お出かけ司祭、移動系スキルが使えない事に絶望(助けが無いとは言ってない)
「過労死一直線だろこれ。」
「何でこんなっ……オイもうこれはやってるわ……」
司祭……もとい主人公は、絶望していた。
そう。タイトルの通り、ユスフィルが使える移動系スキルが、使えないんだ。
「転移」とか言う指定場所にワープする合法チートが、使えないんだ。そして、このバカ主人公が覚えている移動系スキルは、この「転移」しか無い。なぜなら、「面倒臭いから」。
そう!この「転移」はワープ条件が制限されない本物の合法チートの様なスキル!たったこれ一つでどこへでも行ける面倒臭がりにはピッタリのスキル!
これを覚えたら他の移動系スキルを覚える必要はゼロ!だから、こんな面倒臭がりがこのスキル以外を覚えるはずが無いんだ……
では、そんな超便利スキルが使えないのは何故か。
理由は、これまでユスフィルの怠惰による残業に悩まされてきた神々や天使達によって、スキルを封印されたから。
とにかく使える力を振り絞り、完璧に準備を済ませ、絶対に封印するという気概を以て臨んだ儀式が、失敗に終わる筈が無いんだ。もちろん、そんなに簡単なものではない。しかも、最高神の所持スキルを封印するんだから、相当確率の低い賭けの様なものだっただろう。
だが!全ては「絶対に楽をさせない為」に。そう、こんな怠惰野郎に楽なぞさせてしまった暁には、また同じ様な事ばかりが起きるだろうね。これは、儀式の場にいた全ての神々や天使が予想した事であり、絶対に成功させなければならない理由でもあったんだ。
「…っ。ハァ……気が滅入るなぁ。完全にやられた。仕方ねぇなあ…腹括るか。」
そう言いながら準備をする姿は、まるでブラック企業出勤前のサラリーマンの如く重く、沈んでいた。
「……何か足りねぇな。ちょっと何か買ってくか。」
向かった先は小さな市場。小規模だけど品質が良いと評判で、この村に寄った冒険者がこぞってアイテムを買いに来るという。
「いらっしゃ〜い!…って、え?何でこんなとこに司祭さんが?」
「あれ、司祭じゃん。生きてたんだ……」
「誰だっけあの人……」
「…コレもう俺に対する侮辱か何かだろ。」
こ れ は ひ ど い
この司祭、認知はされていたくせに全く人前に顔を出さない為、すぐ忘れられるか居なくなった人とされていたのだ!
「それで、司祭さんはどうしてここに?」
「そりゃ……準備をする為だよ。」
「何の。」
「世界を巡る。」
「あなた誰でしたっけ……」
「あそこのちょっとした丘の教会の司祭。」
「って、はい?」
「「世界を巡る為の準備?」」
驚くのも当然。
記憶に残っている姿だけでもそんな事をするはずが無いのに、今この司祭は、「世界を巡る」と言ったんだ。
司祭にとっては複雑な事情があるんだけど、詳細を話してもきっと理解されないし、信じてもらえないだろうね。しかも、他の店先の人たちが野次馬の如く集まっているから、多分どうやってもこの時点でこの会話が広まるのは簡単に予想ができるね。
〜1時間後〜
「まさかねぇ……あの司祭さんがこんな行動をするとはねぇ。明日は矢の雨でも降るんじゃ無い?」
「いやいや、降るなら氷だね!それもスゴイデカいの。」
「まぁ……ちょっとした縁だから、安くしてあげるよ。」
「多分こんな機会はもう絶対に無いから、こっちのも買って行ったら?」
「……もう俺泣いちゃう。何これ?馬鹿にされてるの?慈悲をかけられてるの?」
多分どちらでもない。
どこだって話というものは、広がるのが速い。限られた一定の範囲なら尚更。
今現在カトカ村では、ちょっとした値引き祭りが開催してるんだ。さっきの話を聞いた人が「このまま行ったら……司祭さん多分死ぬでしょうね。」とか呟いたのがキッカケ。何だかんだ言って覚えてる村人達は司祭の事が心配なのだ。
「傷薬と…。後あの……アレだ。えっとぉ……あっ!思い出した!干し肉だ!この二つさえあれば良いと思うんだが……」
「いや司祭さん、アンタ絶対毒キノコとか引っかかるって。毒消しも無いとさ……」
「俺一応他の教会で言う神父みたいなもんだぞ?回復魔法くらい使えるんだが?」
「コレでも『多分死ぬでしょう』が現実味を帯びてるのが司祭さんなんだよなぁ……」
更に1時間程経って、準備が終わった頃には既に夕方になっていたんだ。さすがに今出発するのは危険とのこと(ユスフィル談)で、今日の所はまだカトカ村で待機するらしい。
―――そこに、魔物の魔の手が迫っているとも知らずに。




