたいです。」


ケインは終始好奇心に目を輝かせていた。

虹魔法オラクル。この世の始まり、全ての到達点。現出すれば、この世界を変えてしまうかもしれないモノ。

一課ガールズは、彼の好奇心に頬を綻ばせながらも、好奇心のままに突っ走ってしまいやしないかと、わずかな不安を覚えるのだった。


*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*


「さーて、魔法についてはこんなところかな?何か質問ある?」

「あ、そういえば…皆さん普通に魔法を使ってらっしゃいますけど、誰かから教えてもらったりしていたんですか?」


ケインの当然の問いに、一課ガールズは目を合わせきょとんとした。すぐにその後、若干申し訳なさそうな顔をして向き直る。


「そうだよね、そこも大事だよね。ごめんごめん、魔法の習得方法について、だね。」

「うっかりしてたわね…。魔法の習得方法については大まかに分けてふたつ。『誰かに教えてもらうか』『編み出すか』よ。」

「ふむふむ。」


「誰かに教えてもらうっていうのはその名の通り、魔法学校で教えられたり、魔法使いから個別に教えてもらう、親兄弟から教えてもらうっていう方法だよ。」

「この世界の魔法は、おおまかではありますが、体系立てされています。また、デザークレイを除いて、各国の魔法の普及率は、80%を超えていると、言われています。」

「ウィンデリアみたいに、魔法学校がある国は流石に数が少ないけど、それだけの普及率があれば親兄弟の誰かが魔法使いだったりするわ。それに、魔法使いが個別で学習塾みたいなものを開いてるケースもあるし、魔法を習う機会っていうのは、意外と転がってるものなの。」

「中には伝説で残ってる魔法を、紐解いて習得するってケースもあるよ。あたしが使うジャッジメントなんかは、その典型。」

「ふむふむ…。編み出す、というのは?」


「言葉通り、研鑽の果てに、独自の魔法を編み出したり、ある日突然、閃いたりして、習得する魔法のことです。ルシエさんの【風の獣よ、嵐を呑めロード・スレイプニル】や【吠え叫べ、ロード・我が氷雪の王フェンリル】などは、ルシエさんが、大変な苦労と研鑽の末に、編み出された魔法です。」

「【風の獣よ、嵐を呑めロード・スレイプニル】は、エリスから教えてもらったものだけどね…。あの時使った【旋嵐氷鬼槍ブリザードランス】も、私が考え出した魔法よ。」

「あの、エリスさんを斬り払った虹色に輝く剣もですか?」


期待を込めたケインの眼差しに、ルシエは若干戸惑いながらも答える。


「【龍 滅 斬バルムンク】ね…あれはあの時突然降ってきた魔法なのよね…。」

「降ってきた?」

「うん。閃いた…ってのとも、ちょっと違うのよね。ほら、幻想氷原ミラージュグラッシの氷の塔で、龍と、狼と、剣のビジョンが見えたでしょう?」


ケインは頷く。


「みんながやられちゃう、どうにかしなきゃ…って思ってた時に、あのビジョンがふっと頭に浮かんでね。…次の瞬間には、脳裏に聞いたこともない呪文が浮かんだのよ。それが、【龍 滅 斬バルムンク】。」

「そうだったんだ…。あたしもルシエちゃんがあの剣を呼び出した時に、あのビジョンの事を思い浮かべたけど。」

「もしかしたら、神様があの時ああいうことが起きるって知ってて、ルシエさんにそれを打開してもらうために、見せてくれたものかもしれないですね。」

「神様が、ねえ…。」


ケインの台詞を受け、ルシエはぼんやり天井を見上げた。

彼女の故郷で奉じられ、彼女自身も今なお信仰する"裁きの氷狼"フェンリルは、己を信ずる者すら裁き、試す厳しい神として信じられている。

確かにあの時状況を打開するため信ずる神の力を借り、図らずもビジョンと同様の構図にはなったが、それでもかの神が更なる力を与えてくれるとは、あまり信じられないルシエなのであった。


*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*


「さぁ~って、今度こそこのくらいかな?もう3時過ぎるね~。」

「そう、ですね。長らく、お疲れ様でした。皆さん。」

「次もやるなら、出来ればウチじゃない方がありがたいんだけど…。」


メイシーは眼鏡を外しつつ答えた。


「えー?ダメだよ。次は魔機ギアだよ?一課で魔機ギアと言ったらルシエちゃんとシャロしかないんだから、次もルシエちゃんの家で、ルシエちゃんにも講師をやってもらうんだからねー。」

「ちょっと待ちなさい。私それ今初めて聞いたんだけど?」

「うん、だって今初めて言ったもん。あ、でも、シャロはもうルシエちゃん分の白衣発注してるって言ってたよ。」

「…なんでそう私抜きで話を進めるのよ。やんないわよ、私。」

「えっ…?教えてくださらないんですか、ルシエさん。」

「ぅ…。」


ケインの心底残念そうな、そして少し期待の混じった眼差しがルシエに突き刺さり、ルシエは後ずさる。

げに恐ろしき哉、少年の純真な瞳。ルシエはふいっとその視線を逸らす。


「…まあ、どうしても教えて欲しいって、言うなら…。」

「…!ぜひ、お願いします、ルシエさん!」

「…あんたは、どうしてそう、純真な目で…。」


屈託のない笑顔を向けられ、顔を伏せるルシエ。眩しすぎて直視できない。


「あっははは!よし、次の講義も決まったところで、ちょっと外に出ようよ。ケイン君にはご馳走になったし、あたしイチオシのスイーツパーラー、教えてあげる!」

「…あ、ひょっとして、シャロさんもこの間言っていた、あそこですか?あの、西南区画の。」

「そーそーそこ!モニカも知ってたんだ。スノンベリーがふんだんに使われたタルトが新発売らしくて、行ってみたかったんだよねー!」

「…スノンベリー…。ちょっと、私も連れていきなさいそこ。興味があるわ。」

「勿論だよ!場所貸してくれたお礼もあるしね。さ、ケイン君、行こう!」

「はいっ、わかりました!」

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