◆幕間之一 なぜなにイチカ~種族編~
解説回です。
「シャロとー?」
「メイシーのー!」
「「なぜなにイチカー!」」
「わー。」
白衣を纏い何故か眼鏡をかけているメイシーと、眼鏡をかけ何故か白衣を纏うシャルロットが、互いにホワイトボードの前でポーズを決める。ケインはそれを楽しそうに拍手しながら迎えている。
そんな光景を怪訝そうな目で見つめる一人の少女の姿がある。
「…いや、アンタ達。人の家で何してんの。」
声の主はルシエ。ここは、首都ウィンデリアのルシエの家だった。
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「いやさ~。ケイン君て学校出てないらしいじゃん?」
「そうなの?」
「はい、恥ずかしながら。」
テーブルに腰かけたルシエが、同じく腰かけているケインに尋ね、ケインは気恥ずかしそうに答えた。
「それにしては計算は出来るし、読み書きも普通に出来るわよね。」
「はい、僕は母に勉強を教えてもらっていたんです。母はアル=ラーヤン様の神官をしていますので。」
「スワンプリムの神官なら国家公務員のはずだし、少しは学があるかー。」
ケインは頷く。
「でも、そう多くは知りません。魔法も黒魔法と白魔法、青魔法があるくらいしか知りませんし、魔機もなんか便利な道具、くらいしか知りませんし…。」
「未就学でそれだけ知ってれば大したもんだと思うよー。今日教えてあげようと思ってたのは種族についてなんだけど、ケイン君は種族についてどれくらい知ってるかな?」
「ええっと…人間がいて、エルフがいて、僕達ハーピィがいて…。他にも色々な種族がいるのは父から聞いていましたが、実際に目にしたことは、あまり。」
メイシーとシャルロットはケインの言葉を聞いてうんうん頷き合った。
「それじゃ、今回の講義もためになると思うよ。外交官になるんだし、種族の基本的な特徴くらいは抑えておいた方がいいからね~。」
「そうそう。それじゃ、第一回目は人間を含めた種族の解説をしていくよー!」
「はい、よろしくお願いします!」
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「早速だけどケイン君、この世界で一番数が多い種族はなんだか知ってる?」
ケインは頷いて応える。
「はい。人間ですよね。」
「そう、正解!この世界には色々亜人種がいるけど、あたし達人間が一番世の中には多いよね。」
「他の亜人種みたいに、特別な能力はもってない。でもあらゆる環境に適応する適応力があって、想像力、発想力に優れてる種族だね。」
「魔法や魔機の発達は、人間の力なしには語れないよー。生み出したのはエルフやドワーフでも、今の形まで発達したのは間違いなく人間のおかげ!」
「そうなんですか?」
ケインは傍らで暇そうに眺めているルシエを見て尋ねる。ルシエも軽く頷く。
「悔しいけど、そうよ。人間は技術の発達において一番必要な"数の力"をもってる。天才一人が気付かなかった問題を凡才百人でクリアしたなんて事例は、吐いて捨てるほどあるからね。」
「はぁ~…。」
「それじゃあケイン君に質問。人間は大体何歳くらいまで生きるでしょうか?」
「えっ…何歳まで生きるか、ですか?ううんと…80歳くらい、ですか?」
「ぶぶー!ふせいかーい!」
シャルロットが両手人差し指で×マークをつくる。ルシエはそれをキツいものを見る目で見ている。
「正解は100歳だよ。まあ環境によるから80歳くらいってのもあながち間違いじゃないけどね。」
「そうなんですか…。でも、なんで寿命の話を?」
「それはね、種族をある程度カテゴリー分けする時の目安に、人間の寿命があてがわれるからなんだ。」
「人間の寿命が?」
「そうだよー。ケイン君は、種族を見た目でカテゴリー分けする時の分類って、知ってる?」
「あっ、はい。亜人族、巨人族、小人族、獣人族、翼人族、魚人族、ですよね。」
メイシーとシャルロットは大きく頷く。シャルロットはケインが言った分類を、横に並べてホワイトボードに書いていく。
「そう、正解。見た目があまり人間と変わらない亜人族。平均して200㎝以上の巨体に育つ巨人族。逆に人間の子供くらいまでしか成長しない小人族。」
「ルシエやユリアンみたいに、体のどこかに獣の特徴が現れる獣人族。ケイン君やメイシーみたいに背中に羽をもつ翼人族。そして、体に魚の特徴が現れる魚人族の、合計六種類が確認されてるね。」
「はい、それは母からも教えてもらいました。でも、寿命によるカテゴリー分けというのは、一体…?」
「じゃあケイン君。君達ハーピィは、人間と同じくらい生きられる?」
「それは…。」
ケインは目を伏せる。
「…生きられないです。僕達ハーピィは、頑張っても70歳くらいまでしか生きられません。」
「そうだね。ハーピィの平均寿命は70歳。君達ハーピィのように、人間よりも寿命が短い種族を、短命種って言うんだ。」
シャルロットは縦軸に【短命種】と書き、翼人族のところに【ハーピィ】と書いた。
「じゃあ逆に、ルシエちゃんは何歳まで生きられると思う?」
「え?…長生きしてほしいですけど、でも、110歳くらい、でしょうか…?」
ケインは答えつつルシエの顔を覗き込んだ。ルシエはそれに気づくと、首を横に振って否定する。
「…外れよ。私達レプラコーンは準長命種…平均寿命は200歳よ。」
「にひゃく…!?」
ケインは目をまあるくして驚いた。
「そう、凄いよね。人間の倍生きるんだよールシエ。まあ、その分一課じゃ一番としまぎゃんっ!」
余計な一言を言おうとしたシャルロットの顔面に空のコップが突き刺さる。
鼻を強打したシャルロットはしばしその場で悶絶することになった。
「年増言うな。私はまだこれからだっての。」
「…そういえば、ルシエさんって今年おいくつなんですか?」
「…36。」
「…えええええっ!?」
ケインはひとしきり驚いた後、目を輝かせて言った。
「すごい!全然見えないです!子供のように見えるけど、随分大人びているから、25歳くらいかなーと思ってたのに!」
「ありがと。…悪意なしの純粋な憧れと称賛の目って、こそばゆいもんね。」
悪い気はしないでも、妙なこそばゆさにルシエは頬をかく。
「あははは。まあ、ルシエちゃんみたいに人間よりも長く生きて、その寿命が300歳くらいまでの種族を、準長命種って言うんだよ。…ほらシャロ、書いて書いて。」
「う゛ぅ゛~、はながあ~…。」
促されるまま、シャロは鼻を抑えつつ縦軸に【準長命種】を書き込み、その縦軸の小人族の箇所に、【レプラコーン】と書いた。
「…準、ってついているということは、長命種って言う種族も存在するんですか?」
「勿論。長命種の代表は、なんといってもエルフだね。彼らの平均寿命は脅威の1000歳。文句なしに、世界で一番長生きする種族さ。」
「その分、あまり数は多くないけれどね。すらりと身長が高くて、種族的平均で見てもマナ適性が高い者が多いのが特徴ね。」
「そうだねー。なんといっても魔法を一番最初に生み出した種族、って言われてるくらい。」
「へ~…。長命種の方々は、ほかにもいらっしゃるんですか?」
シャルロットは鼻をさすりつつ頷く。
「うん。あとはー、ドラグーンとオーガかな?ドラグーンは500歳、オーガは400歳まで生きるんだって。」
「なるほど…。どちらも、背が高い方々ばかりですね。」
「そうだね~。ドラグーンもオーガも、300㎝に届くくらいまでおっきくなるね。」
「それだけパワーも強いし、すっごいタフ!ドラグーンもオーガも、火に対して強い耐性をもってる。ドラグーンはそれに加えて全種族一の飛行能力があって、火だけでなくて冷気にも強いよ。ドラゴンなのに。」
「オーガはドラグーンと違って空は飛べないけど、毒に対しても高い耐性があって…何より全種族で二種族しかいない再生の能力をもってる、まさにタフネスの権化だね。」
「それは…敵に回すと大変そうですね。」
ルシエが肩をすくめる。
「実際大変よ。アイツら固いし、デカいし、見かけによらず結構早いし。何より…私達レプラコーンにはやつらの"熱暗視"が厄介なのよね。」
「ねつあんし?」
わかりやすく頭上にはてなマークが浮いているケインを見て、メイシーが笑いながら解説する。
「わかりやすいねーケイン君は。種族の中には暗いところでも目が利く"暗視"って能力があるんだ。ユリアンのようなコボルドや、ルシエちゃんみたいなレプラコーンは単に暗闇でもものが見える、いわゆる"普通の暗視"なんだけど。」
「オーガは暗いところでも相手が発している熱量…エネルギーを感知する瞳を持っているの。それが"熱暗視"。」
「あんまりイメージはできませんが…それがどうしてルシエさん達レプラコーンには厄介なんですか?」
ルシエは改めてコップを取り出し、茶を注ぎつつ続ける。
「私達レプラコーンには"透明化"っていう、いわゆる他から姿を見えなくする能力があるのだけど、この"透明化"がオーガの"熱暗視"には見破られてしまうの。」
「レプラコーンの"透明化"は光の屈折を操作して見えなくしてるだけで、その場から消え去ってるわけじゃないからね。体から発せられてる熱量…熱線が見えちゃうから、無効化されちゃうんだ。」
「なるほどー。」
「…っぷは。あの時もしボスがオーガじゃなかったら、暴風を使わなくても済んだかもしれないんだけどね。」
ルシエは注いだ茶を飲み干すと、別なコップを二つ取り出し茶を注ぎ、テーブルの上に置いた。
「じゃあ、僕達と同じ短命種の種族は、どれくらいいるんですか?」
「あ、ありがとー。そうだなあ、確認されてるのだと…ハーピィの他にはコボルドとケットシーが該当するかな。」
シャルロットは言いつつ、ホワイトボードの【短命種】の縦軸にそって、【獣人族】にコボルドとケットシーと書き込んだ。
「どちらも獣人族だね。コボルドは平均寿命が60歳。犬みたいな耳をもってて、犬みたいに鼻が利いて、暗視もち。人懐っこくて、義理堅いのが特徴だよ。」
「ケットシーも平均寿命は60歳。猫みたいな耳をしてて、変わった特徴がいくつかあるんだ。」
「変わった特徴?」
ケインの疑問に、メイシーは頷く。
「まず暗視能力。ケットシーは暗視持ちだけど、実際の猫みたいに、瞳に虹彩を絞る機能があるんだ。」
「それが、普通の暗視能力とどう違うんですか?」
「私達のような暗視能力は、他よりも光をより多く集めて暗闇でもモノを見やすくしてるの。だから、強烈な光を浴びせられると普通の人間よりも長く、強く目がくらんでしまうの。」
「ところがケットシーの暗視は虹彩を絞ることによって、そのデメリットを回避してる。目がくらまないわけじゃないけど、それでもコボルドやレプラコーンよりは遥かに眩んでる時間が短いんだ。」
「へ~…。他には、どんな能力が?」
「あとは、"透明化"かな。レプラコーンより一段階劣る能力だけど、少しの間姿を消せる。レプラコーンと違って身に着けてるものは消せないし、一度使ったらものすっごく疲れちゃうから、一日一回くらいしか使えないんだけどね。」
「それから"落下耐性"って能力もあるんだよ。本物の猫みたいに、高いところから落ちてもケガをしないの。」
「まあ、彼らの落下耐性は彼ら自身の体のしなやかさからくる特殊な体術のようなものだけどね。」
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「そういえばシャロさん、人間の方と同じくらいの寿命の種族は、ほかにもいるんですか?」
「うん、勿論。人間と同じくらいの寿命の種族は【標準種】って言うんだけど、それにはメイシーみたいなフェレメル、そして魚人族のネレイド、ポセイドンがいるよ。」
シャルロットは縦軸に新たに【標準種】を書き入れ、合うように【亜人族】に人間、【小人族】にフェレメル、【魚人族】にネレイドとポセイドンと書き込んだ。
「あたし達フェレメルは"マナの寵児"って呼ばれるほどマナと関連が深い種族だね。とても高いマナ適性があるし、どれだけ高濃度のマナ領域に居ても具合が悪くならない。」
「それどころか、高いマナ適性があるのに魔法に対する抵抗力も高くて、自分が使う魔法の力も高められるっていう、まさに魔法を使うための種族って感じがするよねー。」
「代わりに低濃度マナ領域にはいられないし、飛行能力も弱くて体も頑丈ではないけど、それを補って余りある魔法能力の高さよね。」
一課ガールズの解説に、ケインはほんほんと頷く。
「じゃあじゃあ、魚人族の方はどんな種族なんですか?」
「そうだなあ、まずはネレイドかな。特徴的なのは何といっても下半身が魚みたいになってて、水中でも息ができることだよね。」
「そうだねー。その見た目通り陸の上では赤ちゃんのハイハイくらいのスピードでしか動けないけど、その分水中での動作は全種族中堂々の一位!その最高速度は何と時速100㎞!」
「えっと…その、すごい速いんだろうなってのはわかるんですが、どれくらい速いんですか?それ。」
「そうね…。アンタも漁師の子なら、沿岸漁船に乗ったことはあるでしょ?」
「あ、はい。たまに、ですけど。」
「あの沿岸漁船の速さがだいたい時速2~30㎞よ。」
「という事は…三倍から五倍の速さなんですか!?とっても速いです!」
ケインは目を輝かせる。その様子を見てシャルロットが楽しそうに笑う。
「いやー、ケイン君みたいな子は教えがいがあるねー!」
「学んでくれてるって実感があるよね~。さて、ネレイドの対になるポセイドンだけど、こっちはネレイドよりは水中の動作は素早くない。でも代わりに二本脚をもっていて、人間と同じように陸上でも生活できるんだ。」
「足や手に魚の特徴が現れるから、着るもの履くものには苦労するらしいけどねー。あと、魚人族だけは水中で話すことができる。つまり、彼らは唯一水中で魔法が使えるんだ。」
「普通の人は水中で声が出せないですからね…。」
「克服する魔法もなくはないけど、どちらにしても水中は彼らの領分という事は覚えておいた方がいいわね。」
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「最後はー…準長命種の種族かな?」
「そうだね~。って言っても、後はドワーフとオークくらいかな。」
「おーく?」
またもわかりやすく頭にはてなマークを浮かべるケイン。
「巨人族の一種だよ。平均寿命は200歳。動きは少し鈍重だけど体力があって、毒に強く、オーガほどじゃないけど再生能力も持ってるんだ。」
「皮膚の色が独特だよねー。緑や青、赤みたいな原色系の肌色をしてるんだよ。ウィンデリアでも見たことがほとんどないから珍しいけど、見たら一発でわかるはず。」
「確かに、そんな肌の方がいたら覚えてると思います。数は少ないんですか?」
「巨人族の中では割といる方かな?でも、巨人族自体数が少ないからねえ。」
「偏屈な人が多い巨人族では珍しく社交的で穏やかな人が多いから、ケイン君でも仲良くなれるんじゃないかなー。」
「なるほど…。それは楽しみです。」
「さて、最後はドワーフ。小人族の仲間で、平均寿命は200歳。人の子供くらいまでしか成長しないから、特に女の子のドワーフは人間とほとんど見分けがつかないよ。」
「男のドワーフはみんな髭を伸ばしてるから、すぐわかるんだけどねー。」
「ドワーフの方は僕も何度かお会いしたことがあります。手先が器用で、火に強いんですよね。」
「そうね。職人の種族としてもよく知られてるわ。私達レプラコーンと共に、魔機を作り出した種族ともいわれてるわね。」
「へえ~~。世の中にはすごい人がたくさんいるんだなあ…。」
ケインは最後まで目を輝かせていた。
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「さってと?今確認されてる種族については、こんなもんかな?」
「今教えて頂いた方々以外には、いらっしゃらないんですか?」
「お、そこに気が付くとは流石だねえケイン君。確かに今紹介したので"現在確認されてる種族"については以上だよ。あとは…いるかわからない、もしくは絶滅しちゃった種族なんてのもいるんだ。」
「絶滅した種族…。」
「色んな理由で滅んじゃったり、おとぎ話や言い伝えにしか残ってなくて、いたかも怪しい種族は、ほかにも色々いたんだよ。巨人族でありながら唯一水中で活動できたミーミル。寒いところにしかいられなかった巨人族のイエティ。獣人族にして小人族の特徴があって、地面に穴を掘って生活するっていう特徴的な生活様式をもっていたモール。」
「石化の力がある邪眼をもっていたために、他種族総出で絶滅させられた爬虫類系獣人族のバジリスク。兎の耳があって、脚の力がとても強かったバニヤン。狐の耳と尻尾があって、人を惑わす術をもっていたコリューン。魔機創成の黎明期にその存在が語られた、魔法と魔機の結晶、唯一の"人造人間"ヒュリオム。」
「じんぞう、にんげん…!」
またも目を輝かせるケイン。その様子を見てルシエはため息をつく。
「…もっとも、ヒュリオムは作り話だと思うけどね。魔機でも魔法でも、生命は造れないもの。」
「そう、ですか…。魔法でも無理なんですね…。」
「そうだね。魔法はイメージする限り色々なものを召喚、再現できるけど、生命は造れない。出来たとしても、いいとこ一時間とかで消えちゃうんだ。起こしたことを、ずっとそのままには出来ない。」
「えっ?そうなんですか?」
「うん、そうだよ。…折角だし、次は魔法について教えてあげよっか。あたしは、そっちが専門だし。」
「次はナッシュかモニカあたりを呼ぼうよ。魔法についてはルシエかメイシーの他には、ナッシュかモニカが専門でしょ?」
「ナッシュは来そうにないし、モニカでも呼ぶ?白衣用意しなくていいし。伊達眼鏡はいるかもだけど。」
どんどん話を進め、ケインが次の話に興味深々な中、ルシエは一人ため息をついた。
「…またやるのね…。」




